小野正昭の発言 (社会保障と税の一体改革に関する特別委員会公聴会)
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○小野公述人 本日は、お招きいただきましてどうもありがとうございます。みずほ年金研究所の小野と申します。
私は、社会保障の専門家でも経済学者でも税の専門家でもございません。長年、アクチュアリーあるいは年金数理人という立場から企業年金にかかわっておりまして、その関係で、数理的論点から公的年金に関心を持つ者でございます。
さて、二十一世紀に入りまして、日本の公的年金の改革の議論は、スウェーデンの一九九八年改革を強く意識してきました。私も二〇〇二年ごろからこの改革に興味を持ちまして、現在でも、同国が公表しております公的年金制度の年次報告でありますオレンジレポートを毎年拝読しております。
本日は、日本の年金改革議論につきまして、数理的な面を交えて意見を申し述べたいというふうに思っております。
実は、スウェーデンを調べ始めた当初でございますが、私も、同国の制度というのは非常に魅力的だというふうに考えました。これが日本に導入されればすばらしいとも思いました。しかし、よく考えてみれば、公的年金制度というのは、現役の労働者が引退者に対して適正な水準の引退給付を分配する機能であるということが言えます。スウェーデンの制度改革に関して、オールドワイン・イン・ニューボトルズというふうに評価した学者がいるということを聞きました。つまり、外見が変わっても本質は変わらないということかと思います。
スウェーデンの制度の導入の適否を判断する要素の一つは、両国の人口構成や人口推計の違いだというふうに思います。
まず、三ページの図一をごらんください。
これは、二〇一〇年時点の両国の人口及び五十年後、百年後の人口推計の結果を示したものです。縦軸が人数で、横軸が年齢です。人口構成は、年少人口、生産年齢人口、老年人口に分けてあります。
ごらんいただければおわかりのとおり、日本の人口は猛烈な勢いで減少しますが、スウェーデンはそうなっておりません。この違いは、両国の出生率と移民の違いというふうに思います。日本の合計特殊出生率は一・三五、スウェーデンは、この時点では一・八〇とされておりました。
出生率と死亡率が一定ならば、人口構造は安定的に推移します。各時点で想定している安定人口を折れ線グラフで表示してありますが、これを総人口をそろえて比較したものが、下にあります図表の二でございます。いかがでしょうか。
今申し上げた内容を数値でお示ししたのが、一ページにお戻りいただきまして、1の(1)でございます。
公的年金の設計を議論する際に、私たちは諸外国に比べてこのような厳しい予算の制約条件が課されているということを御認識いただかなければいけないということでございます。
老齢給付のコストだけを純粋な賦課方式で評価いたしますと、そこに書いてございますとおり、さまざまな要因というのはありますが、スウェーデンの半分程度の給付水準にしかならないということになります。
現在は、積立金があることとか、いきなりこの状態になることはないという意味では、実際にはこのとおりにはならないわけですけれども、ただ、申し上げたいのは、スウェーデンの制度を模倣しようとしても、財政的観点から見ただけでも、それはスウェーデンと同じには運営できないということです。
また、従属人口指数には老年人口指数ほどの差がないという意味では、この議論は年金だけに限ってするべきではないということも一つの示唆かと思います。
いわゆる民主党案の検討に際して手がかりになるのは、昨年五月に提示されたと言われております新年金制度の財政試算のイメージ(暫定版)というものでございます。
ここでは、平成二十一年財政検証の基本ケースと同じ前提によると、所得比例部分では、賃金上昇率から人口減少率の約三割を差し引いた率がみなし運用利回りであるという結果が出ております。甘いと言われております積立金の運用利回りを四・一%から慎重シナリオの三・七に下げますと、みなし運用利回りは、賃金上昇率から人口減少率の五割を差し引いたものということになります。
最低保障年金に関しましては、各報道で取り上げられましたので改めて申し上げませんけれども、総じて、給付が低下する一方で、必要な消費税は現行制度を継続した場合よりも増加するという結果だった、非常に魅力に欠けるものだったのではないかなというふうに思います。
私には、そこまでして最低保障年金を導入する意義が理解できないというふうに思っております。まずは、現行制度の適用拡大であろうというふうに思います。
現行制度において提案されている無年金者あるいは低年金者対策というのは、最低保障年金、いわゆる民主党の新しい年金制度というのを強く意識したものであろうかと思います。
この提案というのは、防貧機能を担う公的年金制度に救貧機能を付加するものでありますけれども、その結果として、自助、共助という意識が損なわれることはないでしょうかというふうに思われます。
年金の受給資格の短縮は、四十年の期間のうちの三十年が未納という一種違法な期間である、その場合でも受給資格は与えるというようなことだというふうに理解しておりますが、参考とされた米国を初め諸外国の公的年金は、総じて皆年金ではございません。免除制度がある日本の皆年金のあり方を、こうした比較で行うというのはいかがなものかというふうに考えております。
七万円年金のためにされる福祉的加算の要件でございますが、これは必要な人に支給されるようになっているんでしょうか。また、付加保険料でありますとか国民年金基金あるいは個人型確定拠出年金といったような、さまざまな自助努力に対応するようなものの拠出意欲を減退させないのでしょうか。
六分の一加算というのは、満額拠出していたものの免除を助長させるというか、こういったようなことがかつての運用三号問題、この部分に限ってそういったものになりはしないでしょうかということを考えます。このようなことを考えておりますと、救貧を組み込むことには若干無理があるように思います。
さて、ここからは完全に数理的ではありますが、非常に主観的な意見でございます。
毎年スウェーデンの年次報告を眺めていまして、最近しみじみと思うのは、資産というのは一体何だろうということでございます。
スウェーデンの公的年金のうち、賦課方式で運営する部分については、貸借対照表をつくってしまって、これを運営の検証に使用しております。
図表の三をごらんください。
負債は、過去の被保険者期間に基づく将来の給付の現在価値ですので通常の概念ですが、一方、資産側は、APファンドと言われる実際の積立金はほんの一部でございまして、バランスシートのうち大半は保険料資産という仮想的な資産でございます。実体があるわけではございません。
時間の関係で技術的なことは申しませんが、なぜこのような資産を思いついたのか、その背景について私は非常に興味があるわけでございます。
会計上の資産の定義というのは、過去の経済的な取引に起因した経済的な便益を受ける権利だというふうに思います。公的年金制度は、保険料の拠出に基づく受益の権利を法律で定めています。したがって、被保険者には保険料拠出という経済的取引に基づく、分配を受ける権利があるというふうにみなされます。これは等価性を前提としたものではございませんけれども、被保険者や受給者から見れば対価性のある資産であり、計上可能とも考えられます。
年金の有無にかかわらず、生産人口が従属人口を支えていくという構造は変わりません。つまり、社会全体としてのコストはおおむね変わらないというふうに言えると思います。その上で、私的な扶養関係から発生する不合理とか不公正、こういったものを整理したものが公的年金制度でありまして、私は、社会の重要なインフラであり、国の財産であるというふうに思っております。日本はなぜ、公的年金という社会インフラを財産と考えて、積極的に評価しないんでしょうか。
レジュメに書いてあります議論は、こうした観点から、有益な議論と言えるでしょうか。
例えば、既に破綻しているという議論。
あるいは、年金記録問題という、どちらかというと管理運営の問題というのを制度設計の問題と区別せずに議論する、こういったこと。
あるいは、積立方式の発想で、積立金のみを用いた貸借対照表で債務超過を訴える議論。これは、図表四にございますとおり、厚生労働省の資料を加工しまして、厚生年金に五百兆円の債務超過がある、こういった議論でございます。
あるいは、世代間の公平性を社会保険の中だけの給付と負担の関係を比較した一面的な数字でもって評価する議論。
こうした議論に接した国民というのは、年金制度にどのような印象を抱くでしょうか。
社会保障制度は、国民に安心、信頼を提供する制度です。立法者が社会保障制度を議論する際、みずからの議論が国民からいかに受けとめられるか、こういったものについてぜひとも意識していただきたいというふうに思います。安心とか信頼があるからこそ、人々はさまざまな活動にチャレンジできるというわけです。きれいごとかもしれませんが、国民が社会保障を財産と考えることができるか否か、それがスウェーデンとの違いなのではないでしょうか。
社会保障制度を財産と思える国は豊かだと思います。たとえ超党派の会議ができたとしても、そこでの議論が党利党略に終始してしまえば、国は豊かになりません。
私は、社会保障制度に安心とか信頼を与えることというのが、全くお金のかからない、何よりの景気対策だというふうに思っております。
私の御説明は以上でございます。どうも御清聴ありがとうございます。(拍手)