田島優子の発言 (厚生労働委員会)
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○田島参考人 弁護士の田島でございます。よろしくお願いいたします。
私は、平成十四年の十一月に立ち上げられました男女雇用機会均等政策研究会に参加し、男女双方に対する差別の禁止、妊娠、出産を理由とする不利益取り扱い、間接差別の禁止及びポジティブアクションの効果的推進方策の四つの事項について検討し、報告書を取りまとめました研究会の一員としまして、今回の男女雇用機会均等法の改正につき意見を申し述べさせていただきます。
私が均等研に参加しました理由は、自分自身が二十八年前に検察官に任官し、十三年後に退官するまでの間、数々の男女差別に遭遇して、それを乗り越えながら道を切り開いてきました経験から、すべての女性が、そのような経験をすることなく、存分に能力を発揮して職務に専念できる職場環境を実現したいと思ったことにございます。
私が任官しました当時は、司法修習生の指導を行う司法研修所の事務局長であるエリート裁判官が、女子の修習生に対して、女性は家庭に入って能力を腐らせるのがよいというあからさまな差別発言をしたような時代であり、男子修習生に対して熱心な検察官任官の勧誘がなされているのに、女子修習生が任官したいと申し出ますと、女性は検事に向かないという理由で思いとどまるように説得し、その障壁を乗り越えて任官しましても、女性に取り調べはできないという理由で、ほとんど取り調べのない少年事件の担当か、裁判の立ち会いのみを行う公判係に配属され、捜査手法についての指導もされないため捜査能力が涵養されず、あげくには、女性検事が管理職になることを嫌って、転勤経験がないことを理由に退官させておりました。
当時は、女性が二十五歳になる前に寿退職するのが常識の時代であり、数少ない私の先輩検事も過半数が結婚を機に退職し、残っているのはほとんどが独身の検事でした。検事に限らず、職場の女性職員は、結婚すると同時に退職するのが当然という雰囲気の中で仕事を続けにくい状況があり、それでも勤務を続けた場合でも、妊娠すれば退職するという不文律ができていて、それに従わない者がいれば、本人の意に沿わない異動によって退職に追い込むという手段が使われておりました。
酒席では、女性が酌婦がわりにお酌をするのが当たり前であり、それを断れる雰囲気はありません。酔った上司に手を握られたり抱きつかれたりするのが常態で、セクハラといってそれをはねのけることなど思いもよらず、ひたすら耐えて過ごしたものでございます。
そのような環境の中にあって、仕事が好きで、数々の差別による圧力にも負けず懸命に仕事をした女性検事たちは、徐々に、男性検事が崩せなかった否認事件で自白をとるなどして、女性検事にも十分取り調べができるという実績を示してきた結果、今では捜査能力について男性検事と遜色ないという評価を受け、その数も急激に増加しております。結婚、妊娠あるいは出産を機に退官する女性検事の数も減り、家庭を持ち、育児をしながら勤務し続けることが当たり前になりつつあります。また、地検のトップである検事正も出てまいりました。
このような環境変化は、昭和六十年に成立した均等法の精神が徐々に社会に浸透し、平成九年の法改正により、当初の努力義務規定を含むものから完全な差別禁止規定に性格が変わったことにより、男女の均等取り扱いの徹底が図られてきたことをベースにしていると言えると思います。
今回の法改正は、均等法の理想を実現するためにさらなる一歩を踏み出すものとして、重要と考えております。
本日は、時間の関係もございますので、法改正の中で私が特に重要と考える二点に絞って意見を述べさせていただきます。
その一つは、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止規定についてでございます。
女性の仕事に対する意欲が増大し、妊娠や出産、育児をしながらでも仕事を続けたいと希望する女性が増加する中で、一般的には、乗り越えるべきハードルはまだまだ相当に高いものがあると言えます。
第一子を出産した女性の七割が離職しているというデータがあり、その半数は、家事、育児に専念するため自発的にやめたというものであるとしましても、働き続けたいのに解雇され、退職勧奨を受け、あるいは意欲を持てない仕事や通勤困難な遠隔地への配置転換を受けるなど、不利益な取り扱いを受けてやめていく女性がいるという現実がございます。新聞の投稿でも、妊娠を告げた途端、執拗に退職を迫られたり、パートタイムへの身分変更を強要されたという相談事案が目につきます。
就職氷河期を経て、出産適齢期の女性には契約社員など有期労働者も多く、安心して子供を産めないという声もよく耳にいたします。少子化が急激に進展する中、さらなる少子化を食いとめ、出生率の増加を実現するためには、女性にとって出産や育児のしやすい環境を整えることが喫緊の課題と考えます。
妊娠、出産は女性のみが担う機能であり、これに伴う解雇のみ禁止するだけでは不十分で、その他の不利益取り扱いをも禁止しなければ、実質的な男女の雇用機会均等は確保できません。今回の改正案は、こうした問題に対応しようとするものであり、現在出産するか否か迷っている女性にも朗報と言えると思います。
また、解雇の理由が妊娠等であることについて女性労働者が立証することが容易でなく、訴えの提起や立証に重い負担がかかっている現状にかんがみて、妊娠中や産後一年以内の解雇については、妊娠等を理由とするものでないことを事業主が証明しない限り無効とする規定は、妊娠等を理由とする解雇の抑止力になるものと期待いたします。労働法体系の中で初めて立証責任の転換が図られるという意味でも、画期的改正と評価すべきと思います。
私が重要と考えます法改正の第二点は、間接差別禁止規定の創設でございます。
均等法の成立により、女性であることを理由に意図的に行う差別は禁止されましたが、必ずしも意図的な差別ではないものでも女性にとって不利となる制度や運用は存在しており、男女間の異なる取り扱いを排除するためには、このようなものについても禁止する必要があります。平成九年の均等法改正時からこの点に関する問題意識が持たれ、今後の検討課題として附帯決議に盛り込まれたと聞いております。
今回の法改正では、間接差別禁止規定が創設されることになり、これも画期的な改正と評価しております。
間接差別禁止規定の内容については、省令で列挙される、募集、採用における身長、体重、体力要件、コース別雇用管理制度における総合職の募集、採用における全国転勤要件、昇進における転勤経験要件の三つの場合を禁じるという限定列挙になり、これが適当でないという意見もあるように聞いておりますが、間接差別概念が国民一般に理解されているとは言えない日本の現状で、間接差別を混乱なく導入し、定着させていくことから始めるのが現実的対応であり、今回の方式は、現時点では適切と考えております。間接差別禁止規定を均等法に導入することが大きな第一歩と評価すべきであります。
また、均等研では、諸外国の法制度や適用状況を判例も含めて検討いたしましたが、法律上規定されている違法性の判断方法は各国ともほぼ同様の手法となっており、原則としてどのような事案についても間接差別法理の俎上にのり得る仕組みになっておりますが、実際の間接差別法理の適用状況については、国ごとに違いがあり、一様ではございません。
例えばイギリスについては、ある基準等が一方の性に与える不利益の有無の定まった判断基準はなく、具体的判断はケースごとに労使が参加する個々の雇用審判所が行い、個別事案によって判断がさまざまであり、また、不利益があると判断された場合の当該基準等の合理性、正当性に関する使用者の抗弁が成立するか否かについても、同様に具体的判断は個々の雇用審判所が行うこととされていまして、しかも、使用者にとっての必要性と差別的効果の程度とのバランスで判断される傾向があり、予測可能性がつきにくいものであります。つまり、男女間の格差の大小や差別の合理性の判断基準が明示されていないため、何が間接差別になるかの予測可能性が不明確となり、規制の難しさを感じました。
イギリスの雇用上訴審裁判所も、間接差別という概念は柔軟であり、ある事案での一般的推定が他において必ずしも通用するものではないこと、あらゆる事案は特定の事実に依拠することを指摘しておりました。
日本において間接差別の例として挙げられているものを拾ってみましても、人によりさまざまで、意見が区々に分かれております。また、差別の合理性についても、どのような状況があれば認められるかの意見が分かれております。均等研では、間接差別の例として国会や論文等で取り上げられた事例七つについて合理性の議論をいたしましたが、委員の中でも意見は分かれました。
正社員とパートタイム労働者の処遇差も間接差別に列挙すべきとの意見もございますが、正社員が減少している今の時代には、男性でもパートやアルバイトで働く者が相当数おりますし、ヨーロッパとは違い、仕事の内容が同じで働く時間だけが違うというパートは日本ではそれほど多くないことを考えますと、パートの処遇格差問題は、やはり真正面からパート問題としてとらえないと、全体的な解決にはならないと思います。
このような状況を踏まえれば、いまだなじみのない間接差別という概念をいきなり無限定に違法なものとして取り込むよりは、今回の法改正のように、労使間で合意の得られた三項目についてわかりやすく明示する手法により規制を行うのが適当と考えます。
以上でございます。(拍手)