岡本孝司の発言 (原子力問題調査特別委員会)
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○岡本参考人 東京大学の岡本でございます。
簡単に私の略歴を申し上げておきますと、私、一九八五年に東京大学の修士課程を出まして、民間で三年間、原子力にかかわった後、大学に戻りまして、原子力工学に関する教育を継続的に、二十年以上にわたってやってきてございます。その間、東京大学の原子炉「弥生」の原子炉主任技術者なども兼任してございますし、それから、二〇〇四年からは、原子力の安全規制のあり方を考えるという、日本機械学会の委員会等もやってきてございます。
そのような背景から、本日議題にあります原子力規制のあり方ということについて、一言申し述べたいというふうに思います。
まず、お手元の資料、大変恐縮で、ちょっと小さくコピーされ過ぎていて見にくいかもしれないんですけれども、原子力というのは、日本だけの問題ではなくて、世界で考えるべき問題であるということから、世界的な視野というのが非常に重要になってまいります。
その点から、二ページには、IAEAが提唱してございますIAEAの基本安全原則というもののコピーを示してございます。こちらには、一番重要なものとしては、人及び環境を放射線の影響から防護するという非常に重要な目的が書かれてございます。
この中の原則二に「政府の役割」という形がありまして、その中の三・一〇に規制機関、今回、規制のあり方を考える上で重要になります、「規制機関は、以下を満たさなければならない」というように、四点書かれてございます。その中でも、二番目、三番目、これはもう非常に有名でございますが、実質的に独立であること。それから、安全性、規制手続について周囲の団体、これは日本語訳がちょっと変ですけれども、地元自治体等を含めて伝達する、それとともに意見を求めることが必要であるということが、IAEAの基本安全原則として書かれております。
現在の原子力規制委員会は、これをベースにいろいろな考え方で運営がされているというふうに認識してございます。
さて、原子力規制委員会のあり方を考える上で非常に参考になるかと思いますのは、アメリカNRCでございます。三ページ目から五ページ目まで、アメリカで具体的にどういう規制がやられているか、話し始めると細かい点があるわけですけれども、三つだけ、ちょっと申し述べたいと思います。
そこにちょっと、英語で大変恐縮ですが、アメリカのNRCを訪問したときに、彼らから私どもに言われた二つの重要なキーワードを、三ページの黄色の囲いの中に書いてございます。
これは、日本語訳いたしますと、何がリスク上重要なのか。原子力発電所というのはさまざまな危険な部位があるわけですけれども、その中でも、それを安全に運転していくためには、どこにリスクがあるかということをしっかり把握すること、これがNRCの基本的な姿勢である。
それから、下の方は、ウイ・トラスト・ライセンシーズ・バット・ベリファイ・ゼムと書いてございますけれども、我々は事業者を信頼する、しかしながら監査するんだという立場を明確にしているということでございます。ここで重要なのは、事業者を信頼しているという立場をとっているということでございます。
その上で、発電所を見える化するためのさまざまな規制の施策をとってございます。
四ページ目は、これは発電所を見える化している、発電所の安全、リスクを見える化しているやり方で、ROPと呼ばれるやり方なんですけれども、公衆の健康と安全の確保が目的となっている中で、そこにあります七つのコーナーストーンと呼ばれるものをベースに評価を行ってございます。これは百四基あります全ての発電所についてやってございます。
これは、地震とか津波とかも含めた起因事象。それから、緩和系といいますのは、地震とか津波が来た後、どういうふうに原子力の安全を保つか。最終的なバリア健全性は、その放射性物質をどうやって担保しておくか。さらには、一つ重要なことは、緊急時の対応計画、これも重要な視点であるというふうに言ってございます。黄色いところは、被曝安全、公衆と従業員。さらには、セキュリティーの部分まで考えてやってございます。
五ページです。この七つのコーナーストーンが非常に重要だと彼らは考えていまして、これはきのうちょっとNRCのホームページからコピーしたんですけれども、この七つの視点について、大変見にくくて恐縮ですが、三カ月ごと、一Q/二〇一四と書いてあるのは、ことしの一月から三月までがどうだったか。実は、グレーは問題ないんですけれども、緑色はちょっとまずいことがあった、でもこれは全然問題ないのはグリーンです。だんだんこれが白、黄色、赤となるに従ってリスクが高いよということをホームページに公開してございまして、今どのような感じになっているかというのがわかるということになってございます。
例えば、このファーリーという原子力発電所では、昨年の第四・四半期、十月から十二月ですけれども、そこが白ということで、緊急時対応計画に若干のミスがあったということがこれでわかるということになります。
さて、このようにNRCの規制を見てまいりましたが、福島の反省をしなくてはいけません。私も、原子力学会の事故調査委員会等に加わりながら、いろいろな事故の原因を考えてまいりました。事業者、それから直接的な要因等もあるわけですけれども、残念ながら規制も非常に反省しなくちゃいけないんじゃないかということがこの六ページに書いてございます。
その具体的な内容というのが七ページに書いてございまして、原子力安全規制が今回失敗したからということも一つ大きな教訓であろうというふうに思っています。これは、一言で申し上げますと、原子力安全を目的とせず、法律遵守、法律は原子力安全のためにつくられているわけですけれども、その法律の文言にのみこだわって、本質的な安全、発電所の総合的リスクを余り見ていなかったというところが一番大きな反省点であろうというふうに思っています。
ここで総合的リスクというのを八ページに書いてございますが、原子力発電所というのは非常に危ない物質を扱ってございます。このため、いろいろなシステム、十万個を超すようなシステムが組み合わさって一つの原子力発電所の安全を担保しているわけですけれども、それらに対していろいろな対策を現在行っております。
ところが、対策というのは、その真ん中に書いてございますけれども、対策をすると、その対象とした、ターゲットに対するリスクは下げられるんですけれども、そのほかのリスクというのを必ず高める部分がある。オールマイティーな対策はないということが実は重要なことです。
「例えば、」に書いてあるんですけれども、同時多発テロの後にアメリカで、皆さん、飛行機は危ないということで、移動するときに飛行機をやめて自動車に変更しました。このことによって、飛行機事故によって亡くなるリスクというのは下がったんですけれども、飛行機より自動車の方が事故を起こす確率は大きいので、結果的に交通事故による死亡者はアメリカはナイン・イレブンの後ふえたという事実がございます。これは、飛行機に乗らないという対策が結果として死亡者をふやしたという観点になります。総合的な視点から見ると、この対策がよかったかということになると、必ずしもよかったという判断はできないんじゃないかということであります。
つまり、今原子力発電所で規制委員会が中心になってさまざまな対策がなされていますが、この対策は、多かれ少なかれ、今回の飛行機と自動車の関係のように、別のところにいろいろなリスクがふえているということに注意しなくてはいけない。特に、既設プラントは現状でかなり安全な状態にありますので、そこをさらに安全にしようとすると、別の部分にリスクが導入される可能性が非常に高いということであります。
ですので、総合的なリスクを判定しなくてはいけないんですけれども、残念ながら、今規制委員会がやっている審査は、これもこの教訓と相入れないんですけれども、自分たちのつくった法律に合っているかどうかということのみを審査してございまして、法律に合っていれば、総合的リスクが若干上がったとしても、一部のリスクが下がっていればそれでいいというような考え方になっているように見える。そこが非常に危ないというふうに思っています。
総合的に見るためには、先ほどアメリカのNRCであったように、七つ、非常に幅広いコーナーストーン、視点という意味ですけれども、幅広い視点から発電所のリスクを捉えていくという形の規制を行わないと、結果として危ない発電所がつくられていってしまう。そこが一番、私が本日、言いたかったところでございます。
規制というのはどうあるべきかというのを九ページに書いてございますけれども、ここには、原子力基本法第二条第二項に、国会の方で改正いただいた中に「安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、」という一文を入れていただいておりますけれども、例えばNRCとかIAEAとか、そういうような確立された基準を踏まえて、総合的な安全、総合的なリスクを下げる、そういうための規制を行っていくということが必要であると思います。
そのほか、コミュニケーションをとらない。残念ながら、今、ほとんどコミュニケーションが、少しとれているようですけれども、非常に危ない状況にある。それから、JNESが一緒になって若干能力はふえたとは考えておりますけれども、残念ながら、まだまだ現場を知らない、六本木にずっといて現場を余り知らないという形で、リスクの総合的な視点が見えない人材がかなりいるというところが、非常に危機感を持っている次第であります。
規制というのは、先ほど申し上げましたように、例えばアメリカのNRCのように、総合的な視野から、幅広い視野から発電所の安全を考えていく、一部分だけではなく総合的な視野から考えていくということが必要なわけですが、そういう判断ができるためには、どうしても人材育成ということが重要になってまいります。私は、東京大学で原子力を教えているということもありまして、規制側だけではなくて、原子力を扱う事業者も含めてしっかり、人材育成が重要だというふうに理解してございますけれども、特に規制側については若干懸念を持っております。
最終的に必要な人材というのは、そこにありますように、総合的な原子力のリスクを俯瞰できる経験、それらをベースに判断ができる人材。特に、安全文化ということを書きましたけれども、規制としての安全第一の姿勢を貫く、そういったような人材。特にその人材は、リスクをよく理解して現場をよく知っている、発電所の現場が一番重要ですので、机の上でいろいろ議論するよりは、現場をちゃんと知っている人材というのが重要であるというふうに考えております。
次の十一ページ、十二ページは、若干時間がありませんので簡単に言いますけれども、例えば、その中でも博士号を持ったようなマネジャークラスの人材、それだけではなくて、中堅の原子炉主任技術者クラス。特に、この中堅の方々は現場をよく知っているということが重要かなというふうに考えておりまして、その中でも原子炉主任技術者の資格は、原子炉を知っているだけではなくて、その他、原子炉のあり方も含めて、材料から、非常に幅広い工学的知識を持っているという方々ですので、この方々をしっかりと養成していくことが重要だろうというふうに思っています。
最後でございます。規制は、先ほど申し上げましたように、全体的なリスクを低減していく、局所最適化じゃなくて、全リスクを低減していくということができる人材が必要で、そのためには、残念ながら、現状では必ずしも十分であると思っておりませんで、長期的な視野でしっかりと人材を育成していくということが重要であろうというふうに考えている次第であります。
以上で私の意見陳述を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)