田中善一郎の発言 (政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会)

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○田中参考人 東京工業大学の田中と申します。
 本日は、お招きいただきましてありがとうございます。
 先ほど、曽根参考人からは公選法を含めて広い観点からお話があり、また、加藤先生からは選挙制度一般についてのお話がありました。私は、端的に、十五分しかありませんので、衆議院選挙制度の改革はどうあるべきかについてお話しさせていただきたいと思います。
 論点は三つありまして、一つは、加藤先生とは必ずしも意見は一致しないんですけれども、小選挙区制度は民意を反映しない。第二点は、小選挙区比例代表並立制は、小選挙区制度の力が比例代表に及んで、実質的には小選挙区化に近づいているということ。第三は、民意を反映するにはやはり比例代表制度を考えていかなきゃいけない。この三点について簡単にお話しさせていただきたいと思うわけであります。
 まず第一点でございますが、小選挙区制は民意を反映しないという点であります。
 最近の衆議院選挙、先生方は既に戦っていらっしゃったわけでありますが、例えば二〇〇五年の総選挙で、得票率、これは、加藤先生の言う、とり過ぎた部分も含めてでございますが、政権党の自民党は、比例代表で三八%、小選挙区制で四八%ほどです。つまり、いずれも五〇%に達していないけれども、議席率は六二%という驚異的な議席率をとっているわけであります。また、二〇〇九年の民主党が勝利した選挙でも、民主党は、比例区では四二%、小選挙区では四七%。これも、いずれも過半数をとっていないにもかかわらず、六四%の議席率をとっている。つまり、簡単に言えば、過半数をとっていないにもかかわらず政権を掌握する。そして、民主党の場合ですとマニフェストを実行するということになります。
 つまり、これは、かつてアメリカ合衆国のフェデラリストのマディソンが言った、政党政治というのはいかに悪いのかということの中に、少数が多数を支配するということを言っているわけでありますが、まさにこうした状況が小選挙区制の最も大きな特徴であるというふうに私は思うわけであります。
 実際に、我が国の場合は、比例代表と小選挙区がまざった並立制という制度をとっているわけでありますが、先ほど加藤先生も言われましたが、純粋に小選挙区制をとっているイギリスを見ますと、一九四五年以降、何回か選挙が行われているわけでありますが、その中で政権党が過半数をとった選挙は一度もないわけであります。最低の場合、三五%で政権をとっている、こういうような事態が起きているわけでありまして、これは、そういう人たちが多数だというのはいかがなものかなと私は思うわけであります。また、反対に、二大政党のうち得票数が少ない方が政権をとった例が二つもあるわけですね。
 そういうように、この小選挙区制度というのは、いろいろな意味で問題を持っているというふうに私は思っているわけであります。
 それから、なぜまた今回小選挙区制が問題なのかといいますと、これは選挙を勉強している者には常識であるわけでありますが、小選挙区制というのは、いわゆる三乗の法則というのがイギリスの場合に働いているわけでありまして、基本的には得票率の三乗が議席に、詳しい話は省略させていただきますが、三乗の形で反映するということになります。ということは、国民のちょっとした気まぐれというものが拡大されて議席に反映されるということになるわけです。
 特に、最近の選挙を見ますと、マニフェスト選挙というふうに言われていますけれども、果たして本当にマニフェスト選挙が行われているのか、つまり、政策を吟味した上で国民が投票しているのかということを思いますと、私は必ずしも賛成できない面があるわけであります。
 例えば二〇〇五年の選挙、小泉さんが選挙をやったわけでありますが、そのとき、郵政民営化ということで、一応、わあっと自民党が大勝したわけでありますが、皆さん御存じのように、今国会では郵政の民営化は実質的にはやめたということになるわけで、ではあの選挙は一体何だったのかということになりますね。
 それから、二〇〇九年の選挙、これも民主党がわあっと政権交代を果たしたわけでありますが、去る四月二十八日のメーデーのときに、民主党の応援団長の一人であるところの連合の古賀会長がこう言っているわけですね、新しい政治の幕あけに期待した熱い思いは残念ながら冷め、失望や落胆に変わったと。
 果たしてこういうようなタイプの国民の選択がいいんだろうかという問題は、どうしても問わざるを得ないと思うわけであります。
 そうなると、こうした有権者のそのときそのときの気まぐれ、あるいは風と言ってもいいかもしれませんが、そういうものはなるたけ反映しないような選挙制度を考えていかなきゃ国民の民意が反映しないだろうと思うわけでありますね。その意味で小選挙区制というのはむしろ逆方向であるということで、やはり改めるべきであるというのが私の第一の考え方であります。
 第二は、小選挙区比例代表並立制は、小選挙区制度の力が比例代表に及んで、実質的には小選挙区制に近づいているという件であります。
 これは、新しい制度が実施されたのが一九九六年でございますが、それから既に五回選挙が行われているわけです。その中で、比例区それから小選挙区で第三党以下の政党がとった議席を調べてみれば、歴然たるものがあるわけであります。
 小選挙区のところでは、かつて、一九九六年には三十五議席、第三党以下がとっていたわけですが、前回はたった十五議席になっているわけです。小選挙区はそういうように、デュベルジェの法則でありますから、だんだんと二党制に近づいていくというのが一般に認められるわけでありますが、では比例区はどうなのかといいますと、比例区も、かつて、一九九六年には七十議席、第三党以下があったのが、先ほどの二〇〇九年の選挙では三十八議席へと減っている。つまり、ちょうど小選挙区に引きずられるような形で、比例区でも第三党以下のシェアがどんどん落ちているというのが認められるわけであります。
 これは既に学者の一部の先生は指摘しているわけでありますが、やはり選挙は地元でしっかりした足場がないと、比例区というのはどうしても地から離れた選挙のようになってしまう、地元に足場がないと勝てないわけですね。ですから、そうなると、結局は第一党と第二党がどんどん力を持っていって、比例区で第三党以下が互角に戦うのは大変難しいという状況になります。
 伝え承るところによると、共産党は前回は候補者を絞ったというふうに伺いましたけれども、次回の選挙にはまたふやしていくということを伺っております。多分そうじゃないかと思います。これが第二番目。
 第三番目は、やはり比例代表制度を採用しなきゃいけないのではないか、そういう結論になるわけであります。
 これは加藤参考人とはちょっと意見が違うわけでありますが、基本的には、加藤さんはアメリカとイギリスという二つの、いずれも小選挙区制を採用している国を例に挙げられたわけでありますが、ヨーロッパを見れば、小選挙区制をとっている国、しかも議院内閣制で小選挙区制をとっている国というのは、私の知っている限りはイギリスぐらいなものなのではないかというふうに思うわけであります。その他の国は、基本的には、有名な政治学者のサルトーリという人の言葉を使えば、穏健な多党制というものが支配しているというふうに見ることができます。
 ちなみに、私の手元に、一九四五年以後のヨーロッパの内閣の存続期間の平均を調べたものがあるわけでありますが、最も長い内閣の存続期間を持っているのはルクセンブルクであります。イギリスではありません。イギリスは二番目でありまして、次が先ほどありましたオーストリアであります。オーストリアは比例代表です。それからアイルランドという形になっています。ルクセンブルクが千百三十六日、英国が九百九十五日、オーストリアが九百三十三日、こういうような感じで、ほとんど大同小異なんですね。
 よく、比例代表になると小党分立になるから内閣はがたがたになるというようなことがあるわけでありますが、必ずしもそれは言えないわけで、制度というよりもむしろ風土というものが内閣の存続に影響しているのであるということをこれは示しているものだと私は思うわけであります。
 それからもう一つ、先ほど曽根参考人からもお話がありましたが、参議院との関係をどういうふうに見るかということであります。
 比例代表にしますと、多分、多数党、絶対多数をとる政党はない、衆議院も参議院もないということになります。そうなると、衆議院と参議院をまたいだ形で連立政権の構想というのを考えざるを得ない状況になるだろうと思うわけであります。つまり、そうなると当然ねじれは解消されるわけですね。政権ができたところでねじれは解消されるということで、現在のような二院制を前提としたところでは、むしろ、比例代表で絶対多数をとる政党が出てこない状態が望ましいのではないかというのが私のもう一つの論点でございます。
 もし、それでも少数乱立が心配であるというならば、例えばドイツが採用しているように、足切り条項、三%とか四%とか足切り条項をつければそれなりに乱立は防ぐことができるのではないかと思います。ちなみに現在のドイツは、私の知っている限りは、五つの政党が一応でき上がって政争に邁進している、そういう状況であるわけであります。
 それから、中選挙区制の方は全く評価されていなかったわけですが、中選挙区制もいい面もあるということはやはり常識でありまして、中選挙区制というのは、いわゆる学問的に言えば準比例制という側面もあるわけで、選ぶ方にとっては人と党を選ぶという非常にありがたい制度でありまして、加藤先生の言うように、もう古くなったから捨て去るべきものであるとは、私は必ずしも思っておりません。
 以上で私のお話を終わらせていただきたいと思います。(拍手)

発言情報

speech_id: 118004577X00320120523_006

発言者: 田中善一郎

speaker_id: 21257

日付: 2012-05-23

院: 衆議院

会議名: 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会