大久保幸夫の発言 (厚生労働委員会)
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○大久保参考人 おはようございます。リクルートワークス研究所の大久保と申します。このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
私は、企業の人事管理、それから個人のキャリア形成、あとは労働政策ということについて、長年研究をしております。
この派遣という制度についてもかなり長く見詰めてまいりましたし、その間、派遣労働者向けの調査を行ったりとか、ヒアリングを行ったりということも長年やってまいりました。その中で、この派遣制度というものに対して私がずっと思い続けていることが一つございます。
それは何かというと、派遣というのは何なのか、派遣という制度というのはどういうふうにあるべきなのか、どちらに向かっていったらいいのかということがはっきりしない。そこが非常に不明瞭な、ある種、相反するものがこの制度の中に組み込まれているということをずっと思い続けてきております。
それは、もともとできた派遣法というものが、改正に改正を重ねて、家を増改築を繰り返していくようなもので、だんだん複雑になっていって、かなりわかりにくい制度になっている。しかも、そのときの議論がそれぞれ反映されて、ちょっと俯瞰的に見ると、これは両立しないんじゃないかと思うことが含まれているときがあるんですね。
例えば、今回、派遣については臨時的、一時的なものにするという方向性が打ち出されておりますけれども、もともと日本の派遣制度というのは、ほかの国の派遣制度と比べた場合に、一つの職場で働き続ける期間が長いという大きな特徴がございます。国際的に見ると、派遣制度はかなり短いものです。日本は長かった。どちらかというと安定性を目指して、日雇い派遣については禁止をした。日雇い派遣を禁止したことと、一時的、臨時的なものだということについては、どういうふうに組み合わせて理解をしたらいいのか、このあたりは若干悩ましいところが残っております。
あるいは、もともと正社員とか常用雇用の代替になるようなものは派遣にしないんだ、これは日本独特な考え方で、そういう考え方をしてきましたけれども、ということは、正社員と違う仕事をするということなんですね。その人を円滑に正社員化するということはどういうことなのか。このあたりもなかなか難しい、相反するところを含んでいて、例えば雇用の安定、派遣労働者の安定、派遣切りはいけないということでより安定性を目指すと、今度は派遣というものが生涯派遣だという批判が出てくる。一体このどちらを目指して派遣という制度をつくっていくのかという議論をしっかり収束させることが、派遣制度をいい制度にしていくことなのかなというのをまず大前提としては私はずっと思い続けております。
ただ、これは相当な、丁寧な時間をかけた議論がまた継続的に必要なんだろうと思っていまして、今回提案されている法改正について言えば、それでも私は幾つかの点で大きな改善があるというふうに考えております。
特に、私がそのポイントとして大きいと思っているところをお話をしたいと思うんですが、これは、現場の実際の派遣労働者を使っている企業の方々、働いている派遣労働者の方々、派遣事業者の立場、それぞれからさまざまな話を聞いているわけでありますけれども、改善のポイントとして一番大きいと思っているのは、いわゆる専門二十六業務という枠組みをやめることです。これは非常に大きいです。
御承知のとおり、もともと派遣制度ができたときには十六業務からスタートしているわけですが、この十六をどうやって選んだのかというと、いわゆる今働いている正社員、常用雇用で働いている方々の代替にならないものを選んだ。かつ、それ以前には事務業務請負というサービスがございまして、これは外資系企業のテレックスの対応をしたりするような仕事ですね、そういう方をこの新しい派遣制度で吸収する。もう一つ、女性の雇用機会をつくろうじゃないかと。これが議論されて、当初十六業務というのが決められました。最後の方の理由があるから、事務機器操作とかファイリングというものも入ってきたわけですね。
つまり、これで設定されているものというのは、必ずしも専門職ではないんです。事務機器操作とかファイリングという専門職というのは、実際にはないんです。ただ、専門二十六業務と便宜的に呼んでおりました。
それが後に、ネガティブリスト化することによって、二十六業務については期限を決めなくていい、それ以外は三年だ、こういうふうに決めたことによって、この線引きを明確にすることを求められたわけです。
いわゆる適正化プランというものが展開されたんですが、これが実は大混乱でございまして、もともとファイリングというのは何だというと、非常に曖昧なものであって、今、全ての事務職は大体パソコンを使ってやっていますので、そういう中で、ファイリングかファイリングじゃないのか、事務機器操作であるのかそうじゃないのか、そこについての見解が労働局でも分かれたりして、どんどん動きが手足が縛られてわかりにくくなっていく、そういうプロセスをたどってまいりました。
先ほど高橋参考人からもお話がありましたけれども、実際には、その業務に専念をしなければいけない、何割以上はそれじゃなきゃいけないとかということになってくると、本当に電話をとることすら制約されたりとか、職場に置いていくと、だんだん距離を置かれていくんですよね。だんだんその職場の人間ともなじみにくくなっていくというようなことがあって、非常に働きづらいということで、何を守ったらこの法律を守っていることになるか非常にわかりにくいということもあって、現場は大変混乱をいたしました。その関係で、事務機器操作で働いている人の数というのはかなり減るんです。
そういうような混乱状態から今回の法改正によって抜け出せるということは、現場で派遣に直接携わっている人は大変それを評価している、喜んでいるんじゃないかというふうに思います。それが、改善と申し上げたことの一つであります。
二つ目は、派遣事業者の許可要件を厳しくしたこと、これは私は大変いいことだというふうに思っています。
特定労働者派遣、届け出制だったものについて全部許可制にするということは大変結構なことですし、それから、教育訓練とかキャリアコンサルティングを義務づけて、キャリア支援制度を有する会社でなければ派遣事業は営めないというふうにしたことも大変いいと思います。
人材サービスの中でも、派遣事業というのは直接雇用をする事業なので非常に責任が大きいんですね。その労働者を、間接雇用ですけれども守らなければいけないという大きな責任がありますし、その労働者のキャリアについての責任も負うわけですから、それだけのある種能力が必要である、体制が必要であるということだと思っておりますので、それを求めることは極めて自然なことだというふうに思います。
実際にこのようなルール改定が提示されて、確かに、中小の派遣事業者の中にはあっぷあっぷしているところも結構あります。ただ、これは筋としては極めて通っていることだと思いますので、意欲のある業者は一生懸命この法改正についていこうというふうに思っておりますし、それが派遣制度全体の健全化につながるのではないかということで、このポイントについては評価をしております。
あともう一つ、これは一〇〇%賛成というふうには言い切れなくて、両面性が若干あるんですけれども、全て三年を上限にして、派遣先の、継続したいと思ってもそこで終わってしまうという問題に関しては、実際にこの法改正について反対している派遣労働者の中の一番大きな声は、やはり自分自身が三年を超えて今の職場にいて、そこについての期限を定められてしまうということについての懸念であります。
ただ、これについてはかなりポジティブな側面もございます。
つまり、一つは、三年間その職場で働き続けてきて、ということは、一定程度その職場で評価をされてきてそこまで継続してきた人なので、派遣事業者から見ると、そういう方であれば、次の派遣先を紹介することについては非常に可能性が高いということが一つは想定される。
三年ということで最初から決まっているので、働いている人は三年というのを一つのキャリアのスパンとして考えるんですね、この三年の次はどうしようかと。それは、正社員へのトライアルをしようか、それとも派遣としての働き方を継続して、むしろそこにおけるスキルアップを図っていこうか、一つ、キャリアを考える上での節目になるということなんでしょう。つまり、御本人の希望どおりに働くことがもちろん最善なんですけれども、一つのきっかけになるという意味においては、キャリア形成上のプラスの部分もあるのではないか。
この両面があると思いますので、私はこの法改正については理解できるというふうに考えております。
改めて、派遣制度、派遣労働者のことを考えたときに、ぜひ議論の中で考えていただきたいこと、留意していただきたいと思っていることを最後に申し上げたいと思います。
一つは、派遣労働者の中には、非常に多様な志向を持った人、多様な背景、環境を持った人たちがいます。そのことにぜひ配慮をしていただきたいというふうに思っております。
代表的なものは、派遣で働き続けたいと思う人と、この仕事を通じて次は正社員になりたいと思っている人が両方いるということで、両方の志向がかなえられるということを大事にしていただきたいというふうに思うんですね。一方的に、皆さん正社員になった方がいいんだというのは、ちょっとそれは押しつけになってしまうので。そうじゃない人たちもたくさんいる。
特に派遣の方で多いのは、今まで正社員として働いていて、かなり残業もしていました、そういう人が、例えば結婚したのを機会にもうちょっとワークライフの見直しをしたいと。できればフルタイムか、もしくは若干短時間労働で働きたいんだけれども、なかなか正社員だとそういう場がない、今までやってきた経験は生かしたいといったときに、やはり一番最初に候補になるのは派遣なんですね。ですから、そういう形で派遣労働に入られた方というのは、概して満足度も高いということでございます。
あるいは、例えば旦那さんが転勤をした、その転勤についていって自分も引っ越しをするというときに、とりあえず派遣で働きながら次どうするかを考えよう、そういう一時的な働き場としても派遣の満足度は非常に高いということがございます。
そういういろいろなケースがございますので、そういう人たちにもしっかり使っていただけるし、かといって正社員になりたいという人を閉じ込めるのではなくて、その人にはしっかりとまた支援ができるという、この両方を含んだものであるかどうかということについては、こだわっていただきたいというふうに私は思い続けております。
正社員にどのぐらい派遣の人たちが変われるのかということについては、それは若干限界があるんだろうというふうに思います。
というのは、派遣労働というのは、この仕事を担当するといういわゆるジョブ型なんですね、基本的には。御承知のように、日本の正社員というのはメンバーシップ型なので、何でもやるという方ですから、むしろこれからは、直接雇用の中にもジョブ型が広がっていったときに初めて正社員から直雇としてのキャリア形成が促進されていくんだろうと思いますけれども、今はまだやはり正社員イコールメンバーシップ型ですので、仮に、すぐれた派遣労働者の方がいて、この人の戦力を失いたくないと思っても、それだけで簡単に正社員にできるかというと、なかなか企業の人事管理を考えるとできないところもあります。若干時間がかかるだろうというふうには思います。
ただ、紹介予定派遣のような方法を使って、本当に正社員になりたいという志向のある方には、担当業務プラスアルファのことをその期間中に経験していただいて、じっくりと評価をしていただいて、正社員の道をつくっていくということは可能でありますし、そのようなことを、スキルアップ支援等キャリアコンサルティングを含めながらやっていくということは可能だと思いますので、今は、そういう道筋をとりながら、少しでも正社員化を希望する人の希望にも応えられるようにという第一歩をとっていくということなのかなというふうに思っております。
ぜひとも、派遣労働者はいわゆる非正規社員の一つでありますが、正規がよくて非正規が悪い、そういう二元論での議論というのは私はもう終わりにすべきなんじゃないかなというふうに思っております。
例えば、非正規は本当にいろいろな働き方がありまして、これまでの労働政策の議論の中で、やはり雇用保険に入れるという状態を重視しようということで雇用保険の対象拡大をやってきましたから、そうじゃない状態は不安定な状態、よりそのセーフティーネットが機能している状態に持っていこうという、この間に大きな違いがあるわけですよね。
あとは、みずから望んでその仕事をやっている働き方を選んだという人と、そうでない、不本意でそれを選んでいる人の間にも違いがあるわけで、むしろそこの境目というのを重視するべきであって、単純に無期か有期かということだけでは、よしあしを議論すべきではないんじゃないかなというふうに思っております。
そして、もう一つだけ申し上げたいと思いますが、派遣で働くということについては、ほかの雇用形態では用意できていない働き方を派遣は提供している部分がございます。労働市場全体からすると、多様な働き方を選択できる、用意できるようにしておくということがとても重要だと思います。これは、さまざまな環境、状況にある人たちの就業率を上げるということにつながりますので、今後、人口減少が続いていく日本においては、多様な働き方を用意することというのは、これは間違いなく私は方向性として確保しなければいけない道だと。
そうすると、では派遣の問題をどうするのかということになると、派遣そのものについては多様な働き方の一つとして認めつつ、そのかわり、処遇条件については、待遇条件についてはやはり改善していく必要がある。いわゆる均等処遇ということでありますけれども、これは賃金だけじゃありません。福利厚生も含めて直雇の正社員と変わらないようにしていくこととか、あるいは賃金そのものも、これはジョブ型なので何と比較するかは難しいんですけれども、なかなか比較対象がないこともあるんですが、それを適正な相場にしていくということの均等待遇については、これはEUも苦戦しておりますが、一歩一歩でも前に進めていくことが大事だというふうに思っております。
そういうところを御配慮いただきながら、派遣制度の改善を進めていただきたいというふうに思っております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)