内山新吾の発言 (法務委員会)
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○内山参考人 皆さん、おはようございます。日本弁護士連合会副会長の内山新吾と申します。
私は、この四月に副会長に就任しまして、日弁連内の可視化実現本部の担当をしております。
私からは、主に、取り調べ可視化を求める日弁連の見解と取り組みを紹介し、本日のテーマに対する意見の陳述とさせていただきます。
日弁連は、このたびの刑事訴訟法等の一部を改正する法律案につきましては、国会での充実した審議の上、国会の総意で早期に成立することを強く希望しています。それは、このたびの法改正により、対象事件が限定されているとはいえ、取り調べの全過程の録音、録画、すなわち可視化を法的に義務づけるなど、貴重な前進面が見られるからです。
法案には、このほか、通信の秘密や個人のプライバシー侵害のおそれのある通信傍受の拡大、それから引き込みの危険性が指摘されている捜査・公判協力型協議・合意制度なども盛り込まれているところで、この点については留意する必要がありますが、日弁連は、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会での議論の経緯なども踏まえて、本法案は全体として日弁連の目指す刑事司法改革を一歩前進させるものと評価し、成立を求めているものです。
さて、今から三十年ほど前になりますが、著名な刑事法学者である故平野龍一さんがその著書の中で、我が国の刑事裁判はかなり絶望的であるというふうに評されました。これは主に、過度に供述調書に依存した捜査、裁判のことを指しています。
この絶望的な状況を打破し、刑事司法を改革するため、日弁連は、主に捜査段階に光を当てることにしました。率直なところ、弁護士の活動も、起訴され公判になってからの弁護が中心であって、捜査段階、逮捕、勾留段階での弁護は手薄なところがありました。特別な事件は除いて、広く一般の事件で、捜査弁護の充実というのは必ずしも図られていませんでした。
そういった反省も込めて、その時点で、日弁連は、全国で当番弁護士を展開しました。この当番弁護士制度は、その後、被疑者国選弁護制度の段階的な法制化ということで結実しました。さらに、法曹三者が協力をして新たに裁判員制度を実現し、その中で、一定の範囲ですが、証拠開示制度を法制化し、調書中心の裁判から、直接主義、口頭主義の実現へとつなげてきたという経緯があります。
このような刑事司法改革の流れの中で、日弁連は、取り調べの可視化を次の最重点の課題と位置づけました。密室での取り調べ、そこでつくられる供述調書が冤罪を生むんだ、冤罪防止のためにはまずそのブラックボックスをなくすことが不可欠だというのが、現場で刑事弁護を闘う弁護士の共通の認識でした。これは、数多くの冤罪事件の教訓でもあります。日弁連は、身体拘束の有無を問わず、全事件、全過程の可視化の実現を方針として掲げることにしました。
こうした中、先ほど説明もありましたとおり、二〇一〇年に一連のいわゆる検察不祥事が発生しました。これをきっかけに、同じ年に検察の在り方検討会議が発足し、翌年、提言が出されました。その中で、「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直し、制度としての取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築する」との方向性が示されました。
これを受けて、二〇一一年に、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会が設置されました。この部会には、御承知のとおり、日弁連を含む法曹関係者や研究者、専門家だけではなく、国民を代表する各界の有識者の方々が広く委員として加わりました。
この特別部会の審議を通して、日弁連は、新たな刑事司法制度においては、捜査機関に対し、取り調べ全過程の録音、録画を義務づける制度を導入すべきだということを主張しました。それはまず、違法、不当な取り調べを防止するとともに、被取り調べ者の権利を確保し、また、取り調べを通じて内容虚偽の供述調書が作成されることを防止する、そして取り調べ状況及び供述の経過を客観的に検証できるようにする必要があるからです。
さらに、日弁連は、これに関して次のような立場をとりました。
捜査機関による裁量的な録画、録音は、可視化本来の目的からいうと極めて不十分、問題がある。内容虚偽の供述証拠について、あたかも適正に収集されたかのような外観を作出する、そういう危険性すらある。取り調べの録音、録画は、やはり全過程について義務づけるものでなければならない。また、可視化については、被疑者本人以外の者についても、やはり不適正な取り調べによって被疑者を罪に陥れる内容虚偽の供述調書が作成されてきたこと、これは、例えば厚生労働省元局長事件でも明らかだ。参考人調べの名目による全過程録画、録音の潜脱を防止するためにも、録音、録画の対象を被疑者取り調べに限定するのは相当ではない。
そして、このような可視化は一部の事件に限られるものではないし、被取り調べ者が身体拘束されている事件に限られるものでもない。捜査機関は、被疑者その他の関係者の取り調べを行うときは、その状況を全て録画、録音しなければいけないのであって、その義務に違反して収集した証拠は、証拠能力が本来否定されるべきものだ。
そういう見解を日弁連は述べました。
この特別部会で、可視化をめぐって、主に捜査機関の側からは、当然のことながら消極的な意見が出され、結果的には、残念ながら、日弁連の意見が丸ごと反映されるということにはなりませんでしたが、最終的には、昨年の七月、全会一致の形で刑事司法改革に向けた意見の取りまとめがされるに至りました。
この特別部会の取りまとめをもとにつくられた本法案では、可視化の対象事件は裁判員対象事件と検察独自捜査事件とされています。これは、私たち日弁連が求めるところと大きな隔たりがあります。しかし、この点は、私たちは、不十分ながら全件可視化に向けての貴重な一歩を踏み出したものというふうに評価しています。
そういうふうに評価できる事情を幾つか指摘します。
一つは、これは義務づけというわけではありません、裁量的なものですが、最高検がこの特別部会の動きに呼応する形で、昨年六月十六日に、「取調べの録音・録画の実施等について」という依命通知を発したことです。これにより、それまで試行されてきた四類型の事件、裁判員制度対象事件、知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等の事件、精神の障害等により責任能力に減退、喪失が疑われる被疑者等、そして検察独自捜査対象事件、この四類型ですが、これについて本格実施されるということになりました。
あわせて、この本格実施とは別に、公判請求が見込まれる身柄事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの、証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取り調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取り調べを録音、録画することが必要であると考えられる場合、その事件についても可視化の試行の対象になりましたし、被害者、参考人の取り調べについても、その必要性が認められる場合に試行の対象になる、そういう動きがありました。
これは確かに捜査機関の裁量によるものですけれども、私たち弁護人からの働きかけによって、これを大いに活用できるというものでもあります。
第二に、この特別部会、法制審の動きの中で、最終的に法制審が取りまとめた調査審議の結果の附帯事項があります。この中では、このたび法制化の対象とならない事件についても、「実務上の運用において、可能な限り、幅広い範囲で録音・録画がなされ、かつ、その記録媒体によって供述の任意性・信用性が明らかにされていくことを強く期待する。」ということが記されています。この点については、警察、検察も承認しているところであります。
また、特別部会の審議の中では、裁判官出身の委員から貴重な指摘がありました。それは、「任意性立証のために最も適した証拠が取調べの録音・録画の記録媒体である」という指摘です。あわせて、この裁判官委員は、「録音・録画媒体がない場合には、その取調べで得られた供述の証拠能力に関し、証拠調べを請求する側に現在よりも重い立証上の責任が負わされるという運用に恐らくなっていくのだろう」という見解を示しています。そして、「録音・録画義務が課されない事件についても、被疑者の供述が鍵となる事件においては、リスクの意味合いという意味では同様のことが言える」というふうに述べておられます。こうした捉え方に基づく裁判所の今後の運用が期待されるところです。
さらに、日弁連は、先ほども紹介しましたが、被疑者国選弁護制度の全面的な実施を目標に掲げてきました。これも、最初はごく限られた対象事件にしか実現しませんでしたが、その後、段階的に拡大させてきたというふうな実績があります。
こうしたことから、私たち日弁連は、このたびの立法の出発点においては、不十分なところ、限定された点があるとしても、さきに紹介した、捜査機関側の運用をてこに拡大していく、または裁判実務を変えていくという取り組みの中で、そうした現場の弁護実践の中で、可視化の運用範囲、その実例を拡大し、将来の対象事件の拡大、次の段階の法制化につなげていくことが可能だというふうに考えています。
日弁連は、全国の会員に呼びかけて、あらゆる事件での可視化申し入れの取り組みを進めるようにしています。また、可視化に対応できるように、捜査段階、公判段階における弁護活動の質の向上を図ることに努めています。全国から、実際に可視化された事例がどうなったのか、可視化されなかった事例がどうなったのか、そういう事例の集積をし、そこでの成果や問題点をしっかり分析、検討し、その成果を広く会員に発信したいというふうに考えています。こうした弁護実践を積み重ねていくことにより、可視化されていなかった取り調べの供述調書の証拠価値は認めない、証拠として認めないという裁判所の判断を定着させ、録音、録画の対象事件は拡大せざるを得ない、そういう状況を私たちはつくり出していきたいと考えています。
繰り返しになりますが、日弁連は、身体拘束されていない被疑者や参考人も含めて、全面的な可視化の実現を目指して活動しています。本法案のように始まりは小さな範囲であっても、現場での取り組みによって必然的に可視化を拡大させていくということは可能だと確信しています。取り調べの全過程の可視化を法制度上義務づけるということは、それによって、可視化されない事件との違いがくっきりと明確になってくるという面があります。可視化されない事件の問題点がいわば可視化されてくるという効果があると思います。
可視化の実現は、密室での取り調べに依存した日本の刑事司法のあり方を根本から変えていく突破口になります。刑事弁護の現場で被疑者、被告人の人権のために苦闘する弁護士の集団である日弁連がこのたびの法案の成立を望む理由は、今述べたところにあります。
改めて、日弁連として、全事件、全過程の可視化実現の貴重な一歩を踏み出すために本法案の成立を求めるということを申し上げて、私の意見陳述を終わります。
どうもありがとうございました。(拍手)