2007-12-11
衆議院
加藤高志
厚生労働委員会臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案審査小委員会
加藤高志の発言 (厚生労働委員会臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案審査小委員会)
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○加藤参考人 御紹介いただきました加藤でございます。
本日は、貴重なお時間をちょうだいし、ありがとうございます。私からは、日本弁護士連合会の臓器移植法改正についての意見を御説明したいと思います。
法律が制定されてから十年が経過しました。ちょうどそのころ、私も日弁連の人権擁護委員に就任し、この問題にかかわり始めました。当時、脳死を死とすべきなのかについて激しい議論が闘わされ、各政党もいわゆる党議拘束を外して、先生方各自の人生観、死生観をもとに検討をなされ、その結果、今回の法律が制定されたものと理解しております。
法律が制定された当時、脳死は、全脳の機能が失われ、もうもとには戻らない、不可逆的に心臓死に至る、そして心臓死に至るまでの時間は数日単位であるというふうに理解されておりました。
そのような脳死についての理解を前提に、脳死は人の死であるのか、そうではないのかが議論されました。その上で、最終的には、脳死を死と考える人もいるだろうが、死と考えない人、わからない人も同じ程度存する、したがって、社会全体が脳死を死ととらえているとは判断できないとの結論に達したと理解しております。
しかし、他方、脳死患者さんから心臓等を摘出した上、それらの臓器の移植を受けることで助かる可能性のある患者さんがいることも紛れもない事実であります。それゆえ、脳死を死と考え、あるいは、そうは考えなくても、自分が脳死になったら臓器を提供したいと考える人の気持ち、自己決定を尊重すべきであるとも考えられたわけです。現行法は、この自己決定が法律の根幹となっております。
その後十年が経過し、今、改正案が国会に提出されております。しかし、日弁連は、移植例がふえないからふやそうというその理由だけで法律を改正してはならないと考えております。脳死を死とする社会的合意ができたのか、臓器移植がこれまでのケースにおいて適正に進められたのかを十分に情報を公開した上、検証していく必要があると考えております。
この法律は、人の死にかかわる重要な法律であります。臓器の提供を待っている患者さんのことももちろん大事なことですが、脳死段階の患者さんのことも、それにまさるとも劣らないほど大事なことです。しかも、脳死というものについての知識、知見もこの十年間に集積されました。先ほど申し上げた状態とは違うということもわかってきたと思います。
現在、脳死と判定されてから三十日以上心停止にならない例は少なくなく、二十年以上生存した、そういう例も報告されるようになっています。脳死になってから出産した例、第二次性徴を迎えた例なども報告されています。アメリカのカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校小児神経内科のアラン・シューモン教授は何度か日本にお越しになられ、医学関係者の前で同趣旨の講演をされておりますが、その報告、講演は高く評価されていると理解しております。
日弁連は、このような脳死についての新しい知見が社会において十分には理解されていないのではないかと考えております。今でも脳死については、やがて心臓死になる、その多くは数日内に心臓がとまるという説明だけがなされているように思われます。平成十八年十一月に内閣府が行った臓器移植に関する世論調査においても、調査の前提として脳死を説明していますが、そこでは、脳死は、人工呼吸などの助けによって、しばらくは心臓を動かし続けることもできるが、やがては心臓も停止する状態と説明されています。
このように、知識、情報が正確に周知されているとは言えない状況でさえ、脳死を死と考える人の割合がほとんど変化しておりません。また、今述べた内閣府の調査に対してさえ、過半数の方が、本人の書面による意思表示がある場合に限り、脳死での臓器提供を認めるべきであると答えている事実は重要と考えます。
また、今回改正案が提出されるに至った理由として、脳死になったお子さんから臓器を摘出し、他のお子さんへの臓器移植を認めるべきではないかという点が挙げられております。苦しんでいるお子様を見ると、もちろん胸が痛みます。ただ一方で、なかなか報道されないけれども、長期間脳死の状態で生き続けているお子さんがいることも極めて重要な事実です。
臓器移植は、臓器の提供を受ける患者さんの利益を考える医療です。それゆえ、臓器の提供を受ける患者さんのことのみを考え、臓器の提供を受ける方だけでなく、臓器を摘出される患者さんのことがその陰に隠れてしまいがちです。しかし、特に小児救急医療体制が不十分なため脳死に至っているケースがあるのではないかという視点から、脳死となる、またその危険性のあるお子さんの権利保障をまずきちんと考える必要があると思います。
臨床的に脳死と診断されたお子さんがその後自発呼吸を始めたという例や、一カ月以上心停止に至らない長期脳死の子供が全国に六十人以上いることが報道されるなど、お子さんの脳死診断の難しさや、子供の脳死がすぐさま心臓死には至らないことも指摘されています。
先ほど清野先生からもお話がありましたが、お子さんの脳死診断ができると答えられた医師の方が回答の三分の一にも満たなかったという報告もあります。医療従事者に対するアンケート結果からは、十五歳未満の子供が脳死での臓器提供ができない現状を仕方ないと判断する方が四〇%を超え、提供できるようにすべきだという回答を上回ったという報道もなされております。
親にとって、子供はただ生きているだけでよい存在です。私は、資料としてお手元に幾つかの記事をお配りしておりますが、その最後の方にある毎日新聞の記事や読売新聞の記事を読んで、その思いを強くしました。それなのに、あたかも脳死がすぐさま心臓死につながるかのような説明を前提とし、しかも脳死の判断が難しいお子さんのケースにおいて、臓器移植など考えたことのない親御さんに対し、今、法律を改正して、突然脳死になった段階で臓器を提供されますかと聞くようにすべきなのだろうかと思ってしまいます。
国内で移植を受けられない、そのため海外に行くお子さんのことをどう考えるのか、こういった問題を解消するため法律を改正しなければならないのではないかという意見もお聞きすることがあります。しかし、仮に法律を改正したとしても、恐らく、ドナーとなる方は圧倒的に少なく、やはり移植を待つ方々は海外に行くことになるのではないでしょうか。世界的なドナー不足の中、必然的にお金のある国の患者さんが他国に行くという構図は、法律の改正だけでは変わらないと思います。
先ほど来述べている、脳死というものがいかなる状態なのか、特にお子さんの脳死判定ができるのか、小児救急医療体制は適正に構築されているのかなどを先行して検証する必要があると思います。
今回、二つの改正案を資料としてちょうだいしました。
まず、脳死を一律に人間の死とし、本人が拒否の意思表示をしていない限り、家族の承諾のみで摘出を可能とする改正A案がございます。
この案については、人間の死という概念が単に医学的に決められるものでなく、社会的な合意を得る必要があるという点から、現時点では受け入れられないと思います。
いまだ脳死を人の死とすることについて社会的合意がないという認識があったからこそ、現行法が成立したわけです。ですから、その点が変わったのかどうかをきちんと確認する必要があると思います。もちろん、その前提として、先ほど来述べている、脳死についての新しい知見もきちんと説明する必要があると思います。
脳死は人間の死ではないと思う人は拒絶の意思表示をすればよいではないかとの意見もあります。しかし、それでは、意思決定や意思表示ができない乳幼児や小児、さまざまな疾患のために意思表示ができない人、どうすべきか悩んでいる人、それらの人もすべて臓器摘出を容認したものとみなされることになってしまいます。
また、技術的な問題ですが、本人が拒否の意思表示をしていないという事実を速やかに確認することは極めて難しいと思います。拒否の意思表示をしていないと判断して臓器を摘出した後に、拒否の意思表示カードが見つかるという事態が生じることは否定できません。
次に、意思表示できる年齢を十五歳から十二歳に引き下げる改正B案がございます。
この案については、脳死の定義が先ほど来申し上げているとおり非常に理解が難しく、脳死が人間の死かなどの問題については、現時点で十二歳の子供が正しく理解できる状態にはなっていないのではないかと考えております。
民法は遺言可能年齢を十五歳以上と定め、刑法は十三歳未満の者が性的交渉に同意したとしても強制わいせつ罪などの罪を認めています。みずからの生命自体、その存在を決定する最も重大な決断のできる年齢を安易に引き下げることは許されないと思います。
また、子供が判断できないときには、親が子供の意思を代行して同意することが許されるのではないかという意見もあるようです。しかし、子供本人の生命や身体には何ら利益がない、そのことについておよそ代行することはできないと思います。
なお、両案とも親族への優先提供を認めていますが、臓器移植法は、移植術を受ける機会は公平に与えられるように配慮されなければならないと定めております。移植医療における公平性は重大な柱です。仮に、親族への優先提供が認められると、偽装結婚などにより形式的に親族にさせるなど、事実上臓器売買が行われる危険性も否定できません。それゆえ、日弁連はこの点も反対しております。
いただいた十分間でできる限りわかりやすくと考え、申し述べたところですが、なかなかうまく説明できませんでした。日弁連は詳しい意見書も出しております。ぜひお読みくださいますよう、お願いいたします。また、さらにわかりやすくという趣旨でQアンドAも作成いたしました。どうぞ、これもお読みくださいますよう、お願いいたします。
御清聴ありがとうございました。(拍手)