山田省三の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(山田省三君) 山田でございます。
 今日は、雇用における男女平等が達成されるためには効果的な差別禁止法の存在が不可欠ということは一致した見解であると思います。今回、ここで私はこの今回の均等法改正案の内容について意見を述べさしていただきます。
 まず、差別禁止の対象が女性から男女双方に拡大されたこと及び妊娠、出産あるいは産前産後休暇の請求、取得に関する修正については評価できるところではないかと思います。とりわけ、妊娠、出産あるいは産前産後休業の取得等を理由とする解雇の禁止が定められたこと、あるいは解雇以外の不利益取扱いが禁止されたことも、これが評価されることではないか。あるいは妊産婦ですね、妊娠中あるいは及び産後一年以内、超えない女性の解雇は無効とすると規定されたことは評価できることではないかと思います。
 ただ、ここで少し理論的には、この今回、妊娠、出産にかかわる保護を拡大するということが主眼だったためか、実は婚姻については、今回の均等法では女性の差別禁止から男女双方の禁止ということになっているんですけれども、ポジティブアクションは現状では女性だけに限定すること、それなりの合理性があると思いますけれども、この婚姻について女性だけが残っているというのは、やはり婚姻は、妊娠、出産は女性ですけれども、婚姻は男性もあるんでしょうから、男性についての婚姻差別を禁止しなかったというのは理論的に少し問題ではないかと考えております。
 しかし、重要な点は、先ほども各参考人の方の意見がありましたように、この法の理念の問題と、それから間接差別の問題ではないかと思います。
 まず、差別というのは、御承知のように、これは単に経済的に困るんではなくて、差別自体が人格を侵害するから許されないということが確認されるべきで、そういう意味で、やはり先ほど各参考人の御意見ありましたように、平等と差別をどう理解するかという理念を考えることが差別禁止法の基本的なスタンスではないかと思います。
 ここでは、現在では使用者団体の方の方からもワーク・ライフ・バランスという理念が主張されております。これを、いわゆる仕事と生活の調和というものを均等法に入れるかどうかということが議論になっているんですけれども、一つには、ここではそれは家庭の問題、育児や介護については育児・介護休業法で処理されるというのは、それは生活のレベルを家庭だけに限定しているという、それが正にあるんではないか。もちろん、労働者にとって育児や介護は極めて重要な問題ですから、これに対する保障は不可欠ではありますけれども、それにとどまらない、前の状態にある独身の男女に対してもこういったことを保障するという意味で、この生活の意味を家庭責任だけに限定するのは、現在の均等法は、当然それは育児、介護をする男女労働者だけを対象としていないわけですから、広く、その概念を家庭に限定しないということが必要ではないかと思います。
 それからもう一つ、それを仕事と生活の調和を立法に入れるということは、単に入れた方がいいということ以上に、今回、後で、間接差別で問題になりました全国転勤とか転勤というような実態について判断する場合には、やはり仕事と生活の調和という理念に基づいて解釈される必要が、これ行政上の問題でも私法上でもあり得るわけで、そういう意味で、これを立法化することによってそういった一つの平等の在り方が、これは性差別以外にも入れるべきでない御意見もありましたけれども、正に性差別の在り方がこの仕事と調和の中で反映しているということですね。そういった意味で、これを目的、理念に入れることがむしろ不可欠ではないかと私は考えております。
 次が間接差別の問題ですけれども、これは先ほども御指摘がありましたように、間接差別というのは、社会的構造がもたらした構造的な差別的効果を排除することによって差別をなくしていくことが問題となっている、それはかなり動的な差別概念と言えるわけですね。そういう意味で、最初から限定するというのは、これは間接差別の在り方を見ても、やはりそれは自己矛盾しているのではないかという考えを持っております。
 先ほど、間接差別を限定しないと無制限になってしまうとかあるいは現場が混乱するという御意見がありましたけれども、これはそうではないと思うんですね。その間接差別の要件としては、もちろん男女の比率による基準適用の問題がありますけれども、もう一つ重要な要件は合理性ですよね。使用者の方がその合理性を証明すれば間接差別は成立しないわけですから、そういったチェックが掛かっているわけで、そしたら、そういう意味では、何でも間接差別が成立するというのは、議論は少し違うんではないかと。この合理性というチェックに見ていく、むしろその中で前半の部分については、そういった常に差別、今まではそれは社会的に相当と見てきた、特に男性中心の社会では、それは家族手当は男性ですというものが、これはもちろん直接差別に当たるんですけれども、そういったものを常に見直していく。今まで見えなかった構造的な差別を明らかにしていくとすれば、むしろ限定列挙するというのは間接差別の理念からいうとやっぱり矛盾しているのではないかと思いますね。混乱するとか無制限という批判は、これは当たらないのではないかと思います。
 もう一つ、この問題は限定の問題と、それからもう一つはこの法的効果について申し上げたいんですけれども、まずこの間接差別が成立する場合については、恐らく厚生労働大臣が当該措置を是正するよう指導するという行政上の根拠として定められていることは確かではないかと思います。しかし、ここでは、今回のこれではこの三つだけについて行政指導をする、カバーしないということになるのかどうか。恐らくそういうことになるんではないかと思います。
 恐らく大きい問題は、その行政指導の問題もあるんですけれども、いわゆる私法上の裁判になったときの問題です。いつもこれに対しては恐らくそういった従来のものが別に後退しないということをよく言われるんですけれども、ちょっと変な言い方ですけど、議員の方は裁判官を余りにも何か割と信頼されていらっしゃるという、こういう言い方はちょっと問題かもしれませんけど、印象を持っております。それは、実は立法府がある権利を促進するために設けたものが、裁判の中で逆に解釈されるケースが非常に裁判上少なくないんです。
 例えば、労働基準法の改正のときに、年休の促進を進めようということで、新たに使用者は労働者が年休を取得したことを理由として不利益な措置をとらないようにしなければならないという規定ができたときに、これ、もちろん趣旨は、じゃ、この年休促進を、不利益をなくすことによって年休促進を進めようという立法趣旨であった。それで、国会ではそういう意思で作られたと思うんですけれども、最高裁は、これは、してはならないじゃなくて、しないようにしなきゃならないだから、努力義務規定にすぎないとして、この年休取得を理由とする不利益取扱いを認めたという、そういった経緯は、これ御承知だと思いますけど、あります。
 このように、制限的な文言を持っている立法がかえって立法者の意思とは無関係に機能する例があるということです。ただいま挙げましたのは労働基準法の例ですけれども、これは均等法についても同じことが言えるわけです。
 一九八五年制定の均等法においては、募集、採用、配置、昇進については努力義務にとどまっていたということです。現実の裁判例では、むしろ均等法ですら募集、採用、配置、昇進が努力義務にとどまっていること、極端に言えば、均等法の努力義務規定があったことが、逆に差別された女性の救済を否定する論拠に使われているところもあるわけです。
 以上のように、限定的な差別禁止規定ではかえって差別を温存する機能もあるということも過去から学ぶべきではないかと思います。恐らくこれが、行政指導とは別に間接差別の裁判がなされた場合について一つ考えられるのは、この三つの事例のみで立法上は三つに限定されているということと、審議会等の段階では七つの事由が挙げられていたけれども、結果としては結局、他の四つは立法化が見送られたと。そういう経緯からすれば、この間接差別は公序に当たるのはこの三つしかない、間接差別に当たらないという判断される可能性は非常に大きいということになります。これは単なる杞憂ではなくて、今までの裁判の現状から見れば、裁判官の自らの、条文にかなり限定的な、立法者の意思がどこにあったとしても、かなり裁判官というものは職業柄、理念よりむしろ規定を尊重するのが日本の裁判所の一つの特徴であるというのは、これは決して間違った指摘ではないと思います。
 その意味で、この限定列挙というのがかなりむしろ、変だけど、なければそれなりに公序という議論ができるものが、限定されたことによってその機会すら奪われることになりかねないという危険性を十分御承知していただきたいと思います。
 確かに、間接差別というのは分かりにくいという御指摘はあります。そのとおりかもしれませんけれども、しかしイギリスでは一九七五年に制定されて三十年もたっているわけで、イギリスにできるようなことがなぜ日本でできないかという素朴な、私は、まあ国が違えばいろんな状況も違うんで、一緒くたにイギリスがこうだからということは言えませんけれども、三十年以上たっている、なぜ日本でこれが、間接差別のもっと規定が一般化していかないかというのを素朴な疑問を感じますけれども、この分かりにくいということは、それはセクシュアルハラスメントの、前回の均等法改正のセクシュアルハラスメントでも言われていたことで、分かりにくいというのを、それを指針で示すことによって、かなり裁判例なんかでも指針が引用されたり、一つの違法性の根拠として指針が使われている裁判例も登場してきているわけですね。
 そういう意味で、分かりにくいということから、それが限定するということは日本で結び付かない。それで、省令で限定することに結び付かないわけで、先ほども御指摘ありましたように、今後の裁判例の集積を待って指針で例示列挙をしていくということです。指針の法的効果は省令でしなければ法的効果がないということではなくて、指針の内容によっては、例えば均等法の指針、平等に対する指針なんかは均等法と一体となって指針が私は私法上の効力を持ってくるということになると思うんですね。
 そういう意味で、省令であれば法的効力が強くて、指針であれば弱いということではないと思います。それは、指針の中身によって、一定の努力義務的な指針もあるでしょうし、一定の私法上の効力を持つような指針もあるということになりますから、そういう意味で、省令で限定列挙せずに指針で例示列挙をすることによって、それこそ裁判の集積を待つことが間接差別の概念が我が国で拡大する一つの大きな大前提になるんではないか。そのことが、繰り返しますが、社会構造的な差別を是正することを目的とする、常に何が差別に当たるかを考える間接差別の概念にかなうものではないかと考えております。
 また、蛇足ですが、改正法案では、間接差別の要件として、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を考慮してという、そういう前半の法の要件になっております。ここでは、一定の間接差別的な措置というのが適用される男女の比率が挙げられております。これがどの程度の要件として強いかはまだ分かりませんけれども、現在、EU、ヨーロッパ連合やイギリスでは、従来はこの男女比率の要件が存在していたんですね。
 例えば、イギリスの性差別禁止法では、これ御承知と思いますけれども、従来の要件では、不利益を受ける女性の割合が不利益を受ける男性の割合よりも相当大きな程度であるということがこの間接差別の成立要件に入っていたんです。これが二〇〇四年の改正で外されております。この男女の比率要件というのは、必ずしも間接の要件ではないという立法がされております。このことも、蛇足ですが御指摘させていただきたいと思います。
 それから、最後に申し述べさせていただきますが、労使の意見が対立する中で、両者のコンセンサスを踏まえた上でこの法案を作成された御苦労は大変なものであったと推察されます。しかし、性差別禁止法を制定するということは、労使のコンセンサスを若干超えたところに視点を置くべきではないかと考えております。差別というものはやはり歴史的に構造的に形成されたものですから、これをなくすには強力かつ効果的な差別禁止法の制定が不可欠である。これは、外国でもそういった理念に基づいて、必ずしも労使のコンセンサスだけでは差別禁止法は作れないということを認識していただきたい。このことは、外国の立法を見ても明らかではないかと思います。
 是非、国民の信託を受けていらっしゃる国会議員の皆様方には、是非この点を御配慮をいただいて、立法府としての領域を一層果たしていただくことを最後にお願いしたいと思います。
 どうもありがとうございました。

発言情報

speech_id: 116414260X01620060426_010

発言者: 山田省三

speaker_id: 1297

日付: 2006-04-26

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会