田中直毅の発言 (予算委員会公聴会)
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○田中公述人 痛みなければ利得なしという、非常に厳しい国民にとっての予算状況の中で、日々御審議いただいております先生方に感謝申し上げます。
きょうは、来年度予算案について、基本賛成という立場からお話をさせていただこうと思います。
そして、現在、歳出と歳入改革を一体として行うべきだという大きな路線設定がなされているというふうに理解しておりますが、それを考えるときに、経済情勢がどのように現実に推移してきているのか、経済分析を業といたしています者の立場から、きょうはお話しさせていただこうと思います。
図表を四枚用意してございますので、それに沿ってお話をさせていただきます。
第一の図表は、これまで日本の経済財政運営において、不景気がありますと補正予算を積み上げて何とか痛みを和らげようとする、そういう対応がなされてきたという事実がございます。これは、小泉政権が成立する直前までそういう対応がなされてきたわけですが、その結果何が起きたのかということを、できるだけわかりやすくグラフにしたものでございます。
出ておりますのは、九〇年代に入りまして、大型の補正予算を組んで景気対策を行いますと、その後、円高がやってくるという経緯でございます。円高がやってまいりますと、どうしても輸入がふえ、輸出が抑制されますので、名目GDPの伸び率は、補正を組んだにもかかわらず、なかなか景気がよくならないということになっていることがおわかりかと思います。
このことは、とりわけ一九九四年、これは一ドル八十円という異常円高をつけたことがございますが、その前に補正が相当組まれているという事実がございます。それから、九〇年代後半にこれもまた補正を大幅に組んだわけでございますが、その後は円高という形になっておるわけです。
これは、なぜこういうことが起きるかといいますと、変動相場制のもとにおいて、実は財政金融政策の運営というのは一〇〇%の自律性を持っているわけではないという厳しい現実でございます。
補正を組みますとどういうことが起きますかというと、従来に比べますと、それだけ国内の景気を、局部的ではございますが持ち上げることになります。そのことが金利を高くすることによりまして円高を誘導するということにつながるわけでございます。変動相場制のもとでは、景気が悪いからといって財政支出をふやしますと、円高を通じてその分だけ日本の需要の積み上がりが阻害されるという関係がございます。
こうした事実関係がどうもありそうだということについては、実はもう四十年ほど前から経済学者が言及していたことでございまして、一九六〇年代からそういう論文がございます。残念ながら、日本人ではございません。マンデルとかフレミングとかという経済学者の名前を通常引用するわけでございますが、変動相場制がまだ全般的に導入されてはいなかった六〇年代の終わりには、そうした事実がある種公知として広く知られているところとなったわけでございます。
ただ、この点については我が国における理解は必ずしも十分ではなくて、国家公務員試験を受けられる方がテキストブックとして使われています経済学の教科書には、この点はほとんど書いてございません。代表的な教科書にはこの点が書いてございませんので、ひょっとしたら霞が関の経済担当のお役所の方々も十分には御理解しておられなかったのではないかというふうに、今、ヒアリングを通じて確かめたわけではございませんが、そのように私は思っております。
いずれにしろ、景気が悪いから歳出をふやせとか補正を組めという話は何度でもやってまいりましたが、これが実は失敗のもとだったというのが一九九〇年代の総括だというふうに思います。小泉政権の登場は、まさにそうした失敗の総括の上に、景気が多少悪いからといって補正予算を組んだりはしないという対応をとったというのが基本姿勢だと思います。
結果はどうなったのか、いろいろ評価はあろうかと思いますが、ここで、第一図では二〇〇四年度までしかございません、二〇〇五年度はこの三月末まででございますので。補正は確かに今年度明らかになっていますが、ここで挙げます名目GDPや期末の為替レートについてはまだ入れてございませんが、御存じのように、名目GDPもどうやら三%台には乗ったようでございますし、為替レートにつきましても、この二〇〇四年度末に比べると円安に推移しているわけでございます。そういう意味では、足元においても、景気が悪いからといって財政支出を積み上げるというやり方は正解ではないということが出ているように思います。
恐らくこのことは、予算委員会の先生方にとっても、そんな話というのはいつからあるんだと言われるかもしれませんが、実は、そういう因果関係については英語の標準的な教科書にはずっと書いてあることでございまして、我が国、私どもの同僚をとやかく言ってもしようがないんですけれども、日本の教科書にはなかなかその点が書いてございませんので、ちょっと失敗が長引いたかなというふうに思っております。
二番目に指摘したいのは、今、政府部内でも、名目GDPの成長率と長期金利とは一体どっちが大きいのか小さいのか、今後の絵姿を考える上でこれは重要だという指摘が何人かの方々からなされております。
そこで、図二をごらんになってください。図二は、我が国における名目GDPの伸び率と、それから国債の利回り、それから米国の長期金利をとっております。
一九八〇年代の前半まで、我が国では、国債は実質上簡単には売り買いはできないというふうに認識されておりました。そこで、利付電電債とかそういうものを使って長期金利の推移を見るところでございますが、今回は予算でございますので、足元、この十数年のところだけごらんになっていただければと思いますが、我が国の長期金利の推移と一番似ている動きは何かと見ていただきますと、米国の長期金利でございます。
米国の長期金利の方が我が国の長期金利よりは高いわけでございますが、これがボルカーの就任、一九七九年にボルカーが連銀の議長に就任しております、グリーンスパンになりましたのは八七年でございますが、一貫して米国の長期金利が下落傾向をたどる、とりわけ九〇年代においては明瞭な下落傾向をたどっておるわけでございます。
我が国の長期金利は、特に九〇年代、新発債をどんどん出しましたので、こんなに国債を発行していれば長期金利は我が国では上がってしまうのではないかという懸念を非常に多くの人が言いましたし、私もそういう可能性は一般論としてはあり得るというふうに思っていたわけでございますが、経緯をごらんになっていただきますと、我が国の長期金利はこの間一貫して低下しております。
名目GDPの伸び率との対応というものよりも、米国の長期金利の下落に引っ張られてと、グラフの読み方というのはいろいろありますので、どれが因であり、どれが果である、因果関係だというふうに読むのはそんなに簡単ではございませんが、しかし一応、例えば十六、七の高校生にお話をするというふうに考えますと、このグラフの中で何と何との関係が一番ありそうだというのを、心を平明にして見てくださいと言えば、そして気になっているのは我が国の長期金利だということでしたら、どうも米国の長期金利ではないかというのが普通の答えだろうと思います。
これは何かといいますと、グローバル経済のもとにおいて、やはり金融秩序をつくり上げている国と、その金融秩序に依存してその傘のもとにある国というのが現実に生まれてしまっている。グローバライゼーションというのは、実は、規律を持った国から規律をおかりして我が国の規律とするという仕組みが実際には成立してしまっているという面がございます。
もちろん我が国でも、いつまでも米国の金融秩序の傘のもとにあっていいわけではございませんので、数年前に日銀法の改正を行いまして、日銀のボードは眠ったボードではないということで、政策審議委員をそれぞれ選出いたしまして、その方々の独自な討論を通じて日本の金融政策を決定するという仕組みをやっと導入するようになったわけですが、その前というふうに考えますと、これは眠っていたボードだと。まあ、俗称でございますが、内部におられた方がそう言われているわけじゃないんですが、観察している者は、あれは眠っているなと言っていたわけですが、眠っているということは金融政策に規律が確立しない。
アメリカの連銀の仕組みも、長い間にいろいろな実践例を積み重ねることを通じてどうやらこういう規律を確立した。我が国は、この規律をかりる限りにおいて長期金利の反騰を避けられたという関係があるように思われます。
そこで、それでは我が国の財政金融政策というのはどういうふうに機能しているんだ、マクロ経済政策というのは何も要らないのかという議論がもたらされます。
三の図をごらんになってください。これは、日本銀行が発表しています、昔は卸売物価というふうに称しておりましたが、最近は企業物価指数というふうに名前を変えております。内容はほぼ同様でございますが、普通で考えますと、工場からの出荷段階における値段を拾っているというのが企業物価指数でございます。通常はこれは一本で、千品目を超える品目の加重平均で発表しておりますが、内容を詳しく見るためには分けて考える必要がある。
ここで、九〇%点から一〇%点まで、一〇%刻みで線が引いてございます。これはどういうことかといいますと、千を超える品目のうち、対前年同月比で一番値下がりをしているものから順に考えまして、ちょうど一〇%に当たるところというのを一〇%点というふうに考えます。そして、前年同月比で一番値下がりしているものから番号をつけまして、二〇%相当のところを二〇%点というふうに呼びならわすわけでございます。
そのように考えますと、例えば九〇%点というのは、二〇〇三年の後半から二〇〇四年にかけまして大変高騰しております。これは、いわゆる卸売物価の中の一〇%程度、構成品目の中で一〇%ぐらいに相当するものでございますが、ここには、例えば中国経済の過熱の影響があるというふうに考えてよかろうかと思います。
ちなみに、鉄鋼製品は、この上昇のときに九〇%点に相当するように上がりまして、最近は、鉄鋼製品は八〇%点ぐらいのところに推移してございます。そして、昨今のように原油価格が上がりますと、原油価格はこの九〇%点より上に位置する、こういうことになっておるわけです。
一〇%点は現在でも対前年同月比で三%のマイナスになっております。ここまで改善してまいりましたが、しかし、三%程度の前年比下落を続けています。
では、これは不況でかわいそうだなというふうに一般に思われるかもしれませんが、例えばエレクトロニクスがここに入ります。薄型テレビの値段がどんどん下がってくるというのは御存じのような経緯でございますが、そういうものに引っ張られまして、今でも電子製品については対前年比マイナスでございますが、では、これは意味がないかといいますと、この業界における競争を通じてこれが実現しているのであり、業界内において企業戦略の失敗があるところは、シェアを落としたり、どこかの時点で市場から退出しなければいけないということがあるかもしれません。しかし、それは競争社会においてはあり得ること、あるいはあり得べしという形で多くの国民は理解しているのではないかというふうには思われます。
そのように考えますと、それぞれ、物価のパーセントポイントで分類しましたもの、いずれも右上がりを見せておるわけでございまして、どうやら、時間はかけてはございますが、情勢の改善は見られるということでございます。
ちなみに、ここで四〇%点と五〇%点は重なりまして、対前年比ゼロをしばらく続けております。したがいまして、今でも明確な対前年比プラスは五割しかない、ゼロが二〇%ぐらいあって、マイナスが三〇%あるというのが現在の工場渡し値段の大ざっぱな推移だというふうに考えていただいたらいいかと思います。
ここで、では金融政策はこれを無理やり引き上げることが望ましいのかというふうに考えますと、それぞれの業界において調整をされております。長い目で見て、企業経営の持続性から考えて、調整すべきものは調整すべきというふうに考えて、個々の企業経営者が御努力なさっております。それからいきますと、現在の物価の決まり方に異常性はない。
非常に大ざっぱな議論をされる方の中に、デフレは依然として加速しているではないか、デフレからの脱却を図るために金融政策により一層の踏み込みが必要なのではないか等々の議論がありますが、これはもちろんいろいろな見解があるところでございますので、そういう見解も世の中にかなりあることは承知の上で申し上げておりますけれども、私は、この企業物価指数の推移を一〇%ポイントずつ区別して見ますと、どうやら日本経済に正常なリズムが戻ってきている、そういう形としてこれは見るべきではないかというふうに思っております。
そのように考えますと、それでは、一体、財政政策とか金融政策というものは、日本の景気を考える上で何もしなくてもいいのか、そこから手を引いてしまえばいいのかというと、決してそうではないというふうに思っております。
冒頭のこの紙のレジュメの四番目に書きましたものがそれを示すレジュメでございまして、我々はやはり、歳出は一体何に割り当てられるべきか、国民の負担を背景としていますから、一体何が重要なのか。もちろん、歳出と歳入の不均衡を持続しますと大変問題が多いわけですから、将来足元をすとんとすくわれるかもしれないというリスクをだんだん膨らませることになりますので、財政の不均衡が膨れ上がるということは、これは困ることだというふうに皆考えております。
我が国において、二〇〇三年後半以降、民間設備投資が上昇に転じた大きな理由は、企業経営者が日本をもって投資するに値する場所だという評価をし始めた、従前に比べるとそう考える人がふえた、あるいはそれについての確信をふやす人がふえたということでございます。
現在のグローバル経済そして企業のグローバル経営を考えますと、どこに設備投資を行うのか、我が国に行うのか周辺アジア諸国に行うのか、あるいは欧米に行うのかは、実は選択肢の範囲という面がございまして、我が国で設備投資が出ませんと我が国の職場はふえない、我が国においてスマートなといいますか、快い形の所得を得る職場はふえないという大変冷厳な事実がございます。そういう意味では、我が国において、我が国がリスク遮断が行われ、投資に値する国だということを象徴づけるためには、財政不均衡を放置してはならない。これは、何が起きるかわからないということでございます。
最後の図の四に、米国経済をとってございます。
米国経済においては、今、名目成長率の伸びと対比しまして長期金利の伸び率が低くなっております。グリーンスパンはこれをなぞと言って退任したわけでございますが、この米国の長期国債が安定している理由として、やはり、中国からは労働集約的な製品、日本からは資本財や重要な部品を初めとした工業製品の値段が上がらない、投資が我が国において行われ、我が国から重要な機材や重要な部品が米国に安い値段で出し続けられるということがこれを生んでいるわけでございます。
グローバル経済のもとにおいては、いわばサバンナにおけるライオンとシマウマと草の関係があるように思います。ライオンは強いからどこまでもふえるかというと、そのサバンナにいるシマウマの量に依存するわけでございます。ではシマウマは何かといいますと、草原に生えている草の量に依存するわけでございます。このライオンとシマウマと草の関係において、お互いに依存関係を深めている。
確かに、金融秩序については米国からおかりしている面がございますが、工業製品の安定した背景には、もちろん、生産性の向上とか創造と挑戦を繰り返す日本の企業群があるわけでございます。それがあれば、原油の価格がたとえ値上がりしたとしても、重要な工業製品あるいはその部品というものの値段は上がらない。それを米国は享受できるということになりますと、米国において長期金利は上昇しない、将来についてのインフレのリスクというのは米国においてとめられているという面がございます。
そういう意味において、世界じゅうが相互に関係し合いながら動いておりますので、我が国において重要なのは、米国でもたまたまこの十数年はよろしかったのですが、その前の十数年は、御存じのように米国も大変つらい思いをしました。いわば秩序ができない時代がございました。米国が果たして二十一世紀ずっと秩序を持ち得ているかどうかということについては、世界の多くの人が願ってはおりますが、それが保障されるわけではありません。
日本について言えば、十数年は大変ひどい、秩序をなくした時代が続きました。そういう意味では、我が国が秩序を確立し、リスクを封じ込めることを通じて世界に貢献するということは極めて重要でございまして、歳出は、国会で不必要あるいは優先順位が低いと思われるものについては思い切った切り込みをしていただき、そして、財政収支の不均衡についてはできるだけこれを封じ込めるような御努力をしていただく。それを国民も支えるということを通じて、世界の秩序を日本もまた支えるという側に回るために御尽力いただければと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)