森岡正博の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(森岡正博君) 森岡と申します。よろしくお願いします。
 私は、二十年間、生命倫理の研究をしてまいりました。今日は一研究者として意見を述べたいと思います。恐らくマイノリティーの考え方になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
 私は、衆議院提出B案の原案となったいわゆる森岡・杉本案の提唱者の一人でございます。内容としましては、大人については現行法のまま、子供については子供にも意見表明の機会を与えるという案であります。参議院におきましては、個人的には、E案というのでしょうか、に親近感を抱いております。
 今日は、主にA案に対して疑問点を述べさせていただきます。
 まず、最初の第一点でありますが、これは親族優先提供であります。
 A案の親族優先提供の条項は削除すべきであると思います。例えば、英国では提供先の指定というのはガイドラインで禁止されております。昨日もそうでしたが、ぬで島さん、あるいは私のかねてからの論敵であります町野先生も削除ということをおっしゃっておりました。私も削除です。ですので、この点に関してはもう議論の余地なく削除ではないかと私は思っております。
 二番目は、本人の意思表示についてであります。
 A案は本人の書面による意思表示がなくても脳死判定、移植ができるとしていますが、これは国民のコンセンサスにはなっていないと私は思っています。二〇〇四年の内閣府調査、そして二〇〇八年内閣府調査共に本人の意思表示に賛成する案が五〇%を超えております。本人の意思表示が必要ということについては過半数の国民が現行法を支持していると私は考えております。新聞調査によっては、社によって意見が違います。読売新聞は一九・二%ですが、毎日新聞は五二%。ですので、やはりこれに関しては、政府の調査を見る限り、本人の意思表示の前提を外すことに関しては国民のコンセンサスはないと言わざるを得ないと私は思っております。この点に関しては後ほどもう一度戻ってきたいと思います。
 三番目でございます。長期脳死についてでございます。
 子供は長期脳死になりやすいとされています。長期脳死とは脳死状態で三十日以上心臓が動き続けるケースでございます。その間に脳死の子供は成長し、身長が伸び、歯が生え替わり、顔つきが変わると言われています。A案はこのような子供を死体と断じるものであります。
 日本移植学会理事長の寺岡氏は七月二日の厚生労働委員会において次のような発言をされておりました。ネット中継から文字を起こしてみたのですが、以下にちょっと引用します。寺岡さんはこうおっしゃいます。最近繰り返し報道されているいわゆる長期脳死につきましては、法的脳死判定の基準あるいは小児脳死判定基準を完全に満たしている事例は存在せず、脳死とは言えません。すなわち、無呼吸テストが実施されておらず、またその他の判定基準も一部しか満たしていないのが事実です。引用終わりです。
 これをお聞きになった皆さんは、長期脳死は無呼吸テストを行っていないし、法的脳死判定をしていないので厳密には脳死ではないと思われたのではないでしょうか。ところが、昨日の谷澤先生、島崎先生の御発言では無呼吸テストをした長期脳死があると言われておりました。事実はどうなのでしょうか。昨日も丸川議員からその点について最後に御質問があったと存じます。それについて私が代わってお答えしたいと思います。
 二〇〇〇年に日本医師会雑誌に発表された旧厚生省研究班の論文、「小児における脳死判定基準」という論文があります。これでありますけれども、これは日本の小児脳死判定基準を定めた決定版の論文でございます。寺岡さんが発言で引用されていたものであります。論文には次のように明記されています。まず、脳死とされる六歳未満の子供について厳密に無呼吸テストを二回以上実施して無呼吸が確認されたケースが二十例あったと述べられています。これは小児脳死判定基準を厳密に満たしております。そして、その二十例のうちの七例が長期脳死になっています。すなわち、無呼吸テストを行った六歳未満の脳死の子供のうち、何と三五%が長期脳死になっています。さらに、驚くべきことに、そのうちの四例、すなわち二〇%が百日以上心臓が動き続けております。これが論文で発表されている事実です。
 無呼吸テストを厳密に実施した脳死判定で、脳死の子供の三割以上が長期脳死になっており、二割は百日以上心臓が動いている、我々はまずこの厳粛たる事実を胸に刻まなくてはなりません。どうしてこのような重大な事実が国民に広く知らされてこなかったのでしょうか。この論文は、日本で最も権威のある脳外科の医師である竹内一夫先生のグループによって執筆されたものでございます。
 この論文の注に引用されている論文の一つが皆様の今お手元に資料として配られております。これを御覧になりながらお聞きいただきたいと思うのですが、この論文は日本救急医学会雑誌二〇〇〇年のもので、「三百日以上脳死状態が持続した幼児の一例」というものであります。これは兵庫医科大学のケースであります。
 このケースでは、生後十一か月の男児が脳死になった後、厚生省研究班の小児脳死判定基準を二回の無呼吸テストを含め厳密に満たしております。その状態で三百二十六日間、約一年弱心臓が動き続けております。論文には、二回の無呼吸テストを含む神経学的評価を行い、基準案を満たしていることを確認したと明記されておりますし、また、医学的には本例は早期から脳死状態にあったことは間違いないと明記されています。小児脳死判定基準を厳密に満たし、二回の無呼吸テストを行い脳死と判定された上で三百二十六日間心臓が動き続けた長期脳死の例がはっきりとあるのです。
 また、それだけではありません。この間、身長が七十四センチから八十二センチまで伸びています。成長しているのです。また、九十日ごろから手足を動かし始め、著しいときにはあたかも踊るように見えた、いわゆるラザロ兆候というものですが、と書かれております。手足の動きは心停止まで続いております。再度確認しますが、この兵庫医科大学のケースでは、無呼吸テストは二十四時間空けて二回行われています。
 ここにもマスメディアの皆さんがおられると思いますが、脳死についての正しい情報を是非とも国民に知らせてください。心臓が百日以上動き続け、成長し、身長も伸びる脳死の子供が死体であるとする国民のコンセンサスはありません。また、長期脳死になるかならないかを見分ける医学的な基準も発見されていません。たとえ親の同意があったとしても、長期脳死の可能性のある脳死の子供を死体と断じ、その身体から心臓や臓器を取り出すことは危険過ぎます。これらの点について子ども脳死臨調で専門的な調査を行って、その結論が出るまでは脳死状態の子供からの臓器摘出を許可してはならないと私は考えます。この点において改正は拙速に過ぎます。
 再度繰り返しますが、お手元の資料にあるように、無呼吸テストを二回行って長期脳死になった例がはっきりとあると、複数あるということでございます。
 さて、再び、残りの時間をまた本人の意思表示の問題に戻りたいと思います。
 私は、本人の意思表示の原則は外してはならないと思います。その理由をこれから述べます。
 現在、ドナーカードの所持率は八・四%でございます、実際にイエスと記載している人はもっと減るのでありますけれども。私個人は、B案の原案の提唱者でありますが、ドナーカードを持っております。ここにありますとおり、私はドナーカードに記載しております。ですので、私が脳死になって、家族が反対しなければ、私の臓器は使ってください、私はそのことに何の後悔もありません。ただ、ドナーカードを持っていない大多数の人々にはやはりその理由があると思うんですね。ドナーカードを持っていない人というのは、持たないことによって何かの意思表示をしていると思うのです。そのうちの多くの人々は迷っているのです。この迷っていることを尊重すべきだと私は思います。
 我々には脳死が人の死かどうか、臓器を摘出すべきかどうかについて迷う自由があります。この迷う自由を人々から奪ってはなりません。迷う自由を保障するもの、それこそが本人の意思表示の原則であります。すなわち、迷っている間はいつまでも待っていてあげる、もし決心が付いたら申し出てください、これが本人の意思表示の原則なのです。これが現行法の基本的な精神となっております。
 A案、すなわち拒否する人が拒否の意思表示をすればよいというA案では、この迷う自由、悩む自由というものが守られません。なぜなら、あれこれ迷っていたら、迷っているうちに脳死になってしまい、家族がもし承諾してしまえば臓器は取られてしまうからです。迷っていたら臓器は取られてしまいます。これが私がA案に反対する大きな理由の一つです。
 最後に、脳死の議論で忘れ去られがちになるのは、忘れ去られるのは、脳死になった小さな子供たちです。脳死になった小さな子供たち、彼らは、生まれてきて、事故や病気で脳死になり、そしてひょっとしたら何も分からぬまま臓器まで取られてしまうのです。余りにもふびんではないでしょうか。
 ここから私の個人的な見解といいましょうか、思想、哲学になるのですが、子供たちには自分の身体の全体性を保ったまま、外部からの臓器摘出などの侵襲を受けないまま、丸ごと成長し、そして丸ごと死んでいく自然の権利というものがあるのではないでしょうか。そして、その自然の権利がキャンセルされるのは、その本人がその権利を放棄することを意思表示したときだけではないでしょうか。私はこのように思います。そして、現行法の本人の意思表示の原則というものは、このような考え方が具現化されたものなのではないかというのが私の解釈、考え方であります。
 外国では脳死の子供からの移植が可能だというふうに、すぐに外国のことを我々は気にします。しかし、日本は実は世界で最も脳死について国民的な議論をした国です。その結果成立したのが本人の意思表示の原則という日本ルールなのです。我々はこの日本ルールにもっと誇りを持とうではありませんか。もちろん、移植法全体としては、昨日ぬで島さんが指摘したような改善点は当然あります。しかしながら、本人の意思表示の原則というものは世界に誇れるものであるというのが私の考え方であります。
 私からは以上です。御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 森岡正博

speaker_id: 22783

日付: 2009-07-07

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会