鳥畑與一の発言 (郵政改革に関する特別委員会)

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○鳥畑参考人 おはようございます。静岡大学人文社会科学部経済学科で国際金融論を担当しております鳥畑と申します。
 本日は、郵政改革という極めて重要な問題に発言の機会を与えていただき、まことにありがとうございます。
 サブプライム金融危機や日本国内の消費者金融問題、中小企業金融問題、さらにファンド問題にかかわってきた研究者として、時期を明示していないとはいえ、政府提案の郵政改革案で示されていた三分の一以上の株式保有による公共性の維持への歯どめもなくし、郵便貯金銀行、ゆうちょ銀行と郵便保険会社、かんぽ生命の金融二社の株式完全売却、すなわち民営化を行うという本法案の内容に大きな疑義を表明させていただきます。
 今回の改正案は、郵政改革素案で示された公共性の高い民間企業の概念に基づいて、日本郵政株式会社等に、郵便、貯金、保険のサービスをあまねく全国において提供するユニバーサルサービスの維持を図らせようとしています。しかし一方で、民間に委ねることが可能なものはできる限りこれに委ねることがより自由で活力ある経済社会の実現に資する理念が維持されたものになっています。つまり、市場原理主義が肯定されていた時期の制度設計が、二〇〇八年の、今や、大不況、グレートリセッションと呼ばれる百年に一度の世界的な経済危機によって市場原理主義の欠陥が明らかになった現時点においても維持されているのです。
 貯蓄から投資、官から民への資金循環の転換が、大きな経済的効率性をもたらし、実体経済を活性化するという想定は、今回、追加で配付資料を配らせていただきましたが、そこを後でまた見ていただければと思いますが、金融リスクが広範かつさまざまな投資家層に分担されることで、実体経済のフロンティア的な領域への資金供給が行われると同時に金融システムの安定性が強化されるということが根拠でした。ここでは、貯蓄、貸し出しという銀行中心の間接金融に対する直接金融の、そして公的金融に対する民間金融の優位が当然のものとされていました。
 しかし、二〇〇八年以降の世界的な経済危機の現実は、無規制の市場が想定どおりには機能せず、また、経済活性化の切り札とされた投資やデリバティブ等を駆使した金融取引が、実体経済を支えるという金融本来の役割とはかけ離れたマネーゲームの手段に変質してしまっていたことを赤裸々にしました。原発神話と同様に、市場原理神話が崩壊したと言えます。
 アメリカの大手格付機関の幹部が、金もうけのために悪魔に魂を売ったとメールで語ったように、アメリカの大手金融機関は、貸し出し等の債権を担保にした証券化を幾層にも繰り返して手数料を稼ぐという投機的な資産取引に傾注し、AIGなどの保険会社はクレジット・デフォルト・スワップと言われる保険機能を持ったデリバティブ商品の乱売や投機的な資産運用で利益を稼ぐことに血道を上げ、格付機関は債務担保証券等の複雑な証券化商品に高額の手数料欲しさにトリプルAを乱発しました。商業銀行が投資銀行化し、さらに投資銀行がヘッジファンドなどの規制外の金融グループと連携して投機的な金融取引に狂奔するといういわゆる影の銀行制度、シャドーバンキングシステムの肥大化の結果、世界的な金融危機が引き起こされました。
 私は、事前配付された小論稿の中で、郵政金融事業の民営化が、投機的な金融システムのもとでリスクの受け皿を投資家とりわけ家計部門に求める動きが背景にあり、それは実体経済の発展に貢献するものではなく、投機的な金融取引の肥大化と家計部門の損失拡大を招く危険性の高いものであると指摘しました。その後の世界経済の現実を見るとき、貯蓄から投資、そして官から民への資金循環の転換を進めれば、金融資源の適正かつ効率的な配分を通じて実体経済が活性化されるという郵政金融事業の民営化の前提が崩壊したことは明らかではないでしょうか。民間金融市場の暴走によって、経済は活性化するどころか、その巨額の損失が実体経済や家計、投資家に転嫁され、そのダメージから世界は立ち直れていません。
 ちなみに、アメリカの家計部門は、二〇〇八年から九年、一年間で約九兆ドルの家計資産を失い、四〇一kも巨額の損失をこうむって、いまだにその損害から立ち直れない状態であります。
 日本でも、金融グローバル化が進展する中で、民間金融の変貌と金融の社会的、公共的機能の後退に著しいものがあります。株主利益を最優先する米国型ガバナンスが浸透する中で、各金融機関は、欧米並みの短期的利益拡大を獲得することを、株価引き上げによるMアンドA防衛の観点からも強いられてきました。協同組織金融機関をも巻き込んだ効率性を重視した金融再編成は、金融機関の合併集中による金融ネットワーク縮小を招いてきました。
 そもそも日本の郵政事業の中で簡易な貯蓄と保険の事業が営まれてきたのは、どのような国民にもひとしく貯蓄と保険のサービスを提供することでその生活の安定と安全を保障しようとするものでした。グローバル化と格差拡大が進む中で、むしろこの郵政金融事業が持つ金融包摂の機能強化が必要なのであり、この領域での民営化は、逆に、金融サービスを受けるというナショナルミニマムを後退させ、金融排除のもとでの金融的被害を拡大するものと考えます。
 金融事業の民営化は、本来、範囲の経済性を発揮すべき事業を分割するという、経済的合理性に反したものになっています。この上で株式会社としての収益性を高めるためには、この間の民間金融機関の金融再編成に見るように、雇用と店舗削減等による規模の経済性を高めるしかなく、これはユニバーサルサービスと両立し得ないものです。
 また、グローバル化の中での外資系金融機関の参入は、短期的利益最優先への金融の変質を促進したのであり、金融労働者の労働条件ばかりか金融サービスの劣化を招いたという事実を直視する必要があると考えます。
 外資系金融機関のビジネスチャンス拡大の視点が強調される場合、民間市場の規制緩和が消費者の利益を最も増進することが前提されていますが、民間保険会社の利益最優先は、入り口での金融排除を生み出す一方で、変額保険や確定拠出年金での利用者の被害拡大を招く危険性を高めます。保険会社は資産運用での利益極大化のため投機的資産運用を拡大しているのであり、それは安心を保障するという保険機能の自己否定を結果するものです。
 国民の共同財産としての郵政事業、とりわけその金融資産を守りつつ、その資源を有効に活用するためには、短期的な利潤原理ではなく、中長期的な視点での社会的価値をも生み出すソーシャルビジネスまたは非営利の金融事業としての展開が求められていると考えます。
 郵政金融事業の民営化のメリットの幻想が明らかになる中で、今郵政事業の民営化に固執する必要はあるのでしょうか。むしろ、二百九十兆円近い資金を保有する金融二事業の民営化は、日本の財政における国債の安定供給、消化の安定性を弱めるものとなります。欧州財政危機に見るように、極めて不安定な国際金融環境のもとでは、財政健全化が進むまでは安定的な国債消化体制を堅持し、そして日本国債中心での運用で国民の零細な貯蓄資金を守っていくべきではないでしょうか。また、世界的な超金融緩和状態での民間市場への資金還流は、実体経済を支える金融強化の効果はほとんどなく、マネーゲームに拍車をかけることになります。今や民営化のデメリットがますます高まっているのではないでしょうか。
 この郵政民営化見直しの後退が、成長戦略の名のもとにおける構造改革路線の復活、そしてTPPによる金融サービス領域における非関税障壁の撤廃の方向を反映し、かつ外資系金融機関のWTO、サービスに関する一般協定を根拠にした対等な競争上の実現という一層の市場開放、すなわちビジネスチャンス拡大の圧力を優先したものとするならば、百年に一度の経済金融危機から日本は何も学んでいないと言わざるを得ません。今問われているのは、庶民の金融資産、その安心と安全の仕組みをどう守るかということであって、外資系を含めた大手金融機関のビジネスチャンス拡大をそれに優先させてはならないことを最後に強調して、発言を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 118005258X00320120410_008

発言者: 鳥畑與一

speaker_id: 1906

日付: 2012-04-10

院: 衆議院

会議名: 郵政改革に関する特別委員会