山田昌弘の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(山田昌弘君) じゃ、着席のまま意見を述べさせていただきたいと思います。
私は家族社会学を専門としていまして、定量的というよりも定性的な面から、主に子ども手当を中心とした社会保障の充実についてお願いしたいと思いましてレジュメを作ってまいりました。
まず、今、生活不安が非常に増大しております。生活不安があるから消費がなかなかできなくなる。今の特に若者は、将来の老後のためにお金を使わず貯金をするというような学生まで現れてきている現状があります。
社会保障の目的というのは、人々をリスク、病気や失業や家族の喪失などから守ることにあります。そして、リスクに陥った人間を貧困状態から救い出すシステムをつくり出すことにあります。
しかし、現在の日本の状況というのは、格差社会、貧困などが拡大し、うまく社会保障、福祉制度が機能していない状態にあると私は判断しております。その理由は、仕事や家族の在り方がここ二十年の間に根本的に変化しているのにもかかわらず、制度が対応できてないからだと判断しております。
今までの日本の社会保障、福祉制度のよって立つ前提というものは二つあります。
一つは、大人がフルタイムで働けば家族が人並みの生活をするのに十分な収入が得られる、フルタイムで働いているのに収入が低い人はいない、家族にだれか一人でもフルタイムで働いていれば、その人に家計を依存して生活できる、このような条件がありました。つまり、ワーキングプア、朝から晩まで週五日働いて低収入の人はいないはずだというようなことを前提としておりました。
二番目は、ライフコースが予測可能だったということです。つまり、全員が望めば自営業かサラリーマン・主婦、どちらかのコースをたどることができる。自営業は、夫婦共に家業に従事して、息子夫婦に後を譲って引退できる、サラリーマン・主婦であれば、夫は正社員で定年まで働いて、妻は主婦でいられる。それはもちろん、全員が結婚できて離婚しない、自営業は続く、失業しないし倒産しないというような前提の下につくられておりました。それに従って現行の社会保障、福祉制度というものが構築されていたわけです。
時間がありませんのでこの点は省略させていただきますが、とにかく、フルタイムで働けば人並みの生活がもらえる仕事にすぐ就けることが前提となって社会保障が構築されていて、この条件というのは一九九〇年ごろまでは当てはまっていたわけです。
しかし、一九九〇年代後半から社会保障の前提が失われてきました。レジュメですと二ページ目に入ります。それは、非正規労働が増え、規制緩和によって自営業の見通しが立たなくなり、さらに正社員であっても低収入の者が増大したからです。つまり、安定した収入のフルタイムの職の絶対数が減少し、望んでも正社員になれない男性が増えてきたわけです、もちろん女性も。女性は元々なかなか望んでもなれなかったわけですが。
二番目には、望んでも標準的ライフコースを取れないような人が増えているわけです。未婚確率、今年国勢調査ですけれども、二〇〇五年の段階で三十代前半の男性の未婚率は四八%、女性の未婚率は三二%でございますし、今の若い人は結婚した人の二人に一人は離婚するという勘定です。つまり、今の二十代の若い人にとって、結婚して離婚しないで一生を送る人は二人に一人ということでございます。
そういうときに、今までどおりの社会保障の在り方で今の若者が安心して将来を設計できるわけではありません。さらに、その中で正社員になれる人といえば更に少数になってくるわけです。できちゃった婚等も増大しており、今は五組に一組ができちゃった婚でございます。特にこれも経済が大きく影響しておりまして、若年失業率が高い県にできちゃった婚が多いという傾向があります。つまり、収入があれば結婚して出産ということができたのに、そうではないということから生じているものだと思われます。もちろん、この非正規化というのは、収入が低いから結婚できない。また、離婚の増えた部分のかなりの部分が、夫の収入が少なくなったために妻が離婚して実家に帰るという形の離婚が、今の若い人の離婚の私の調査ですと三分の一ぐらいを占めております。
その結果、標準的ライフコースと最低生活の中間に落ち込む人が増えている、そのため、そういう不安を持つ人が増えているということが今の社会保障に対する不安、生活に対する不安の源であります。そして、ワーキングプア、いわゆる働ける、若しくは家族にフルタイムで働ける人がいるのにもかかわらず、人並みの生活ができないという形での貧困が広がっております。
じゃ、どのようにリスクに対応できないかというのを三つの例からお話ししていきたいと思います。それはなぜかというと、必ず家族の中には正社員がいるということを前提に社会保障が構築されていたために、そうでない場合には対応できなくなってしまっているわけです。
一番目に、夫が非正規雇用だと妻が専業主婦でも年金保険料を納付しなければならないということがあります。
私の卒業生で専業主婦の学生が私のところにどなり込んできまして、夫が正社員からフリーランスに替わった途端に専業主婦で無収入の私に年金保険料を払えと言ってきた、これは趣旨から違うんじゃないかということを言われたわけです。私は、厚生労働省は、夫がフリーランス、妻が専業主婦という家族は日本には存在しないことになっているというふうに答えざるを得なかったわけですけれども。フリーランスならいいんですけれども、夫が正社員で妻が専業主婦だったら保険料が免除なのに、夫が非正規雇用だった場合は妻も一号保険者になりますので、踏んだりけったりということになっております。
さらに、二番目、三番目には、育児休業についても同様ですけれども、これも私の知り合いのフリーランスの記者が育児休業を取材したときに、雲の上の話だというふうに言っていたわけです。つまり、大企業の正社員でしたら特に育児休業は充実しているかもしれませんけれども、フリーランスでは、収入が少なくて不安定なのにもかかわらず育児休業等がない。ちなみに、イタリアなどヨーロッパ諸国では自営業やフリーランスにも育児休業があって、所得保障がなされております。
さらに、男性の育児休業、先日、文京区長が育児休業取得ということで話題になりましたが、そういう場合は、よほどの高収入の人か、若しくは妻が正社員の人でなければ、育児給付が五割だととてもやっていけない。妻が専業主婦だったりパートタイマーだった場合に、自分が育児休業を取って収入が五割になって、子供を抱えて生活できるわけはないわけです。つまり、欧米、アメリカはないですが、ヨーロッパの先進福祉国では、当然、育児休業給付は八割、十割でございます。だから、男性も安心して育児休業を取れるということでございます。
つまり、こういうのを見てきますと、弱い立場の非正規雇用者の方が社会保障で冷遇されているという現実が今あるわけです。
さらに、よく知られているように、非正規雇用化、低収入化の波というのは若年、若い人を襲っております。つまり、フルタイムで働いてもまともに収入が得られない状況の最大の被害者が若者であるわけです。その結果、今の子供を育てている家庭の家計状況は非常に厳しくなっております。
もしよろしければ、三ページ、四ページの表を見ていただきますと、これは私らのグループが総務省統計研究所において、一九八四年から二〇〇四年まで未就学児、つまり学校に通っていない子供がいる家庭の状況を全国消費生活実態調査の票から分析したものです。これは二〇〇五年を基準として物価水準を調整してありますが、どの家族類型の世帯も一九八四年から九四年までは収入を増やしておりますが、九四年以降、子育て、未就学児を持つ世帯の収入は大きく低下しております。例えば、一九八四年は五百九万円、八九年は五百五十三万円、九四年は五百九十五万円だったのが、九九年には五百八十万、二〇〇四年には五百五十三万、全未就学児世帯の平均でございます。
それで、いわゆる父母がそろって核家族である、夫婦家族である世帯収入を見ていきますと、これは平均値ですけれども、世帯年収はやはり九四年をピークになっております。特に父親年収が四十万円下がっている。共働きによって母親年収は多少上がりましたけれども、一九九四年と二〇〇四年を比べると、父親年収は五百五十四万円から五百十二万円と四十二万円減っています。じゃ、共働きをすればいいやというふうに言えそうなんですけれども、母親年収は五十一万からたった六十三万、十二万円しか増えておりません。つまり、女性も非正規雇用化が進んでいるので、男性の、父親の収入低下というものを女性の働きではなかなか取り返すことができなかったということが述べられております。
時間がありませんので、次のページをめくりますと、母子家庭の状況を述べさせていただきます。
特に母子家庭においては年収の低下が非常に著しく、二〇〇四年では、物価水準でいいますと、もう一九八四年の水準さえも下回った水準に低下しています。なぜかというと、夫婦家族であれば共働きによって収入低下を補えるのに対し、母子家庭の場合は収入低下を、一人であるために一人の収入の低下を補えなかったからでございます。
表五を見ていただくと分かるように、就労率は九四年は低かったんですけれども、二〇〇四年は相当高くなっているのにもかかわらず、年収分布で見ますと低収入の母子家庭が非常に増えている。ただ、母子家庭は二極化が進んでいまして、確かに収入が高い母子家庭も十五年前に比べれば増えてはきたんですが、それでも低収入化が進んでいる。これも一九九〇年代に進んだ非正規労働者化、つまり、フルタイムで働いてもまともな収入が得られない状況が、若い人の間、特に女性で広がっているということの反映でございます。
さらに、表七と表八は、三世代の中で子供を育てる人の二〇〇四年の状況です。つまり、三世代の家族というのは核家族に比べて両親の収入が低いという特徴があります。特に母子世帯、つまり、おじいさん、おばあさん、母親、子供といった母子世帯においては母親の収入が低く、自立したくても自立できない三世代世帯の中での子育てという様子が見えてくるわけです。
そして最後に、レジュメに戻りまして、抜本的な社会保障制度の組替えが必要になっている時期だと思っております。
まず、正規雇用、非正規社員、フリーランス、自営業、そういった働き方によって今は細かく社会保障制度が区別されていて、正社員に有利になっていますが、それを撤廃していく必要があると思います。今回の予算等で失業保険や育児休業の範囲を広げる、給付の仕方を広げるということは実現しております。でも、単に広げるだけではなく、それはもちろん一歩前進だとは思いますが、根本的な改善が望まれます。
子育て期の不安解消のためには、子ども手当のような現金給付が必要だと思いまして、今回の子ども手当は第一歩のものとして非常に評価しております。年四十万平均給付しますと、二〇〇四年と比べて、一九九四年、つまり十五年前の水準にやっと戻るという計算でございます。つまり、子育て家庭を優遇しているんではなくて、収入が低下している子育て家庭をサポートするということでは評価しております。
そして、最後に、希望が持てる職に再チャレンジできる仕組みに予算を使っていただきたいというふうに要望しておきます。
時間が来ましたので、これで陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。