小塩隆士の発言 (社会保障と税の一体改革に関する特別委員会)

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○小塩参考人 おはようございます。一橋大学経済研究所の小塩と申します。きょうはどうぞよろしくお願いいたします。
 私は三つのことを申し上げます。一番目は、今回の一体改革あるいは消費税率の引き上げをどういうふうに考えるのかという点であります。二番目は、消費税の問題点としてよく指摘されます逆進性をどういうふうに考えるのかという点です。それから三番目は、もう一つ消費税の大きな問題点として指摘されることが多い消費税引き上げのデフレ効果をどう考えるのかという点であります。
 お手元に参考図表という横長の図表をお配りしておりますけれども、それに基づいて簡単に御説明いたします。
 まず一点目ですけれども、今回の一体改革あるいは消費税率の引き上げをどういうふうに考えるのかということです。
 そこで、まず図一をごらんください。
 ここで二つの点が確認できると思います。この図を見ていただきますと、この二十年間におきまして、社会保障給付が拡大傾向を見せているということがわかります。そのほとんどは高齢者向けの社会保障給付の増加で説明することができる、これがわかります。そのほかに重要な点がございまして、この上の方を見ていただきたいんですけれども、税や社会保険料がどういうふうに推移したかというのを見ますと、この二十年間でほぼ横ばいで推移しているということです。この間にはインバランスが発生しているということなんですけれども、そのインバランスは、それにほぼ対応するような形で、財政赤字を生み出しているということであります。
 これは一体何を意味するのかということなんですけれども、要するに、私たち国民は、高齢者向けの社会保障給付の増加分を、私たち自身で負担するというのをいわば拒否して、次の世代に先送りするというふうな選択をしてきたということであります。これは非常に重要なことでありまして、例えば、私たちの子供たち、孫たち、あるいは将来生まれてくる子供たちがどういうふうに私たちの判断を評価するのかというのは、改めて考えておく必要があると思います。
 ただ、負担の先送りを反映する財政赤字が発生したとしても、それをファイナンスするために政府が国債を発行したとしてもですけれども、私たちがその分だけ次の世代の人たちのために貯蓄をふやしているのであれば、将来世代の人たちはその貯蓄を取り崩して将来の増税に備えることができますので、特に問題は発生しない、ツケは将来世代に回らないということなんですけれども、そこで図二をごらんください。
 これは日本の国全体の貯蓄をまとめた図でございます。日本全体の貯蓄というのはどういうふうにとらえるかということなんですけれども、家計、それから企業だけじゃなくて、政府の貯蓄も含めております。政府の貯蓄というのは、税収や社会保障の収入から経常的な経費、社会保障給付等々も入っておりますけれども、それを差し引いたものであります。その国全体の貯蓄を計算しようということですね。さらに、今まで企業あるいは政府が積み上げてきたいろいろな設備や資本ストックのメンテナンスのために必要な減価償却、経済学では固定資本減耗と申しますけれども、それを差し引いたネットのベースの貯蓄を見ております。
 これを見ていただきますと、一九九〇年ぐらいをピークにいたしまして、その後、日本の貯蓄は明確な減少傾向を示しております。現在では、このような形で捉えた貯蓄はほぼゼロになっているということですね。私たちは、今や、将来世代に残すべき大切な富にもどうやら手をつけ始めているというふうな状況です。
 こういうふうな状況のもとで現在の一体改革とか消費税率の引き上げを考えてみる必要があるというふうに思います。消費税率の引き上げというのは非常に私たちにとってつらいことなんですけれども、将来世代に負担の先送りをするという私たちの行動に一定のブレーキをかけるというふうな意味がありますので、それ自体は私は肯定的に評価してよいというふうに思います。
 ただ、ここで注意していただきたいんですけれども、今回想定されている五%ポイントの税率で社会保障の給付を大幅に拡充する、現行制度よりも立派なものにするというところまで言えるかどうかというのは、私はちょっと疑問がございます。
 そこで、図の三をごらんください。これは、政府が一体改革を説明する際に、五%ポイントの消費税率の引き上げの使い道を説明するときによく用いる資料というふうに伺っております。
 現行の社会保障制度は、もともと、基礎年金の国庫負担の比率を引き上げる等々に代表されるように、五%ポイントの消費税率の引き上げを想定してでき上がって、それで走っているということですね。ですから、今回、仮に五%消費税率が引き上げられたとしても、ようやくその財源的な裏づけができたということにとどまるわけでありまして、これで全然これから何もする必要はないというわけでは決してないということですね。
 今回の改革をさらに一歩進めて、高齢者向けの社会保障給付をさらに拡充したり、あるいは、若い人たち向けの社会保障給付を拡充するということを目指すのであれば、追加的な負担というのは私は必要になるのじゃないかと思います。逆に、消費税率の引き上げはもうこれでおしまいだということであれば、社会保障給付についてはある程度の圧縮は避けることはできないというふうに思います。
 こういうふうに、社会保障や税のあり方をどういうふうに考えるのか、大きな政府と小さな政府のどちらを選ぶのかという選択は、むしろ一体改革の後に私たちが直面する問題だろうというふうに思います。
 今回の一体改革は、私たちがそういう少子高齢化に立ち向かう改革を進めるためのいわば発射台をつくる作業であるというふうに思います。今までは発射台すら存在しませんでしたので、この作業は非常に重要だというふうに思います。
 とはいっても、消費税には大きな問題があるということです。その問題をどういうふうに考えるのかという点についてお話を進めます。
 一点目は、消費税の持っている逆進性の問題ですね。所得の低い層ほど負担が大きくなるということなんですけれども、それが一体どの程度かというのを図の四で御説明したいと思います。
 これは、総務省の家計調査に基づきまして、所得階級別に、いろいろな税や保険料の負担がそれぞれの家計にどれだけの重みを持っているのかというものを調べたものであります。全部で日本の家計を十に分けまして、所得の低い層から高い層に並べたものであります。
 ここで、消費税の負担はどれぐらいなのかと見ていただきますと、ちょうど真ん中辺に黒い太い枠で囲ったところがそれに対応いたします。ここからもわかりますように、現行の消費税五%でも、低所得層ほど負担が重くなっているということです。具体的に見ますと、第一分位、一番所得が低い層で四・八%、一番所得の高い第十分位で三・二%となっておりますから、一・六%ポイントの逆進性が発生しているということであります。
 しかし、この程度の逆進性は、その上の方にあります所得税とか住民税でかなり相殺できるというふうに考えていいのではないかと思います。さらに、負担だけじゃなくて、下の方に書いておりますけれども、給付を私たちは受けているということです。その社会保障給付を見ますと、所得の低い層ほど厚くなっているということになりますので、全体として見ますと、消費税の逆進性というのは、よく言われているほど問題にする必要はないんじゃないかというのが私の印象です。
 ただし、消費税を一〇%、二〇%と引き上げていけば、もちろん逆進性の問題は今以上に重要になってくると思います。ただ、その場合でも、そのほかの手段、ほかの税や保険料のあり方、あるいは給付のあり方を見直すことによって十分対応できるレベルではないかというふうに思います。
 この点に関連いたしまして、食料品や生活必需品の税率を低目にしたらいいんじゃないか、いわゆる複数税率化を主張する向きもあります。私は反対です。といいますのは、複数税率化が公平性の追求という政策目的から見て効果的でないというふうに思うからであります。といいますのは、食料品や生活必需品に対する税率を低くしても、そのメリットは、所得の低い人に限定的に発生するんじゃなくて、所得の高い人にも発生して、余計な効果が発生するということですね。
 ですから、複数税率化というのは、公平性の追求という点から見ると、余りいい政策とは言えないということです。
 むしろ、所得の低い方々に対する支援という点では、給付つきの税額控除というふうな形で、ターゲットを絞って、より重点的に支援するという方が効果的です。この点は、日本だけじゃなくてイギリスでも問題になっております。ノーベル経済学賞を受賞した有名な経済学者、マーリーズという先生がいらっしゃいますけれども、その先生の出しましたマーリーズ・レビューという報告書がございます。その中でも、複数税率化をするんじゃなくて、直接、所得の低い層に支援する方が効果的であるというふうな議論が展開されています。
 それから、二番目の消費税率引き上げの問題点といたしまして、デフレ効果をどう考えるかという点があります。消費税を引き上げると、ただでさえデフレで困っているのにさらにデフレになるのは困ったことだ、やめた方がいいというふうな議論があるわけですね。
 それに対して私たち経済学者は、前回の消費税率引き上げのときのデフレ効果は余り大したことはなかったです、あるいは、財政赤字の削減で将来不安が払拭されて、それで消費がむしろ上向くんじゃないかとか、あるいは、五%から段階的に消費税率を引き上げることによって、むしろ駆け込み需要が発生するからいいぞというようなことを言うわけですけれども、一〇〇%額面どおり受けとめる必要はないというふうに思います。消費税率の引き上げは増税ですから、デフレ効果が発生するのは当然のことであって、それに目を背けるというのは無理な話であります。
 ただ、そうはいっても、今までと違いまして、消費税率の引き上げとか財政収支につきましても、短期的な景気の話という次元で捉えるだけじゃなくて、もう一つ違う次元で捉える必要があるんじゃないかということです。それは、世代間の公平性を追求する、世代間の利害調整を考えてみるという視点だと思います。
 確かに、消費税率を引き上げますと私たちは困るわけですね。今いる世代の人たちは非常に困ったことになるわけです。ただ、その一方で、負担の先送りを軽減される将来世代の人たちはメリットを受けるわけです。逆に、私たちが、消費税率の引き上げは嫌だ、むしろ景気を浮揚してほしいというふうに政府にお願いして公共投資をふやしたら、それだけさらに国債残高が高まって、その償還財源を増税で将来世代は引き受けなければいけない。また、インフラのメンテナンスのためにコストがかかるということですね。
 というふうに、財政収支の問題とかあるいは増税の問題というのは、世代間の公平性の追求という点から考える必要があると思います。
 こういうふうに考えることは、人口が増加傾向にあれば全然なかったわけです。子供がどんどん順調にふえていけば、その人たちが私たちの負担をちゃんと処理してくれた。全然問題はなかったわけですけれども、子供たちの頭数がどんどん減っていくということになりますと、なかなかそういう負担の先送りというのは難しくなるんじゃないかというふうに思います。
 そういうふうに考えますと、それ以上の負担の先送りをやめるためにも、それから社会保障制度の根底を揺るがせないようにするためにも、ある程度の負担の引き上げというのは、私たち、今いる世代の人たちは引き受けざるを得ないんじゃないかというふうに思います。
 その一方で、真に困っている人たちに対して重点的に支援を行うということ、それから民間企業のインセンティブを高める、ダイナミズムを高めるというふうな政策を別途行うというふうな、一種の共同戦線を政策で張ることによって一体改革を進めるということが重要ではないかと思います。
 以上で私の説明を終わります。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 118004401X01720120608_002

発言者: 小塩隆士

speaker_id: 11247

日付: 2012-06-08

院: 衆議院

会議名: 社会保障と税の一体改革に関する特別委員会