犬飼重仁の発言 (予算委員会公聴会)

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○犬飼公述人 早稲田大学法学学術院教授の犬飼と申します。
 貴重な機会をお与えいただきまして、まことに光栄に存じます。
 本日は、平成二十三年度予算案に位置づけられております新成長戦略に関し、金融関係を中心に、経済回復を本格軌道に乗せるための新成長戦略の必要性、我が国が成長戦略としての金融戦略を持つことの重要性という観点も含めて、私なりに少し意見を申し述べさせていただきます。
 私は、民間企業におきまして二十年、東京とロンドンの財務金融部門を経験いたしまして、二〇〇二年からは、内閣府所管の総合研究開発機構の研究員として、我が国金融資本市場を取り巻く諸制度、システムを、そこに参加する市民とユーザーの側に立ち、我が国とアジアの成長に役立つためのものに抜本的に変えていこうということで、早稲田大学との共同の研究プロジェクトを実施しました。その後も、その思いはアジアにまで拡大をし、二〇〇八年に早稲田大学教授に就任してからも、同じテーマで、グローバルCOE研究所長であります上村達男教授のもと、研究活動に従事し、現在に至っております。
 新成長戦略の金融部分には、「ユーロ市場と比肩する市場を我が国に実現する」ということがうたわれておりますけれども、このことこそ、我が国の金融戦略の核心ではないかと考えております。
 私は、民間事業会社の財務部門のロンドンの金融子会社に一九八七年の秋から六年数カ月在籍をいたしまして、ユーロ市場のダイナミズム、便利さ、プロの市場参加者みずからが積極的に市場のイノベーションを生み出していく力、産業や雇用の観点からの英国の金融業の層の厚さ、さらには、英国のみならずベネルクス三国との有機的連携のもとでロンドン中心のユーロ市場が有効に機能しているということを、直接肌で感じたということがございます。
 そして、一九九四年に日本に戻りまして、最初に国内債の発行を担当したのですけれども、ロンドンに行く前と帰ってきてからとを比べても、日本の社債市場は非常に使いにくいままで、全く変化がなかったことに、当時、驚きを禁じ得ませんでした。
 そのとき、強くみずからの心に刻んだのは、日本とアジアの金融市場を、いつの日かユーロ市場並みの自由で使い勝手のよい市場にする必要がある、そして、東京をロンドンに比肩し得るようなアジア域内金融市場の代表にする必要があるということでありました。
 私がそういう思いを抱いて帰国してから既に十七年が経過しましたが、政策立案者の皆様、関係省庁の皆様、そして市場参加者の御尽力によりまして、現在の我が国の金融資本市場インフラについて言えば、恐らく、アジア域内で最も詳細で、かなりの程度高度化され、洗練され、かつ成熟した証券決済システムなどの市場システムインフラと証券関連の規制システムを持っておりまして、安定的に運用している、そういう積極的な評価ができるのではないかと思っております。
 しかし、現在まで、国内債券市場の利用は、国債以外限定的であります。そこには、一見技術的でテクニカルに見える要因がかなりの程度かかわっておりまして、発行体や機関投資家などにとって、個別具体的に見て使いやすい市場インフラが提供されていないという問題がございます。
 また、我が国の雇用の確保の観点からは、進んだシステムインフラの上に、取引コストが合理的で、使い勝手のよい国際的金融市場を整備することで、高度なスキルを持ったサービス産業としての金融を発展させて、すそ野の広い雇用を確保するということがこれからの重要な課題であるというふうに考えております。
 金融市場では、市場は自然に成長することはできません。それを支える関連の制度システムが市場のあり方を規定します。この点は、一般の物やサービスの市場とは大きく異なる点であります。東大の神田秀樹教授の、金融市場は人為的なものであり、規制するのもしないのも当局の判断、すなわち決め事であるとの御指摘は、いつも忘れてはならないと思っております。
 例えば、一九八〇年代のユーロ債市場で発達した、債券を発行しやすくするための仕組みでありますMTN、ミディアムタームノートプログラムが、まだ日本には存在しません、中国においてさえ、既に数年前から存在しておるわけでございますけれども。
 日本の債券市場は、プロ投資家向けの発行が大宗を占めているにもかかわらず、法制度と実務慣行におきまして、個人投資家向けを含みます極めて詳細な開示内容を一律に要求するものとなっておりました。また、海外投資家の日本国内での起債意欲は高いにもかかわらず、日本語開示が障害となって発行額は伸びておりません。
 さらに、海外投資家が日本の公社債に投資する場合、過去、国債と地方債の利子にかかわる源泉税が免除されたのに、社債だけが課税されるという問題がございました。
 こうした状況を踏まえて、早稲田大学では、プロ向け債券市場創設の必要性についての提言を、二〇〇七年以来、たびたび行ってまいりました。
 このような状況を改善すべく、金融庁では、金融・資本市場競争力強化プランの一環といたしまして、二〇〇八年末に、プロ向け市場整備のための新たな開示免除証券市場の枠組みが起案され、法制化をしていただきました。これにより、新たな市場の開設が可能となったわけでございます。また、非居住者の受け取る社債利子の源泉徴収に関しても、二〇〇九年末に、政府により課税をゼロにすることを決定していただきました。
 これらの、政府の二つの政策決定は、我が国の金融資本市場の内と外を隔てていた市場の断絶を埋めるトリガーとなったわけでございます。
 これらのことは、非常にテクニカル、技術的なことに見えるようで、余りメディア等におきましても重要なこととして取り上げられませんでしたが、金融資本市場においては、一見テクニカルに見えることの中に、大変重要な、市場のあり方の根底を覆すような内容がしばしば存在いたします。
 これらの重要な政策決定をリードいただきました皆様方と各省関係者の皆様に、この場をおかりして御礼を申し上げる次第でございます。
 世界的に見て、プロ向け金融資本市場は、もともとグローバルな特質を有するものですが、日本を筆頭に、アジア域内各国の資本市場の多くでは、このような制約条件の多くが存在したために、国をまたぐユーロ市場のような国際債市場とは分断され、国際的なプロ市場のイノベーションが各国の国内市場に持ち込まれにくかったということが言えます。
 ところで、現在、我が国から欧米を経由して、欧米からの投資としてアジアに出ている資金を、直接東京からアジアに流せるようにすることも重要です。それによって、我が国の政治経済的なポジション、これを強化することも可能となります。日本の持つ金融資産は巨大ですが、海外に向かうものはほとんどが欧米経由でございます。
 英国は、自国経済が縮小する中にあって、金融市場を拡大させ、ロンドン経由で資金が世界に流れるようになっていることで、実際の国力以上の影響力を保持してまいりました。英国ほどになるのは遠い将来の話であるにせよ、なるべく東京から直接アジアに資金を流すことができるようになれば、他国から資金を呼び寄せることにもつながるわけであります。
 さて、プロ向けの債券市場について、我が国においては、二〇〇九年年末までに、今申し上げたように、法律と税制という、国内債とユーロ債等の国際債とを概念的に隔てていた二つの制約、これが取り除かれたわけでありますが、これは、我が国が欧州ユーロ市場のようなプロ市場を目指すための最低限の必要条件がまさに今整ったということを意味しております。
 そこで、この二つの制約が取り払われたそのタイミングをとらえまして、大学の主催で、市場実務家、企業の財務担当者、研究者、法律家、そして関係省庁のオブザーバー参加も得まして、二〇一〇年二月から四月まで、アジア・デットリスティング研究会を集中的に開催し、概念的な提言に詳細な新市場の設計図を加え、より具体的な新市場創設提言としての、アジア域内プロ向け国際債市場と、その日本版であります我が国プロ向けの公募債市場創設提言を、昨年四月に公表いたしました。
 このプロ向け債券市場の整備提言のエッセンスは、二〇一〇年六月公表の経済産業省の産業構造ビジョンにも採用いただき、そして、官邸の新成長戦略策定に際して、経済産業省、財務省より、プロ向け債券市場の創設を後押しすることが提案されました。金融庁からも、ユーロ市場に伍していくことを目指すプロ向け社債市場の整備が提案されました。
 これらを受けて、金融戦略を第七の柱とする新成長戦略が、六月十八日、閣議で決定、即公表をいただいたわけでございます。
 この新成長戦略の金融部分には、ユーロ市場と比肩する市場を我が国に実現するためのプロ向けの社債市場の整備、アジア域内の豊富な貯蓄をアジアの成長に向けた投資に活用することがうたわれ、金融自身も成長産業として発展できるように、市場や取引所の整備、金融法制の改革等を進め、ユーザーにとって信頼できる利便性の高い金融産業を構築することで、金融市場と金融産業の国際競争力を高めるとございます。
 実行計画、工程表の金融部分では、プロ向け社債市場の整備は二〇一〇年の早期実施事項として掲げられておりまして、アジア債券市場の構築に関しても、アジア域内の豊富な貯蓄をアジアの成長に向けた投資に活用するため、二〇一〇年にASEANプラス3の債券市場フォーラム、ABMFの設立、二〇二〇年までにアジア債券市場を育成して日系企業等の現地通貨での資金調達を円滑化することなどがうたわれております。
 我が国の新成長戦略の金融部分において、このように我が国が目指すべきビジョンとスケジュールが明確に示されたことは、極めて重要かつ意義深いものがあると考えております。
 これを受けまして、東京証券取引所グループでは、新市場の実現に向けて、二〇一〇年十一月に東京プロボンドマーケットの制度概要を発表、本年四月以降のスタートに向けて準備がなされているところであります。
 この東京プロボンドでは、プロ向け市場制度をフル活用しつつ、ユーロ債市場のような柔軟で機動的な債券の発行を実現し、国内外の発行体と投資家、さらには証券会社などの関係業界の利便性を向上させ、アジアの中核としての我が国の債券市場の発展に資することを目的にしています。
 また、海外のミディアムタームノートプログラムと同様、発行体の基礎的な情報や財務情報、当年の起債予定をプロボンドに登録、ミディアムタームノートプログラムとして上場することによって、その予定額の範囲内で、随時、債券を発行できる便利な仕組みが導入されます。
 海外発行体に対しても、高い利便性が提供されます。海外発行体が日本の国内市場で発行するいわゆるサムライ債発行については日本語開示が必要でしたが、プロボンドでは英語のみで可能になります。日本の会計基準に加え、国際会計基準、米国基準も採用し、円建て以外のさまざまな通貨やイスラム債の形式での発行も可能となります。
 次に、ただいま申し上げた官邸の金融戦略に含まれておりましたABMFの活動についても、一言触れさせていただきます。
 私も、二〇一〇年九月に設立されたABMFのサポートメンバーに加えていただいておりまして、実際、アジア開発銀行、ADBと日本の財務省国際局の御尽力もあり、ASEANプラス3、ASEAN十カ国と日中韓でございますが、これも非常にいい形で動き始めております。
 二〇一〇年九月に、域内の官民、アジア開発銀行、域内各国の当局者及び民間の金融資本市場専門家の協力を得まして、ABMFの第一回の会合が東京で行われました。そこで、取引規制や市場慣行の調和、調整のあり方についての討議を行い、域内共通のプロ向け債券市場の重要性についてビジョンを共有し、目指すべき方向性についてのコンセンサスが図られました。十二月には第二回がマニラで、そして二月、先週には第三回がクアラルンプールで開催されております。
 ASEANプラス3のチームでは、今、域内のクロスボーダー取引の障害となっている各国の規制、市場慣行等に関する情報収集を行っておりますが、二〇一一年一月二十五日の閣議決定の新成長戦略実現二〇一一の中にも、本件にかかわる報告書の作成を盛り込んでいただいております。本年中の完成に向け、私自身も、ABMFのメンバーとともに作業を続けておる次第であります。
 おかげさまで、日本のチームが率先垂範して主体的に日本市場にかかわる情報の取りまとめを行いましたので、これに続き、韓国、中国等からも、非常に質の高い情報の提出が実現しております。
 このように、ABMFでは、二〇一〇年秋以降、各国の官民合同チームが、一つの目的に向かってビジョンを共有し、きずなを強め、主体的に連携をとりつつプロジェクトを進めています。
 日本の事実上のリーダーシップのもと、中国や韓国等も含めて、このような官民一体型の柔軟な国際的連携が実際に機能しているということは大変喜ばしく、そのようなあり方は、今後日本がアジアとともに進むべき一つの重要なモデルを提供しているのではないかとも感じております。
 そして、その大前提として、今回、我が国の新成長戦略の中にプロ向け社債市場の整備とアジア債券市場の構築を盛り込んでいただいたことは、政府によるサポートのあかしとして極めて重要な意味を持っていたと感じておるところであります。
 最後に、域内のプロ向け市場インフラが順調に整備されていったとしても、今後に重要な課題が残されております。
 市場参加者の質の高さ、ルールの公正さ、市場の信頼を担保可能な自己規律の存在、そして市場としての使いやすさといったことが重要であります。域内各国における法規制の存在だけではなく、プロの市場を規律するため、自主ルールと実務慣行の確立が必要になると考えられます。
 ここでも、特に日本が優位性を持っておりますのは、新市場の自主ルール等の制度や慣行の構築に際して、金融商品取引法に先進的な目的規定を持っていることに象徴されるように、プロの市場参加者も市場における公正な価格形成や高質な資本市場の機能確保に対する責務を負っているとの位置づけを、他のアジア域内の諸国や取引所などに先行、率先して示すことができる点にあると思われます。
 その意味におきましても、また我が国成長戦略の基盤としても、金融資本市場法制そして会社法制のさらに一歩先んじた確立が不可欠と存じます。
 したがいまして、今後、日本のかじ取りによって、アジア域内の新市場の市場参加者の自主ルール等、市場制度、市場慣行の策定、確立が期待されていると言ってよいと思います。
 ちなみに、香港やシンガポールでは、厳密な当局による規制が前提でございまして、自主ルールの概念すら存在しておりません。日本のリーダーシップによって、日本とアジア一体の、世界に開かれた信頼される域内金融資本市場新時代が一日も早く到来することを切に願ってやみません。
 最後に、そのような官民連携による努力を通じまして、我が国の企業グループと金融機関こそがアジアの成長とともにあり、日本の企業の発行する証券への投資が成長するアジア投資への最も効率的、効果的かつ安全な方法であるという、新たな国際常識が一日も早く確立されることを望みたいと思います。
 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 犬飼重仁

speaker_id: 23315

日付: 2011-02-22

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会