中村桂子の発言 (国民生活・経済に関する調査会)

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○参考人(中村桂子君) 中村でございます。よろしくお願いいたします。
 まず、このような発言の機会を与えていただきましたことにお礼申し上げます。ありがとうございます。
 ただ、私は半世紀、生き物、生きているってどういうことなんだろうということを科学の立場で考え、また一面、子供を育てるという生活者として考えるという、その中から、とにかく命というものを基本にした社会にしたいという気持ちだけで仕事をしてまいりました。その立場から今日お話しさせていただこうと思います。
 そこで、最初に、これは私の自己紹介なのですが、自己紹介とともに私の基本姿勢ですので、見ていただきます。(資料映写)
 これは扇になっておりますが、扇の一番縁が現在でございます。ここにたくさんの生き物がいる、地球というのは生き物がたくさんいる場所だと、今五千万種ほどいると言われております。その非常に多様な中、一番端には人間が書いてございます。人間もその一つであるということはもう生き物の研究から分かっております。しかも、これほど多様なんですが、全部が、生物学ではございませんけれども、DNAというのを入れた細胞からできている。これは例外なしですので、祖先は一つだろう、しかもそれは三十八億年ほど前に海の中で生まれただろう、それが扇のかなめにしてございます。私どもは、この三十八億年を掛けて様々な生き物になり、それから、みんな結局同じ祖先から出てきた仲間である。ですから、この長い時間とこの関係の中に人間を置いて考えるというのが私の基本姿勢です。
 今、環境問題などが大いに問題になっておりますけれども、その場合に、これまでは人間をこの外に置きまして、そして自然というものは別のもの、自分だけは外にいるように考えていろいろなことをやってきたと思うんですが、私はこの中にいるということを基本にして考えていきたいと思っています。
 そうなりますと、今申しましたように、命を基本に社会をつくっていきたいんですが、そのときに、生き物はすべて共通で多様である、人間もその一つである、そして、人間の幸せを求める活動というのはこの人間も生き物の一つだということを踏まえてやらなければいけないというふうに思っています。
 ところで、今年の年賀状を友人からたくさんいただきましたが、そこに添え書きがしてございます。その中でほとんどの方がお書きになったことがここに挙げました二つのことでした。一つは地球環境問題。それからもう一つは、何だか人の心が荒れているのではないか。これが心配だ、次の世代にもっと良い社会をつないでいくためにはこの二つを何とかしたいねというのが友人たちからのメッセージでした。私もそう思います。これは政治の中でもお考えくださっていることだと思いますが、私は命を基本に考えておりますと、この二つを別々に考えていらっしゃるように思うのですが、生き物を基本に置くという立場で考えますとこれは一つのことなのです。
 今申しましたように、自然の中にヒトという生き物として私たちは命を持つものとしている。ただし、五千万種いると申しましたが、その中で唯一私たちだけが文化とか文明をつくれるわけですね。大きな脳と器用な手と言葉と、そういうものを持っているために、ほかの生き物にはできない文化と文明をつくることができる。それを思いっ切りやっていかなければいけないわけです。けれども、実は、二十世紀に私どもがつくってきた社会というのは、さっき私が申しました生き物が自然の中の一つであるということを少し忘れて、外にいるようにしてやってきたために、その自然を破壊するようなことを起こしてしまった。それが地球環境問題だと思います。
 それから、同じことだと私が申しましたのは、実は、私たちも生きているものですから、内なる自然を持っている。その自然が壊れる、全く同じ原因で壊れる。いろいろなアレルギーですとか様々な病気が今出ておりますが、体も壊れる面が出てきていますし、心も壊れる。心とは何か、何が壊れると心が壊れるのかといいますと、これは難しい問題ですが、生物学からは、先ほど申しました非常に長い時間を掛けなければ生きているということは考えられない。それから、関係が大事なんですが、この時間と関係というものが非常におろそかにされてきているということが心を壊しているのではないかと私は思っております。
 その原因は何かと考えましたときに、ここに思い切って金融市場原理と科学技術というのを挙げさせていただきました。これがいけないと私は申し上げるつもりはありません。科学技術も資本主義も私たちにとって大事なもの、先ほど申しました私たちの文化や文明が生み出したものです。ただし、これが利便性というものと、それからお金というものを絶対のようにして、それが優先され、それが目的になると、私たちは例えば幸せというものを目的にしたときには競争というものはあってよいものなんですけれども、何を目的にして私たちは本当により良い社会を目指しているんだろうかというような中で、こういう科学技術や金融市場原理の中で過剰な競争を強いられると非常に心がつらくなるのだと私は思っています。
 日本文化は自然を基本にしてきました。日本人は宗教心がないと言われますけれども、自然を恐れて自然とともに暮らすというのが私たちの文化だと思います。
 今年は実は源氏物語千年紀なんですね。千年前に欧米にこれほどの洗練された文化があっただろうか。しかも、源氏物語お読みになっていると思うんですけれども、ここには金銀財宝の話はほとんど出てこないんですね。美しい庭とか自然とか、知的で優しい人のかかわりとか、そういうものが出てくるんです。それが幸せであり豊かさである。私は、現代もそういう自然を生かして暮らすという選択があってよい、それが日本人の幸せにつながるのではないかなと思っております。
 じゃ、それは日本だけのことかと申しますと、私は今先進国と言われているところの特徴を、二つあると思っておりまして、一つは、一極集中でない、地域が非常に豊かである。これは私だけでなく、最近はいろいろな経済評論家の方たちも、今成長している国は地域が活性化しているということをおっしゃっております。それからもう一つは、食料自給率が高いということだと思います。先進国というところは自分の食べるものは自分で作っているのではないか、今四〇%を切った自給率の国というのは先進国でないと言ってもいいのではないか、少し大ざっぱな言い方をさせていただいていますが、そう思っています。そうなりますと、これは地方が豊かで活性化している、それは日本の国でいえば自然を生かしていくということだと思っています。
 今申し上げました命と、それからそれを支える技術、それから経済ということがございますが、これが一体化して私たちの生活を支えているのだと思いますが、もちろん政治とか様々なことがございますけれども、今限られた中で、私が命ということからいうお話でこれだけのことを取り上げさせていただきました。
 今私は、先ほど心や環境を壊していると申しました過剰な競争の経済は、経済がありき、それを支える技術を開発しよう。日本は科学技術創造立国を目指しておりますが、そのほとんどが経済を支えるための技術を開発しよう。それが私どもの生活を支えるわけですけれども、命が先にないので、非常に命につらい場面が出てきているんだと思っています。
 今私は、農業の方とかNPOとか、そういう命のことを考えている方とのお付き合いが多いのですが、下に細い点線でかかせていただきました。実は、命を基本に考えた上で、それを支える技術を開発し、そこから経済を活性化していこうという活動がないわけではございません。今、細い点線で出ていると私は思っています。できたらこれを太い矢印にしていきたいというのが私の願いです。これをやっていくと、実際に私はそういう活動をしている方とお付き合いをしていて、その方たちが持っているのが生きる力だという感じがいたします。
 じゃ、生きる力って何か。それが私は幸福だ、生きる力を持って生きているのが幸せだと私は思っているんですが、それを測る私の物差し、個人的な物差しですが、私はその物差しを持っております。
 その物差しの一つは笑顔です。こういう地域へ行って、非常に活動はつらい、例えば農業などをきちっとやっていこうと思うと大変つらいんですが、非常にすばらしい笑顔をしているということ、その方は多分生きる力を持ち幸せなのではないかというふうに思っています。それからもう一つが、これは後で時間があったらお話ししますが、私は子供たちがそういう農業、そういうような活動をするのを応援しているんですが、その子供たちの発言を聞くと、非常に表現力が豊か、言葉が豊かなのです。都会の混雑した電車の中などで聞く言葉に比べて表現力が豊かで言葉が豊かだ。それから、三番目が人間関係が豊かだ。この三つがあるときに、何か私はその人は幸せだなと感じ、生きる力があるなと思うという、これは私個人の物差しですが、そういうふうに思っております。
 命を基準に技術を開発し、経済を活性化していくというときには、具体的には何をやっていけばいいかと考えたときに、ここに挙げた四つです。食べ物をきちっと作っていく。先ほど自給率のことを申し上げました。農林水産業をきちっとしていく。それから、健康であること。これは医療がきちっとしていること。それから、心と知が豊かであること。これは教育です。それから、環境、特に生き物にとっては水が大事です。これを今日、短い時間ですので一つ一つ申し上げる時間はございませんが、政治の中でもこういう問題は考えていただいていると思います。
 こういうふうに申しますと、これは今の経済の中でいうと非常に能率の悪い分野です。人間がかかわる分野は能率が悪い分野。だから、これが経済の活性化につながるかというふうにお思いになられると思うんですが、ちょっと一つアメリカの例を申し上げます。
 アメリカの、私はバイオテクノロジーというところにかかわり合っているんですが、バイオテクノロジーというのは今農業や医療に非常に大きな未来を開発すると期待されています。そのバイオテクノロジーの中で、医療のアメリカの中心になっているのがNIH、ナショナル・インスティチュート・オブ・ヘルスというところ、そこがリードしていく、いろいろな考え方もリードしていくんですが、今NIHが非常に力を入れておりますのが統合医療という医療です。これは、西洋の今まで遺伝子とかそういうことだけをやってきた医療ではもう医療はうまく進まない、東洋医療、漢方なども含めた全人的な医療、ここでは医食同源ということが非常に大事な言葉になっています。アメリカですから、漢方について今全部調べて、全部分析してデータベースを作り、そこから新しい医療を考えていくというようなことをやりながら統合医療ということをやっております。これが多分これからの医療を引っ張っていく、医薬産業でもこれが引っ張っていくと思いますので、こういう考え方は決して経済につながらないものではありません。
 これで最後ですけれども、二十世紀というのは科学技術、経済でやってまいりまして、先ほど科学技術と資本主義、それは悪くはないけれども、それが先立ち、命を先に考えないとと申しましたが、実は機械というのは利便性を価値に置いております。利便性は良いことなんですが、実は生き物の方は継続性、続いていくということを大事な価値にしております。ですから、プロセスが大事なんですね。先ほど、笑顔とか言葉の豊かさとか人間関係とか時間とか申しましたが、それが生き物の大事なことなんです。利便性は実は効率を唯一にしますので、そこを無視しがち。それから、もう一つ大事なのは多様なのですが、多様も無視しがち。私は、こちらを基にして、それを踏まえた科学技術開発をしていただくと機械もそういうものになると信じておりまして、そういうことをしていただきたいと思っています。
 あと五分ほど時間がございますので、少し具体をお話しさせていただきます。
 こういうようなことで、今私の日常は、命って何だろうということをただ考えるという基礎研究をしておりますので、具体的な社会的な活動とか、それから経済活動とかをする人間ではございません。けれども、自分が生き物の研究をしている中でいろいろな形で働きかけがあるのを応援しております。
 例えば、資料にも出させていただきましたが、小学校で農業をやったらどうだろうというようなことを考えまして、一時、これは日経新聞に書かせていただいたんですが、グローバル化という中で、英語をみんなで勉強しよう、小学校から勉強しよう、それは本当に大事なことなんですが、本当のグローバル化を考えて日本から発信するとしたら、先ほどから申し上げている自然を生かすということが日本人のアイデンティティーだと思うので、農業というのをやったらどうだろうというのを書かせていただきました。これは、そんなことを言ってもと言われるだろうと思いながら書いたのですが、大変反響をいただきました。
 その中の一つで、資料にも出させていただきましたが、例えば喜多方の白井市長は、それでは特区でうちの市では小学校で農業をやってみようというふうにしてやってくださいました。それで、去年の四月から始めまして、私は、十一月、収穫のころに、子供たちがいろいろ発表したりするからそれを聞きにくるようにと言われて、伺って子供たちの話を聞きました。そのときに、その笑顔と表現力の豊かさと関係とを感じたのです。
 そこで一番感じましたのが、喜多方でそういうことをやろうと思うと、先生方も決して農業の専門家ではない。そうすると、地域にいるお年寄りが腕を振るって子供たちを指導するわけです。そうすると、子供もそれにこたえて一生懸命やる。
 それから、もう一つ私はそこで非常に印象的だったのが、一年生から六年生まで一緒にやるわけですね。そうすると、六年生が本当に一年生を大事にかわいがるのです。できないことがあると一生懸命手伝ってやる。そういうことで、六年生がとても六年生らしいのですね。そういうことが起きておりました。
 それから、もう一つ印象的だったのが、お米はとても上手に、そのお年寄りの指導でとても上手にできたのですが、トウモロコシが思ったようにできなかった。それから、メロンがいつも大人が作ってくれて食べているのほど自分たちの作ったのが甘くなかった。こういう失敗があるわけです。なぜ自分たちはこれ失敗しちゃったんだろうって一生懸命考えて、来年はここで頑張るぞって言っている、それがとても印象的でした。
 こういう例は今たくさん、今ここに挙げましたのは小学校、中学校、高校生、大学生が、私がお手伝いしております農村環境整備センターというところがやりましたコンクールに応募してくれた人たちの発表で、これもすばらしい発表だったのでこれはまた機会があったらお話しさせていただきますけれども、こんな形で小ちゃな活動ですが、こういうところから幸せがあり、それで社会が活性化していく。経済というのも、大きなグローバル経済ですけれども、こういう形で活性化していくということでこの国ができ上がっていくことができないだろうか。私は経済も政治も素人ですので、本当に命のことだけを考えている素人の人間の申し上げていることですけれども、そんなことを感じております。
 本当につたない話を聞いていただいて、ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 中村桂子

speaker_id: 22890

日付: 2008-02-13

院: 参議院

会議名: 国民生活・経済に関する調査会