村田武の発言 (農林水産委員会)
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○参考人(村田武君) 愛媛大学農学部におります村田でございます。
本日は参考人陳述の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。お手元に本日用の陳述メモを配付していただいていますので、ほぼこれに沿って発言させていただきます。昨年三月まで九州大学農学部におりましたので、本日の陳述の主としてフィールドとしますのは北九州米麦二毛作地帯を念頭に置いておると、これに愛媛県等加えておると御理解いただければと思います。
さて、新たな食料・農業・農村基本計画は、旧計画の見直しの域を超えた大掛かりな農政改革として策定され、その実質的な目標が、国境措置に過度に依存しない政策体系への移行と望ましい農業構造への構造改革、そして食料自給率の向上にあるとされているものと理解しております。
それを推進する中軸的な施策としての経営所得安定対策等大綱における品目横断的経営安定対策の提示は、低い国境措置の下で、構造改革と自給率の向上を同時に達成するという原理的に困難な課題を実現せんとするものでありますけれども、構造改革を実現してこそ自給率の向上が達成されるという政策的な論理構成を取っているために、構造改革の優先度がより高くなっております。そのため、同対策は対象を担い手に限定するという、欧米の直接支払政策には見られないところの直接支払それ自体に農業構造の改革を期待するという意味での日本型になっていると理解いたします。
以下では、農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律案を中心に意見を申し上げたいと思います。
メモをめくっていただきまして、二ページ目に参りますが、第一に、対象農業者の限定ではなく、基本的な価格・所得政策はすべての生産者、販売者を対象にすべきだということであります。
法律第一条及び第二条二項で規定されている対象農業者の限定は、農業就業者の高齢化の中で水田普通作の認定農業者の形成が弱く、米生産調整にもブロックローテーションなど集団転作での対応を余儀なくされているような地域では大きな戸惑いと混乱を引き起こしております。
認定農業者を育成しようにもいかんともし難い地域では、要件が緩められた集落営農をともかくも組織しようではないかということで、農業改良普及センターの普及指導員や農協の営農指導員が連携して集落座談会に力を入れるといった状況にあります。私なども農協営農指導員研修会等に講演で引っ張り出されますけれども、愛媛県のように、裸麦では一千七百ヘクタールという全国一の産地なんですが、しかし全体として水田農業での認定農業者の形成が非常に弱い中では、これは集落営農でいかざるを得ません。当然、そうなれば、営農指導員や改良普及員に対してしっかりと現場で品目横断的経営安定対策を説明し、あなたたちは集落営農を組織しないと、後になって対象から外された農家から不作為責任を問われることになりかねませんよといったような、半ば脅迫的な言辞を弄するといったことになっておるわけであります。
少しメモ以外のところに触れましたけれども、メモに戻りますと、経営安定対策の対象に認められる集落営農の要件が、特定農業団体となるか、これと同様の要件を満たす組織に緩和されたとしても、いいのは、農用地の利用集積目標、規約作成、経理の一元化までは何とか対応できるんですね。ところが、主たる従事者の所得目標を定め五年以内の農業生産法人化計画の作成、これにはちゅうちょせざるを得ないと。というのも、現実の集落営農は非常に多様であります。兼業従事者がオペレーターを担当するのは当たり前という組織がたくさんあります。定年帰農者に期待するしかない組織もあります。主たる従事者を育てるのではなくて、不安定兼業農家、特に土建・日雇い型、運送業、トラック運転手等、不安定兼業農家にとって重要な農業所得の確保を主眼にした組織であります。そうしますと、正に集落営農は地域の実情に即して多様に組織されているわけでありまして、そのような現実に対して、第二条の二項ロにいうところの「特定農業団体その他」というこの組織の縛り、つまり法人化をタイムスケジュールに織り込まざるを得ないというこの集落営農の組織化、これが苦しいわけであります。
私は、言わばこのような強行的な集落営農の組織化と言いたいわけでありますが、これが戦後の、私、東欧社会主義農業を研究した経緯を持っているんですけれども、かつて一九五〇年代から六〇年代の旧東ドイツを含め東欧諸国における事実上の強制的な農業集団化をほうふつさせますね。あの東ドイツ、東欧諸国の農業集団化が大きな抵抗と農業生産力の停滞を招いた歴史は御承知のとおりでありまして、地域の農家の自発性と合意の下にじっくり時間を掛けて組織されるのではなく、政治が迫る集落営農が日本農業の足腰を強くさせ、農村社会の安定、定住条件の確保につながるとは到底思えないということを強調しておきたいと思います。
二番目に、食料自給率の向上と対象農産物及びゲタ対策、ナラシ対策の矛盾の問題であります。
法案第二条において、対象農産物の選択が、第一項では「国民に対する熱量の供給を図る上で特に重要なもの」とされながら、結局のところはWTO農業協定における国内支持の削減対象、つまり黄政策の緑化を主眼とするものになっております。我が国は国内支持削減約束目標を既に大幅超過達成しておるにもかかわらずであります。そこに数字を並べましたけれども、メモの三ページの四行目でありますが、二〇〇二年には七千三百億円にまで減らしております。これは三兆二千四百億円余り国際約束では余裕を抱えておるわけであります。
AMSの削減を主眼にするからこそ、経営安定対策の直接支払を第一条の第一の交付金、いわゆるゲタ対策が導き出されることになりました。このゲタ対策を緑化するためには、過去の作付面積に対する交付金のウエートを高めざるを得ないと。もし交付金の七割を過去面積に支払うという設計をすれば、どういう事態を迎えるかと。小麦過去面積二十ヘクタールの認定農業者が、平成十九年に小麦を作付けせず野菜など対策対象外作物を作付けしたとしても五百六十二万八千円の交付を受けることができます。これでは食料自給率が向上しないだけでなく、モラルハザードを引き起こしかねないわけであります。
さらに、AMSの削減を主眼にしたことが、同じく第一条の第二の交付金、ナラシ対策にも、これをいわゆる収入変動影響緩和措置として、ナラシ対策にとどめるものになりました。
私の知る福岡県など北九州米麦二毛作地帯の認定農業者は、異口同音に、米に対するナラシ対策が米価の趨勢的下落の下ではセーフティーネット機能を持ち得ないことに大きな失望の声を上げ、経営の不安定性がますます強まらざるを得ないことに危機感を強めております。なるほど、西日本の大都市近郊の稲作大規模経営の中には、米を農協に、既に一万二千円まで下がっておる米価で、これで出荷するのではなくて、言わば自家精米を、○○家のお米という自家精米、袋詰めで何とか十キロ四千円で顔の見える近隣消費者に販売することで米価下落をしのいでいる経営も少なくありません。しかし、言わば、そのような恵まれた条件、環境にある認定農業者は決して多数派ではないわけであります。
そこで、提案であります。
第一に、米に対するナラシ対策を固定型の基準価格に基づく不足払い化すべきであります。法案第四条に、ナラシ対策に水田農業についてのセーフティーネット機能を持たせるということであります。
というのも、品目横断的経営安定対策は、米に生産条件格差是正を目的とするゲタ対策を導入して、それが米の経営安定対策の第一の交付金になるといった事態は想定されていないと考えられます。このレジュメの末尾に、米にゲタ対策が導入される場合を計算しております。関税、現在の三百四十一円が二百十二円二十銭になればゲタ対策の導入の条件ができるわけでありますけれども、しかし問題は、米のゲタ対策交付金と生産者価格の合計が米生産費をカバーする事態というのは、これはあり得ません。現在の麦や大豆並みの低率関税と低自給率を米に想定するならばあり得るんですけれども、それは食料自給率の向上が重要な政策目標である限り非現実的であります。そういう意味で、是非ともナラシ対策に固定型の基準価格に基づく不足払いが、その制度が必要であります。
具体的に提案いたしますと、旧稲作経営安定対策、現稲作所得基盤確保対策・担い手経営安定対策に代えて、固定基準価格に基づく不足払いを導入すべきであります。
基準価格は全国一本の生産者受取ベースで決定し、その水準は六十キロ当たり一万四千円としてはどうかと。これは全国四、五ヘクタール層の生産費相当であります。もしこれが全国農家、稲作総平均でいきますと一万七千円台になりますが、そこまでは予算との関係から見ても無理かとするならば、四、五ヘクタール層、この一万四千円でどうであろうかと。
これを基準価格として、全国平均指標価格マイナス平均流通コスト、つまり、生産者手取り額がこの基準価格を下回ったらその差額に、全産地銘柄について同一額の補てんをすると。平均流通コストは一俵当たり恐らく二千円から二千五百円でありますので、もし全国平均指標価格が一万六千円辺りを下回れば、一万六千円から一万六千五百円を下回ればこの対策の導入ということになろうと考えておるわけであります。これによって、この基準価格を下回ったらその差額について全産地銘柄について同一額の補てんという方式でありますので、各産地銘柄の販売における安売りモラルハザードの問題は基本的に回避できます。
さらに、この支払、不足払いを生産調整への参加を要件とするならば、現行WTO約束上は青となってクリアできます。
二番目に、生産調整、水田利用複合化(転作)助成、過剰米対策についてであります。
米の生産調整は国のプログラムとして継続すべきであります。
その根拠は、第一に、二次関税を払って自由に輸入され得る輸入米価格が生産調整廃止時の国産米需給均衡価格を上回っている限り、国産米の生産調整による市場価格維持の意義と有効性があります。
第二に、日本の水田を食用米以外の作目に利用複合化する必要性は、今後増えることはあっても減ることはありません。そのための政策としても、水田他作目への誘導措置と組み合わせた生産調整が有効であります。
第三に、国の生産調整プログラムとリンクした直接支払として、上の不足払いについて青政策のポジションを維持し得るわけであります。
次に、現在の集荷円滑化対策を、豊作以外の要因による過剰米にも発動できる過剰米対策に拡充し、その処理費用を一万円、これは米の全国平均物財費でありますが、あるいは最低でも七千五百円に引き上げて、実効性を確保してはいかがかと。
次に、麦、大豆についてであります。これは、水田重要品目の例として取り上げますが、第一に、基本的に、品目に対する支払で生産費をカバーし得る仕組みとしてはいかがであろうかと。時間がございませんので、その数字ははしょらせていただきます。
小麦、大豆、こういったものについても、これらの直接支払は現行WTO約束によるAMSの範囲内で対応可能であります。
もう一つは、水田利用複合化助成として、引き続き麦、大豆、飼料作を水田以外の戦略的作物と位置付けて、十アール当たり稲作所得約六万円の格差補正のために水田利用複合化助成を行うと。小麦、大豆では、上の品目ごと水準による直接支払とした場合、助成額は十アール当たり小麦四万五千円、大豆三万五千円程度となります。ホールクロップサイレージ米を含む飼料作にも直接支払を行うべきであります。重要であるのは、これらは「国民に対する熱量の供給を図る上で特に重要なもの」であって、食料自給率向上交付金的性格を強めるべきだという視点に基づく助成であります。
以上で陳述を終わります。