逢見直人の発言 (予算委員会公聴会)

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○逢見公述人 おはようございます。連合で副事務局長を務めております逢見です。
 本日は、働く者の立場から、実感なき景気回復の中で拡大している格差をめぐる認識、考え方について発言をいたします。お手元に資料を用意しておりますので、逐次参考にしながら発言をしてまいりたいと思います。
 特に、格差の中で、家計部門に対する相応の成果配分がなされていないといった分配構造のゆがみや、働き方のルールが改悪される、あるいは安心と安全を担保するはずの社会保障が切り崩されているといったことで、生活不安が高まっているのではないかということを考えておりまして、今後、日本が不安と不信の社会となっていくことを大変懸念しております。こうした社会に陥らないためにとるべき政策の視点についても述べさせていただきますので、予算委員会における審議においてぜひとも反映していただきますよう、お願い申し上げる次第でございます。
 まず、実感なき景気回復と拡大する格差の問題であります。
 日本経済はイザナギ景気を超える長期回復局面にありますが、私ども働く者にとってはその実感はありません。従来の景気回復過程では、大企業の収益改善が中小企業そして家計に波及しておりましたけれども、資料の一ページにございますように、今回はそのような過程をたどっておりません。分配構造にもひずみが生じており、株主配当や役員報酬が大幅に伸びたのに対し、勤労者の賃金はいまだ十年前の水準と変わっておりません。
 また、勤労者所得の中でも、正規雇用とパート、派遣などの雇用形態の違いによる格差が拡大していることはだれもが認識されていることと思いますし、また、地域間の景気回復度合いのばらつきも生じております。地域間、産業間、企業規模間、雇用形態間で二極化や格差拡大が顕著になっているというのも、明らかだと思います。
 こうした行き過ぎた配分のゆがみは政策で是正すべきというふうに考えますが、現状の政策はむしろ配分のゆがみを助長しているように思えます。
 例えば、今回の予算編成において、法人については減価償却制度の改正等による減税、株主に対しては証券優遇税制の延長を行う一方で、個人については定率減税の全廃が行われております。所得税については、過去に最高税率が引き下げられ、累進性が弱まっていることもあり、資料二ページにございますように、税制による所得再分配機能が抑えられております。さらに、私ども働く者にとっては、毎年の社会保険料の引き上げ、医療費などの自己負担の増加による負担増が現在も続いております。
 一方で、給付面に目を転じてみますと、生活保護については老齢加算に続いて母子加算が削減されますし、雇用に対する国の責任を示す雇用保険の国庫負担についても一定割合の引き下げが行われます。また、昨今の医療改革の一環として、保険で受けられるリハビリ医療に上限日数が設けられ、生きるためのリハビリすら切り捨てられたという指摘もなされております。このような予算編成が果たして格差是正に効果があるのかどうか、大変心配するところであります。
 私は、昨年のこの場におきましても格差が拡大しているということを申し上げました。当時の政府の認識は、格差は見せかけのものという認識だったかと思います。現在、格差拡大が問題であるということは国民的にも認識されたと思います。また、安倍総理もこの予算委員会で、格差から逃げているわけではないと発言されたと聞いておりますし、政府は成長力底上げ戦略を打ち出して格差問題を取り上げていることからも、格差拡大については一応の認識を示されていると理解しております。
 しかしながら、こうした政府からの発信があったとしても、それがどれだけ平成十九年度予算に反映しているのか、私どもの目から見れば、はっきりしたものにはなっていないように思います。
 富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透するという経済理論をトリクルダウン理論というそうです。上げ潮戦略によって景気拡大を促すということを否定するものではありませんが、先ほど申し上げたとおり、配分構造にゆがみがある中で、このトリクルダウンが起こることをただ待つだけでは、政策としては不十分ではないかと思います。
 景気が底を打って回復基調に転じて以降、例えて言いますと、タンクに水はたまっておりますが、働く者への蛇口が開いていない、開いているのは企業や株主への蛇口だけという状況ではないかと思います。働く者にとっては、いつ蛇口があくのか待ちくたびれているというのが素直な実感ではないかと思います。
 次に、働き方について申し上げます。
 有効求人倍率が一倍を超えるなど、雇用失業情勢は全体として改善したと指摘されています。しかし、その雇用増の多くは、パートや派遣、請負など非正規雇用であります。非正規雇用は、雇用労働者全体の二割から三割超へと、この十年間で大きく増加しました。また、失業者の三割が長期失業者であるということも忘れてはなりません。
 こうした中で、私ども、いろいろな労働相談を受けておりますけれども、社会保険に入れてもらえない、安全衛生に関する教育をしてもらっていない、派遣で仕事をしているけれども将来が見えない、賃金は最低賃金の水準に張りついたままで、働いても働いても生活が楽にならないという声が寄せられています。また、雇用保険の給付が切れても再就職先が見つからないという失業者にとって、生活保護の給付対象になるまで何の所得保障もないという現実もあります。これらの非正規を中心とした雇用の問題を解決することが今求められていると思います。
 経営者がパートや派遣、契約労働者を雇用する最大の理由は、いわゆる正社員より人件費が安く、雇用調整が容易だと考えているからであります。資料の三ページをごらんいただきますと明らかなように、人件費の格差が歴然としております。正社員比率を引き下げた企業の八割が人件費総額を削減できたとしている調査結果もあります。
 正社員を解雇した後に、パートや派遣、契約労働者を雇用したり、あなたの半分の人件費で雇用できる労働者がいる、いつでも取りかえがきくという理由で雇用の不安定化や労働条件の引き下げを強要されるという、雇用形態の格差を逆手にとった、そしてそれを企業利益の源泉にする、そういう経営者もおりまして、こうした労働相談もふえております。
 資料の四ページのところに、個別労働紛争の増加の状況、そして、その中の個別労働紛争の内訳を記載しておりますが、解雇、労働条件の引き下げといった紛争が極めて多いということが、この中でも見てとれます。さらには、人件費削減のために法を犯す偽装請負の問題も明るみになっております。
 私たちは、格差をゼロにすべきだとか、あるいは格差が一切あってはならないということを言っているわけではありません。所得格差が拡大し、著しいものになっていったときに、その格差が固定化してしまったら、果たしてそういう社会は、安心して暮らせる、あるいは安心して働ける社会なのかということを心配しているわけであります。残念ながら、貧困層が相当の数になっているということはさまざまなデータによって明らかであり、そういう兆候は既にあらわれていると思います。
 資料の五ページ目をごらんいただきたいと思います。年収二百万円以下の世帯が増加しています。二〇〇四年は一八・七%、一九九八年と比較して四・五%ふえております。また、ストック面で見ても、貯蓄のない世帯も増加しております。十年前に一〇%であった貯蓄なし世帯は、二〇〇六年には二二・九%と倍増し、四世帯に一世帯が貯蓄のない世帯となっています。
 資料六、七ページをごらんいただきたいと思います。生活保護世帯は二〇〇六年度には百七万世帯となり、十年前の九六年度と比較して七割もふえております。また、自治体から援助を受ける児童生徒が百三十八万人、ここ五年間で四割も増加しております。
 このほか、国民健康保険料の長期滞納のために保険証が使用できないいわゆる無保険者も、四年間で三倍の三十万世帯になっているなど、深刻な実態を挙げれば切りがありません。
 資料の八ページをごらんください。現在、ワーキングプアと言われているような貧困層も含め、非正規労働者が全労働者の三分の一まで増大しています。これら労働者や地域の零細事業者などは、極めて低い所得に加えて、厚生年金や健康保険にも加入できず、国民年金や国民健康保険の保険料も負担できない層が増大しています。まさに、非正規労働、低所得ゆえに、我が国のセーフティーネットの中核をなす社会保険制度から排除されてしまっています。その中にはフリーター、ニートや長期失業者、障害者、母子世帯、高齢の単身者なども含まれます。
 これら低所得、貧困層に対し、福祉の最後のとりでと言われている生活保護制度は、稼働年齢や親族からの支援など厳しい受給要件になっておりまして、本来の機能を果たしておりません。極めて残念ながら、今や刑務所が福祉の最後のとりで化しているとの指摘もあります。受刑者の中には高齢者、慢性疾患者、外国人等も多くいることから、現実はそのとおりだと思います。まさに、雇用ネット、社会保険ネット、公的扶助ネットによる社会的セーフティーネットが機能不全に陥っていると言わざるを得ません。
 こうした中で、この間、社会保障分野ではたび重なる給付削減と負担増が繰り返されてきました。二〇〇三年の健保法改正による窓口の三割負担、二〇〇四年の年金改正における年金水準の大幅な引き下げと毎年の保険料アップ、二〇〇五年の介護保険法改正や障害者自立支援法の制定による高齢者、障害者の自己負担増、そして、昨年二〇〇六年の医療制度改正における高齢者の自己負担増などが繰り返されております。
 さらに、所得税の定率減税の廃止や年金課税の強化が加わり、低所得の勤労国民、高齢者、障害者は極めて重い負担を強いられています。その結果、障害福祉サービスの利用抑制、医療の受診抑制によって、かえって症状が重度化してしまう人が出てきているという指摘もあります。
 以上のような例からも、既に社会的な不安は高まっており、格差拡大に歯どめをかけ、貧困対策となる有効な政策を打ち出すことができなければ、やがては社会の質の劣化、システムの崩壊という事態を招来することになります。
 私たちは市場経済を通じてさまざまな恩恵を受けております。したがって、競争そのものを否定するわけではありません。しかし、競争によって生じる格差が固定化し、次世代までそれが引き継がれること、そして、格差が社会的に許容できる範囲を超えて二極化し、貧困層が普通の生活すらできない水準になってしまうようでは、これは公正な社会とは言えませんし、安心、安全な社会とも言えません。市場競争に対応するルールの確立と社会的セーフティーネットの形成が必要となります。
 格差是正のためには、まず、機会の平等が保障されなければならないと考えます。競争のスタートラインは平等でなければなりませんし、競争のスタートでハンディのある人には社会的な支援策が必要です。
 資料九ページにOECDの調査を載せておりますが、我が国のGDPに占める教育費の割合というのは、OECD各国の平均を大きく下回っております。それが基礎学力の低下にもつながっているものと思います。教育機会均等は、あらゆる施策に優先すべきものではないかと思います。
 また、就労機会もできる限り均等である必要があると思います。今、自由な働き方にすべき、あるいはできる限り労働分野の規制はなくした方がいいという議論がありますが、その裏には、ルールを外して自由な働き方を求める一方的な論理が潜んでいるような気がいたします。均等待遇や差別禁止といった働き方のルールは、国際的にもスタンダードなものとなっているものであります。経済財政諮問会議において労働ビッグバンというものがテーマに上がっておりますが、ルールを破壊することではなく再構築することが必要だと思います。
 以上のような前提を踏まえ、大きく三つの政策が必要だというふうに考えております。
 第一は、行き過ぎた非正規雇用化の流れを反転させ、正規雇用化を促進することです。
 労働者の職業能力は仕事を通じて高まっていくものです。日本の長期雇用システムがこの職業能力開発の役割を担い、経済社会の発展や安定の基礎になっていたことを私たちはいま一度再評価し、そして、非正規雇用で働く若者を正規雇用の場に乗せていく施策が必要だと思います。
 さらに、多様な雇用、就業形態間における均等待遇の原則が必要です。どのような雇用、就業形態であっても、フルタイムで働けばみずからの生活を支えていけることを目指し、社会・労働保険も適用されるようにすべきであります。これらの施策がなければ、非正規雇用は社会保険も含めたコストの安い労働力として、その拡大には歯どめがかからないでありましょう。
 第二は、セーフティーネットの再構築です。
 積極的な雇用労働政策と積極的な社会保障政策への転換が不可欠です。そのため、パート労働者等の均等待遇の実現、障害者雇用の促進、フリーター、ニート、母子世帯等への就労支援の充実、最低賃金の大幅引き上げなどが必要です。
 資料の十ページに、法定最低賃金の国際比較を載せております。最低賃金については、今アメリカで引き上げが決まり、この点線の部分ですが、七ドル二十五セントになるということが今議会で、既に下院は通ったというふうに聞いておりますが、そういうふうに見ますと、日本の最低賃金は国際的に見ても極めて低い水準であります。憲法で保障された健康で文化的な水準というのをどのように考えるか、国際的に見ても遜色のない水準に引き上げて、実効ある改正とする必要があると思います。
 また、パート労働者を対象とした均等待遇、差別禁止の法制化も重要です。当然、社会保険、労働保険の完全適用は前提とならなければなりません。
 長期失業者やワーキングプアなどへの就労支援と連携した新たな経済的支援などを積極的に検討すべきです。そして、住宅保障や住宅手当の新設などを含め、生活保護制度について、福祉の最後のとりでとしての機能を十分発揮できるような見直しも必要です。
 二極化の固定化を防止するために、だれもが排除されない社会の実現、つまり、仕事を通じた社会参加と所得保障、社会的サービスの積極的な統合、いわゆるソーシャルインクルージョン政策を実現すべきであります。
 こうしたことに加え、医療、介護、年金そして子育て支援について、制度の抜本的な見直しを通じて、安心、安全、公正な社会を実現することが喫緊の課題となります。
 第三は、所得の分配のゆがみを是正するために、所得再分配機能を強化することです。税金が高いと活力が低下するという一部の主張によって、所得税等のフラット化や資産、財産収入への課税の軽減を行い、所得の再分配機能を弱めてきたことが、格差が拡大し、低所得、生活困窮層が増加した要因の一つだからであります。
 サラリーマンをねらい撃ちにした、取りやすいところから取るという安易な増税ではなく、応能負担を原則とした、公平で透明な税制改革を実現することが急務だと思います。
 これまで進めてきた税のフラット化を見直し、最高税率をもとに戻し、所得再分配機能を強化すべきであります。
 以上で私の意見陳述を終わります。(拍手)

発言情報

speech_id: 116605262X00120070221_004

発言者: 逢見直人

speaker_id: 24513

日付: 2007-02-21

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会