西修の発言 (日本国憲法に関する調査特別委員会)

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○参考人(西修君) よろしくお願いします。
 御紹介をいただきました西でございます。このような席でお話をさせていただく機会を得ましたことを光栄に存じます。私に与えられました時間は十五分程度という限られた時間でございますので、早速本題に入らせていただきます。
 まず、今国会で日本国憲法の改正手続に関する法律案が成案を得ようとしていることに歓迎の意を表したいと思います。言うまでもなく、憲法第九十六条は憲法改正のための具体的な法律を当然に予定しているのであって、本来、もっと早い段階で実現されているべきでありました。ともあれ、六十年間の立法の不作為状態の解消が図られようとしていることは喜ばしいと考えます。
 さて、本日は主に国民投票運動の規制という側面から意見を求められておりますので、若干の所見を述べさせていただきます。主要な論点は、一、公務員の政治的行為の適用除外、二、公務員等及び教育者の地位利用、三、テレビ、ラジオに対する放送法への留意の三点になろうかと思います。
 私の所見につきましては、お手元の今年三月十六日付けの読売新聞「論点」で述べたところであります。当時は、自由民主党、公明党、民主党の共同修正が盛り込まれたとする与党修正案、これは昨年十二月十四日付けのものでありますけれども、この与党修正案が提示されていました。その内容を読み、公正性のルールが欠けているのではないかということを指摘したものであります。
 ここで、あらかじめ私の基本的立場を申し上げれば、憲法改正のための国民投票は国の最高法規たる憲法改正案に対し国民一人一人がその賛否を投じる極めて重大な事柄であり、一方で、本法案第百条に定められているように憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならず、他方で、国民投票運動を展開するに当たり、その政治的混乱を避け公正さを確保しなければならないというものであります。そのような立場から、与党修正案に幾つかの問題点があることを指摘した次第であります。
 すなわち、第一に、同案では公務員の国民投票運動へのかかわりが国家公務員法及び地方公務員法で禁止されている政治的行為から適用除外されることが明記され、全く自由とされていました。この公務員には、裁判官、検察官、公安委員会委員、警察官といった特定公務員も含まれます。要するに、これらの公務員は一般国民と同じく憲法改正の賛否について、組織的な活動をしたり積極的に勧誘したりすることが完全に自由であるという内容でした。しかし、この三月二十七日に提出された与党併合修正、つまり本法案では、公務員の政治的行為の適用除外が本文から外されました。これは、この法案のポイントの一つであります。私の所見に合致するものであって、当然に支持いたします。もちろん、公務員が憲法改正問題に関し個人的に自らの賛否の意思を投票行動で示すことは全く自由であります。しかしながら、そのような行動と公務員という立場で国民投票運動へ積極的に関与するのとは次元を異にする問題であります。
 御存じのように、日本国憲法は第十五条第二項で、公務員は全体の奉仕者であることを明記しています。そして、公務員には、政治的偏向を廃し行政の中立的運営を図り、何よりも政治的中立性が求められることは最高裁判所が判示しているところであります。
 最高裁判所大法廷判決、昭和四十九年十一月六日のいわゆる猿払事件判決でございますけれども、同判決は次のように述べています。もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立性が損なわれ、ためにその職務の遂行ひいてはその属する行政機関の公務の運営に党派的偏向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の信頼が損なわれることは免れない。行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するため、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請にこたえ、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するためのものであって、その目的は正当なものと言うべきであると。
 これが猿払事件の最高裁大法廷判決の、ちょっと抜粋してきたところでありますけれども、私は、憲法改正の是非をめぐる問題はすこぶる政治性の高い問題だと思います。選挙運動は様々な政党があり政党支持者間でチェック機能の働く余地がありますが、憲法改正は賛成か反対かの二者択一を求められます。そのような政治的性格の高い問題に対して、公務員の活動を無条件に認めてよいとは考えません。その意味で、本法案において公務員の政治的行為の適用除外を本文から削除したことは適切な措置と考えます。
 ただし、本法案についてまだ三つの点が懸念されます。
 一つは、公務員の政治的行為の適用除外規定は、本文からは削除されたものの附則第十一条で、この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることのないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法、その他の法令について検討を加え、必要な措置を講ずるものとすると定められていることであります。その具体的中身がはっきりしませんが、もし公務員の政治的行為の制限を撤廃するようであれば、何のための本文からの削除か分からないという結果を招くことになります。
 二つに、地位利用に関する禁止との関連で、従来包含されていた裁判官、検察官、公安委員会委員、警察官といった特定公務員が削除されたことであります。私は、上記の特定公務員についても本来的にはその地位利用を禁じるべきだと思います。なぜならば、上記の特定公務員は、それぞれ強制力と、その行為には強い影響力があると考えるからであります。
 ただ、例えば裁判官については、裁判所法第五十二条第二項で、裁判官は、在任中、政治運動をすることを禁じられています。実際に、裁判官がある法案に反対して集会に参加し発言したことが問題になった事案に関し、最高裁判所は平成十年十二月一日、同条項は、裁判官の独立及び中立、公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持することの必要性から合憲であるとの判断を下しています。特定公務員の職にある人々には、自らの職の重大性を認識して慎重な行動を求めたいと思います。
 三つに、教育者について、学校の児童生徒及び学生に対する教育上の地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して国民運動をすることができない、百三条二項でありますけれども、とのみ定められ、公職選挙法と異なり、違反者に対して罰則、刑事罰が設けられていません。
 教師には、様々の考え方の持ち主がいます。静穏たるべき学校が、場合によっては父母まで巻き込む騒擾の場と化すのではないかと恐れます。これについては、限度を超せば懲戒処分、行政罰の対象になるわけですから、適切な措置を講じることにより、静穏の場としての学校がくれぐれも扇動の場と化すことのないように運用されることを望みます。
 第二に、私は、前記「論点」の中で、マスコミ、とりわけテレビ、ラジオの報道の在り方に触れました。昨年十二月十四日の与党修正案の段階では何らの規定もありませんでしたが、これも現在提出されている本法案で第百四条が新設され、テレビ・ラジオ放送の業務を行う者は、国民投票に関する放送については、放送法第三条の二第一項の規定の趣旨に留意するものとするとの規定になりました。
 このような規定が入れられたこととの関連で、萎縮効果があるのではないかとの反対がありますが、放送法に既に存在している規定に留意するということですから、何らの問題もないと考えます。テレビやラジオの影響力の大きさにかんがみて、その報道の公平さが最大限確保されなければなりません。
 このほか、罰則規定は概して公職選挙法を準用していますが、公職選挙法より構成要件をかなり限定しているように感じられます。その点でおおむね支持できます。
 最後に、憲法改正のための法律作りにおいて最も大切なことは、国民に対して何が論点であるかを静かに自由に、かつ深く考える環境を公正のルールにのっとって整えることであります。
 以上、私は本法案について、若干懸念するところもありますが、総体的に、公務員の政治活動の適用除外が本文から削除されたこと、放送法への留意事項が新設されたことなどから、支持を表明するものであります。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 西修

speaker_id: 9364

日付: 2007-05-08

院: 参議院

会議名: 日本国憲法に関する調査特別委員会