樋口美雄の発言 (国民生活・経済・社会保障に関する調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(樋口美雄君) 慶應大学の樋口でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 私の専門は労働経済学というものをやっておりますので、その経済学の視点から、この雇用問題あるいはセーフティーネットの問題ということについてお話をさせていただきたいというふうに思います。
 ただいま後藤委員の方からお話ありましたように、非常に日本社会、いろんなところで問題を抱えているということでございますが、その問題の現象の背景に一体どういうことがあるのか、そしてそれに対する対策をどうしたらいいのかということについてお話をできればというふうに思っております。(資料映写)
 今、日本の失業率というものがこちらのスクリーンに出ておりますが、皆様のお手元にもこちらの画面は配付しておりますので、それを御覧いただければというふうに思います。
 日本の失業率、上の方にございますグラフの一番下のところに黒い線が引かれているものがあります。これを見ますと、現在四・二%の失業率だということで、かつては二%台の失業率でございましたので失業率上がったなというような印象は拭い切れないわけでありますが、ただし、ほかの国と比べたらどうなんだろうかということを見ますと、明らかに、アメリカに比べましても、あるいは好調だというふうに言われているドイツに比べても、依然としてこの失業率は低いというようなことがございます。
 ただ、この失業率見て御案内のとおり、例えば一九九八年、ここから失業率というものが大きく変化するようになってきたというような特徴がございます。労働経済学ではこの九八年が労働市場のどうも大きな転換点であったんではないかというふうに言われるわけでございまして、九八年といいますと、タイのバーツの問題ということで言われましたような国際的な、特にアジアの通貨危機といったもの、ここからグローバル化の進展、特に資金面における、金融面におけるグローバル化といったものが進展する中において、日本の企業行動も大きく変わり、また国民生活も大きく変わってきたというふうに思います。その状況の中においても依然として低い失業率を維持することができているという、これは看過することができない点ではないかというふうに思います。
 ただし、その背景において、失業率を低く抑えるためにいろんなところで犠牲が逆に払われているわけでございまして、その点についてセーフティーネットをどう考えていくのかというような問題があるんではないかということであります。
 このまず大きな要因、構造的要因というふうに私ども言っておりますが、そこで考えなければいけないのは、今、後藤委員からもお話ありました、一つは少子高齢化の問題。この少子高齢化の下において持続可能な経済社会と社会保障、これをどう考えていくのかというような問題。そして二番目に、単に人口が減少するとかあるいは高齢者が増えるというだけではなく、一方においてグローバル競争といったものが存在する。これが同時に起こっていくという中においてその問題が起こっているんではないかというふうに思います。
 しかし、では、グローバル化を止めればいいかというと、決してそんなことはございません。グローバル化の活用の仕方によっては逆に日本にも大きなプラスになるということでございますので、そういったものを国民の豊かさにどうつなげていくのかといった視点が重要かなというふうに思います。
 まず最初、少子高齢化のところでございますが、将来に向かって、今いる一億二千万強の人口が二〇六〇年になりますと九千万人を割りますということですから、相当の数減少します。同時に、今度は高齢者が増えて若者が減るというようなことになる。人口構造も変わるんだということでありますが、ある意味ではもう既にそういったことは起こっていると。
 では、その起こっているところで何が起こっているんだろうかということでございますが、過去十年間振り返ってみますと、日本の生産年齢人口というふうに言われています十五歳から六十四歳の年齢層、ここのところが五百三十四万人既に減っているというような事実でございます。誰が生産年齢人口というふうに呼んだのかと、六十五歳を過ぎたって働くことはできるじゃないかというふうに多くの方は思っておりますが、一応、国連の方でこういうふうに定義しておりますので、ここでは使いますが、六十五歳を過ぎても働くことができるということであれば、これは生産に貢献するということでございますので、少子高齢化の影響を少しでも和らげることができるというふうに思います。
 一方、労働力人口、これは十五歳から六十四歳の中でも働こうというふうに思っていない人もいます。例えば学生、高校生あるいは大学生というのは、これは多くの者が非労働力人口というふうになりますので、今申し上げます労働可能でありあるいは働こうという意欲、意思を持っているというような人から除かれていく。あるいは専業主婦といった人たちも、働いていないわけでありますから、ここから除かれていくということで、労働力人口に限定して見ますと、この十年間でそれが二百五十六万人減っていますということであります。
 かつてに比べて、この二百五十六万人分、実は失業が減っているんですというような見方もできます。もしかつてのような人口の伸びといったものがあれば、これだけGDPが低い水準がずっと続いている中においても低い失業率に抑制している要因、その一つがなくなってしまうという可能性がございますので、今後の経済の運営の仕方によっては、やはり少子高齢化によって人手不足といったものも起こってくる可能性があるんだというのは念頭に置かなければいけないんではないかというふうに思います。
 しかし、その一方で、足下を見ますと、人手不足どころか、こんなに労働力人口が減少したのに就職難ですというようなことで、逆に、ある意味では企業の採用意欲の方も減ってしまっている。これも、もしかしたら少子高齢化等へ関連しているかもしれない。要は、現役世代、給与所得者でありますから、その人たちが減少することによって、たとえ年金による高齢者が増えても消費は減ってしまうというような、結果的に内需が減少してしまうということになりますから、供給の方も減り、なおかつ需要の方も減りますというような、いわゆる縮小均衡に陥ってしまう日本経済の可能性もあるんだと。これをどういうふうに回避していくのかというのが私どもに課せられた大きな課題ではないかというふうに思います。
 要は、働きたいという人たち、その人たちがやっぱり意欲、能力を発揮できるような社会、しかもそれをまた雇い続けることができるような、そういった社会といったものをまさに持続可能というような社会というふうに私は定義できるんではないかというように思います。
 その中で、では、グローバル化で何が起こってきているのか。特に、先ほど申し上げました九八年以降において起こっているものというのは、国際競争力の維持、このために費用を削減しなければならない、あるいは人件費を抑制しなければならないというようなことが実態として起こっております。
 そこの結果として、賃金の引下げあるいは価格の低下というような、雇用は何とか守りながらもそういった給与面の調整ということによって競争力を維持してきたんだと。その結果、たとえ競争力が維持できたとしても、今度はほかの国に比べてまだ日本は競争力が高いですよというようなことになると、結果的に円高が更に進展します。円高になってくればまた費用の削減の要請が強まるという、いわゆるデフレスパイラルといったものが、これは金融面だけではなく実物面、労働市場においても起こっているということでございまして、こういったもの、賃金の調整というのが一見いいように思うわけですが、実はそれは消費の源なんです、給与所得なんですというようなことを考えますと、賃金が低ければ雇用が守られるというだけではなく、その結果として需要も減ってしまいますよ、消費需要が減ってしまいますよというようなことが起こるわけでありまして、これをどういうふうにすれば脱却できるのかということについて考えていかなければならないということだと思います。
 これはもう人に頼るしかない。やはり日本は人材の国であります。人々の能力を高め、そしてほかの国と価格の引下げ競争ではなく、付加価値を高められるような製品といったものを作っていく、サービスを提供していくというような、そういう人材に頼るような、人材の能力を高め、そして意欲を高めるというようなことが必要だろうというふうに思ってございます。
 その点、よく使う言葉が、殻の保護より翼の補強へという言葉を使います。殻というのはシェルターであります。そのシェルターさえ強くなっていて、そこに入っていれば安心ですよというような、これでは持続可能を維持できないということでありまして、まさに翼を補強する、自分で意欲を持って働こうと。そして、その人たちを支援して、働ける状況、能力開発というのもそうでしょうし、職業紹介というようなこともそうだろうと思います、就業支援をいかに進めていくかというのもそうだと思いますが、そういったことがやはり社会保障の在り方としましても必要になってくるのかなというふうに思っております。
 まず、その給与、賃金といったものが、実は構造的な変化、少子高齢化ですとか、あるいはグローバル化の変化と同時に、大きな景気のショックが発生したときに日本ではどう対応してきたのかというものを見ておりますのがこちらに出ております二枚目の図であります。図表二といったものであります。
 左側の図、これが常用雇用の雇用者数の推移というものでありまして、過去三回の景気ショックが発生した場合に起こったもの、九七年、二〇〇〇年、そして前回のリーマン・ショック以降、右側に、横軸になっておりますのが、そのショックが発生してから何か月が経過したかというものによってどう推移してきていますかということを示しております。
 確かに、これにありますように、リーマン・ショックといったのは過去二回のショックに比べて非常に大きかったということから、大きく右下がりになっているということは間違いない。間違いないんですが、注目しなければならないのは、〇・〇という水平線よりは上に来ているということでございます。実は雇用は減っていない。むしろ、これを見る限り、リーマン・ショックが起こって十五か月以内においてはプラスでありますということで、雇用は削減されたというよりも、ここの段階ではプラスですよということが起こっています。しかし、後で述べますように、その雇用の増加というのは、実は正社員は減らされながら非正規が増えていくという形での雇用の増加ですということに注目しなければならないと思います。
 では、人件費の削減どこで行われたのかということでありますが、マイナスのこの赤い線は大きなVの字を描いています。まず、日本では、ショックが起こりますと、労働時間、特に残業時間のカットという形で行われ、そして景気が戻ってくるに従ってこの部分が増えていく。要は、雇用者数の方は調整しないんですが、労働時間の方で調整していきますよというのが日本の特徴であります。アメリカに比べて特にこの点が強いということで、結果的に、失業については、何とかそれを最低、少ない状況において対処することができるというようなことになっております。
 そして、右端のグラフが、これが決まって支給する給与であります。給与を見ますと、リーマン・ショック以降、やはり大きく減少しているなと。マイナスというふうになっておりますので、この残業のカットと、それと給与の削減という形で実はそこで起こってきた。
 日本の雇用の特徴として、実は賃金といったものが非常に柔軟に調整されるというような特徴があり、ここについては、それぞれの企業経営者、それと組合との関係において、個別企業で決められていくというような特徴がありますということです。ヨーロッパのような職種別の労働市場ですと、地域とかあるいは国で、ある職種については統一した賃金が決定されるということで、個別企業のその業績に応じて給与調整というものが行われるわけじゃありません。ところが、日本の場合は、ボーナスも含めて賃金が柔軟に調整されるという特徴があるということは確認しておかなければならないことだと思います。
 その結果、じゃ何が起こってきたのかということでありますが、次の図表の三というものを見ますと、これは二人以上の世帯、特に勤労世帯ですから、主に世帯主である夫が働いているような世帯と、そこにおいて世帯主の勤労収入がどう調整されてきたかということであります。
 これを見ましても、九七年がピークであったということがよくお分かりになるかと思います。その後、むしろ右下がりですということでありますから、年々、世帯主勤労収入は減少、削減されてきたということで、ピークのときが五百八十五万円でした。それが今五百万円ということですから、この期間に八十五万円、率にして一六%ほどその世帯主の給与が下がったというような、この雇用は守られながら賃金で調整されていくという特徴がここには表れてきていますということであります。
 同時に、グローバル化、人口の少子高齢化の状況の中において産業構造が大きく変わりました。どう変わったかを示していますのがこの図表の四でございますが、例えば産業計では一九九八年から二〇〇八年にかけまして増えております。増えておりますが、その中身、建設業が百十一万人ほど削減され、そして製造業が百八十一万人ということで、もう既に一千万人を製造業は割ってしまっているというような形になります。
 この二つの産業は実は地方の雇用を支えてきたというところでありまして、ここでの大幅な減少というのが、大都市圏よりはむしろ地方の雇用情勢を厳しくしていくというような流れで起こってきております。しかも、この二つの産業というのは日本では特に男性比率の高い産業ですということでありまして、建設業におきましては男性が八五%を占めております。女性が一五%。あるいは製造業におきましても、七〇%が男性、女性が三〇%。ここで大きくこの雇用者数が減少した。その分だけ男性の雇用が減っているということが言えます。
 逆に増えたのはどこかということで見ますと、医療・福祉という介護を含めたところでありまして、ここでは九十六万人の増加、あるいはその後、二〇〇八年から二〇一〇年でも五十五万人でありますので、合わせて百五十万人ほど増えましたというような、製造業にはまだ追い付きませんが、建設業を超えるような従業者の数になっているというようなことが言えるかと思います。そして、医療・福祉というのは女性の比率の高い産業であります。八〇%が女性という、看護師さんとかあるいは介護士さん、こういったところに女性が多いということですから、女性の雇用は産業構造の転換によって大きく増加するというような特徴があるんだということでございます。
 それを示していますのが次の図表の五であります。図表の五は男女別の、そしてまた、それぞれについて常用雇用とそれと合計したものというふうに分けてあります。
 一番上のところにありますブルーの線、これが男性の雇用者数でありまして、先ほどの九七年、八年、これがピークでありまして、むしろここは減少している。特にブルーの点線で示されております男性常用雇用者、要は無期契約の労働者とかあるいは一年以上の契約期間の労働者、こういった人についての大幅な減少、約二百万人ほどここが減ってきているということがあります。特にリーマン・ショックの後については、製造と建設といったものが大きく後退するということによって、男性の雇用危機というふうに言われているほどのこの減り方だったわけでございます。
 一方、女性はどうかということで見ますと、この上のオレンジの線を見れば、これは右肩上がりで増えています。あるいは赤い線、これは女性の常用雇用でありますが、これも増えております。要は男性の雇用が減って女性の雇用が増えていくというような、こういった産業構造の転換、グローバル化の流れの中で起こってきているんだということであります。
 要は、男性は、例えば世帯主、男性世帯主だけが働いて、そして雇用を守っていく、そしてまた所得を稼いでいくというような、そういった時代がかつてありました。女性の方は、むしろ専業主婦ということで家庭を守っていくという性別役割分担が日本でははっきりしていたわけでありますが、こういった世帯の守り方というのが、こういう産業構造の転換の中で好むと好まざるとにかかわらずやはり大きな危機的な状況になってきている。男女共に働き、共に稼いで、共に家庭を守っていくんだというようなことが必要ですというような時代になっております。
 これは、実はアメリカで言いますと、一九八〇年代に起こった女性の社会参加、労働市場への参加といったものが叫ばれました。当時、社会学者、心温かい社会学者が言ったのは、女性の働く権利を確保したんだというふうに言っております。それに対して経済学者は、むしろ女性が稼がなければならない義務が強まっているというような、共に働くことによって初めて家庭を維持することができるというような、そういう状況が出てきたということを言っておりますが、日本はまさにそういう状況が今生まれてきているというようなことになるんだろうと思います。
 それと同時に起こってきておりますのが、いわゆる非正規労働者の増加であります。この図表の六というブルーの線が正規の職員・従業者数の推移であります。これを見ましても、この九七、八年までは三千八百万人ほどいました。それが現在三千三百万人ということで、五百万人ほど正社員が減ったということになります。一方、赤い線が非正規の職員・従業者ということで、これについては、右側の目盛りを見ますと明らかに増加しているというようなことになります。
 特に、この非正規労働者の中でも増加しているのはどういう人たちかということで見ますと、こちらにあるグラフであります。この赤い点線というのは、臨時あるいは日雇の非正規労働者、要は雇用期間の短い労働者ということでありますが、その人たちは横ばいですよと。むしろ増えているのは常雇の非正規労働者、要は長期間継続して非正規にとどまっているというような人たち、すなわち非正規の長期化あるいは固定化といったものが起こってきているんだということでございます。
 よくヨーロッパにおきましてもテンポラリーワーカー、有期労働者というようなことが議論されますが、そのときには、まず働くときには有期かもしれない、しかし働いているうちに本人の努力によって無期契約の方にシフトできるというような仕組みをつくってきております。本人の努力次第によって、日本でいえば正規の方に転換できるんだということでありますが、日本の現状としてはそれが非常に難しいと。言葉が適切かどうか分かりませんが、ヨーロッパでは非正規あるいは有期労働者というのはステッピングストーンですということを言います。ステッピングストーンというのは踏み石であります。正規への、安定した雇用への踏み石なんだということでありますが、日本ではむしろデッドエンドではないかと、行き止まりではないかというような表現で語られるわけでありまして、ここをどういうふうに本人の努力によって、そしてまた就業支援によって正規の方に転換していくことができるような、そういった国にしていくのかということであります。
 これはある国際調査で、各国民の意識調査というのが五年に一遍あります。人生の成功は何によって起こるかというような調査がございまして、一つは本人の努力、これが人生の成功へ導く、もう一つは運、コネ、これが人生にとって重要だということでありますが、日本でも一九九〇年代は、この運、コネの方が大切だという人たちは三〇%を切っておりました。それが今は五〇%ぐらいまで増えてくるということでありまして、本人の努力を引き出すような社会にしなければ、そしてそれがまた成功につながるような社会にしていかないと活力がないと。そのためには何をしたらいいんだろうかというのを掲げてあります。この(1)から(6)というのが資料で配付されておりますので、これを御覧いただければというふうに思います。
 要は、本人の努力によってやはり成功へ導くような、それがあってこそ持続可能な経済社会になりますし、さらには、社会保障についても、殻の保護よりむしろ本人の翼の補強へというものを社会として整えていかなければならないというふうに思います。
 以上でございます。

発言情報

speech_id: 118314323X00220130227_006

発言者: 樋口美雄

speaker_id: 1884

日付: 2013-02-27

院: 参議院

会議名: 国民生活・経済・社会保障に関する調査会