小澤隆一の発言 (我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会公聴会)

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○小澤公述人 本日は、お招きいただきましてありがとうございます。
 お手元に資料がありますので、それをごらんください。
 私は、東京慈恵会医科大学の小澤です。専門は憲法学です。
 本委員会に付託されている法案を違憲とする憲法学者の見解について、ある議員の方が、憲法学者は九条二項の字面に拘泥すると述べたという報道に接しました。しかし、字面はすなわち言葉であり、言葉は文化です。明確な言葉によって、そしてまた明晰な論理によって思想やルールを表現して、同時代の人々や後世に伝えるのが文明国、立憲国家の作法です。その作法に反する政治が行われようとするとき、その非を指摘するのは作法を学んでいる者の務めだと思います。
 そこで、法文の字面、文面にあえて拘泥して、法案についての意見を述べさせていただきます。
 憲法九条の解釈について。
 付託されている法案には、憲法九条との適合性という重要問題があるにもかかわらず、本委員会では憲法九条の解釈について余り正面から論じられていない印象を持ちます。
 私は、憲法九条の解釈としては、戦争放棄に関する本案の規定は、直接自衛権を否定しておりませんが、九条二項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものでありますという一九四六年六月二十六日の衆議院での吉田茂首相の言葉が、端的に正統なものと判断します。これによって、憲法九条のもとでは、個別的、集団的を問わず、自衛権の行使のためであっても戦争や武力の行使はできないという結論が導かれます。
 しかしながら、政府は、この解釈を、一九五四年の自衛隊創設に伴い変更しました。自衛のために必要相当な範囲の実力部隊を設けることは憲法に違反しないというものです。この自衛隊創設には、一九五二年の日米安保条約の前文で、日本の自国防衛の責任へのアメリカ側の期待が記されたということが大きく影響しています。
 その後は、この安保、自衛隊という既成事実の重みによって、一種の魔法にかかったような状態が続いています。私は、憲法学者の端くれとして、多くの先達が汗牛充棟さながらに唱えてきた、自衛隊は違憲という九条解釈論に学びながら、この魔法の呪縛を解き、憲法九条の本来の意義を究明することに微力ながら努めてきました。この間、国民の命と暮らしを守るのは憲法学者ではなく政治家だという声も聞こえましたが、これは、学者と政治家のそれぞれの役割の違いをわきまえずてんびんにかける、ミスリーディングな言葉だと思います。
 学者は、あくまでも学術の立場から社会や政治に対して意見を提出するものです。日本学術会議が作成した「科学者の行動規範」は、「科学者は、」「社会の様々な課題の解決と福祉の実現を図るために、政策立案・決定者に対して政策形成に有効な科学的助言の提供に努める。」「科学者は、公共の福祉に資することを目的として研究活動を行い、客観的で科学的な根拠に基づく公正な助言を行う。」と定めています。
 この間の憲法学者の違憲論、とりわけ砂川事件最高裁判決の読み方についての意見、また、多くの学者が示している法案に対する消極論、慎重論をそのようなものとして受けとめることを貴院には強く求めます。
 もちろん、憲法九条をどのように解釈するか、学界の中には多様な説があります。しかし、多様な説が併存する学界の中で、集団的自衛権は違憲という点において、なかんずく政府が長年維持してきた集団的自衛権違憲論を一片の閣議決定で覆すことに合理性、正当性がないという点について幅広い一致が見られることに、今回の法案審議において特段の重視をお願いしたいと思います。
 二、法案の違憲性等について。
 私も呼びかけ人の一人である六月三日発表の憲法研究者の声明が、これは資料を御参照ください、述べているように、今回の法案には幾つかの看過しがたい違憲性が含まれています。以下、法案の違憲性や問題点について私見を述べます。
 第一に、歯どめのない存立危機事態における集団的自衛権行使の問題です。
 自衛隊法と武力攻撃事態法の改正案は、存立危機事態における自衛隊による武力の行使を規定していますが、その中での我が国と密接な関係にある他国は、米国に限定されません。また、存立危機武力攻撃とはどのような武力攻撃のことなのか、何を基準にして他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要と認めるかなど、曖昧です。そして、この攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使がどの程度のものであれば、事態に応じ合理的に必要と判断される限度にとどまるかなど、使われている概念が極めて漠然としており、その範囲は不明確です。個別的自衛権行使を念頭に置いた今までの自衛権発動の三要件が曲がりなりにも有していた要件の明確性、限定性が、存立危機事態を含む自衛の措置の三要件になったことで失われてしまったと判断せざるを得ません。
 存立危機事態対処は、歯どめのない集団的自衛権行使につながりかねず、憲法九条に反するものであると考えます。
 なお、この存立危機事態対処が加わったからでしょう、自衛隊法三条一項の任務規定から、「直接侵略及び間接侵略に対し」という文言を削除しました。これでつじつまが合うとされたのでしょうが、これにより、何からどうやって我が国を防衛するかが不明となり、我が国の防衛が際限なく広がる危険を生じさせた、安易かつ不適切な改正だというふうに思います。
 さらに、武力攻撃事態法改正案の三条一項では、武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処を、国、地方公共団体、指定公共機関が相互に連携し、万全の措置を講ずるとしています。これは、存立危機事態での対処措置を国だけでなく地方自治体や指定公共機関にも行わせる可能性を排除しないことを意味し、重大な問題をはらんでいます。
 この公聴会は、国会法五十一条に基づき、真に利害関係を有する者または学識経験者から意見を聞く会ですが、指定公共機関は、この真に利害関係を有する者に該当するはずです。その意見を聞かずに法案を採決することは、丁寧な審議とは言えないと思います。
 (二)に行きます。
 重要影響事態法案における後方支援活動と国際平和支援法案における協力支援活動は、いずれも他国軍隊に対する自衛隊の支援活動ですが、これらは、活動地域について地理的限定がなく、現に戦闘行為が行われている現場以外どこでも行われ、従来の周辺事態法やテロ特措法、イラク特措法などでは禁じられていた弾薬の提供も可能にするなど、自衛隊が戦闘現場近くで外国の軍隊に緊密に協力して支援活動を行うことが想定されています。
 これは、もはや、外国の武力行使とは一体化しないといういわゆる一体化論がおよそ成立をしないことを意味するものであり、そこでの自衛隊の支援活動は武力行使に該当し、憲法九条一項に違反するものです。
 重要影響事態法案、国際平和支援法案とも、二条二項で、日本の支援活動は武力の行使に当たるものではないとしていますが、これは、後方支援、ロジスティックサポートは武力行使の一環という国際法、国際社会の常識に反しています。
 深刻なのは、このことにより、支援活動中に武力紛争の相手方に拘束された自衛隊員が捕虜としての扱いを受けないことです。これは、七月八日の本委員会での岸田外務大臣の答弁で確認されています。
 他方、他国の軍隊への支援活動を行う自衛隊は、相手側からすれば、敵対行為に直接参加する者として、文民としての保護を受けない可能性があります。いや、武器を持った文民などあり得ません。
 結局、自衛隊員は、軍人としても捕虜扱いされず、文民としての保護も受けない、勝手に敵対行為に参加している者という著しく不安定な法的地位に置かれます。これは、支援活動が武力行使ではないとしたことによる根本矛盾です。
 私は、九条の解釈として、自衛隊はこれに反する存在であると判断しますが、自衛隊員の生命や権利が軽んじられることがあってはならないと考えます。
 しかし、今回の法案は、武力行使はしない、他国の武力行使とは一体化しないという根拠に乏しい前提に立ちながら、自衛隊員に戦闘現場近くでの支援活動に従事させるものであり、結果として、自衛隊員が相手方に拘束された場合に、戦闘員でも文民でもないという不安定な地位に追いやられ、その生命と権利を著しく害する事態を引き起こしかねないという根本的な欠陥を抱え込んでいます。
 このような欠陥法案を成立させることは、政治の責任の放棄のそしりを免れないでしょう。自衛隊員の命と暮らしを守るのは政治家の務めではないでしょうか。
 また、国際平和支援法案の支援活動には、いわゆる例外なき国会事前承認が求められることになりましたが、この歯どめとしての実効性は、国会での審議時間の短さなどから大いに疑問です。
 他方、重要影響事態法案は、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態という極めて曖昧な要件で、国連決議等の有無にかかわりなく米軍等への支援活動が可能となることから、国際法上違法な武力行使に加担する危険性をはらみ、かつ国会による事後承認も許されるという点で、大きな問題点があります。
 次に、自衛隊法改正案は、自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している米軍等の武器等防護のために自衛隊に武器の使用を認める規定を盛り込んでいます。
 自衛隊法の九十五条は、規定の仕方からして、もともと保管されている武器についての規定のはずです。それが、周辺事態法の制定を契機にして、活動中の武器等の防護にも使用可能な規定とされたことから問題が生じています。
 しかし、改正法案九十五条の二は、米軍等の武器等防護という全く性格の異なるものまで引き及ぼしています。この規定は、自衛隊が米軍等と警戒監視活動や軍事演習などで平時から事実上の同盟軍的な行動をとることを想定していると言わざるを得ません。一体いつから日本はオーストラリアと同盟関係に入ったんでしょうか。不可思議です。
 このような活動は、周辺諸国との軍事的緊張を高め、偶発的な武力紛争を誘発しかねません。そして、武器の使用といいながら武力の行使までエスカレートする危険をはらむものです。現に、本委員会での審議では、共同で警戒監視活動をしている米艦へのミサイル攻撃を自衛隊のイージス艦が迎撃する場合も、九十五条の二が適用され得ると政府答弁があります。これが認められるならば、集団的自衛権行使としての武力の行使との違いはほとんどないと言わざるを得ません。
 結局、改正法案九十五条の二の規定は、集団的自衛権行使の前倒しとしての意味を持ち、憲法九条に反するものです。領域をめぐる紛争や海洋の安全の確保は、本来、平和的な外交交渉や警察的活動で対応すべきものです。これこそが、憲法九条の平和主義の志向と合致するものであることを強調しておきます。
 以上述べたように、憲法上多くの問題点をはらむ二つの法案は、速やかに廃案にされるべきです。政府は、この法案の前提となっている昨年七月一日の閣議決定と日米ガイドラインを直ちに撤回すべきです。そして、憲法に基づく政治、立憲政治を担う国家機関としての最低限の責務として、貴院には、このような重大な問題をはらむ法案の拙速な審議と採決を断じて行わぬよう求めたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 小澤隆一

speaker_id: 22812

日付: 2015-07-13

院: 衆議院

会議名: 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会公聴会