五十嵐敬喜の発言 (社会保障と税の一体改革に関する特別委員会)
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○五十嵐参考人 おはようございます。五十嵐でございます。
私は、きょう、社会保障と税の一体改革の一環として検討されております消費税率の引き上げをめぐる論点の幾つかについて、日ごろマクロ経済の分析に携わっている者として、所見を申し述べたいというふうに思います。
私だけお土産を持ってまいりませんでした。申しわけございません。それと、箇条書きのメモでお話をしようと思っているうちに、だんだん膨らんでまいりまして、原稿を読むような形になろうかと思いますが、ここもちょっと御了承いただきたいと思います。
初めに、財政の健全化を図る上では、今年度で九十兆円にも上る歳出というのは、当面八十兆円強ぐらいに削減することが望ましいとはいたしましても、我が国で高齢化が急速に進行していることを考えますと、中期的には歳出がある程度増加していくということは避けがたい、こういうふうに思います。したがいまして、より一層重要になってくるのが歳入を増加させることでありまして、そのためには、もちろん経済が成長して税の自然増収が実現することが最も望ましいということは言うまでもありませんけれども、常に理想論を唱えるだけではなくて、より現実的な道として増税を模索する必要もあるんじゃないか。
実際、名目GDPを見ますと、二十年前に比べて、むしろ今の方が低いというような状況もあるし、ここ何年にもわたって日本経済がデフレから脱却できないでいるということも踏まえますと、増税も選択肢だろう、こういうふうに考えます。
そこで、次に増税の形態について申し上げたいと思いますが、どんな形で増税するかについては、今後とも少子高齢化が進んでいくということ、つまり労働力人口が数でいっても比率でいっても下がっていくということを考えますと、消費税への依存度を高めることというのは十分正当化できるのではないかというふうに考えております。
その場合、本来であれば、増税の目的の第一は財政の健全化であるべきでありまして、初めから歳出に充当することを約束して大型の増税をするのは望ましいことではないというふうに思います。とはいえ、それでも消費税を社会保障の目的税にせざるを得ないということであれば、現在は別の財源から社会保障に充当している分が消費税を持ってくることによって浮くわけですから、その分を国債の発行額削減に充当すべきであろうというふうに考えます。つまり、消費税の社会保障目的税化が別の歳出をふやす隠れみのに使われないようにすべきであるというふうに考えております。
また、一体改革の必要性というのは税体系全体についても言えることでありまして、将来、消費税を一〇%超に引き上げることを検討する際には、税体系全体でどうするかという中で考えるべきであろうというふうに思います。
次に、消費税増税と景気や物価との関係について申し上げます。
消費税増税で景気が悪化するということにつきましては、引き上げ前の駆け込み需要と引き上げ後の反動減によって景気が波を打ってしまうということを除きますと、全体としては私は余り大きくないというふうに考えております。
消費税八%経済と消費税五%経済というものを比較したときに、八%経済の方が成長率が低くなるということは言えないと思います。もしそれが言えるというのなら、消費税に相当する付加価値税率が二〇%近い欧州各国は成長なんかできない、こういうことにもなろうかというふうに思います。
消費税収がそのまま歳出に振り向けられるとか、あるいは家計が消費税の負担を毎月の貯蓄額を削減するというような形で対応するということであれば、マクロ的には景気への悪影響は極めて軽微なものになるのではないかというふうに考えます。
もちろん、一般論としましては、消費税の増税によって消費者物価が上昇する、一方で、家計の収入が見合って増加しないということであれば、実質可処分所得が減少して消費が下押しされるというのは間違いないわけでありまして、この点につきましては、機械的に概算いたしますと、消費税が三%上がると消費者物価は二%程度上昇する、結果として、GDP成長率が〇・五%弱低下するのではないかというふうに私どもは計算しております。
デフレのもとで消費税を引き上げてもいいのかという問題もあるわけですけれども、この点について特段の問題はないと考えております。一般論として、価格支配力に乏しい中小企業にとっては消費税を価格転嫁できないじゃないか、こういう指摘もあるわけですけれども、転嫁が難しいかどうかと経済の状況がデフレかデフレでないかということは直接の関係はないというふうに思います。逆に、インフレのときだったら転嫁はしやすいのかといえば、必ずしもそうとは言えないわけですから、直接の関係はないと考えております。
景気のよしあしと消費税増税のタイミングをどうするのかということにつきましては、これは事前にうまく調整することはおよそ不可能であるというふうに考えます。例えばリーマン・ショックのように、経済が著しく大きな危機に直面するというようなときは別としましても、消費税の引き上げというのは私は淡々と実行すべきであろうというふうに考えております。
次に、国民負担の問題を申し上げます。
マーケットは、我が国の増税余地はかなり大きいと考えているというふうに思います。実際、我が国の税負担というのは諸外国と比べますとかなり低い。租税収入の対GDP比率をOECD三十四カ国の中で比較しますと、我が国の比率は、二〇〇九年ですけれども、メキシコに次いで下から二番目だ、極めて低いという事実があります。
さらに、租税収入に第二の税と言われます社会保険料を加えたいわゆる国民負担額、これの対GDP比率ということで比較いたしましても、低い方から七番目、上からだと二十六番目ということでありまして、国際比較において我が国は国民負担率が低いので、逆にその増加余地は相当大きいというふうに特にマーケットは考えているというふうに思います。
私は消費税の増税は必要だと考えておりますが、一方で、リスクもあるなというふうに考えております。
そのリスクは何かといいますと、巨額の税収入が入ってくるわけですけれども、それが結局歳出の増加に全部吸収されてしまって、結果として財政の健全化が全く進まないというような事態になってしまったら怖いということであります。
それから、名目GDP成長率が期待どおりに上昇しないというようなことになりますと、自然増収も十分に得られませんし、プライマリーバランスの対GDP比率、これが消費税を一〇%に上げれば半減するという見通しですけれども、これが達成されない、大幅に未達に終わるというようなことになりますと、これはマーケットを相当深く失望させることになって、レッドカードを突きつけられるというおそれもあろうかというふうに思います。
そこで、次に、消費税をめぐるマーケットの反応について申し上げます。
消費税を増税しても財政の健全化が進まないというようなことがもし起こった場合には、日本国債の大幅な格下げというのは必至だろうと思います。ただ、そのことが国債価格の暴落を引き起こすかどうかは、これはわかりません。我が国の国債保有構造というのが圧倒的に金融機関に偏っているという、そのことがむしろ暴落を防ぐ可能性もあろうかというふうに思います。
しかし、市場が突きつけるレッドカードの中身、もう一つとしましては、為替市場で円が大幅に下落するという可能性も十分あるだろう。為替は世界じゅうの誰でも売り買いできる、こういうものですから、マーケットがここにレッドカードを示してくる可能性があると思います。
市場としましては、我が国では、五%を一〇%に上げて財政の健全化が進まなかったのなら、一〇%を仮に一五%に上げたってそれは無理だろうと。つまり、よほど、追加的に入ってくる税収を全て皆さんに還元しますとでも言わない限り、一〇%超の消費税率の引き上げは実現しないだろう。とすれば、この日本という国では、消費税を幾ら引き上げても全て歳出に回ってしまって、健全化が一向に進まないというふうにマーケットに受けとめられてしまうと、これは非常に危険だろうというふうに考えております。
最後に、では、円が大幅に下落したらどうなるのかということを申し上げたいと思いますが、ドル高やユーロ高の裏腹としての円安ではなくて、円が売られての円安というのは非常に危険だというふうに思います。これは、下手すると、国内でハイパーインフレが発生するということですけれども、一部には、このハイパーインフレこそが国債という大借金の究極の解決策だ、こううそぶく人もいるわけですけれども、これはもう全くの誤解である。
例えば、消費者がガソリンを購入することを考えますと、インフレによって、同じ量を買うにしても、消費者は以前より相当多い支出をしないといけないわけですけれども、追加的に払った分は誰の懐に入るのか。国内の誰の懐にも残らないで、全て産油国に行くわけです。輸入物価が上がったせいで国内で起こったハイパーインフレで、消費者が余計に払ったお金は全て海外に出ていく。つまり、日本国民は貧乏になるわけでありまして、貧乏になったときに借金の返済負担が軽くなるはずはないわけです。
一般に、インフレが借金の返済負担を楽にするというのは、インフレにはあと二種類あるわけでありまして、一つは、需給インフレといいまして、景気が過熱して物不足で起こるインフレ、もう一つは、賃金インフレ、賃金が何かの理由で上がって、これが価格転嫁されて起こるインフレ。この二つのインフレは、消費者が余計に払ったお金は国内の誰かの懐に残りますので、これは物価が仮に倍になっても給料も倍になる類いのインフレで、その場合には借金の返済負担は楽になるわけですけれども、日本で近い将来ハイパーインフレが起こるとしたら、それは景気が過熱したせいでしょうか、賃金が暴騰したせいでしょうか。まずあり得ないわけでありまして、恐らく円が暴落して起こるハイパーインフレである。この場合には、みんなが貧乏になるわけで、そんなことで借金問題の解決なんかは全くできない。
つまり、最も避けないといけないシナリオでありますけれども、それはどうして起こるかというと、消費税を増税して大幅な税収を得ておきながら、財政の健全化が全く進んでいない、こんな事態が引き起こされることだけは何としても避けないといけない、こんなふうに考えております。
以上でございます。(拍手)