内田健夫の発言 (厚生労働委員会)
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○内田参考人 日本医師会常任理事の内田と申します。
本日は、医療法、健保法及びその関連法案の改正について、医師の最大の職能団体である日本医師会の立場から、また、医療の現場を預かる医師としての立場から意見を申し上げます。
資料が袋の中に入っておりますので、ごらんください。
今回の法改正の趣旨は、患者の立場から、安全で質のよい医療を効率的、持続的に提供する体制の構築にあると考えています。
しかし、実際には、医療費適正化という名のもとに、官の財政支出をいかに減らすかという財政主導の視点が目につきます。国民に適正な医療が提供できるのか、国民の健康と生命を守ることができるのかという点で不安を感じています。医療においては、費用の適正化より、適切な医療の確保が第一に配慮されるべきです。
資料の四ページ、五ページをごらんください。
御案内のとおり、日本の医療費は対GDP比でOECD参加国中十八位という低い水準ですが、平均寿命、健康寿命、乳幼児死亡率は、いずれも世界最高の水準を維持しています。この事実は、いつでも、どこでも、だれでも良質の医療を安く受けられる国民皆保険制度と医療従事者の献身的な働きに支えられていると考えています。
国民皆保険制度を維持するために本改正案の必要性は理解できますが、一方で問題点も多く、本日は、考えられるさまざまな課題について述べさせていただきます。
国民に不安を与え、負担を増大させ、また、医療の現場を混乱させることがないよう十分に御検討いただき、附帯決議や政省令等による円滑な運用がなされますよう希望いたします。
初めに、健康保険法の保険給付に関する事項について述べさせていただきます。
高齢者負担増、高額療養費支援の縮小など、持続可能な医療制度の確立という目的のために、患者の負担増が顕著な施策となっています。平成十四年の健保法改正の際、附則第二条では、「医療保険各法に規定する被保険者及び被扶養者の医療に係る給付の割合については、将来にわたり百分の七十を維持するものとする。」とあります。また、医療費の自己負担増は受療行動を変化させ、病状を悪化させることで医療費増につながるという調査報告もあります。これ以上の自己負担増は医療保険制度の破壊につながると考えます。
資料の六ページをごらんください。
厚労省の試算をごらんいただくと明らかなように、医療費将来推計値は試算根拠がはっきりしておらず、この数年で大幅な減額になっています。これをもとにさらなる患者負担を強いることに国民は納得できるでしょうか。政府には、しっかりした試算根拠を示し、国民に説明する義務があると考えます。実際、二〇〇〇年から四年間では総医療費は一・七兆円の伸びにとどまっています。
七ページをごらんください。
いわゆる混合診療導入は、国民皆保険制度を崩壊させる危険性が懸念されることから、安易に許容すべきではありません。自費診療の拡大は、患者負担の無秩序な増大を招き、医療保険制度の破壊につながります。公平、平等で良質な医療の提供は日本の医療制度の根幹です。格差を容認する自費診療に貴重な公的保険の財源をつぎ込むべきではありません。
平均在院日数、総治療期間の短縮は、治療の中断や医療従事者の業務過密化のために医療内容が低下するおそれがあり、疾病の重症化や長期化を招くおそれがあります。平均在院日数は、国際的には急性期のものが使われており、単純に日本のものと比較することはできません。また、診療科によっては労働条件が非常に厳しいことは直近の調査でも報告されていますが、これがさらに悪化し、医師偏在が進むことが危惧されます。
コスト削減による医療現場での過酷な労働は医療事故や医療過誤に直結する問題です。経済が上向きになっても医療費を抑制し続け、その結果、医療職種の賃金は下げざるを得ず、診療科や地域、病診間のマンパワーの偏在がさらに加速しています。地域の医療事情を勘案し、適切な医療提供体制の整備を進めること、人員配置基準の見直しや医療関連職の増員、それを支える財源確保などの迅速な対応が求められます。
高齢者医療制度の創設については、高齢者の有病率は高く、一人当たりの医療費は現役世代の四倍強という統計もあります。一割負担でも現役世代以上の負担になり、まして、前期高齢者の三割負担は家計への影響が大き過ぎます。また、高齢化によるがんや生活習慣病の増加に対しては、早期発見、早期治療、適切な健康教育などが必要であり、保険者、行政、地域の医療提供者の連携が重要になります。一生を通じての健康管理システムの構築も同じです。さらに、終末期医療についてのガイドラインを策定し、国民的なコンセンサスを形成することも必要と感じています。
資料の九、十ページをごらんください。
都道府県による医療費適正化計画と保険料設定は、地域格差の増大を招き、負担は公平、給付は平等という保険の基本理念に反します。国の基本方針に基づく指標や数値目標、その達成状況に応じて講じられる措置については、地域特性も勘案し、格差を助長することなく、患者の不利益になることがないよう、地域医療を担う関係者が中心となって協議をする仕組みが必要だと考えます。
十一ページから十三ページをごらんください。
療養病床の削減、介護療養型医療施設の廃止と、居宅、在宅医療への移行、慢性期リハビリの保険適用除外は、さまざまな問題を提起しています。現在入院中の患者が入院医療から排除され、また在宅でも十分な医療が受けられない事態は疾病の増悪を招くことが危惧されます。
また、現状では、介護施設から急性期病床に入院した場合、その後の退院に際して介護施設には帰ることができず、療養病床に転院することが非常に多い現状があります。療養病床が大幅に削減されることで、介護難民、医療難民が発生すると考えられます。介護施設における医療行為は、現在医療保険の適用が認められていませんが、これをぜひ適用できるようにしていただきたいと考えています。現状では、必要な医療も受けられない場合が生じています。
療養病床や長期医療のあり方については、介護保険、医療保険、医療法を包含する検討を加える必要があります。少なくともその実態調査を早急に行い、五年ごとに調査、見直しをすべきではないかと考えています。
十四ページをごらんください。
在宅医療に関しては、介護保険等のさまざまな施策との適切な連携、役割分担の中で、家族が希望する場合の選択肢として地域において整備を進めるべき課題と考えています。今後、家族構成等の点で自宅での医療、介護はますます厳しくなります。有料老人ホーム等、多様な住まいの概念に立って医療、介護の提供システムが構築されることが望ましいと考えます。
十五ページ、十六ページをごらんください。
医療機関に関する適切な情報提供のあり方については、最も大切なことは医療提供者と患者さんの信頼関係であると考えます。信頼関係というものは表面的な数字やデータのみに基づいて形成されるものではありません。行政による情報集約と一元化は、相互の信頼関係を補完するものとして、客観的で評価が確立した公正な情報に限定すること、広告内容もポジティブリストを堅持することが必要と考えています。
十七ページから十九ページです。
公的病院の再編整備と社会医療法人化による救急医療等の政策的医療に関しては、住民の健康と安全を第一に考え、地域の医療提供者と協議を行った上で、地域における医療資源の活用と人材確保を初めとした体制の整備を進めるように求めます。また、公的病院と民間病院の役割について明確な定義づけをし、連携を進めることで効率的な医療提供体制を構築することが重要です。
二十ページです。
中医協の問題ですが、診療側は地域医療の担い手の立場を適切に代表するもので、五人の代表のうち二人を病院関係者としています。医師会はほとんどの病院の医師も加入しており、医師の職能団体として最大のものであります。また、地域の医療をさまざまな形で支えており、診療側を代表する立場にあると思います。病院関係者の代表に関しては、今後は公正な判断での選出が望まれます。
最後に、今回の改正法案は、残念ながら、一部において医療現場からの意見を十分に反映させる機会がなかったと感じております。この法案は、今後十年以上にわたる日本の医療の方向性を決定する大変重要なものであると感じています。手続上の不備や拙速に過ぎる取り組みは、国民の医療に対する信頼を損ね、医療現場の混乱と荒廃を招くことにつながります。十分な御審議と慎重な対応を希望して、私の発言を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)