二宮厚美の発言 (予算委員会公聴会)

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○二宮公述人 神戸大学の二宮でございます。よろしくお願いします。
 時間が限られておりますので、私の公述内容の要点、結論を先に述べておきたいと思います。
 予算案全体を通じた問題でありますけれども、財政には所得再分配機能というのがありますが、これまで小泉政権以来の構造改革では、さきにも御指摘がありましたように、所得の再分配機能を全体としては弱体化する、これが小泉構造改革の特徴であったと思います。今回の政府予算案は、この所得再分配機能について言うと、基本的には強化しなければいけない、そういう視点に立って組まれておると思いますが、この点については、私は評価したいと思います。
 ただ、問題点は、所得の再分配機能を強化するという場合に、その再分配の財源をどこから確保していくのか。すなわち、水平型でやるのか、それとも垂直型でやるのか、これが問われるわけでありますけれども、予算案は全体としては水平型になっている、ここに問題点がある。垂直型の所得再分配の構造に徹していない、これが予算案の最大の問題点ではなかろうか、こういうことが私の話の中心です。
 もうここにいらっしゃる方々は御存じかと思いますが、財政は一般的に、所得の再分配の機能、それから資源の効率的な配分、経済成長の安定化、この三つの機能が基本的にあるというのが通説でありますけれども、先ほど指摘しましたように、小泉構造改革というのは、その第一の所得再分配機能というのを弱めながら、かつ再分配の構造を水平型に徹底していく、したがっていわゆる小さな政府というのができ上がる、こういう構造であったわけであります。
 さきに指摘しましたように、全体として財政の重要な所得再分配機能というものを強化するという、例えば子ども手当の創設、農家戸別所得補償制度、さらに公立高校の授業料の無償化、こういうものは全体としては所得再分配機能の強化ということでありますから積極的に評価できるのでありますが、例えば税制改革を取り出してみても、縦型の、いわゆる上層の富を、税や社会保障制度を通じて吸い上げて、垂直型でありますから下に回す、そういう構造には必ずしもなっていない。むしろ、後でも触れますけれども、流れとしては水平型の方に向かっている。
 例えば、将来の消費税を、増税を前提にして、福祉目的税化するなりしながら財源の確保を図る、さらにまた、事業仕分け活動というのは、私は基本的にそういうものだというふうに理解しておりますが、全体としては水平型に傾斜をしている、これをやはり問題として予算案を評価しなければいけない、こういうふうに考えています。
 なぜ垂直型の所得再分配が今問われているのか。さきの公述人の方の御指摘にもありましたけれども、およそ我々や日本社会に住む人間が今解決を迫られている難問でありますけれども、三つの大きな課題に私たちは直面をしている。
 一つは、この数年間、社会全体で問題になってまいりましたいわゆる格差、貧困の深まりの問題です。さきには社会の底割れという表現が使われましたけれども、まさに底が割れるように格差が拡大をし貧困がのさばる、こういう状態。これを打開していかなければいけない。
 第二番目は、経済的な不況の問題です。現在なお、二番底の可能性は遠のいたというふうに言われておりますけれども、基本的には内需の不振に基づいて、リーマン・ショック以来の日本の不況というのがまだ深刻な様相を解消していない。この経済的破綻にどう立ち向かっていくのか。
 それから三番目は、もう言うまでもありませんが、財政の赤字、すなわち財政危機にどう立ち向かっていくのか。
 社会問題と経済問題と財政問題、この三つの難問を同時に解決していかなければいけない。これが、予算案に限りませんけれども、現在の政治に問われている課題だ。
 そういたしますと、この三つの難問をいわば三位一体的に解決しようと思うと、一つの突破口が必要になる。私は、その突破口が垂直的な所得再分配の再構築にある、こういうふうに考えています。なぜならば、垂直的な所得再分配をやって初めて、所得の分配のゆがみ、不公平、すなわち格差の広がりに対応することができる。
 例えば、現在の格差といいますのは、雇用の格差、あるいはまた労働市場の自由化に伴う派遣労働の野放し、こういうところから進行したものでありますから、まずは、その労働市場の崩れに基づいて生み出されてくる所得の第一次分配上の格差を取り締まっていかなければいけない。
 そのためには、この国会で予定されておりますけれども、そしてさきの公述人の方の発言にもあったように、労働者派遣法の徹底した見直し、すなわち日雇い派遣については禁止をする、それから製造業派遣についても原則的に禁止をする。ただ、もう国会でも問題になっておりますように、常用派遣については当面解禁の状態のまま。
 こういう問題点を克服して、現在、民主党案では、例えば最低賃金の引き上げ、それから介護労働者についてはマニフェストで月額四万円の賃金改善ということをうたっておりますが、そういう方法を通じて第一次的な所得の分配の改善をまずやる。にもかかわらず、これだけでは、現在の日本では所得の格差というのはなお是正されない。
 例えば、昨年だったと思いますが、政府はこの予算編成に当たって経済見通しというのを発表しておりますが、来年度の名目雇用者報酬については〇・七%減というのを見込んでいるわけですね。要するに、これは第一次の所得分配で、雇用者報酬の面でいうと実際上はマイナスが続く。ということは、政府の経済見通しでは雇用者報酬については改善されない。これが来年の経済見通しになっています。
 したがって、個人消費も名目でマイナス〇・二%、つまり個人消費も伸びない。それから、実質では一・〇%、こういうことになっておりますが、全体としては、第一次の所得分配が改善されないという前提に立っているために十分に内需の回復も見込めない、こういう想定になっています。したがって、どうしても再分配の機能を強化して格差の是正を図る、これが第一に必要です。
 同時に、その格差の是正というのが、実は、今触れましたけれども、家計の消費、大衆的な消費の拡充を通じて内需の回復を少なくとも呼び起こす、その刺激になり得る。現在予想されているような景気の二番底を回避するためにも、所得再分配の垂直型、これによって現在の経済的破綻に対してその進行を防止する、そういう機能を見通すことができるのではないか。
 といいますのは、もともと私は経済学が専攻でありますので、この間の不況の分析をやってまいりましたけれども、大体、戦後最大の厳密な意味での過剰生産恐慌というのは、格差社会化というのが基本的な原因になって進行したものです。すなわち、格差社会といいますのは底辺で貧困が進行いたしますから、国内では大衆的な消費というものが伸びない。つまり、消費が立ちおくれてしまう。
 ところが、格差社会の中では、上層の部分、あるいはまた大銀行や大企業に過剰なまでに富裕資金というのが集まってくる。これがアメリカ合衆国の証券住宅バブルを呼び起こす大きな要因になったというのはもう通説でありますけれども、この過剰資金というものが実はアメリカ発金融恐慌の引き金をつくった。だから、この過剰資金というものを吸い上げて、他方で格差社会の中であえぐ貧困層、低所得層にこれを回す。そうすれば、今までおくれてきた消費というものが何とか後追い的であっても回復をする。だから、垂直的な所得再分配を徹底するというのが、実は経済的破綻の進行に対する大きな歯どめの役割を果たす。そういう意味で、さきに挙げました不況打開のためにも垂直的な所得再分配の視点が今問われているんだ。
 それから、三番目の財政危機についても、もう言うまでもありません。今この財政危機を打開しようと思えば、要するに過剰資金に課税をする、これがどうしても必要です。憲法で言うところの応能負担原則というものに立って、応益負担というのは水平的な所得再分配に向かいますから、応能型でもって税制改革を進めて、垂直的所得再分配の構造というものを再構築する。
 そのためには、現在、これは皮肉なことに格差社会が生み出した過剰資金というのがありますから、この過剰資金に対して適切な課税をする。そこから上がった財源をもって、福祉の実現、社会保障の改善、医療であるとか、さきに御指摘のあった待機児童を解消して現行の保育制度を拡充していく、そういう方向に向かって改革を進めていけば、財政危機についても少なくともこれ以上の深化に対して歯どめをかけることができる。
 そういう意味で、私は、今財政全体に求められている最大の課題は、水平的ではない、あくまでも垂直的な所得の再分配構造の再構築がどうしても必要だ、こういうふうな結論に到達したわけでありますが、その視点で、さきに触れました政府予算案が水平型に向かっているのではないか、この懸念を三つの事例で確かめておきたいと思います。
 一つは、政府予算案の中では、言うまでもなく一部税制改革が行われたわけでありますけれども、税制の抜本的改革というのは基本的に先送り。この場合、抜本的改革をもし垂直的所得再分配の再構築という視点から進めるとすれば、これは、さきに触れましたように過剰資金を吸い上げる。すなわち、格差社会の中で生まれた膨大な富裕層、大企業、大銀行、これらのもとにため込まれた過剰な資金に課税する、この方向を徹底して模索する。これに、実は今回の予算案を眺めてみる限り向かっていない、むしろそれを回避している。これは大変大きな問題。
 さらにまた、これは財政需要の分野ではかなり多くの方が指摘をしつつあり、政府の税制専門委員会の中でも議論される予定になっておりますけれども、租税特別措置というものを見直して課税ベースを広げる、とりわけ企業優遇型の租税特別措置については見直して課税ベースを広げる、そういう措置を十分なさっていない。これは、水平型に向かっている一つの事例ではないか。
 それから二つ目は、さきに触れましたけれども、事業仕分け活動というのは、実は、国会議員の方でございますからもう周知だろうというふうに思いますが、もともとは小泉政権のときの構造改革の手法として小泉政権そのものが取り上げたやり方です。最初は幾つかの自治体でこれが進められました。私自身も幾つかの自治体を見て回って、例えば岡山市で構想日本のグループの方々が事業仕分け活動というのをやった。これはかなり乱暴な水平的所得再分配のやり方、しかも水平的所得再分配を徹底して縮小する、むしろ解体する、こういう流れになっているわけですね。
 なぜそうか。要は、公的な事業であるとかサービスの提供について、それの必要性については挙証責任を行政の側に預けて、徹底して、これは議会が問題にするのであればまだしもなのでありますけれども、議会の外で専門家と称する人たちが、必要か不要か、これを短時間のうちに決めてしまう。必要性がほとんどあるというふうに従来であれば認められてしまう。
 なぜかといいますと、行政がやっている仕事というのは、法律であるとかあるいは議会が決めた予算措置に基づいて行われているわけでありますから、何らかの存在理由があるわけですね。そこで持ち出されるのが、どちらで、つまり、公共機関が直接やるのが安上がりか、民間にゆだねるのが安上がりか、このいわゆる公民間のコスト比較というのをやります。
 今の状況のもとでは、民営化した方が安上がりになるというのは一般的に認められる。なぜか。民間の方が、今、派遣労働なんかを使って低賃金でやるからです。だから民営化させる。民営化するということは、アウトソーシングするということでありますから、皆さん方が問題にした、外注化の結果、官僚の天下りがむしろふえてくる。つまり、小泉構造改革の事業仕分けそのものが、実は天下り先をふやしてきたんですね。だから、これをたたいて無駄を削減する、こういうふうにマスメディアは報道したわけでありますけれども、これはイタチごっこです。
 すなわち、そういう民営化であるとか、例えば独立行政法人化、指定管理者制度を使って外注化する、そういうやり方そのものを実はもう一回、さきに言いました垂直的所得再分配の視点からすると、見直していかなければいけない、こういうふうに考えられるわけです。
 時間がありませんので、最後、三点目。
 さきに触れましたように、水平型に向かっているのではないかというふうに懸念されるのは、一つは、消費税の増税というのを自明のものとして、福祉目的型ないし年金目的型、これを想定した上での予算編成になっているということ。
 それから、地域主権という名前でもって、基本的には地域単位の受益者負担主義というふうに言っていいかと思いますけれども、地域を単位にして、受益者負担の受け皿を自治体につくってしまう、そこに土建国家的機能であるとか福祉国家的機能を挙げてゆだねてしまえば、とりわけ福祉の分野では、地域を単位にした水平的な再分配あるいは地域間の水平的な再分配、これに終わってしまう、そういう懸念が大変強いわけであります。
 そういう意味で、ぜひ今後、所得再分配の強化は水平型ではなくて垂直型で進めるべきだ、こういう視点に立って予算編成、行政改革、両方あわせて追求していただきたいという希望を申し上げまして、私の公述にしたいと思います。失礼いたしました。(拍手)

発言情報

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発言者: 二宮厚美

speaker_id: 33046

日付: 2010-02-24

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会