小塩隆士の発言 (少子高齢社会に関する調査会)
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○参考人(小塩隆士君) 神戸大学の小塩です。よろしくお願いいたします。(資料映写)
私の報告は、三つの柱で構成されております。まず、新しい人口推計が昨年の十二月に厚生労働省から発表されたんですけれども、その政策的な意味合いを簡単に御説明いたします。
それから、二番目といたしまして、現行の社会保障制度の基本的な問題点を整理いたします。この点につきましては、先ほどの高橋先生の御意見と非常に共通する部分があります。それをあらかじめ御了解いただきたいと思います。
それから、三番目といたしましては、私が個人的に考えております社会保障制度の改革の在り方について簡単に意見を述べさせていただきます。
まず、新しい人口推計の意味合いなんですけれども、合計特殊出生率が足下、二〇〇五年の一・二六からどういうふうに変化するかという数字なんですが、これから若干この出生率は落ちまして、二〇一三年ごろをボトムにいたしまして回復するんですが、五十年後も現在の水準をようやく維持できるという、非常に深刻なシナリオが描かれています。
これがどういうふうな意味を持っているかということなんですけれども、一つ目は、これは皆さん十分御存じかと思いますけれども、現役層の負担が大きくなるということであります。
二〇〇五年では高齢者一人を大体現役層が三・二八人で支えるという形になっているわけですけれども、五十年後の二〇五五年には一・二六人で一人の高齢者を支えるという形になります。これは非常に大きな変化でありまして、現行のように若い層が高齢層を支えるというふうな社会保障の仕組みがなかなか維持できなくなるというふうなことが言えるかと思います。
もう一つ重要な点があります。それは、子供の数が少なくなるというのはよく少子化の大きな結果として指摘されるんですけれども、その一方で、子供を持たなくなる人も増えるということも重要かと思います。
今からお見せするグラフは厚生労働省が試算したものなんですけれども、女性の高齢者の未婚率がこれからどういうふうに変化するかという数字であります。二〇〇五年では大体五%ぐらいの高齢女性が未婚なんですけれども、五十年後にはそれが大体四分の一ぐらいに高まってしまうということですね。ここにはお見せしておりませんけれども、子供を産まないで亡くなるという女性も大体三割ぐらいというふうに言われています。
となると、子供が減るだけじゃなくて、家庭を持たない層が無視できないウエートを占めるようになるということです。今では子供世帯あるいは配偶者からいろんな支援、経済的な支援とか精神的な支援を受けていろんな社会的なリスクに備えるというふうな仕組みがあるわけなんですけれども、このまま人口減少が進むと、個人が様々な社会的なリスクに直面せざるを得ないというふうな深刻な状況になります。そういう状況に現在の社会保障の仕組みがちゃんと適応できるのかと言われると、いろんな問題があるのではないかというふうに思います。
以上、新しい人口推計について御説明しましたけれども、繰り返しますと、現役層からの所得移転に依存した現在の仕組みがなかなか維持できなくなる、これが一つ目の問題。もう一つ目の問題といたしまして、家族そのものが減少して、高齢時の貧困リスクが今以上に深刻な問題になると、この点が重要かと思います。こういうふうな状況は、現行の社会保障の仕組みが想定していない状況であろうかと思います。
それでは、現在の社会保障の仕組みにどういうところが問題になっているのかという点について御説明いたします。
全部で三つあるんですけれども、一番目は、将来世代に負担を先送りしているという点であります。
しばしば、社会保障の在り方をめぐっては、大きな政府であるべきかあるいは小さな政府であるべきかというふうな議論があります。普通は、なるべく小さな政府にしましょう、税とそれから社会保障負担を合わせた国民負担の国民所得に対する比率、これを国民負担率と申しますけれども、これも、この国民負担率をなるべく低い水準にとどめましょうというふうな議論を耳にするわけですけれども、その一方で、いやいや、日本は既に小さな政府なので、むしろこれから社会保障を充実する必要があるというふうな議論もあるわけです。
実際、数字を見ますと、確かに日本はほかの国に比べて、ここでは社会支出という概念を登場させておりますけれども、社会保障給付と見ていただいても大きな間違いではございませんけれども、そのGDPに対する比率はほかの先進国に比べて低めになっております。ですから、数字で見る限り日本は小さな政府であるというふうに言えるかと思います。
ただ、その一方で政府の純債務のGDPに対する比率が九〇%に達しております。つまり、小さな政府ではあるんですけれども、負担を将来世代にかなり先送りしているというふうな形になっています。これから日本は社会保障給付がどうしても増えていきます。そういうふうな意味で、大きな政府になるというのは仕方のないことだろうと思うんですけれども、その一方で、将来世代に負担を先送りすると非常に大きな問題が出てくるのではないかというふうに思います。これが現行制度の一つ目の問題点です。
もう一つは、社会保障給付の中身が高齢層向けに偏重しているというふうなことであります。社会保障給付全体に占める高齢層向けの給付のウエートは現在七割ぐらいに達しております。非常に高い水準であります。それで、いろんな問題が起こるわけなんですけれども、先ほどのグラフでお見せしましたように、マクロ的には日本の社会保障は少なめなんですけれども、ミクロ的に見ると財政運営が難しくなるという面があります。
今日は医療の御専門の先生方もいらっしゃるかと思いますけれども、日本の医療はほかの国に比べると非常に効率的に運営されているというふうなことがよく言われます。OECD諸国の中で比較しても日本の医療は非常にすばらしいというふうな高い評価をいただいているわけなんですけれども、その一方で国民健康保険あるいは組合健康保険、そういうふうな医療保険は軒並み財政が悪化しているというふうな状況になっております。これはどうしてかといいますと、やはり現役層が高齢層の医療費を負担しているというふうな財源構造に大きな問題があるのではないかというふうに思います。
それからもう一つ、高齢層向けの社会保障が充実するというのはいいんですけれども、その一方で子育て支援あるいは若い人の就業支援というふうな人生前半のセーフティーネットが手薄になっているというふうな問題があるかと思います。これが二点目の問題点です。
三点目の問題点は、先ほど高橋先生が御指摘されたことであります。平均的に見ると高齢層向けの給付は非常に充実しているわけなんですけれども、日本の高齢層は深刻な貧困問題に直面しているという点が大きな問題として指摘されます。
今、グラフにお見せしておりますのは相対的貧困率という数字です。これは所得の平均じゃなくて、真ん中辺の所得を得ている所得水準の五〇%を下回る世帯が何%いるか、そういう数字を示したものなんですけれども、青いグラフで示しておりますのは、日本の数字なんですが、OECDの平均と比べても高いですし、またその高い水準は高齢層で特に顕著になっているということが言えるかと思います。
その背景は何かということなんですけれども、いろんな要因があるわけなんですが、現在の公的年金がそういう格差拡大に全然機能していないという面であります。確かに、年金は高齢層の所得を平均的に引き上げますけれども、このグラフでお見せしておりますように、分布が非常に幅広いという形になっておりますので、高齢層の格差がそのまま残ってしまうというふうな問題があると思います。
これも高橋先生のお話をちょっと繰り返すようになってしまいますけれども、平均で見るといろんなところで問題が高齢層の場合出てまいります。細かく数字を見て、その高齢層の問題を調べる必要があるわけですけれども、総じて申しますと、日本の公的年金というのは中所得層以上には非常に手厚くて充実した仕組みになっているわけですけれども、低所得層向けには手薄になっているというふうなことが言えるのではないかと思います。
それから、皆さん、先生方の中でパラサイトシングルという言葉をお聞きになった方多いと思うんですけれども、最近はそのパラサイトシングルが高齢化いたしまして、中年のパラサイトシングルというのが増えております。しかも、その人たちのパラサイトしている、寄生しているのは親の年金だというケースも少なからずあります。そうすると、寄生している親が亡くなるとどうなるか。どうなると、非常に貧困問題が深刻化するというふうなことになります。
高齢化は、ただ単に人口の構成が高齢化するだけじゃなくて、貧困が高齢化するというふうな非常に深刻な問題も抱えているということですね。こういうふうな問題は現在の社会保障の仕組みが必ずしも想定していなかったものですので、これから制度改革を考える上で非常に重視していかなければいけない点かというふうに思います。
以上、現行制度について問題を述べましたけれども、改めてまとめますと、マクロ的に見ますと日本の政府は社会保障は小さい政府と言っていいんですけれども、負担を将来世代に先送りして持続可能性に問題がある、それから二番目として、給付の仕組みが高齢層向けに偏っている、それから、そうはいいながら、三番目として、高齢層内部の貧困問題が放置されていると、こういうふうな問題があります。人口減少が進むと、こうした問題が更に深刻化する危険性があるというふうに思います。
それではどうしたらいいかということなんですが、これについては研究者の中でも意見の一致がありませんし、政府の中でもいろいろ議論がなされておりますし、先生方の中でもいろんな御意見があるかと思いますけれども、取りあえず私の個人的な意見を申し上げます。
二つの方針を掲げさせていただきます。
一つは、できるだけ世代内で給付と負担をバランスさせるということが必要かというふうに思います。これから将来世代がだんだんと先細るわけですから、将来世代に負担を先送りするというのはなかなか物理的に難しくなるということです。なるべく次の世代におもしにならないような制度設計が必要です。それは、大きな政府を選ぶか、それとも小さな政府を選ぶかという選択の前にすべきことだろうというふうに思います。
そういう場合に、世代間の格差をどういうふうに考えるかという問題が出てまいります。
我々経済学者はよく年金の損得勘定というものを議論して、若い人は年金に入ると損をして、お年寄りは得をしているというふうなことをよく言うわけですね。そういうふうな世代間格差の存在を指摘すると、必ずしもそういうことだけで社会保障の問題を論じてはいけませんと、格差があったとしても、それ以外のところで若い人はお年寄り、高齢層からの貢献によって豊かな生活を送っているわけだから、余り年金の損得勘定、社会保障の損得勘定ばかり議論してはいけないというふうな議論もあるわけですね。
私はどういうふうに考えるかということなんですけれども、現在存在する、あるいはこれから広がっていく格差を一〇〇%、これはもう仕方がないということと思って是認することもいけないし、それから、全く駄目で、すべての世代が全部同じでないといけないということもまた非現実的だろうというふうに思います。
どういうふうに考えるかということなんですけれども、それぞれの世代が何となく納得できるなと、これだったら大丈夫だなというところで決着を付けるというふうな現実的な選択肢が必要ではないかというふうに思います。もうちょっと言葉を換えて言いますと、なるべく、若い世代に余り過剰な負担にならないような制度設計が必要だということであります。
その発想で出てきたのが二〇〇四年の厚生年金の改正におけるマクロ経済スライドという発想ですね。これは、マクロ経済成長あるいは人口動態に合わせて年金の給付の水準を自動的に調整するという仕組みなんですね。これにもいろんな問題点がありますけれども、若い世代の体力に合わせた形で年金の給付を調整するということで、お年寄りにはもちろん、今までの制度に比べると給付の減少という面があるんですけれども、若い人から見てみると、過剰な負担がなくなるというふうな面でプラスに評価される面があります。ただし、現行制度でも保険料それから税はこれから引き上げられるというふうなことが盛り込まれているわけですね。したがいまして、幾らその若い層の体力に合わせた制度になっているといっても、これからの若い層がそれに耐えられるかというのはちょっと問題があるということですね。
そこで、非常に大胆な試算を行ってみました。どういう試算かと申しますと、二〇〇四年改正時点から保険料の負担率それから税負担を一切引き上げなかったらどこまで年金を削らなければいけないかという、とんでもない試算であるわけですけれども、ラフに計算いたしますと、大体給付は三割カットということです。非常に大きなカットになるわけですね。もちろん、その一方で若い層の負担が減少されるわけですから、世代間格差は改善されるわけですけど、こういう試算を私が出したところ、各方面から非常に大きなおしかりを受けました。そんなことをすると年金制度が崩壊するじゃないかというふうなことになるわけですね。もちろん、そうでしょう。これはあくまでも極端なケースをお見せしたということなんですね。でも、もう全く非現実的で、そんなのは駄目だと言われると、やっぱり反論したくなるわけですね。やっぱり若い層になるべく負担の掛からないような形で制度を改革していくというのは考えておくべきテーマであろうというふうに思います。
でも、負担を抑制すると給付が不十分になるじゃないかという反論は当然あるわけですけれども、その場合どうしたらいいかということなんですけれども、それは、若いときに保険料を積み立てておいて、後でお年寄りになってからそれを取り崩すというふうないわゆる積立方式の発想で制度を一部改正するということもあり得るんじゃないかというふうに思います。
同じような問題の構造は医療や介護についても言えるかと思います。現役層の負担に今の制度は多くを依存しておりますので、何らかの形でそういうふうな現役層からの所得移転に依存する部分は規制を掛ける必要があるというふうに思います。
ただし、誤解していただくと困るんですけれども、それは必ずしも医療や介護の規模を縮小するということを意味しません。その負担と給付が世代内で均衡していたとすれば、どれだけの医療サービス、どれだけの介護サービスを必要とするか、それは国民の判断であるわけですね。ですから、ここでのポイントは、やはり世代内でできるだけ負担と給付をバランスさせるということだと思います。そのバランスさえできていれば、どういうふうな医療・介護サービスを選ぶかと、これは国民の選択にゆだねられるというふうに思います。
二番目の方針ですけれども、格差が高齢層で大きくなっているということでありますので、今まで以上に低所得層に支援をするということであります。貧困の高齢化を回避する手だてが必要かと思います。
ただ、問題は、社会保障改革だけではこれは無理です。と申しますのは、社会保障の中核は社会保険です。社会保険というのは保険料の拠出があって給付があるということでありますので、拠出をしていない人はなかなかその制度の内部で救済することは無理です。
それから、医療保険等の自己負担につきましても、高所得層ほど高くすべきだというふうな議論は当然あるかと思いますけれども、もう既に高齢層の自己負担は三割になっています。これよりも更に上げろというふうになると、いろんな問題が出てまいります。ですから、社会保障の範囲内で低所得層への支援というのはすることは難しいと思います。
では、どうしたらいいかということなんですけれども、税制を改める必要があるかというのが私の意見であります。
現在の税制は、高齢層に対してはむしろ逆進的に働いているという面があります。この図は出そうか出すまいかちょっと悩んだんですけれども、と申しますのは、ちょっと時点が古いんですね、二〇〇一年ということです。それ以降に公的年金等控除とか老年者控除の見直しがありましたので、今の仕組みはちょっと違っているかと思いますけれども、二〇〇一年時点で見ますと、むしろ税は高齢層においては低所得層に対して不利な形で働いているというふうな面があります。これを改める必要があるということですね。
じゃ、どうすればいいかということなんですけれども、これは高齢層向けじゃなくて、すべての年齢層に対して言えることなんですけれども、現行のように所得控除で低所得層を支援するというのは限界があります。むしろ税額控除にすべきである。さらに、税額控除も、税を所得の低い層には還付するというふうな形で直接的に低所得層を支援するというふうな仕組みが必要になろうかと思います。
さらに、ほかの国の例を見ますと、その還付した税額で社会保険料の負担を相殺するというふうな仕組みにします。そうすると、セーフティーネットから外れるという危険性も解除されるということになりますので、こういうふうな形で税制改革による再分配の仕組みが、改革をするということも必要になろうかと思います。
ただ、こういうふうに税制によって再分配を行う場合は、所得の捕捉というのが重要になると思いますね。ですから、まあいろんな議論があるかと思いますけれども、私としては納税者番号制度の導入等によって所得捕捉を向上させるということが制度改革の前提条件になるかと思います。
以上、まとめますと、制度改革におきましては、まず、将来世代にできるだけ負担をさせないような形にする、世代内で給付と負担をできるだけバランスさせるということが重要です。それと同時に、税制も含めて再分配政策の在り方を見直して貧困の高齢化を回避する、これが重要ではないかというふうに思います。
以上です。
ありがとうございました。