四宮啓の発言 (法務委員会)

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○参考人(四宮啓君) 初めに、法務委員会で意見を述べる機会を与えていただきましたことを澤委員長始め皆様に感謝申し上げたいと思います。
 私は、弁護士として、またこの裁判員制度の設計等にもかかわらせていただいたということから、今日、施行を前にして皆様に御意見を申し上げたいと思います。
 今、大澤参考人からもお話がありましたが、施行が迫りますと、なぜ国民が参加をしなければならないのかという質問が、また声が大きくなってきたように思います。そこで、お手元に、私の場合レジュメと三枚のスライドを用意させていただきましたので、これに従って意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず初めに、なぜ裁判員制度が導入されたのかということでございます。今、大澤参考人からもありましたので、私の方では私なりの見方を申し上げたいと思いますが、まず一枚目のスライドでございます。
 今度の司法制度改革、これはもう先生方十分に御理解賜っていることと思いますけれども、私なりに一言で申し上げれば、この社会をより自由でフェアでそして責任あるものにするために何をすべきかということで始まったものと理解をしております。そのために必要なのは、やはりルールであろうと。そのルールは、しかも知っているルール、つまり客観的で皆が作ったルール、つまりこの国会で作っていただく法律であります。そして、トラブルの解決も国民に見えるところで、見える形で解決する透明なプロセス、これは司法ということになろうかと思います。
 そこで、法の支配というものを社会にあまねく行き渡らせるために今までの日本の司法制度を抜本的に見直したのが今度の司法制度改革であったと思います。
 この法の支配というのは、よく言われておりますし、司法制度改革審議会の意見書にも書かれておりますけれども、個人が尊重される、そしてその尊重される個人が社会の在り方を決めていくという国民主権、こういうものを内容とするのだと言われておりました。
 そこで、二枚目のスライドですが、その法の支配を実現するためにどのような仕組みをつくったらいいかということで今度の改革が行われておると理解をしております。
 この法の支配の考え方から申しますと、一つ目のその内容である個人の尊重。これは言うなれば、トラブルに巻き込まれたときに国民は法を使ってその一人一人の権利を尊重していく。法を使う国民という言い方をさせていただいておりますが、そのために法テラスや知財高裁、裁判迅速化法などなど、日本の司法制度の仕組みをこの国会で変えていただきました。
 もう一つの内容である国民主権ですけれども、これは言わば、直接トラブルに巻き込まれたわけではないけれども、私たちの社会で起こったこと、私たちの社会の正義が損なわれたときに、その回復に社会のメンバーとして一肌脱いでほしいという呼びかけであったと思います。これを私、法を担う国民というふうに言わせていただいておりますが、これが今日のテーマである裁判員制度であろうと思います。
 しかし、法を使うにしろ担うにしろ、いずれも私たちは素人だと国民の皆さんはおっしゃるかもしれない。そのとおりだと思います。そこで、その国民をサポートする法律家も、質、量共に備えたものを国民の皆さんのそばに用意する、サポーターを用意する、それが法曹養成制度の抜本改革、つまり法科大学院の創設であったと理解をしております。
 このように、法の支配を実現する新しい仕組みとして、今度の司法制度改革は有機的に関連付けられた一つの家のようなものだというふうに思っておりますし、この裁判員制度はその中でも極めて重要な柱の一つであると理解をしております。
 裁判員制度は、もう一つ、刑事の仕組みを大きく変えるということ、これも大澤参考人から今お話がありました。どのような変化が起こっているかを三枚目のスライドで示させていただきました。
 裁判員制度を導入するためにどうしても必要なものということで、この下の段、立法化と書きましたが、ここの制度が法律的に手当てをされております。被疑者段階からの弁護制度、国選弁護制度、それから公判前整理手続における検察官手持ち証拠の開示、そして裁判が始まってからは連日開廷するという要請であります。
 ところが、平成十七年からこれらの制度は既に始まっておりますけれども、これ以外のものにも変化が始まっております。それが上の段、非立法化と書いたところの変化でございます。
 まず、取調べの録画。これは全部の録画にはまだ至っておりませんけれども、一部ではございますが、検察、警察でそれぞれ始まっております。今まで透明化が全く行われていなかった部分への透明化が始まっていると理解をしております。
 保釈。保釈もなかなか弁護士のサイドから見ますと十分に行われていないという理解が多うございました。しかし、少しずつ保釈を認めるケースが増えておりまして、それも公判前整理を有機的に行うために必要だという理解が裁判所の方にも広がっているということでございます。
 公判が始まりましてからの証拠ですけれども、今までたくさんの調書と呼ばれている紙が使われておりました。しかし、裁判員が来ることをにらんで、原則として、人、証人や被告人から話を聞いて、調書が必要でなければそれを証拠としないという運用がかなり実務で広がってきております。その他、被告人の服装や私たち弁護士、検察官の法廷の技術などにも大きな今変化が訪れています。
 立法化もしないのになぜこのような変化が始まっているかと。それは、私が見るところ、裁判員が来るからだと思います。裁判員、つまり国民は刑事裁判に何を求めるんだろうか、それはやはり透明でフェアでそして迅速なものということだと思います。そうすると、この国民が求めるものをやはり手続という面でも変えていかなければならない、そのような理由から私は大きな変化が既に始まっているのだと思います。この流れを是非前進させていきたいというふうに考えております。
 三番目に、ではこれから円滑に施行するためにどうしたらいいか、どんな点に気を付けたらいいかという点ですが、模擬裁判がこれまでに六百件以上行われたと言われております。私は、この間の、まあこれは当たり前だといえば当たり前ですが、法曹三者が国民のために準備をしてきている、その努力には敬意を表したいと思います。
 二点だけ申し上げたいと思います。
 一つは、公判前整理手続の在り方であります。私自身も三件ほどこの手続を弁護士として経験をいたしました。今までになく証拠の開示が行われる、これは事実であります。検察官が裁判所の取調べ請求をしなかったものも我々が手にすることができるようになりました。しかし、それは十分かというと、弁護士の立場からすると必ずしもそうは言えない。
 御案内のとおり、おととしから去年にかけて最高裁判所で証拠開示を促すような決定も出されております。しかし、私の経験でも、今も、その決定を経たからかもしれませんが、我々が求めるものについて不存在であるという回答が出ることが多うございます。このようにされてしまいますと、せっかくの証拠開示制度、つまり公判を充実した迅速なものにするためのおぜん立てとしての証拠開示制度、公判前整理手続、その実質が損なわれる場面があるように私は弁護士としては危惧をしております。そこで、できる限り、つまり裁判員が法廷に来てから混乱しないように、証拠開示制度を充実したものにしていただきたいということであります。
 もう一点は、評議です。この評議の在り方についても裁判所の努力は大変なものがあったと思います。その成果が一つ報告として、「模擬裁判の成果と課題」という報告書にまとめられております。私が何件か傍聴したり、それから後で検証させていただいたものの中には、幾つかまだ問題があるように思います。
 その一つは、裁判官の発言が多いケースもある。特に、評議の冒頭で陪席裁判官がたくさん発言をされますと、一つの方向性というようなものも見えてきてしまうおそれがないだろうかということであります。それから、裁判官の発言はやはり非常に重みがあります。裁判官の発言は、また国民から見れば、法律家としてルールを示しているのではないかと受け取られるおそれもあります。ルールを示しているのか、あるいは一判断者として意見を述べているのか、そこら辺の区別も私は大事ではないかというふうに思います。
 どのようにやっていくべきかについては、この裁判所の報告書が言っているとおりであります。これまでの法律家が行ってきた専門的思考が裁判員の思考よりも正しいと考えることはできない、裁判員に裁判官と同じ思考回路を求めるのは相当でない、このテーマについて本当に意味するところの理解を共有することに留意しなければならない、このとおりだと思います。これは、要するに、裁判官に対してやはり姿勢、思考の枠組みの変革、意識変革を求めているのだと思います。裁判員は裁判官と違う考えを持っているからこそ来ていただく意味があるわけです。裁判員制度は、まさに裁判官とは違う考えを聞きたい、それがより良い裁判になるのだという考え方でできていると思います。その辺の裁判官の意識改革あるいは評議の運営の仕方については、なお一層の御尽力をいただきたいというふうに考えております。
 それから、検証の在り方です。裁判員法は附則の九条で、施行後三年をめどに政府の検証を求めております。その検証も、司法制度の基盤としての役割をこの制度が十分に果たせるような方向で行うように求めております。
 この検証は大変重要だと思います。何しろ、戦後初めて我が国が経験する国民参加の制度です。実は、何が一番良薬か、より良い制度にするための良い薬かといいますと、間違いなく裁判員を経験した人たちの意見であろうと思います。問題は、そういう意見をどのようにくみ上げ、どのように反映させるかということだと思います。この五年間の間の六百回に及ぶ模擬裁判について、法律専門家のいろいろな技術については私たち共有してきたつもりでございますけれども、模擬裁判員の声がどのくらい国民に届いていただろうか、これはやはり十分なものがあっただろうかという点については反省をする必要があると思います。もしその六百件の模擬裁判員の意見が国民に伝わっていたら、国民の不安も大分解消されていた部分もあるのではないかと思います。
 その意味でも、これから実際に始まりましたらば、実際に経験した裁判員の皆さんの声を率直に聞く姿勢が法律専門家に求められていると思います。守秘義務が支障になるかもしれません。だとしたら、立法的な手当て等もお考えいただいて、守秘義務を、一番極端に言えば守秘義務を解除してでも制度のより良い定着のために国民の声を聞くという方向を考えていただければと思います。
 じゃ、締めくくらせていただきますけれども、先ほど、この裁判員制度は国民主権の考えから生まれたのだと私なりの考えを申し上げました。だれでもより自由でフェアでそして責任ある社会を目指す、これについては異論がないのではないかと思います。問題は、こういう社会をどうやって手に入れるかだと思います。
 裁判員制度は、だれかにつくってもらうのではなくて、自分たちでつくっていこう、できる範囲で、自分たちで、専門家と協力して、より自由でフェアでそして責任ある社会をつくろうという制度だと思います。裁判員制度がこのようなことを国民に呼びかけているのだと思います。
 では、そのために何が今一番必要か。それは予定どおり施行していただくことです。法律と政令によって決められた予定どおりこの制度をスタートさせていただく、そのことがより自由でフェアで責任ある社会のための第一歩だと信じております。
 どうもありがとうございました。

発言情報

speech_id: 117115206X00720090409_007

発言者: 四宮啓

speaker_id: 35043

日付: 2009-04-09

院: 参議院

会議名: 法務委員会