佐々木雅也の発言 (予算委員会公聴会)

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○佐々木公述人 ただいま御指名いただきました野村総合研究所の佐々木でございます。
 本日は、陳述の機会を賜りまして、まことにありがとうございます。
 私、金融市場あるいは実体経済を日々観察しながら、日本や世界のマクロ経済を分析するのをなりわいとしておりますけれども、マーケットの声、マーケットに携わる方々の話を聞く限り、今の日本政治の状況を極めて冷ややかに見ているという声をよく聞きます。
 市場では、昨日の月例経済報告でもございましたけれども、日本経済は緩やかながら回復を続ける、後から述べますけれども、日本国債の消化という点につきましては大きな懸念がないという見方が一般的でございます。
 むしろ、これからの日本経済、目先の大きなリスクの一つは、マーケットの方にお話を伺いますと、特例公債法案の先行きを初め、日本の政治の混乱、混迷にあるというふうにおっしゃっている方が非常に多うございます。政策の中身を正面から議論していただいた上で予算がスムーズに執行されるというのが、私の聞くなりのマーケットの声というふうになります。
 その上で、私なりに今後御議論いただきたいというふうに考えていることをこれからお話をさせていただきます。
 日本経済の大きな課題の一つ、これが財政再建であるということは明らかであります。しかし、この場面で、今この状況で財政再建に向かうべきかどうかという点については、立ちどまって考えてみる必要があると思います。
 財政再建の議論になりますと、財政赤字の大きさあるいは債務残高の大きさといった点に注目が集まります。また、その手法といった点につきましても、歳出の削減あるいは増税等を含めた歳入の拡大といった点が議論されるということになろうかと思います。
 財政の均衡を図る上では、最終的には歳入と歳出のバランスをとらなければいけないという点がありますから、この議論自体は決して間違いだろうとは思っておりません。しかし、政府という経済主体自体、日本経済全体の中では欠かせない、非常に大きな存在であるというふうに思います。
 だとすれば、財政赤字の縮小だけを追い求める余りに、日本経済全体に与える影響を無視して財政の均衡を議論するということは不可能だろうというふうに思っております。この点を、これから、日本経済のお金の流れという点から議論をさせていただきたいというふうに思います。
 お金の流れを見るという点のもう一つ重要な理由というのは、なぜ日本の財政赤字がここまで、九〇年代以降ですけれども、大きくなったのか、また、どのようなタイミング、条件がそろえば財政再建が可能であるのかといった点も含めて観察することができるというふうに考えているからであります。
 マクロ経済学の基本的な考え方の一つに、貯蓄・投資バランスというものがございます。これは、日本も含めまして、一国、国全体、経済全体のお金の流れを見るときに最も基本になる考え方でございまして、そのエッセンスですけれども、その国で集められた貯蓄の総額と、その国で行われた投資の総額、これが常に等しくなるというふうなものでございます。
 現実の経済主体という中には、民間企業や貯蓄をしている家計、このほかに、政府、海外、貿易ですけれども、そういったものが加わってまいりますので、お配りをさせていただきましたレジュメにありますように、貯蓄の総額というのは、民間の投資、財政収支、経常収支を足し合わせたものというふうになります。
 その動きを実際にお示ししたものが、お手元にあります一枚目の下の図表一の形でございます。ここに折れ線グラフが四本ございますけれども、一番上の太い点線が家計、太い実線が企業の動き、細い実線が海外、長い点線の方が政府、これは財政赤字の動きでございますけれども、この四つがございます。この四つを足し合わせれば必ずゼロ、真ん中の線に等しくなるというふうな形になっております。
 その中で、このゼロより上にあるとき、これがお金が余っている、いわゆる貯蓄をしている、海外へ行きますと貿易赤字になるわけですけれども、貯蓄をしている経済主体になり、ゼロより下にあるのが資金不足、借金をして投資を多くしているという主体になります。
 このグラフを見ていただいて、日本が非常に特異、異常であるという部分は、企業の動きでございます。
 通常、企業というのは、利益の拡大を目的としまして、得た利益、あるいは金融機関を介してお金を借り受けて投資に回すというのが普通でございますので、このグラフでいきますと、ゼロの真ん中の線よりも下に太い実線があるというのが通常の形であります。
 しかし、日本経済では、一九九〇年代以降、二度にわたって企業が大きく貯蓄をふやすというふうな、通常とは逆の動きになっていたということであります。
 一度目は、バブルが崩壊した一九九〇年度以降でございます。このときは、バブルが崩壊して、企業が、資金を調達するのではなく、借金の返済に回っていたということが大きな理由でございます。
 二度目は、二〇〇八年九月のリーマン・ショック以降でございまして、ここで急激に経済活動が縮小して、景気の先行き不透明感から、企業が手元資金をふやすというふうな行動に出ました。一般企業の現預金でございますけれども、昨年の九月末時点で二百六兆円でございました。しかし、リーマン・ショック直後の二〇〇八年九月時点では、およそ百八十九兆円でございました。このわずか二年間の間に、企業は十七兆円も貯蓄をふやしている、手元資金をふやしているというふうな計算になります。
 このように、日本の企業というのは、この二十年間、本来想定される企業の行動とは全く逆の形で、投資をふやすのではなく、借金の返済に走ったり手元資金をふやすといった形で、貯蓄をふやすというのが実態でございます。これが、日本経済あるいは今後の日本の財政再建といったものを考える上で大きなポイントになろうかというふうに考えております。
 といいますのも、先ほど貯蓄・投資バランスの話をさせていただきましたけれども、一国の貯蓄と投資、これは必ず等しくなるというふうに申し上げました。通常でありましたら、金融機関を介しまして、家計の貯蓄、これを設備投資などといった形で投資に回すのが企業部門の通常の姿でございますが、実際には、逆に、投資ではなく貯蓄をふやすというふうな形になっております。
 このため、一九九〇年代以降では、日本でお金の流れがきれいに回るようにするためには、輸出をふやすか、あるいは、政府が国債を増発して、マーケットからお金を調達して、支出をふやすというふうな二つ、どちらかしかなかったということであります。
 裏を返しますと、企業が今のように貯蓄を続けているという状況が続いている限りは、政府が国債の発行をふやしても、国債の原資になるお金というのはマーケットにあるということになりますので、国債は非常に低い金利で発行することが可能になりますし、急に財政危機が起きるというふうな状況ではないということになります。
 また、逆に、政府がこのような状況のまま財政再建を急ぐというふうなことになりますと、貯蓄・投資バランスの仕組みに逆らうような形になりますので、国内のお金の流れが滞ってしまう、景気が悪化する一方になりまして、税収が減って、逆に財政赤字をふやすというふうなことにもなりかねません。
 こうして見ますと、今の日本経済では、企業が手元資金をふやし、資金需要がふえない、きょうの日本経済新聞にもございましたけれども、企業が資金需要をふやすという状況でない以上、財政再建を急ぐという状況ではないというふうなことになります。
 一方、財政再建の声が強まった背景には、昨年の春、ギリシャで財政危機が起きたということがございます。それを見まして、日本がギリシャのようにならないためにも財政再建を急ぐべきだという声もございます。
 もちろん、日本がギリシャのように財政危機になるという状況は避けなければなりませんけれども、ここまでお話をさせていただきました貯蓄・投資バランスというものを見て、日本とギリシャの状況を比較しますと、日本とギリシャは、置かれた状況が全く違うということがお示しできるかと思います。
 お配りしましたレジュメの二枚目の下でございますけれども、日本と同じデータをギリシャでやってみるとどうなるのかということをお示ししたグラフでございます。
 先ほど触れましたけれども、日本では、リーマン・ショック以降、企業が急激に貯蓄をふやしているということが財政赤字のふえた原因だったわけですけれども、ギリシャは、もともと、グラフを見ていただいてもおわかりになりますように、一般政府、政府の財政が大きな赤字である、加えて法人部門もお金を借りている、さらに家計もさほど貯蓄をしている状況ではなかったということでございまして、お金の出どころは専ら海外でございました。
 このように、日本と比べますと、政府が国内企業の貯蓄あるいは家計の貯蓄を使って国債を発行している状態というふうになっていますけれども、ギリシャでは、専ら国内のお金、資金を海外に頼っていたという状況でありました。こうした状況の中で、ユーロの危機が叫ばれ、ギリシャの財政状態に懸念が抱かれるようになりますと、投資家は当然ギリシャから資金を引き揚げようとする。これがギリシャの財政危機の原因だったわけでございます。
 そうしますと、両国の財政のあり方という点につきましても、おのずと結論が違ってくるというふうなことになります。ですので、ギリシャの状況を見て、財政赤字の値、日本よりギリシャの方がまだましであるといった議論から日本がすぐに財政再建をすべきだというのは、やや先走っているというふうに思うわけであります。
 特に日本で言えますことは、家計に加えまして企業までもが貯蓄をふやしている、これは極めて特殊な状態であるということでございます。そのために、政府が単純に財政を均衡させようとしてもなかなかうまくいかないということになります。
 むしろ、これから、中長期的に見て財政再建を成功させたいのであれば、単純にまず財政収支を改善させようとするのではなく、企業が今より積極的に投資を行えるように、リスクをとりやすくする環境整備を行うことが極めて重要かと思います。その結果、企業が貯蓄をふやす状況といったものが改善をしていき、国内で投資をふやすというふうなことになっていけば、政府も、景気に悪影響をもたらすことなく財政赤字を縮小させるといったことができるようになるかと思います。
 先ほどの一ページ目のグラフに戻りますけれども、図表一をもう一度ごらんいただければと思います。
 日本企業、この太い実線ですけれども、二〇〇五年から二〇〇七年にかけて、設備投資などをふやしていった結果、ほぼ貯蓄がゼロというふうな状況にまで改善をした時期がございました。しかし、その後リーマン・ショックがありまして、企業が手元資金をふやすというふうなことになったわけでございます。
 この時期に政府の債務残高がどうだったかというのが、レジュメが飛びまして恐縮でございますけれども、三ページ目のグラフにございます日本の長期国債の残高の推移でございます。
 ここにある棒グラフが、日本の国債残高を名目GDP比でお示ししたものでございますが、先ほど、企業が貯蓄をふやすという状況をやめた二〇〇五年から二〇〇七年にかけましては、国債残高はGDP比で見ますと減っている、緩やかながら減っているという状況でございます。
 このように、日本では、民間企業の貯蓄動向、言いかえますと、民間企業の資金需要の動向でございますが、これと政府の財政赤字の動きというのは非常に関連性が高うございまして、民間企業の資金需要の動向、これをうまく刺激してあげるということが必要かと存じます。
 そこで、政府が取り組むべきことということで私の私見を申し上げますと、種々の規制緩和だけではございませんで、企業が積極的に設備投資、研究開発を行えるようにする投資減税が必要かと思います。具体的には、設備投資を加速度で償却する、場合によりましては、オバマ政権が昨年末の景気対策で成立させましたように、一括償却というふうなことを期限つきで認めるといったことが必要かと考えられます。
 今回の予算案では、法人税率を五%引き下げという点を挙げられておりますけれども、これは、今述べましたような企業行動の変化というものを期待して出されたものだというふうに思われます。しかし、法人税を単純に引き下げたとしても、それが企業の貯蓄に回るのか、あるいは設備投資に回るのかといった点ははっきりしません。
 ましてや、今回、法人税を引き下げるために、歳入と歳出のバランスをとるために、研究開発の減税あるいは設備投資に対する優遇を縮小するといった動きがございました。これは、むしろ、企業の積極的な行動、リスクテークといった点から見て、それを抑制させかねないという意味では、逆行しているということさえ考えられます。
 したがいまして、今後、来年度以降の予算編成、あるいは補正予算が万が一必要になった場合には、単純な法人税の減税といったものではなく、設備投資減税といった点で企業の前向きな行動を後押しするといったことが非常に重要になろうかと思っております。
 政府におかれましては、国民に大きな負担、痛みを強いることなく中長期的に財政再建を成功させるためにも、単純な財政均衡を志向するのではなく、今の日本経済の資金の流れに沿った形で、短期的には損はしますけれども、長期的に得をするといった政策を立案し、実行していただくことを希望するものであります。
 その結果、短期的には財政赤字が膨らむことがありましても、民間企業の投資、これを喚起することができましたら、中長期的には、景気後退を招くことなく財政赤字を抑えることができるようになるのではないかというふうに考えております。
 私の方からは以上であります。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 佐々木雅也

speaker_id: 27790

日付: 2011-02-22

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会