村上政博の発言 (経済産業委員会)
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○村上参考人 一橋大学の村上でございます。
本日は、このような貴重な機会を与えていただき、まことにありがとうございます。独占禁止法を専門に研究している者として、率直に私の意見を申し上げたいと考えております。
まず、基本的な認識でございますが、御承知のとおり、国際的には競争法のハーモナイゼーションが進み、現在では、先進国市場を中心に、競争法のルールが国際的な共通事業活動ルールとなっております。現実には日本企業も、そのような市場において競争ルールに従って事業活動を行っております。
その意味で、独占禁止法も、実体ルール、手続法ともに世界の共通ルールに合わせていくことが、日本経済、さらには世界経済の発展に貢献するものと確信しております。中でも、本日議論の対象になります課徴金制度のあり方、行政手続につきましては、欧州の制度が、同じ大陸法体系である日本にとって参考になると考えております。
このような観点から、私は、今回の改正法案に基本的に賛成であります。
本日意見を述べたい具体的な論点は四点になります。第一に、企業結合規制の届け出制度、第二に、課徴金の対象違反行為の拡大であります。次いで、第三に、裁量型課徴金を導入するべきこと、第四に、審判制度を廃止することであります。
まず、企業結合規制につきましては、今日では世界各国とも、重大な企業結合については届け出を事前に出させて、速やかに審査、判断を行うという法制を採用しております。届け出のための売上高基準及び企業集団概念は、ともに今日では主要先進国が採用しているものであります。
このような届け出制度の整備によって、日本市場に悪影響を及ぼすおそれのある外国企業同士の企業結合についても、外国会社から届け出を受けて規制することを可能にするものであります。いわば、今回の改正はむしろこの点では遅過ぎた法改正と言えるものであって、一刻も早い施行が望まれる事項と考えております。
第二に、国際的に見ますと、競争ルール全般にわたって、行政制裁金によってそのルールの実効性を確保していくことが世界の潮流となっております。日本の課徴金制度は、行政上の制裁である、すなわち行政制裁金であると位置づけられます。そこで、今回のように排除型私的独占、優越的地位の濫用などへ課徴金を課して実効性を確保することは、国際的な法制やその動向と合致していることになります。
今回の改正法案は、カルテル規制を強化するとともに、排除型私的独占を新たに課徴金の対象行為とすることによって、新規参入阻害行為などへの規制を強化し、市場における競争を一層促進させるものであります。他方、優越的地位の濫用や不当廉売などを新たに課徴金の対象行為とすることによって、中小企業の保護も強化するものとなっております。そのようにして、全体として独占禁止法上の各規制のバランスをとったものであると評価されます。
さらに、効率的かつ迅速な法執行を行うために、排除型私的独占に対する算定率を六%、優越的地位の濫用に対する算定率を一%などとしております。この点についても、これから課徴金を賦課するという現時点においては、妥当な相場観に立つものではないかと考えております。
次に、第三の論点について申し上げます。
ただ、現行の課徴金制度には大きな問題点がございます。現行課徴金は、一定の算定率を乗じて算定した課徴金額を義務的に違反事業者に課さなければならないものであります。幾らの課徴金を課すか、課徴金を課すか否かについて、公正取引委員会には一切裁量権はございません。このような課徴金制度は、比較法的には、日本にしか存在しないと言える行政制裁金制度であります。
国際水準の制裁金制度というものは、違反事業者の前年度売上額の一〇%程度を上限とした上で、違反行為の悪質度、重大度に応じて適正な課徴金額を決定するというものであります。制裁金である以上、ある程度まで競争当局が裁量権を持つことは当然であるとし、当該事案の重大性、違法度に即した適正な課徴金額を決定させようというものになります。
今回の改正で、日本で初めて排除型私的独占を課徴金の対象行為といたしました。しかし、排除型私的独占は、独占禁止法違反で問題となる実にさまざまな行為を含むものであります。正当な行為と不当な行為の見きわめも容易にできるものではありません。そこで、現行課徴金のように一律に六%の算定率を乗じることによって本当に適正な課徴金額を算定できるのかについては疑問があります。
そのため、今回の法改正が実現しますと、国際標準の上限方式の裁量型課徴金を導入することが緊急の課題になると考えております。具体的には、今回の改正法案を前提として、関連商品売上高二〇%程度を上限とする裁量型課徴金を創設することを真剣に検討するべきであると考えております。
やはり制裁金であるという本質にかんがみますと、違反行為との関係で均衡を欠くとか過大な制裁金額であるというような印象を与えるような、そういう高額な課徴金を課すことは避けるような法制とするべきであります。
また、公正取引委員会は、ことし二月に、日本音楽著作権協会、以下、JASRACと申しますけれども、その音楽著作権の使用料の包括徴収の方法が独占禁止法の排除型私的独占に該当するとして排除措置命令を下しております。このような法的評価が極めて微妙な事例については課徴金を課さないという選択肢も認めるべきであります。
現実にも、EU競争法の課徴金でも、それまでルールが明らかになっていない行為に対して初めて措置をとる場合には、課徴金までは課さないという形の実務が行われております。
したがいまして、制裁のレベルは、当面、現行改正法程度にとどめた上で、第一に、公正取引委員会が積極的に事件に取り組んでいくためにも、第二に、事業者に過大な負担を負わせないためにも、本改正後に上限方式の裁量型課徴金を導入することが望ましいと考えている次第であります。
最後の論点について申し上げます。
私は、審判制度は廃止して、直接裁判所に提訴するようにすべきであると考えております。
行政審判というものは、第一審の裁判所と同様な慎重な手続を採用せざるを得ないため、審決まで通常二年、三年、その程度の期間はかかるという欠点がございます。さらに、公正取引委員会が検事役と裁判官役、その両方を兼ねるものであるために、本質的に公正さを欠く側面があります。
その上、国際的な状況を見ますと、今日では、競争法を有する国というのは百カ国を超えます。ただ、事前行政審判制度がとられているのは、アメリカにおける連邦取引委員会のもとでの行政審判しかございません。その上、アメリカを見ても、違反事件処理手続の主たるものは、司法省が民事裁判や刑事裁判を求めて裁判所に提訴する手続であります。そのため、行政審判というのは二、三件しか係属しておらず、余り使われない手続となっております。そういう意味で、たとえ審判官の独立性が保障されている米国であっても、事前行政審判の評価は低いと言わざるを得ないものになっております。
他方、日本を含む大陸法系の諸国では、行政庁が告知、聴聞を経て行政処分を下し、不服のある者は裁判所に取り消し訴訟を提起するという手続が基本的な行政手続であります。この取り消し訴訟方式が欧州連合それからEU加盟各国、アジア諸国、中南米諸国で採用されており、この手続が競争法違反についての国際標準的な行政手続となります。
この取り消し訴訟方式のもとで行政聴聞制度を整備し、東京地裁に専属管轄を付与すると、独占禁止法違反を処理するための理想的な行政手続になると考えております。現実には、事前聴聞手続を整備していくと、行政審判とそれほど変わらない事前手続を実現できます。
これが、欧州における事前行政聴聞手続となります。この手続では、競争当局が事前通知をする時点で、違反事実などを裏づける証拠をすべて相手方に開示します。その上で、相手方に書面で、さらには必要に応じて口頭で、反論の機会を与えることにします。
さらには、EU競争法と同様に、聴聞官制度を創設することも考えられます。この場合、聴聞官は口頭の聴聞手続を主宰するとともに、聴聞の結果を公正取引委員会に報告することになります。公正取引委員会は、その報告を受けて最終的に命令を決定することになりますが、そこでの違反事実などの内容については、正式審決と同様に、詳しく記載することもできるわけです。繰り返しますが、このような行政聴聞手続を充実させていきますと、取り消し訴訟方式のもとでも審判と変わらないような事前手続を実施できるということになります。
前回の独占禁止法改正では、違反行為を早期に排除し競争状態を早期に回復させるために、事前審判制を廃止しました。その理由としては、入札談合においては、違反事業者が指名停止時期を先送りするために審判手続を濫用するので、それを防ぐことが強調されました。しかしながら、違反行為を早期に排除して競争状態を早期に回復させる必要があることは、入札談合に限らず、私的独占の禁止、不公正な取引方法の禁止など、ほかの規制についても同じであります。
先ほど言いましたJASRACの行為のような法律的な評価が難しい行為につきましては、事前行政審判のもとでは審判手続に何年もかけないと執行段階には入れず、競争状態の回復はかなりおくれることになります。法律上は、それに対処するため、東京高裁による緊急停止命令が設けられていますが、たとえどれほど優秀な裁判所であっても、法的判断が微妙で社会的な影響が大きい事件では、緊急停止命令をそう簡単に出すわけにもいかず、結果的に命令がなされないことも多くなると考えられます。
それから、当然、このような違反行為を早期に排除する必要があるということは、不当廉売に該当する行為について法的措置をとろうとする場合についても同じであります。この点からも、取り消し訴訟方式がすぐれていると評価されるものであります。
私は、このほかに、現在、事後審判と取り消し訴訟のいずれかを命令の名あて人が選択できるという選択制が選択肢として残っていると聞いております。これは、基本的には私の言う取り消し訴訟方式と本質的な差はない案であると理解しております。しかし、同一違反行為については同一確定を目標とするというのが大陸法系における基本的な制度設計となります。すなわち、同一カルテル事件の名あて人十名のうち、五名は公正取引委員会に事後審判を請求し、五名は取り消し訴訟を裁判所に提起するというような事態が発生し、同一行為について異なる法的結論が出ることを助長するような手続をとることは避けるべきであると考えております。その点から、やはり裁判所に直接提起する方式に一本化すべきであるというふうに考えております。
結論となりますが、内閣府基本問題懇談会では、私もその一員ではありましたが、事前審判、事後審判を問わず、とにかく行政審判を残すべきであるという立場をとる者が多数派でありました。しかし、今日では、本日お話ししましたような議論の結果、むしろ社会的には取り消し訴訟方式をとる者が多数派であると考えられます。行政審判を廃止すべきことは諸外国の法制やその運用からも裏づけられるのであって、恒久的な行政手続として、速やかに、直接裁判所に提訴する取り消し訴訟型に移行すべきであると考えている次第であります。
以上、私の考えを述べさせていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)