藤原和博の発言 (教育基本法に関する特別委員会)

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○参考人(藤原和博君) おはようございます。藤原でございます。
 顔を見ていただきますと分かりますように、教育界のさだまさしというふうに呼ばれております。よろしくお見知りおきをと思います。
 私は現職の校長でございますので、基本的には現行法を遵守する立場にございまして、現行法の法律の条文並びに新しい案の条文につきましてコメントをすることは差し控えたいと思います。
 その代わり、せっかく現場から来ておりますので、現場で今何が起こっているか、その現場で起こっていることと教育委員会との関係、あるいは地域社会との関係、それから校長という人間と学校経営との関係を少し明らかにしてみたいかなというふうに思っています。
 その前に、和田中学校を御存じない方のためにちょっと紹介をさせていただきます。恐らく公立の中学校としては今最も注目されている中学校だと思います。なぜかといいますと、現行法で、現在の制度下で、指導要領も遵守しながら、特区も取らずに、どこまで学校が変わるかということを、言わば実験的な挑戦をしている学校です。最初の二年で二百ほどの改善をいたしましたが、これ、すべて現行法下で行っておりますし、指導要領も逸脱しておりません。
 杉並区では最もCS、カスタマーサティスファクションですね、生徒とそれから保護者とそれから教員の満足度が高い学校です。これはデータがそれを明らかにしております。また、先ごろ、給食が非常においしいということと食育の実践が認められまして、文部科学大臣賞を今年いただいております。
 二つほど私がやりました改革には核がございまして、一つは、報道をさんざんされておりますから御存じだと思いますけれども、「よのなか科」という授業、これを校長自らやりまして、ほとんど毎週ですね、ほとんど毎週、公開授業が行われている。それも、世の中で役に立つ知恵と技術を、まあ学校の知識をどういうふうに組み合わせるとそれができるのかという視点で教えております。最初はハンバーガー一個から世界が見えるという経済の本質を教える授業、非常に入りやすい授業から入りますけれども、秋口になりますと、この間、NHKの一時間半のドキュメンタリーにもなりましたけれども、少年法下で殺人を犯しちゃった少年をどう裁くかという、裁判員制度の実施を見込んで、今から、やっぱり中学生からそういう視点を授けたいということで模擬裁判を行ったり、あるいはこの間、TBSのドキュメンタリー、三十分物も放映されましたけれども、自殺といじめにつきまして、それをディベートするような授業も行っております。
 そういう授業が言わば学校という閉ざされた世界の中で出島のような機能を果たして、大体これ、二年間で三千人ぐらいの保護者、地域の人、それからPTAのOG、OB、学校のOG、OB、それから教育関係者が続々と来る。その中にもう病み付きになっちゃう人が現れて、何度もそういう授業に出る。こんな授業があったら自分の人生変わったんじゃないか、中学のときにこういう授業を受けたかったという、そういう感想が多いんです。
 そういうファンの人たちを集めまして、もう一つの改革ですけれども、地域本部という組織をつくります。学校の中に地域を構成する、言わば学校を核に地域社会を再生するということをやっているわけです。現在では六、七十人のボランティアが、入れ替わり立ち替わり和田中の放課後の図書室の運営ですね、それから土曜日、学校の運営、あるいは五千坪あります敷地の緑のお世話という、そういうもの、本来、教員が力を合わせてやらなければならないものなのかもしれませんけれども、教員にとってはちょっと余計な仕事ですね。私は、教員は授業と中学校においては部活を中心とした生活指導に特化してもらいたいと思っていますので、それに集中してもらいたいと思っていますので、生徒の学びを豊かにするためにはすごく大事だけれども教員がやるにはちょっと負担になっちゃう、そういう仕事を地域本部の仕事としてボランティアにやってもらっているわけなんですね。
 ですから、和田中では三百人の生徒で十八人ほどの教員でやっておりますけれども、ほぼ同じ数の大人がもう入れ替わり立ち替わり、もうなじみの大人というような形になります。おじさん、おばさん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃんが毎日訪れる。つまり、和田中というのは教員だけで経営している学校ではなくて、その倍の数、同じ数ですね、地域の大人が入りますので、倍の数の大人で経営している学校という、こういうことになります。
 そういうスタッフが増えてきますといろんなことができるようになり、例えば四十五分授業にしているんです。中学校は普通五十分授業で二十八こま、週の授業が普通ですが、うちは四十五分で三十二こまの授業にしております。このことによりまして、一年生では英数国理社のすべてでほかの公立校よりも一こま多い。したがって、その一こま多い週に四こまになっていることで、英語でも数学でも反復の学習が利いています。このことが学力の底支えをしています。東京大学の苅谷先生のチームが入りまして三年間検証しておりますけれども、そういうデータも出ております。これも現在の指導要領下でやろうと思えばできるんですね、ということ。あるいは、英語のAコースというのを設けまして、週九時間英語を勉強するコースを土曜日ですね、プラスアルファして九時間英語をやるコースを設ける等、そういう工夫をしておるわけです。
 私が何を言いたいかといいますと、もちろん法律はより良きものに変わってほしいわけですけれども、現場の運用ですね、現場の運用をおざなりにしておきますと、どのようにいい法律ができてもそれが生かされない、それがこの十年ぐらいの姿だったんじゃないかなと思います。現場を変えなければ、どんなにいい法律が来ても運用されません。運用の問題なんですね、今起こっていることは、ということを強調したいわけです。
 それでは、もう少し時間を使いまして、現場で起こっていることのうち三つぐらいのことについて、現行のシステムで無理が起こっている部分ですね、三つの無理というふうに言ってもいいんですが、それをちょっと軽く報告しておきたいかなと思います。
 一つ目は、学校と教育委員会との関係ですね。
 小中学校の校長にとりましては、自分の上に市区町村の教育委員会があり、更に都道府県の教育委員会があり、更に文科省があるという四層構造になっています。高校は三層の構造になりますけれども、四層ですね。ということで、私はこれを称して、今ほかの業界で、卸売業者が二枚も入っている業界はどこにもないんじゃないかという例えを言うんですけれども。こういうことが、例えば今回のいじめ、自殺のあの問題に関しましても、一体だれが責任者か全く分からないという、こういうことが起こってくるんです。
 小中学校に関しましては、もう圧倒的に市区町村の教育委員会しか分からないと思います。いじめがどのようなメカニズムで起こり、そこにどういう対処の仕方をすればよいのかは圧倒的に現場に知識があるわけで、仮にそこで文科省をたたいても、そこで例えばいじめ対応マニュアルみたいなものを印刷されてまた何百万部とまいたところで、私はこれは無駄だと思います。
 是非、小中学校に関しましては、主たる権限をなるべく下に下ろしていただく方が正しいと思っておりますし、都道府県は高校の経営がございます、文科省は大学というような形の役割分担をもうちょっと進めるべきじゃないかなというようなことは感じます。四層構造には無理があるということをお話ししました。
 二番目、地域社会と学校の問題なんですが、実は、地域社会という言葉、皆さん簡単に、容易に使いますけれども、じゃだれのことを指すのか、これが通常、見過ごされてしまうわけです。
 実際には、昔で言う地域社会は町会、商店会ですね、町会か商店会だったと思います。でも、これらがほとんど衰退していることは皆さんもお分かりだと思います。地方都市もしかりですね。したがって、学校を開いて外の地域社会と交わろうとか外の地域社会のエネルギーを学校に取り込もうといっても、それは無理です。つまり、商店会や町会そのものが疲弊し切っていますし、会長は大体七十歳、八十歳で引継ぎ手もいないということが特に都市部では起こっています。したがって、地域社会を再生するには、学校の中に全く新しい構成員で地域社会を再生する必要があります。
 もちろん、町会長や商店会長や、あるいは青少年委員とか児童委員とか、そういう人たちは防災とか防犯のときにはすばらしく活躍しますので、これは大事にしなければなりませんけれども、新しく学校経営を支える地域社会は学校の中に、教師になりたい学生、それからPTAではなくPTAのOG、OBですね。PTAだと、やっぱり息子、娘第一になっちゃいがちですので、それが卒業した後のPTAのOG、OB、非常に頼りになります。特に、末っ子が中学を卒業したタイミングでつかまえるのが一番コツだなということでございます。会社でばりばりやっていた方で、家に入ってそれから三人ぐらい子供を育てられて、下の子が中学を卒業したって、いらっしゃるんです。うちの地域本部を立ち上げたのも元IBMのSEをやっていた女性です。
 そういう地域社会をもう一度学校を核に再生することが子供たちに、親と子、先生と生徒というこの行き詰まる縦の関係から解放し、もうちょっと、昔ここにいらっしゃる皆さんが残らず育ったあの地域社会、つまり斜めの関係が豊かな地域社会ですね、子供と直接の利害関係がないお兄さんお姉さん、おじさんおばさん、おじいちゃんおばあちゃんとの関係が豊かにはぐくめる、そういう地域社会を学校の中につくることが必要。これはただではできません。私は、ここにこそ国のお金を投じるべきだと思っていまして、これは新しい時代の公共事業です。昔の公共事業はコンクリートと鉄に投資していたと思いますが、これからの公共事業はこの地域社会の再生、これにお金を使わないととても厄介です。
 いじめがなぜあんなに発見されないか、あるいは対処がなぜ遅れるかも、地域社会というものがなくなっちゃって、この斜めの関係がなくなっちゃったことが主要因です。子供にもプライドがありますので、小学生でもプライドがありますので、先生とか親には言わないんですよ。分からなくて当然なんです。言わないんです。分からないようにやるんですから。というようなことで、是非この地域社会の復興を学校を核にという、こういうことを実現してもらいたいなと思っています。
 最後です。校長、先ほど言いました、どんなにいい法律になっても運用者が現在の校長では非常に危うい。特に中学校が問題です。私は小学校はそれほど実は問題だとは思っていないんですが、中学校。中学生が大人になる大事な時期ですということで、その大事な時期に本物の大人を充てたいと考えるわけです。
 一万校中学校がございますので、私は、三千人ほど、三千人ほどです、今、民間校長って八十人ぐらいなんですけれども、もっと束になって、これはもう国策として三千人、学校外の世界から校長を導入すべきだと思います。そうでなければあの隠ぺい体質は改まりません。無理です。隠そうとすると思います、どうしたって。やっぱり開かせなきゃならない。そのためには外から大量に送らなきゃならない。
 でも、現在の給与構造では、ビジネスマンで辞めてやってくださいと言っても、相当な物好きしかやらないと思います。なので私は、兼業で、兼業で識見ある人ならば校長ができる体制、そういう体制にすべきだと思っています。例えば、文科省の官僚が、教育長になるんではなく現場に下りて、二年とか五年とか学校の現場を経験して戻る。文科省がこれによって現場を持てますね。それから、塾の経営者で、補習塾の経営者なんかにすばらしい人一杯います。人間的にもすばらしい人一杯います。そういう、必ずしもビジネスマンではないんです。民間校長というとみんなビジネスマンというふうになっちゃうんですが、そうじゃない。NPOの経営者でもいいと思います。そういうことを含めまして、是非、学校外から校長を導入して、もっとオープンな経営が行われるようにしたらよいんではないかと思います。
 今、三つの無理、四層の構造では無理、それから学校はもう教員だけに経営させていたら無理、地域と一緒になってコミュニティースクールを目指すべきだということ、それから最後に、現在の校長だけでは無理ということをお話しいたしました。
 以上です。

発言情報

speech_id: 116514048X00920061207_007

発言者: 藤原和博

speaker_id: 15848

日付: 2006-12-07

院: 参議院

会議名: 教育基本法に関する特別委員会