伊東弘子の発言 (厚生労働委員会)
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○伊東参考人 出版労連の伊東弘子です。よろしくお願いします。
私は、出版産業で二十八年間働いている労働者です。一九七八年に入社したとき、雇用機会均等法はありませんでした。大学の授業でも今のように女性学というものはなく、社会的な女性差別の現状を全く理解せず社会に出ました。働き始めてからすぐに、何かが変だという思いにとらわれました。情報の伝達は男性中心、会議への出席も男性のみ、お茶くみ、掃除などの雑務はすべて女性など、すべてが男性優位でした。就業規則に産前産後休暇や育児時間の保障がうたわれていましたが、その権利をとった人はほとんどいませんでした。
このような状況の中で、仕事の成果を上げるには男性の何倍もの能力と努力が必要であることを実感し、同時に、私にはそれだけの力はないのではないかという思いと無念さに駆られ、入社一カ月後には、会社から帰ると大学時代の恩師の名を呼びながら泣いていました。こんなことなら民間企業に就職するのではなかったというのがそのときの偽らざる気持ちです。
また、二十五年前に長男を出産しましたが、子供を産んだ女性は当然家庭に入り育児に専念するものだという社会通念を根拠に、上司から何度も退職を勧められました。
あのころのことを思い浮かべると、随分変わってきました。私のような普通の女性が、普通に定年まで働き続けることが可能になりました。妊娠しても、いつやめるのと聞く人はいなくなりました。今私は、働き続けることができて本当によかったと思っています。
けれども、本当に男女平等は達成されたのでしょうか。出版で働く女性の現状を述べながら、現在の問題点を述べさせていただきます。
まず、二〇〇五年五月に実施した、出版に働く女性の長時間労働アンケートの調査結果から考えていこうと思います。お手元に資料を配付させていただきました。
三十二単組、女性五百九十一人が回答し、九七%が正規労働者です。職種は、編集、管理、営業などです。このアンケートは、男女雇用機会均等法施行後十年を経過した一九九六年より、多少の改定をしながら、ほぼ五年間隔で行ってきました。出版に働く女性たちの労働実態が本人の心身や家庭にどのような影響を及ぼしているかを認識し、討議をし、今後の改善の運動につなげることを目的とするものです。
一カ月の平均残業時間は、十時間未満三三・七%、十一から二十時間一七・六%、二十一から三十時間未満一〇・七%と、一見、長時間労働が多く見えません。そして、これは九六年以降大きな変動はありません。そのため長時間労働は特に進んでいないように見えますが、二〇〇一年の調査と比べると、以前は長時間労働をしているのは編集職が主だったのが、現在では総務、経理などの管理職場を含め全体に蔓延化しています。また、教科書、学習参考書などの編集職場では、集中して残業が続く時期があり、平均三十時間以上の残業時間が四カ月から六カ月の間続く人が半数、平均百時間が六カ月続いた人もいました。
深夜労働の回数は、ないと答えた人が一〇ポイント近く下がり、月平均回数はふえています。また、三六協定の範囲を超えて仕事をしている人が一九%いました。
ただし、この調査で残念なのは、本当に忙しい人はアンケートに答える時間もなく、そのような人の声を十分拾うことができなかったということです。ですから、残業時間は実際にはもっと多いと考える必要があります。
残業する理由は、仕事量の多さと人員不足によるものです。このような実態の中、長時間、深夜労働が原因と思われる心身の不調が起きた人は五一・六%で、婦人科系疾患だけではなく、うつ状態などの心身のバランスを崩す人がふえています。
アンケートの自由記述には、家事、育児の責任を担う女性の仕事との両立への努力が痛いほど伝わってきます。幾つか紹介します。
残業のため趣味、娯楽の時間がとれないということはあるが、家事、育児の時間がとれないということはあり得ない、家事と育児はどんなときでもやらなければならないので、深夜まで家事をしている。夫に頼めるときしか残業できない、無理なときは家に持ち帰ってサービス残業になる。夫とのリレー、子供を見てから夫が深夜再び仕事に行く。とても苦労している、子供の面倒は夫、母、姉、友人の順に頼む。子供のことで仕事が滞ることがないように努力していますが、それでも半人前扱いを受けます、厚かましい、ずうずうしいと男性社員から言われたこともあり、子供を持って仕事をする女は足手まといなのだなと思うこともあります。
このように努力しても、家族への影響は否めません。子供の精神状態が不安定になった。いらいらが家族にうつり、ぎくしゃくした時期があったとの記述があります。
介護については、近所の人にお願い、兄弟に丸投げ、ヘルパーに頼む、夫がやるなど、とても手が回らない状態がうかがえます。
未婚者からは、なかなか現状では結婚、出産に踏み切れないという記述があり、職場の編集職の若者からも、家に帰っても寝る以外の時間がとれない、何もできないという声が聞かれます。
一年前、妊娠、出産と就労継続に関する聞き取り調査の予備調査、これは出版労連ではなくて女性労働問題研究会という団体の予備調査なんですけれども、出版で働く三十代既婚者で子供がいない女性に話を聞いたところ、今の仕事をしている限り子供をつくることは考えられない、子供をとるか仕事をとるかではなく、考えられないのですという答えが返ってきました。果たして、子供をつくることが考えられないような働き方をしなければならないことが平等な働き方なのでしょうか。少なくとも私たちは、この数十年間、そのようなことを求めて働き続けてきたわけではありません。
均等法の修正案に「この法律においては、適切な仕事と生活の調和の下、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあつては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする。」とありますが、まさに、この基本理念なしでは、長時間過密労働をさせられている男並みに、心身の健康を犠牲にし、家族の幸福をも犠牲にしなければならない働き方を余儀なくさせられてしまいます。この上、ホワイトカラーエグゼンプションの導入など、働いても残業代もつかず、自分の裁量として幾らでも働かされる法律が制定されれば、命と健康が脅かされることになります。しかし、仕事と生活の調和という基本理念が浸透すれば、このような労働法制の改悪の発想はあり得ないことです。
次に、間接差別について考えてみようと思います。
出版で働く女性に対するイメージは、進歩的なイメージがあり、恵まれて、問題はないのではないかと言われることが多々あります。男女平等のイメージも強いようです。果たしてそうなのでしょうか。答えは否です。
昇進、昇格は圧倒的に女性に不利です。この十年間、主任、係長クラスは徐々にふえてきてはいるものの、課長以上はまだまだ少なく、部長、役員となるとほとんどいません。ある職場では、女性が主任になるのは四十歳以上で、男性と比べ十年以上はおくれをとっています。課長職の割合は男性の一八%、部長職の割合は〇%という職場があります。
家族手当を支給されているのは圧倒的に男性が多く、女性が請求しても、運用上の差別があり、提出しなければならない書類の数が男性より多く、嫌な思いをするのが嫌であきらめてしまった女性もいます。住宅手当などは、世帯主もしくは扶養家族の有無で金額に差をつけている場合も多く、結果的に女性の方が少ない額を支給されることになります。
出版業界では、成果主義賃金が導入されている職場は少なく、基本給は男女同じになっています。しかし、役職手当、扶養手当、住宅手当などの額を組み込むと、明らかに女性の手取りの方は少なくなります。
私たちは、これらのことは間接差別と考えます。法案では間接差別が三つに限定列挙されていますが、それではこれらの職場に蔓延している差別はなくなりません。私たちが平等で働きやすい職場には決してならないのです。
お茶くみ、朝の机のぞうきんがけというのは女性であるという職場の慣習もまだまだ残っています。勤続二十年、三十年の女性社員が机をふいているのを横目に新入男性社員が仕事をしているという図も、いまだに存在するのです。もちろん、このお茶くみやぞうきんがけが仕事として正当に評価されることはありません。女性の名刺の大きさが男性の名刺より小さいという職場もあります。男性が営業職で女性は全員営業事務という職場もあります。
二〇〇〇年に実施したセクシュアルハラスメントの実態調査では、女らしくない、どうして結婚しないのかなどの言葉による侵害を受けた女性は約半数、男性もこのとき調査したのですが、男性でも六分の一います。セクハラの内容についての自由記述は、発言や態度に明らかに女性であることを理由に見下したものがあった、女性には責任ある仕事はできないという言葉の暴力、子持ちの女は半人前と言われた、女性が職場で安住しているような意味を込めて、お茶くみがなくなって一番困るのは女性ではないのかと言われたなど、これまでいわゆるグレーゾーンとかジェンダーハラスメントとか言われているものをセクシュアルハラスメントとしてとらえ、改善を求める声が強く上がっています。
出版労連では、この調査をもとに、セクシュアルハラスメントの防止のためのガイドラインを作成し、二〇〇一年春闘の重点要求としました。ことし六月、今なのですが、再び同じ調査項目で実態調査をし、職場でのセクシュアルハラスメントの実態の改善の方向を探ります。
修正案に、職場におけるセクシュアルハラスメントの対象に、性別による固定的な役割分担などの意識による言動を加えるとありますが、今までセクハラを生み出す土壌のグレーゾーンとして認識されてきたものをなくすには、このグレーゾーンこそセクシュアルハラスメントだとしなければ、一人一人の意識も職場環境も変わりません。
今まで述べてきた間接差別や固定的な男女役割意識をなくす取り組みとして有効な手段が、ポジティブアクションの取り組みであると思います。男女の均等な待遇の確保、女性の勤続年数の伸長、職場の雰囲気、風土の改善、女性の採用拡大、女性の職域拡大、管理職の増加などの観点から女性の能力発揮を進めるため、積極的に取り組むことが強く求められています。しかし、義務化は法案に盛り込まれず、取り組み状況開示を国が支援するというのでは、差別是正の速度は遅々としたものになります。
確かに、ポジティブアクションという言葉を知らない管理職も多く、まだ概念が浸透していません。けれども、それだからこそ、この取り組みを義務化してほしいというのが私たちの願いです。
以上、述べてきました働く女性の現状を御理解いただき、真の平等が実現する法改正をお願いいたします。
ありがとうございます。(拍手)