周防正行の発言 (法務委員会)

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○周防参考人 おはようございます。
 映画監督をしていて、まさかこういう場所でこういうふうにお話しさせていただくことになるとは想像もしていませんでした。人生おもしろいものです。
 私は、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会で委員を務めさせていただきました映画監督の周防です。改めて、よろしくお願いいたします。
 私が特別部会の委員に選ばれた理由の一つは、刑事裁判についての映画「それでもボクはやってない」というものを制作したことにあると思います。
 しかし、映画監督としてというよりは、一市民として現状の刑事司法に疑問を持ち、それから三年半の取材を通して明らかになった事実をもとに脚本を書き、監督をしました。映画監督として映画をつくったというより、本当に一市民として疑問に思ったことを映画を通して多くの人に知ってもらいたい、そういう形の映画で、そういう映画をつくることになるとも実は考えたこともありませんでした。
 その映画づくりの中で、現状の刑事司法について本当にたくさんの疑問を抱きました。本日の論点は取り調べの録音、録画にあるというふうにお伺いしていますので、そのたくさんの疑問の一つであった密室での取り調べについて、きょうは、私の考えを述べさせていただきます。
 密室での取り調べ官と被疑者のやりとりが、取り調べ官の作文によって被疑者の一人称独白体となる、まず、そういった調書のあり方というものに本当に驚きました。こういうものが裁判で、私は痴漢事件の傍聴というのをよくやったんですが、調書に書かれている一字一句が争いになるんですね。しかし、その一字一句は、既にして取り調べ官が恣意的につくり上げた作文の中の一字一句です。確かに、被疑者、被告人がその調書にサインをしているという外形的な事実はありますが、その言葉自体が本当にその取り調べ室で語られたかどうかは誰にもわかりません。
 長期勾留の中で続けられる糾問的取り調べ、その取り調べで得た被疑者の言葉を取り調べ官の思惑によってまとめた調書が判決の決め手になってしまう。これを調書裁判というんだ、取材の初期の段階でこういう事実を知り、本当に驚きました。この調書裁判が数多くの冤罪を生んできたことは誰も否定できない事実だと思います。
 そもそも、新時代の刑事司法制度特別部会は、郵便不正事件で明らかになった検察官の不祥事がもとで発足した検察の在り方検討会議の提言を受けて設けられたものです。先ほどからの参考人の御発言にもありましたように、繰り返しになりますが、その提言とは、取り調べ及び供述調書に過度に依存した捜査、公判のあり方を抜本的に見直して、制度としての取り調べ可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するための検討を直ちに開始せよというものでした。
 しかし、問題があったのは郵便不正事件だけではありません。例えば、冤罪であることが明らかとなった、これは最近のことですが、氷見事件、足利事件、布川事件、東電OL殺人事件。そして、いまだなぜか争いが続く袴田事件、この経緯を見ていると、検察は今までの自分たちのやり方を反省してきたのかどうか、反省しているのかどうか、本当に疑わしいと思いますが、いまだ争いが続いています。さらには、PC遠隔操作事件で誤認逮捕された四人のうち二人が虚偽自白をするということもありました。そして、ことしの五月には、志布志事件の捜査の違法性が裁判で明らかとなっています。
 実は、こういった社会の注目を大きく集める事件だけではなく、痴漢事件などのいわゆる軽微な事件と言われるようなものの中でも、取り調べの違法性は強く指摘されています。例えば、軽微な事件では、取り調べ官が、認めれば出してやる、否認するなら勾留を続ける、そういった利益誘導ともおどしともとれるような、取り調べに名をかりたそういった不適切な行為が行われているといった指摘は多々あります。そういったことを考えると、潜在的な冤罪の数はかなり多いというふうに思います。
 以上のことから、率直に申し上げまして、私は、特別部会のテーマは冤罪を起こさないための司法制度改革にあると思い、会議に参加しておりました。
 その冤罪防止策の一つとして、取り調べの録音、録画はとても有効な手段だと考えています。録音、録画することによって取り調べの適正化は進む、そういうふうに考えております。ですから、基本的に、全事件において取り調べの全過程を録音、録画すべきだ、そういうふうに考え、会議でもそのように意見を述べさせていただきました。
 ところが、警察も検察も、全事件、全過程の録音、録画についてはそもそも物理的に困難である、そういうふうに反対されておりました。直ちに全警察の取り調べ室に録音、録画設備を設けることは難しいし、検察官が全ての録音、録画記録に目を通すことは時間的に無理がある、そういう御意見でした。
 また、録音、録画することで取り調べの真相解明機能が損なわれるというふうにも主張されておりましたが、その意見は全く納得できるものではありません。そもそも密室での取り調べが冤罪を生んでいる事実があるんですから、密室での取り調べに真相解明機能があるなどとはとても言えません。
 結局、最後まで全事件、全過程の録音、録画に賛同を得ることはできず、御存じのように、非常に限られた事件を対象とする可視化法案となってしまいました。そのことは本当に残念に思っています。
 とはいえ、法案で録音、録画が義務化される事件以外の事件についても、検察庁の依命通知によって、運用として参考人も含めた上での広い範囲の録音、録画が検察取り調べで行われることが公に約束され、それが本部会で取りまとめた時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想の趣旨に沿うものであることが部会の席上で確認できましたので、今回の可視化法案は全事件、全過程での取り調べの録音、録画制度への第一歩になると考え、同意いたしました。
 ちなみに、時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想の趣旨というのは、「刑事司法における事案の解明が不可欠であるとしても、そのための供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきことは言うまでもない」とした上で、取り調べの録音、録画については、「公判審理の充実化を図る観点からも、公判廷に顕出される被疑者の捜査段階での供述が、適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要がある。」というものです。
 ちなみに、この録音、録画の三年後の見直し規定、附則の九条だったと思いますが、ここでもこの基本構想を踏まえて行われるということを約束していただきましたので、同意しました。当然、この基本構想を踏まえるならば、対象事件が縮小するなどということはあり得ず、拡大する方向への見直しが行われるものというふうに考えて同意したものです。
 ただ、懸念がないわけではありません。見直しも含め、例えば、依命通知による多くの事件における録音、録画が行われても、本当に心配なことはあります。
 特に、合意制度が導入された場合、共犯者とされる在宅被疑者の取り調べが可視化されなければ、村木さんが起訴された郵便不正事件と同じような構造の冤罪を生んでしまう危険があります。郵便不正事件では、厚生労働省の職員等が共犯者である在宅被疑者として検察官の取り調べを受け、検察官の見立てに沿った、事実に反する内容の供述調書が作成されました。その後、村木さんは起訴される一方で、在宅被疑者らは起訴を逃れました。
 今回導入されようとしている合意制度については、共犯者から、刑事責任の減免と引きかえに、検察官の見立てに沿った、事実に反する内容の供述が獲得され、それによって無実の人が起訴され、有罪とされる危険が増大することが懸念されます。
 したがって、郵便不正事件と同じような冤罪を生まないようにするためには、共犯者の取り調べ全過程の録音等の必要性があると思います。共犯者の初期供述から取り調べの全過程が録音等で記録されるようになれば、検察官の見立てに沿って無理に供述を変更させるような取り調べや取引を防止することができます。公判においては、取引や取り調べの前後の供述を比較することによって、供述の信用性等を適切に判断することができます。逆に言えば、取り調べ全過程の録音等もない共犯者の供述に基づいて裁判が行われるようなことになれば、郵便不正事件と同じような冤罪は防ぐことができないのではないでしょうか。
 検察は、依命通知によって、運用として参考人取り調べを含めた録音、録画をすると約束しましたが、共犯者が在宅被疑者として取り調べられる場合もこれに含まれるのかは明確になっていません。郵便不正事件の反省、合意制度への懸念を踏まえた上で、共犯者は、在宅被疑者として取り調べられる場合も、参考人の場合と同様に、運用による録音等の対象であることを明確にすべきであると考えています。
 そして、共犯者の取り調べは、不当な取引や取り調べを防止し、供述の信用性等を適切に判断するための必要性が高いことから、全過程の録音等を原則とすべきであると考えます。検察の見立てに合わない初期供述は記録せず、あたかも最初から検察の見立てどおりに供述していたかのように装うことは検察のあり方として不当であり、それでは冤罪を防ぐことはできません。検察は、郵便不正事件の反省を踏まえて生まれ変わったというのであれば、共犯者取り調べの全過程の録音等を実施すべきだと考えます。
 今までのような密室での取り調べをこれ以上続けることは許されません。早期に取り調べの録音、録画を実現することが真の刑事司法改革へつながる第一歩であると信じております。
 どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 周防正行

speaker_id: 30930

日付: 2015-06-10

院: 衆議院

会議名: 法務委員会