岡本行夫の発言 (我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会公聴会)

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○岡本公述人 本委員会が私の意見を聞いてくださることを大変光栄に存じます。
 まず、平和安全法制のうち、集団的自衛権に関する議論について一言申し上げます。
 内閣法制局がつくりました一九七二年政府見解は、全ての集団的自衛権を、他国に加えられた武力攻撃を阻止する権利と定義しました。つまり、日本国土を直接守る個別的自衛権以外の武力行使は全てが他国を守るための行為であり、したがって、憲法違反だとしたわけです。
 しかし、このいささか荒っぽい区分けをもってしては、日本は、一九八〇年ごろから変容した国際情勢には対応できなくなりました。日本と日本人を守るための集団的自衛権というものの存在を認めなかったからであります。
 例えば、多数の日本船に外国船がまじった船団があります。それを海上自衛隊が守ることは、相手が国または国に準ずる組織であれば集団的自衛権の行使に当たりますが、この海上自衛隊の行動は、他国を守る行為なのでしょうか。
 本委員会やその他の場で、何人もの元法制局長官の方々が今回の平和安全法制は違憲であり撤回すべきと発言しておられますが、私は、むしろ、国際安全保障環境の変化を見れば、行政府の部局である法制局が直接的な国土防衛以外の行動は全て黒と判断してきたことが、果たして海外で日本人の生命と財産を守るために適切だったかどうかを考え直す時期だと思うのです。
 どのように国際環境は変化してきたのでしょうか。
 政府見解が出された一九七二年は、可能性の低い米ソの軍事衝突さえ起きなければ、日本人の生命や財産が海外で危険に脅かされる事態はほとんど考えなくてよい時代でした。
 しかし、その後、情勢は激変いたしました。北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の膨張主義などももちろんありますが、日本にとっての生命線である中東、欧州方面からのシーレーンをめぐる情勢を考えただけでも、その変化は直ちにわかります。
 一九七九年にイラン革命が、そして一九八〇年からはその後九年間続くイラン・イラク戦争が始まり、それ以降、ペルシャ湾情勢は危険を伴うものに変化しました。湾内の民間船舶にイランのシルクワームミサイルが発射され、無数の浮遊機雷が設置されていた時期もありました。
 ホルムズ海峡を通ってインド洋に出れば、そこはアフガニスタンのタリバンが麻薬と武器を輸送するルートです。マラッカ海峡を通って日本に向かえば、その先には、中国海軍が支配しようとしている南シナ海が広がります。
 一方、欧州からスエズ運河、バブエルマンデブ海峡を経てアラビア海に出る日本の船舶は、ソマリア海賊が待ち受けるアラビア海を通ります。二〇〇〇年以降でもソマリア海賊の襲撃は一千回を超え、四千人を超える乗組員が人質にとられました。
 この膨大な海域で日本人の生命と船舶を守ることは、日本単独では無理です。日本の護衛艦は、一九九〇年代には六十隻ありましたが、予算上の理由で、現在は四十七隻にまで削減されております。このわずかな護衛艦で日本の二千六百隻の商船隊を守れるわけがありません。日本にとっての唯一の道は、各国の海軍と共同しての護衛であります。
 海賊からの商船隊護衛を考えれば、おわかりいただけると思います。自衛隊の護衛艦は、派遣以来、ことしの五月までに六百六十三隻の日本の民間船舶を護衛しましたが、同時に二千九百隻以上の外国船舶を護衛し、海賊の襲撃から守ってきているのであります。日本人にとっての誇りです。そして、他国の海軍も、同じように外国と日本の船舶を一緒に護衛しています。
 現在、海上自衛隊がやっていることは海賊対処法に基づく警察行動ではありますが、相手が国または国に準ずる組織に変われば、自衛隊の行動は集団的自衛権の行使に該当しますから、護衛任務から離れなければならなくなります。
 イスラム国と称するISILは、国に準ずる組織であると思います。彼らの勢いは減っていません。
 考えていただきたいのです。海上自衛隊が襲撃してきた海賊を撃退した後に、ISILが襲撃したときにはどうなるのか。現在の法制では、海上自衛隊は拱手傍観しなければなりません。どう考えてもおかしい。弱い海賊に対してすら護衛艦を出動させて警護しているのに、より強大な襲撃者があらわれれば、どうぞ御自由にと道をあけるのでしょうか。この法制に反対する人々がここのところをどう考えているのか、私には理解できません。
 国際護衛艦隊は仮定の議論ではありません。一九八七年、イランの攻撃から湾内の商船隊を守るための国際護衛艦隊が組織され、日本も参加を要請されましたが、政府見解に縛られる日本は、護衛対象の七割が日本関係船舶であったにもかかわらず、参加は集団的自衛権の行使に当たるとして断りました。その結果、アメリカ、イギリス、フランスなどの艦隊が日本船の護衛に当たりました。
 陸上においても、内戦やテロが激増しています。ISILが後藤健二さんと湯川遥菜さんを残虐に殺害した後、これから日本国民を場所を問わずに殺りくすると宣言したのは記憶に新しいところです。テロからの邦人保護については警察が対応すべきケースも多いと思いますが、自衛隊が日本人を保護しなければならない可能性も増していると思います。
 集団的自衛権の限定的容認には、日本の存立危機事態といういささか大仰な表紙がつけられておりますけれども、実際上は、集団的自衛権が行使される可能性が高いのは、海外での日本人の人命と財産を保護するケースだと思います。この意味で、立派な責任政党が、集団的自衛権は他国の戦争に参加することですとの誤ったキャンペーンを国民にしていることは残念であります。
 この法制は、日本の安全を守る上で最も重要な仕組みである日米安保体制を強くするものでもあります。
 日米安保体制は、日米両国の相互信頼の上に成り立っています。
 このようなことがありました。
 二〇〇一年の九・一一テロの際、全世界に展開する米軍にテロリストが攻撃をしかける可能性があるとの情報があり、横須賀の米第七艦隊も速やかに硫黄島海域へ退避することになりました。そのときに、アメリカ側から、交通量の多い東京湾を迅速に航行しなければならないので海上自衛隊が先導してくれないかとの要請がありました。
 根拠法規を持たない海上自衛隊は、苦肉の策として、当時の防衛庁設置法第五条の、所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うことができるとの項目を援用し、米艦隊の退避行動を調査するという理由をつけて護衛艦を出動させました。それも日本の領海内だけでした。しかし、こうして第七艦隊を先導して東京湾を南下した日本の護衛艦の姿は繰り返しアメリカのテレビで放映され、アメリカ国民の大きな感動を呼んだのであります。
 自衛隊の現場は、このような苦労をしながら抑止力の維持を図ってきました。今回の法制のもとでは、自衛隊の護衛艦が堂々と米艦隊を護衛して、しかも領海の外まで伴走することが可能になります。
 再び本旨に戻ります。
 世界が助け合っているときに、日本が我関せずという態度をとり続けることは、すなわち、日本人の命と財産を守るリスクと負担はほかの国に押しつけるということを意味します。
 現在の世界では、宗教や民族や国家間の対立が先鋭化し、ISILのような暴力的な準国家組織が、主権国家の連合軍をもってしても制圧することができないほど勢力を伸ばしています。その中で、日本が一国で日本人の生命と財産を守り抜くことは不可能です。
 一九九四年、イエメンの内戦で九十六人の日本人観光客が孤立したとき、救ってくれたのはドイツ、フランス、イタリアの軍隊でした。二〇〇〇年からだけでも、総計二百三十八人の日本人が十一カ国の軍用機や艦船などで救出されてきました。
 一九八五年三月、イラン・イラク戦争でイランの首都のテヘランが危機になり、日本人二百十五人が孤立しましたが、日本の民間航空機は、危険だからとテヘランまで飛んでくれませんでした。それを救ってくれたのはトルコでした。トルコ政府は、テヘランに派遣した二機の救出機のうちの一機を日本人救出に当て、そのために乗れなくなってしまった何百人かのトルコ人は陸路で脱出させたのです。
 日本では報道されませんでしたが、二〇〇四年四月、日本の三十万トンタンカーのTAKASUZUがイラクのバスラ港沖で原油を積んでいた際に、自爆テロボートに襲われました。そのときに身を挺して守ってくれたのは、アメリカの三名の海軍軍人と沿岸警備隊員でした。彼らは日本のタンカーを守って死に、本国には幼い子供たちを抱えた家族が残されました。
 みんながみんなを守り合っているのです。
 先週、私はイラクにおりました。ISILとの戦いの前線から四十キロメートルのところに首都を持つクルド自治区を訪れて話をしました。クルドの人々は、私たちが多くの犠牲を出してISILと戦っているのは自分たちのためだけではない、世界の安全のためですと語っていました。
 著名な憲法学者の方が先般の本委員会で、平和安全法制が通れば、日本はイスラムグループの敵になり、現在キリスト教国だけで起きているテロが東京で起こることになると陳述しておられましたが、ISILのテロをキリスト教国家にだけ向けさせておけばいいという話ではありません。国際社会はお互いに助け合っていかなければ生存できないのです。
 あえて申し上げますが、安全保障や対外関係に携わる公務員にとって、リスクは不可避であります。だからこそ、多くの日本政府や援助関係機関の職員が命をかけて危険地域で活動してきているのです。
 別の著名な憲法学者の方が、外務官僚には全員自衛隊入隊を義務づけて危険地域を体験させよとマスコミで主張しておられます。そうすれば、自衛隊を危険地域に送る法律はつくらないだろうと。こうした現実を無視した意見によって反対論が主導されているのは、不幸なことだと思います。
 事実は逆であります。危険だから自衛隊は派遣できないというバグダッドでは、二十数名の外交官が大使館に住み込んで、必死でイラクの復興のためにきょうも走り回っております。既に二名の外務省員がとうとい命をテロリストに奪われましたが、彼らはひるむことなくバグダッドに踏みとどまり、今もその職務を全うしているのです。
 この関連で、法案審議とは関係ありませんが、一つ述べさせてください。
 バグダッドに置かれた各国大使館のうち、全ての主要国を含む二十四カ国の大使館には武官が駐在し、軍同士でしか行い得ない情報交換を活発に行っています。しかし、日本大使館には一名の武官も駐在していません。もちろん、防衛省や自衛隊員の腰が引けているためではありません。危険な地域には自衛官を派遣しないという、政治的につくり出された方針のためです。武官をバグダッドの日本大使館に常駐させることは、日本自身の安全に必要な情報を得るためにも必要なことです。実現に向けての御支援をお願いしたく存じます。
 最後に、もう一言だけ申し上げたいと思います。
 この平和安全法制の大きな意義は、外敵の暴力から身を守り合う仲間のコミュニティーに日本も参加すること、そして、そのために十分な訓練を受け、装備を有している自衛隊が、今日も危機の最前線で働いている公務員と協力して日本人の命と財産を守れるようにすることであると信じます。私は、自衛隊員がそのための強い使命感を持っていることを知っております。
 皆様の御判断は決定的に重要であります。我々は今、日本がこれまで各国の善意と犠牲の上に日本人の生命と財産を守ってもらい、それでよしとしてきたこの国のあり方を転換できるかどうかの歴史的な分岐点にいると思うからであります。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 岡本行夫

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日付: 2015-07-13

院: 衆議院

会議名: 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会公聴会