阿部正浩の発言 (厚生労働委員会)
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○阿部参考人 おはようございます。中央大学の阿部と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、このような場で意見を開陳する機会をいただきまして、大変光栄に存じております。
私は、経済学部で労働経済学を研究しておりますので、研究者としての立場から、今回の派遣法改正、あるいは今後の派遣制度について考えを述べさせていただきたいと思っております。
まず、皆様のお手元に資料をお配りいたしておりますが、一枚目、「雇用形態別、雇用者数の推移」ということで、これは、総務省統計局が調査しております、一九八四年から二〇〇一年までは労働力調査特別調査、それから二〇〇二年以降は労働力調査の詳細集計といったところで雇用形態別の雇用者数を把握しておりまして、それをグラフにしたものでございます。
これを見ますと、労働者派遣事業所の派遣社員というのは、派遣社員の推移でございますが、一九九九年の二十八万人から、ピーク時が二〇〇八年末の百四十八万人へ、派遣労働者数は傾向的に増加してまいりました。ただ、その後減少しまして、二〇一五年一—三月期は百二十万人へと推移しております。この二〇一五年の百二十万人という数字は、非正規労働者全体の約六%、雇用者全体の約二%に当たるということになっております。
派遣労働者が九九年の二十八万人から現在の百二十万人へと増加してきた背景としましては、幾つかあると思いますが、大きく二つの要因があるのではないかと思っております。この要因は、非正規雇用者増加の背景とも同様と思っております。
その一つには、お手元の資料の二枚目にございますが、そこに、技術代替的労働需要、ちょうど真ん中のあたりに書いてありますが、この技術代替的労働需要と申しますのは、技術革新によって比較的未熟練労働者でも遂行可能な仕事が今現在ふえておりまして、そうした需要が技術革新によって生み出されたものであるということでございます。
ただ、技術革新は、一方で技術補完的労働需要というのもつくってまいりましたが、技術代替的労働需要が比較的未熟練でも遂行可能ですので、企業が労働者を長期雇用する必要性が弱まったということで、以前に比べて、長期雇用ではない非正規雇用者、そして派遣労働者がふえてきたのではないかと考えております。
もう一つの大きな理由が、企業が、グローバル化などで、国際競争上、激しい競争をしております。企業は労務コストの抑制というのをせざるを得なかった側面もあり、そしてまた、労働市場が国際化していって賃金がやや上がりづらかった、賃金の上方硬直性というふうに書いてありますが、上がりづらかったといった点もあろうかと思います。
そういう背景もあって、特に九〇年代前半のバブル崩壊以降、日本の企業は雇用に関して選択と集中ということをやってきて、企業特殊的で熟練を要する仕事には正社員を雇用し、単純で簡単な仕事や高度で専門性の高い仕事は外部労働人材に頼るということで非正規雇用者がふえてきたというふうに考えております。
なお、派遣労働者が非正規の中で需要があるもう一つの理由としては、派遣労働者のマッチング機能が比較的高いという側面があろうかと思います。
企業が労働者を直接雇用しようとして採用活動を行う場合には、広告やあるいは職業紹介、あっせん機関等を利用して求人募集するわけでございますが、労働者と企業の間では情報の非対称性というものが非常に大きく、採用にはとても時間と費用がかかるということです。
一方、これに対して、派遣の場合は、派遣社員の能力を派遣会社が事前に把握して、比較的短時間でマッチングすることができており、採用に要する費用も企業にとって決して安くないので、派遣を通じた労働需要というものは、企業にとっても、そして働く側の労働者にとっても、すぐに仕事を探せるし、仕事を見つけることができるということで、相対的に効率のよいものになっているだろうということであります。
このように、企業が派遣労働者の需要をふやした背景としては、熟練を要さない仕事がふえて外部労働力の活用をふやしてきたことと、外部労働力のマッチングにおいては派遣の効率性が比較的高いということが考えられます。
なお、派遣労働者の比率が非正規雇用者の六%、雇用者全体の二%と高くないのは、パート労働者等に比べて派遣労働者の時給は手取りベースでもやや高いということがあって、労務コストの上では派遣労働者の方が比較的、企業は活用したいんだけれども、高いので、やはりなかなか活用できないという側面もあるのではないかと考えております。
一方、労働供給側の派遣社員に目を転じますと、平成二十四年派遣労働者実態調査によると、派遣労働者の今後の働き方に対する希望は、お手元の資料で最後のページ、三枚目になりますが、派遣労働者として働きたいと答えた方が四三・一%、派遣社員ではなく正社員として働きたいと答えた人が四三・二%と、ちょうど五人に二人ずつ、正社員になりたいという希望を持つ方と派遣社員のままで働きたいという方がいらっしゃるということでございます。
最近行われた日本人材派遣協会の調査では、約七割は当面派遣社員として働きたい、ただ、将来的には正社員が四割強ということになってございます。
そういう意味で、労働者の希望というのは、正社員にもなりたいという派遣労働者がいる一方で、派遣社員としてキャリアを形成していきたいという労働者がいるのも事実でございます。
労働者の希望をできるだけ実現することは、政策的に大変大事なことでございます。正社員になりたい人が正社員へのキャリアアップができるよう、そして同時に、派遣社員のままがよいという人には派遣社員でのキャリアアップを図ることができるよう、労働市場の環境を整備していくこと、これが非常に大切なことだと思います。
今回の派遣法、今提出されている案では、派遣会社に派遣社員の計画的な教育訓練と希望者に対するキャリアコンサルティングの実施を義務づけておりますが、これは非常に大切なポイントだろうと思います。ただ、このキャリア形成の問題は非正規雇用者全体にも当てはまっており、その意味では、派遣法だけで解決できる問題ではなく、ほかの政策も考えていくべきだろうと思います。
最後に、超高齢社会を迎えている我が国の社会経済の持続可能性を考えると、人々の多様な働き方を認めるとともに、労働者一人一人の生産性を高めていく必要があると思います。そのために、法制度は、労働者の希望する職業選択がかなうようなマッチングシステムの高度化、能力開発の整備を明確に織り込むべきだと思いますし、その一方で、企業の雇用ポートフォリオと労働需要をゆがめるような法制度は問題であろうというふうに思っております。
以上、今後の議論に参考になれば幸いと存じます。どうもありがとうございました。(拍手)