逢見直人の発言 (予算委員会公聴会)

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○逢見公述人 おはようございます。連合で副事務局長を務めております逢見です。
 本日は、働く者を代表する立場から、昨今話題となっております格差問題、なかんずく格差拡大という問題につきまして連合の認識を御説明させていただきまして、予算委員会における審議の参考に供させていただきたいと思っております。
 さて、昨年からことしにかけまして、公共交通の大事故、耐震偽装問題、米国産牛肉輸入とBSEにかかわる問題、子供の殺害事件など、安全、安心にかかわる極めて重大な社会問題が起こっております。これらの点について細かく議論することはいたしませんが、今我が国に何より求められているのは、安全と安心の社会だと思います。安全に働くことができ、安心して暮らし、子供が産め、老後を迎えられ、仮に失敗しても再挑戦可能な社会が必要だと思っております。
 そういう社会を実現させていく政策を考える上で、その前提となる問題意識、すなわち格差についてでございますが、昨今は格差が拡大し、それが行き過ぎているのではないか、つまり、安全と安心の社会から遠ざかっているのではないかと考えるところであります。もちろん、格差の全くない社会などあり得ないわけでありますが、しかし、それが行き過ぎているところに今日の我が国の問題があるのではないかと思っております。
 格差はここ数年拡大していると実感しております。客観的な資料からもそのことは明らかだと思っております。しかし、内閣府は一月十九日の月例経済報告で、格差拡大の論拠として所得、消費の格差、賃金格差等が主張されているものの、統計データからは確認できないという見解を示しております。また、小泉総理は、この報告を受けてのことであると思いますが、国会において、格差拡大は誤解であるという答弁をされたという経緯がございました。
 そこで、私ども連合としては、この格差問題の認識について発言させていただくこととした次第であります。お手元に資料を用意してございますので、参考にしながらお話しさせていただきます。
 まず、内閣府が見かけ上の格差と判断された根拠は厚生労働省の所得再分配調査に基づくものと思いますが、この資料によれば、「ジニ係数上昇の背景には、近年の人口の高齢化による高齢者世帯の増加や、単独世帯の増加など世帯の小規模化といった社会構造の変化があることに留意する必要がある。」という認識に立って、これらの要因を除いた上で、所得格差の広がりは小さい、こういう分析をしていると理解しております。
 しかし、この資料は、急速に格差が拡大していると我々が認識しておる直近のデータに基づいたものではありません。このデータは二〇〇一年までの数値しか示されておりません。また、調査結果は世帯所得を対象としておりまして、各個人の労働所得格差については明らかになっておりません。そもそも、高齢者世帯における格差そのものについても、決して無視できる問題ではないと思っております。
 格差に関する統計分析については、資料の一ページにございます総務省の全国消費実態調査、これによるジニ係数の推移によりますと、三十歳未満の若年世帯で格差が拡大していることが示されております。また、二〇〇五年五月に内閣府経済社会総合研究所が公表した「フリーターの増加と労働所得格差の拡大」、これは資料二ページに載せておりますが、この報告書では、一九九〇年代後半から最近にかけて、個人間の労働所得格差が拡大していること、いずれの年齢層でも格差が拡大していること、特に若年層でその拡大のテンポが速いということが指摘されております。
 また、国際比較におきましては、OECDのワーキングレポート二〇〇二、これは資料の三ページでございますが、ここでは、OECD諸国では近年所得格差が安定しつつある中で、日本は各国よりも所得格差が大きく、しかも悪化してきており、貧困率も高いという結果が示されております。
 私ども連合のシンクタンクであります連合総研では、日本の可処分所得のジニ係数や貧困率が高い要因として、日本では他のOECD諸国に比べて政府の社会保障給付及び税による所得格差の縮小策が貧弱であること、日本ではパートなど低賃金労働が広範に存在し、この勤労者が低所得層を形成し、貧困比率の高さを生み出していることなどを指摘しております。
 このような点を踏まえますと、小泉総理が国会において格差拡大は誤解という答弁をなされたことに対しても、私どもとしては大きな疑問を感じざるを得ません。
 同時に、マクロ統計のみをデータとしてとらえ、統計データからは格差拡大を確認できないという月例経済報告における内閣府の認識についても、強い懸念を感じます。所得、資産格差の拡大や雇用の二極化、貧困、生活困窮層の増加など、国民の労働、生活現場で現実に起こっていることを十分認識される必要があるのではないかと思います。
 私どもが認識している格差の実態について、所得と資産という点から申し上げます。これは資料の四ページでございます。
 年収三百万円以下の世帯、今、大卒初任給が二十万ぐらいだと思いますが、月二十万ぐらいで生活している人が年収三百万世帯ぐらいになろうかと思いますが、それ以下で暮らしている世帯が二〇〇三年で二八・九%、一九九九年と比較して五・一ポイントふえております。さらに、年収二百万円以下の世帯が一八・一%と、五、六世帯に一世帯を占めるようになっておりまして、これは明らかに低所得層が増加していると言えるのではないかと思います。
 これは、高齢者、年金生活者世帯が増加しているという側面もあろうかと思いますが、それだけではないのではないか。社会問題化しているフリーター、ニート問題でも明らかなように、若年層の低所得者も増加しており、そういう不安定な雇用形態の若者が、正社員などに移行できず、そのまま固定化する傾向すらあることを考えますと、格差の存在はもちろんのこと、少子高齢社会を迎え、国際競争が激化していく中で、この先の経済、社会に大変悪い影響を及ぼすのではないかということを懸念しております。
 先ほども申し上げましたように、二〇〇五年五月の内閣府経済社会総合研究所「フリーターの増加と労働所得格差の拡大」の中では、「労働市場の変化の中で、最近では、所得格差は拡大しているのではないだろうか。」という指摘がされております。
 それ以前の格差認識については、非正規雇用者までカバーされていなかったことが問題だということで、その報告ではそこをカバーする統計を用いまして、「いずれの年齢層でも格差は拡大しているが、特に若年層でその拡大テンポが速い。この若年層内における格差の拡大は、フリーター化など非正規雇用の増大の影響が大きい。 若年層の間での格差拡大は、日本社会の将来の姿を先取りしたものである可能性もある。」と、非常に現実的な分析をされております。これは、私ども現場での実感を非常によくあらわした分析だと思っております。
 次は、資産の面についてであります。
 資料の五ページでございますが、貯蓄保有世帯の平均額が二〇〇五年で千五百四十四万円。これは九七年に比べまして二〇%増加している。その一方で、貯蓄ができない世帯が全世帯の四分の一近い二三・八%も存在しております。年金を初めとする社会保障に対する将来不安の問題は、二年前の年金制度改革で大いに世間をにぎわせましたけれども、抜本改革が先送りされ、将来に不安があるにもかかわらず貯蓄ができない世帯がこれほど増加していることは、非常に懸念されることだと考えております。
 これら格差の要因の一つは、明らかに雇用形態の変化であります。働き方の二極化が進行しております。企業のリストラなどの結果、正社員が減らされ、パートなどへの置きかえが急速に行われました。この十年間で正社員が四百万人減った一方で、パートタイマーが六百五十万人増加。これは資料の六ページに載せておりますが、このような働き方をされている四割近くが月収十万円以下という、非常に低い賃金水準となっております。
 このような所得、資産の格差拡大を背景に、生活困窮層が増加していることも統計的に明らかになっております。
 一つ飛ばして八ページでございますが、貧困率という指標がございます。これは、日本はOECD主要国でアメリカの一七・一%に次いで二番目の一五・三%となっております。国際的に見ても日本は格差の大きい国と見られております。
 その他、九ページには、生活保護世帯が二〇〇五年で百四万世帯となり、一九九七年と比較して約七割もふえております。
 そして、十ページですが、自治体から援助を受ける就学援助制度の利用者が、二〇〇四年度で百三十三・七万人。ここ四年間で三六・七%、これは給食費が払えないとかあるいは修学旅行に行くお金がないという形で援助していただく子供さんの数ですが、これだけ増加しております。
 さらに、国民健康保険料長期滞納のために保険証が使用できない、いわゆる無保険者が、この四年間で三倍の三十万世帯になっているという実態もあります。まさに格差大国になっていると言わざるを得ないと思います。
 さてそこで、なぜこのような格差の拡大、二極化が進行したのかということですが、直接的には、長期デフレのもとで、労働者にしわ寄せする形でマクロ的な分配が行われてきた結果であると思います。
 その背後にあるのは、構造的な変化として、アメリカン・スタンダードといいますか、そういう基準、市場原理主義に追随した短期利益追求の経営への変化があります。
 市場競争の過酷さを労働者に押しつけることによって格差が生み出されているのではないか。さらに、自己責任ということを強調することによって個人へのリスク転嫁を進め、セーフティーネットを縮小させる小さな政府論というものがこういう結果を引き起こしているのではないかと思います。
 二極化が始まったのは、我が国がデフレ経済下でマイナス成長に陥った一九九〇年代の後半でありまして、この間のマクロ的な分配のゆがみが格差社会につながっているのではないかと思います。
 特に、九八年以降の社会的な分配のゆがみの一つは、家計部門と企業部門における付加価値の分配が企業部門に偏ったことにあると思います。一人当たりの生産性が伸びた一方で、一人当たりの人件費は低下傾向にあって、その乖離がますます広がっております。
 労働分配率は、一九九八年度の六五%から二〇〇四年度には六一%にまで低下しております。厚生労働省の労働経済白書においても、企業収益の改善が賃金の回復に結びついていないことが指摘されております。勤労者世帯の家計収入は、ピークである一九九七年に比べ約一割低下しており、税や社会保障における負担増、給付減の影響とあわせ、年々厳しさを増しております。
 長期デフレへの対応策として、先ほども申しましたとおり、多くの企業は、正社員を減らし、パートや派遣、有期契約、請負労働といった非典型雇用労働者をふやすことで総額人件費を削減するという手段をとってきました。人件費コスト調整のしわ寄せがパート、派遣労働者などに集中することによって、全体的な所得格差が拡大したと言えると思います。
 次に指摘させていただきたい点は、経営姿勢の変化が格差社会への流れをつくった一因ということです。アメリカン・スタンダード追従の短期利益追求型への傾斜であります。
 日本の企業経営は、これまで経営の優先順位として従業員を重視するという姿勢があったと思いますが、これが、株主主権に変わったと言わないまでも、株主重視の姿勢をかなり強めてきたことによって、企業は、長期的、集団的で仲間動機に訴える雇用慣行から、短期的、個別的で市場動機に訴える人事施策をとるようになりました。その象徴的な動きが、中核的労働力とパートや派遣などを分離する、いわゆる雇用ポートフォリオという施策、あるいは成果主義賃金の導入であると思います。そして、これを後押ししたのが、非典型労働分野での規制緩和を進めたことの政策にあると思います。
 我が国の労働現場は、職務や役割の区分が明確な英米とは異なって、人に仕事をつけて、チームでカバーし合いながら組織目標を達成し、その中で人を育成していくという職場が多いというのが実態だと思います。そして、これが日本的な強みであったと思いますし、今日でもそうだと思います。こうした実態を無視したところでアウトソーシングを進めた結果、職場では今、現場の総合力が落ちているということが大変問題になっております。
 公正な処遇と人材育成という視点を欠いたまま雇用形態の多様化だけを先行させていることが、格差拡大の大きな要因になっていることのみならず、それが労働者の不満を高め、職場を分断化し、個別労働紛争を増加させている、そして、現場において総合力を低下させているという結果になっている。これは大変大きな懸念材料だと思います。
 また、投資ファンドが関与する企業買収の動きが活発化していることも、株主の権利ばかりが声高に叫ばれ、従業員の声が無視されているという流れを加速させております。
 企業にとって株価が重要な企業価値の面があることは否定しませんが、本当の企業価値はそこに働く従業員によって成り立っている側面が極めて大きいということを強く訴えたいと思います。とりわけ、ライブドア問題などはその最たるものと言えます。この件は捜査中ですのでこれ以上の発言は控えますが、ライブドアはITとは無縁で、単に株式市場を舞台にした、まさに虚業であったことが明らかになりつつあります。こうしたマネーゲームの風潮については極めて強い懸念を持っております。
 さらに指摘したい点は、小さな政府の名のもとに、一方的な負担増、給付削減の財政改革を進め、また市場原理に基づく自己責任原則のもとで個人へリスクを転嫁しようとする方向に政策のかじ取りが行われていることであります。
 市場万能主義者は、機会の平等さえあれば自助努力で挽回できると言いますが、自己責任では賄い切れないリスク、具体的には、その時々の経済や雇用情勢などで働きたくても働く場所がない、正社員で働きたいけれども雇ってくれるところがない、こうした側面の中で、市場競争がもたらす痛みが個人に集中しやすくなっていることが負け組を生み出す原因になっております。
 特に、社会の所得再分配機能が弱まっていることが格差拡大に拍車をかけていると言えます。課税前の所得とともに再分配後の所得も格差拡大を続けているということは、税金が高いと経済活力が低下するという一部の主張によって、所得税の税率のフラット化や、資産、財産収入への課税の軽減が行われてきたためにほかならないと思います。
 そうした中で、サラリーマンにねらい撃ちの増税が行われようとしていることについては、大きな懸念を感じます。恒久的減税措置とされてきた定率減税が今年一月から半減され、今国会では完全廃止の方向で審議が進んでおります。さらに、昨年六月に政府税調の基礎問題小委員会では、所得税の各種控除の縮小、廃止を盛り込んだ個人所得課税に関する論点整理をまとめたわけでございますが、これはまさにサラリーマンをねらい撃ちにした増税と言わざるを得ないと思います。多くの勤労者、サラリーマンが大きな不安と怒りを訴えております。現在でも不公平であると感じている税制について、どのように公平で透明な税制にしていくかという議論がないまま、取りやすいところから取るという安易な増税路線を進めると、貧富の差はますます拡大すると思います。
 社会保障についても、この十年間の制度改革は、負担増、給付減による財政上の対応を優先し、制度の抜本改革を先送りしてきたことから、制度に対する不信感が高まっております。
 社会的セーフティーネットから抜け落ちる人が増加し、公的年金では二号被保険者から一号被保険者へのシフトが起こっておりますし、さらに、一号被保険者の保険料未納者も、御承知のように、国民年金では四割近くの未納というところまでふえてきておりまして、将来の無年金者の増大が強く危惧されるところであります。医療保険でも、組合健保から政管健保あるいは国保へのシフトと同時に、健保財政の悪化も進んでおります。
 最後に指摘したい点は、ワークルールの破壊が不当な格差を生み出しているということです。最低限のワークルールさえも守られない職場がふえております。その一つは最低賃金であります。
 これは、資料の七ページで示すように、日本の最低賃金水準というのは欧米先進国に比べて決して高いわけではありません。その低い最低賃金水準すら守られていないという問題があります。
 北海道のハイヤー、タクシー労働者の最低賃金違反をきっかけに、全国で自主点検を行ったところ、五%の事業者で最賃違反が見つかった。これはあくまでも経営者が自主点検した結果でありまして、これは氷山の一角であって、実際にはもっと違反があるのではないかと思っております。
 また、不払い残業は依然として多くの職場で横行しております。具体的に申しますと、労働者からの自己申告で労働基準法違反を申告された事案が年間三万六千件に上り、これにより臨検監督をした事業場の七割に法違反が認められております。こうした違法行為の増加は、労働分野の規制緩和の一方で監督行政が徹底されていないことが大きな原因だと思います。こういう社会的規制こそむしろ強化されるべきだと思います。
 格差社会を乗り越えるためには社会的な分配を変えていく必要があり、そのためには、以下のような雇用、労働法制や、税、社会保障制度の見直しが必要であると思います。
 一つは、均等待遇の実現など、雇用形態間の格差の対応を図ることであります。
 均等待遇の原則が貫かれてこそ、労働者の働き方の選択肢として多様な雇用形態を生かしていくことが可能になります。二〇〇四年の統計では、男性のパート労働者の一時間当たりの平均賃金は千十二円で、男性一般労働者の五〇・六%。同様に、女性では九百四円で、女性一般労働者の四五・二%と半分以下になっております。もちろん、正社員とパートでは責任の軽重とか転勤や残業の有無とかという差もありますが、合理的な理由で説明できない、ただ単にあなたはパートだからというだけで、同じ仕事をしていながら正社員よりも不当に低い賃金で働いているという実態があります。
 また、待遇面では、パートには有給休暇というものがそもそもないんだと言われることも後を絶ちません。このような処遇に大きな格差があることは社会的な問題であり、これを克服していかなければならないと思います。ぜひとも均等待遇原則の法制化や有期労働契約のルール化を進めていただきたいと思っております。
 第二に、社会保障制度の改革であります。
 二極化、格差社会に歯どめをかけ、是正するためには、社会のセーフティーネットである社会保障制度の改革、再構築が不可欠です。制度の抜本的な見直しを通じて、安心、安全、公正な社会を実現することが喫緊の課題であります。
 今国会では医療制度改革関連法案が上程されております。この中には、連合が求めてきた主張が盛り込まれていた点もありますが、独立した高齢者医療保険制度の創設については、財政調整や最終的な責任主体が不明確であるということから見て、見直しが必要と言わざるを得ません。
 年金制度については、雇用形態にかかわらず、生涯を通じてすべての雇用労働者を対象として一元化を図ること、子育て世代が将来に希望を持って子供を生み育てられる子育て支援策を強化することなどが必要です。
 最後に、不公平税制の是正です。
 格差が拡大し、低所得、生活困窮層が増加している現状において、所得の再分配機能は今極めて脆弱になっていると思っております。取りやすいところから取る税制ではなく、ぜひとも不公平税制を是正し、公平で透明な税制改革を実現していただくようお願いいたします。また、定率減税の廃止につきましては、今申しました二極化の現状を十分に踏まえ、慎重に対応すべきだと思っております。少なくともその実施に当たっては、デフレからの確実な脱却を前提とすべきであり、持続的な経済成長に悪影響がないよう慎重に御判断いただくことを強くお願い申し上げます。
 以上、私の公述とさせていただきます。(拍手)

発言情報

speech_id: 116405262X00120060224_004

発言者: 逢見直人

speaker_id: 24513

日付: 2006-02-24

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会