山下一仁の発言 (予算委員会公聴会)
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○山下公述人 おはようございます。よろしくお願いします。
実は私、五年ぐらい前に農林水産省をやめまして、その後、この研究所で研究させてもらっております。
きょうは、三つ、最初に、農業の現状はどうなっているのか、それから、農業政策の特徴はどうなのか、それから、アベノミクスについての評価と、あるべき農業政策はどういうものなのか、こういうふうな話をさせていただきたいというふうに思っております。
まず、資料なんですけれども、最初に、農業生産額の構成別の推移を掲げております。
これで見ておわかりのように、最初は、一九五五年ぐらいは、米は大体、半分以上のシェアを占めていたんですね。ところが、今は、野菜と畜産に追い抜かれて、今の米のシェアは二〇%を切っている、こういうふうな状況になっています。
ただし、数的には物すごくたくさんの人がやっていまして、日本の農家の戸数のうちの七割は米農家で、しかし、七割の農家が二割の生産しかやっていない、これが現状でございます。
次のページ、三ページでございます。
実は、機械化が進みましたので、米は、今は一番簡単につくれる農業になってしまっているということでございます。
それから、次の四ページですけれども、「歪んだ米農業」というふうに書いてしまったんですけれども、お叱りを受けるかもしれませんけれども、実は、農業については、農業生産額、農業所得の部分は物すごく低いウエートになってきているということです。つまり、兼業所得、農外所得、それから、高齢化が進んでいますので、その年金収入、これが農家所得のうちの大きな部分を占めるようになってきている。これが、ブロイラーとか酪農とか、そういうふうな産業とは極めて特異な特徴を持っているということでございます。
それから、次の五ページなんですけれども、この折れ線グラフは、農家所得を勤労者世帯の所得で割ったものです。これを見てもらうとわかるんですけれども、右の方の一〇〇%の部分のところが、これを超えると、農家所得の方が勤労者世帯の収入を上回っているというふうになります。
そうすると、どこで上回っているかというと、一九六五年に既に農家所得の方が勤労者世帯の収入をもう上回っている、こういう状況になっているということでございます。しかも、その農家所得の内訳を見ると、農業所得のウエートはどんどんどんどん下がってきているということでございます。つまり、今、農家は豊かになったということでございます。
もう一つの不思議がありまして、六ページなんですけれども、六月に農業改革についての議論がなされるということでございますが、JAの正組合員数、基本的には農家だというふうなことになっています。ところが、正組合員数の方が今は農家戸数をはるかに上回っている、こういう状況になっているということでございます。
実際には、一つの農家で二人組合員になっている人もいらっしゃいますので、農家戸数でいうと、正組合員の農家は四百万戸ぐらいです。ところが、農家戸数が二百五十万戸に対して四百万戸、組織率何と一六〇%の協同組合だということでございます。労働組合に比べると格段の組織率を誇っているということでございます。
それから、准組合員というのがございまして、これは、その地域の人であれば誰でも農協を利用できる、だけれども農協の意思決定には参加できない、こういう制度でございます。実は、これは歴史的な経緯で認められたものでございます。
戦後、農協法をつくるときに、GHQは、農協の組合員資格を農民に限れと言ったわけですね。つまり、地主的な支配を排除しよう。戦前の産業組合については、地主も組合員になれたわけですね。ところが、それはけしからぬのだと。だから農民に限ったわけですね。そうすると、地主の人たちは利用できなくなるということで、アメリカが、GHQが助け船を出してつくったのが、この准組合員ということでございます。
ところが、今は、准組合員の数がどんどんどんどん上回っておりまして、何と正組合員数を上回るような、つまり、本当は利用者が組合をコントロールするというのが協同組合の大きな原則なんですけれども、利用者が、組合をコントロールできない准組合員数の方が上回っている、これが今の農協の現状でございます。
それから、次の七ページなんでございますが、実は、農外所得がふえてきているということですね。これを、農協、JAの口座に納めてくれる。したがって、農業は衰退してきているんですけれども、農家、特に米農業について兼業農家が進んでいる、その兼業農家の人たちはその所得を農協の口座に預けてくれる、したがって農協が日本第二位のメガバンクになっている、こういう状況が生まれているということでございます。
八ページ、下のところですが、農協というのは、実は、日本でも極めて特殊な性格を持った法人だということでございます。銀行につきましては、ほかの業務を兼業することができないわけですね。ところが、農協の場合には、銀行だけじゃなくて、生保も損保も、ありとあらゆることをできる協同組合になっているということでございます。
したがって、米価を高く維持したので兼業農家が滞留してくれた、その兼業農家が兼業所得をJAバンクに預けてくれてJAバンクが発展した、こういう構図になってきたということでございます。
九ページなんですけれども、これはよく言われる指摘なんですけれども、日本は規模が小さいので競争できないんだという御指摘があります。ただし、規模は重要なんですけれども、確かに、これを見ると、オーストラリア、アメリカに比べて小さいわけです。だけれども、もし規模だけが重要なら、アメリカは、オーストラリアの十八分の一しかないので競争できないということになってしまいます。何かこの議論はおかしいということですね。
つまり、同じ土地でも土地の生産性が全然違うということなんです。オーストラリアの農地はほとんど牧草地です。つまり、穀物を生産できないような土地がオーストラリアの農地のほとんどだということでございます。そういうふうな農地をアメリカの農地あるいは日本の水田と比べるというのは、比較の対象がおかしいということでございます。
重要なのは品質の違いでございます。競争力といった場合に、品質が重要だということです。香港での米の評価は、同じコシヒカリでも、これだけの品質の違いがあるということです。日本の米は世界一おいしいということですね。
十一ページを開いていただきたいんですけれども、実は、今の議論は、百年前も同じような議論を農業界がやってきたわけですね、規模が小さいから競争できないんだと。当時、農商務省という役所に入った柳田国男という人物がいます。彼が言っているのは、まさに同じことだ。
つまり、規模が小さいからアメリカと競争できない、だから関税が必要だというわけですね。だけれども、これに対して、関税の保護のほか何も対策はないのか、そういうふうに考えるのは誤りだというわけですね。じゃ、何が必要なのか、それは生産性の向上だ、そのときにわずか〇・三ヘクタール、〇・四ヘクタールの細農ではアメリカと競争することができないだろう、何が重要なんだ、規模を拡大して、農事の改良、生産性の向上を図るべきだ、これが柳田国男の主張でございます。
次に、今後の状況なんですけれども、先ほど人口減少の話がありました。これまで、二十年前の米生産から比べると、今の米生産は、一千二百万トンが八百万トンに縮小してきているわけですね。将来どうなるのか。高齢化が進む、人口減少が進む、ますます国内のマーケットが小さくなってくるわけですね。だから、相手国の関税を撤廃して相手国に輸出する、こうしたTPPなどの自由貿易の交渉が必要になってくる。これは、日本農業が生き残るためにもこういうことが必要だということでございます。
TPP交渉の行方なんですけれども、これは皆さん御案内のとおりなんですけれども、多分、落ちとしては、米だけ守ると。私はガット・ウルグアイ・ラウンド交渉を経験したわけですけれども、そのときの結論からいっても、やはり米以外の品目は関税を撤廃して、米だけは関税を維持する。ただし、その場合には代償を払わなければならない。代償は何かということでございます。新たにTPP枠という無税の枠をつくる、こういうふうなことで決着するんじゃないかなというふうに思っております。
ただし、それが日本の米産業にとっていいのかということでございます。無税の枠をつくるということは、ますます米の生産を縮小せざるを得ない、そういうふうなことになりかねないということでございます。
次に、農政の大きな流れなんですけれども、三つあります。
一つは、米価政策ですね。今は、食管制度がなくなっていますけれども、減反をすることによって供給を減らして、米価を高くして農家の所得を確保しよう、こういうふうな政策をずっと続けているということでございます。
それから農協制度、それからもう一つは農地制度でございます。
今の農地法のエッセンスは何かというと、戦後、農地解放をやりました。つまり、小作人に所有権を与えたわけですね。つまり、耕作者イコール所有者だ、これが農地法の大原則なわけですね。株式会社の場合には、所有者は株主になってしまう、耕作者は従業員になってしまう、この等号関係が成立しない、したがって株式会社は農地制度上認められない、こういうふうな整理になっているということでございます。
十五ページなんですけれども、アメリカとEUは、直接支払いという制度に、政府からの支払いによって農業を保護するんだ、こういう制度に、既に何十年前から移っております。ところが、相変わらず日本だけは、高い価格、高い関税で農業を守る、こういう政策をとってきているということですね。
次の十六ページなんですけれども、これは小麦の例です。消費量のうち、国内生産は一四%しかありません。外麦は八六%ぐらいあります。つまり、国内生産の、国内麦の高い価格を維持するために、外麦についても高い関税を張って、消費者に多大の負担をさせているということでございます。つまり、日本の農政の特徴というのは、消費者負担型農政、つまり、逆進的な行政だ、逆進性の塊が日本の農政だというふうに言えるんだと思います。
その典型が、十七ページの米農政でございます。
今は若干制度変更がありますけれども、減反の補助金と戸別所得補償制度、トータルとして、減反に関連する補助金としては五千億円。補助金を、財政負担をするならば、消費者に安い価格で供給するというのが普通の政策だと思いますけれども、この場合には、高い財政負担をして、農家に米を減産させて、米価を上げて、消費者負担を高める、こういうふうな政策を四十年間続けているということでございます。
その結果、どうなったかというと、米価が高いので、コストの高い零細な兼業農家の人が滞留してしまって、主業農家の人たちに農地は集まらない、したがってコストが下がらない、こういう構図になってきたということでございます。
その例が、ちょっとめくっていただきまして、二十ページでございます。規模が大きくなるにつれてコストは下がります。したがって、所得は上がります。こういう構図になるということでございます。
今、都府県の農村は、大体、左の一ヘクタール以下のところで生産しているということですね。つまり、ほとんどの農家は、農業所得はゼロかマイナスだということなんです。ところが、二十ヘクタール以上になると、所得が一千四百万円を超えます。つまり、秋田県の大潟村の農家は、大体、平均規模が二十ヘクタールですから、みんな一千四百五十万円ぐらいの所得を稼いでいます。したがって、親が所得がいいものですから、東京の大学に行っても、みんな大潟村に帰ります。大潟村の農家は全て後継者を持っているということです。つまり、農業収益を上げれば後継者は育つんです。農業収益が悪いから、今いる人たちが一生懸命頑張って農業を継続せざるを得ない、したがって高齢化が進む、こういう状況になっているということでございます。
それから、二十一ページでございます。
財務省の出身の方もいらっしゃるので、余り財務省の悪口を言いたくないんですけれども、減反をやってきたわけですね。したがって、十アール当たり幾らという減反の補助金を出してきたわけです。
単位面積当たりの収量が上がれば、これは生産性が向上するということですから、コストは下がるわけです。ところが、収量を上げると、必要な米の生産面積がどんどんどんどん縮小していくということになるんです。つまり、減反面積を拡大するということになります。そうすると、十アール当たり幾らという減反の補助金を出しているので、減反の補助金総額が上がってしまう。
したがって、財務省は農林省の技術系の人を呼びつけて何と言ったかというと、間違っても収量の上がるような品種改良はするなと言ったわけです。収量を下げるような品種改良をやれと。農林省は真面目ですから、お金を持っているところに言われると、もう言うことを聞かざるを得ないものですから、一生懸命やったわけですね。
その結果がこのグラフでございます。一九七〇年ぐらいまでは、カリフォルニアの米の収量と日本の米の収量はほとんど変わらなかったわけですね。今は、何と、空から飛行機で種をまいているカリフォルニアの米の収量の方が日本の米の収量よりも四割も高い、こういう状況になっているということでございます。
何をやればいいのかということでございます。それは二十二ページでございます。
減反をやめれば、米価は下がります。そうすると、零細な兼業農家の人たちが農地を出してきます。それに対して、主業農家と言われる、農家らしい農家の人たちに所得を補償するための直接支払いを払えば、主業農家の人たちの地代負担能力が上がりまして、農地は兼業農家から主業農家の方に移って、コストが下がります。コストが下がると収益が上がるということですから、主業農家の人たちが兼業農家の人たちに払う地代も上がっていくということでございます。
つまり、税の転嫁の問題と同じで、誰に税を課すかということと、誰がそれを負担するのかということは、別の問題なんですね。補助金を誰に交付するかということと、誰にそのメリットが及ぶかということは、全く別の問題だということでございます。
EUは、直接支払い制度を一九九三年から導入しました。OECDの分析があるんですけれども、耕作者に払っているんですけれども、その効果はどこに帰属したのか。九〇%が農地を出してきた人、それに帰属しているというのがOECDの分析結果でございます。
二十三ページを見ていただくと、日本と中国、カリフォルニアでも同じなんですけれども、米価は接近しています。一番上が、赤いグラフが日本の国内の米価の推移です。下が、中国から日本がミニマムアクセスとして輸入している米の値段の推移です。真ん中の黄緑のグラフは、日本が中国から輸入しているものを日本の市場で売ったときの値段ですね。
上の二つのグラフの差は、品質格差をあらわしています。大体二割から三割ぐらいの品質格差があるということです。だから、実際に品質格差を除外した内外価格差は、黄緑の線と青の線の差なんですね。これは今では三〇%を切っているという状況になっています。
つまり、減反をやめて価格を下げれば、実は関税はゼロでもやっていける、こういう水準まで国際的な価格は来ているということでございます。
さらに、今の価格でも、価格のトレンドで流していくと、十年かけて関税をゼロにする、そういう場合でも、ほとんどというか、全く影響ないという状況になっているのが二十四ページでございます。
二十五ページは、簡単に言いますと、米については減反の廃止と直接支払いで十分やっていけるという話と、畜産についても、実は、トウモロコシを無税で輸入しているんですけれども、それに、でん粉用のトウモロコシに転用を禁止するために特別な処理をさせています。それが、トウモロコシコストの二割増しになっているということですね。もしTPPで全ての関税が撤廃されれば、その横流れ防止策も必要なくなるということです。とすると、畜産物についても相当なコストダウンが図られるということでございます。
アベノミクスなんですけれども、確かに、価格に生産量を掛けてコストを引いた、これが所得なので、アベノミクスもP掛けるQマイナスCをやれば所得は上がるんですけれども、残念なことに、これは全て今までやった政策のリメークだということでございます。
特に、中間保有機構ということで農地を集積しようとしているんですけれども、米価を、減反政策を維持した上では農地が出てこないわけですから、こうした政策はやっても効果はない。農地が出てこないものを、どうやって集約して貸し付けるんだということになります。
それで、時間がないので、二十七ページを御説明したいと思います。
減反の見直しの問題なんですけれども、減反を廃止するという報道がなされていましたけれども、安倍総理が発言を修正されたように、この報道は間違っていたわけですね。何をやるかというと、戸別所得補償はやめますけれども、これまでやってきた減反の補助金を、餌用の米あるいは米粉用の米をつくるために出した補助金を大変な増額をする、こういうのが減反の見直しの内容でございます。
そうすると何が起こるかというと、大変膨大な財政負担が必要になります。それと同時に、国内の米、餌用の生産、米粉用の生産をふやすということは、アメリカからの小麦の輸入を抑制する、あるいはアメリカからのトウモロコシの輸入を抑制するということになります。そうすると、アメリカはこれをWTOに提訴すれば、アメリカは自動車に対して報復的な関税を課すことができる。そういうふうな関係にもなるということでございます。
時間が来まして、農地制度、農協制度を申し上げることはできなかったんですけれども、最後に、三十一ページを見ていただきたいんです。
国内のマーケットが高齢化と人口減少時代で縮小する。その中で日本農業を維持、振興しようとすれば、海外に打っていかざるを得ないわけですね。そのときに、従来どおり高い関税で、高い価格で日本の農業を守って輸出ができないようにするのか、あるいは、直接支払いをやって海外のマーケットに打って出るのか、これが今回のTPP問題で問われているところだというふうに思います。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)