加藤健次の発言 (法務委員会)

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○加藤参考人 ただいま紹介されました、弁護士の加藤と申します。
 私は弁護士ですから、もちろん日本弁護士連合会の一員ではありますが、きょうは、今回の一括法案に反対する立場から意見を述べさせていただきます。
 私は、弁護士をして二十七年になるんですが、特に刑事事件を専門としているわけではありません。ただ、いわゆる痴漢冤罪事件を何件か担当し、幸い、うち二件については、最終的には無罪をとることができました。また、例えば、国家公務員が休日に共産党の機関紙をまいたというだけで犯罪にされる、そういう国家公務員法事件を約十年間担当して、やっと最高裁で無罪を確定することができました。どちらかというと、裁判員裁判とはちょっと違うところでの刑事裁判で苦闘してきた、そういう経歴がございます。
 また、私は、自由法曹団という全国約二千名の弁護士で構成している団体の常任幹事も務めておりまして、委員の皆さんのお手元には、今回の法制審答申や法案について批判する意見書を配付させていただいているところであります。
 このような経験を踏まえまして、今回の法案についての意見を述べさせていただきます。
 最初に申し上げたいのは、まず、今回の刑事司法改革の原点といいますか、目的であります。参考人がるる申し上げているとおり、今回の刑事司法改革の出発点は、相次ぐ冤罪に対する反省に立って冤罪を防止する、そういう刑事司法に改めていく、そういうことにあったことは明らかです。
 先ほど来引用されております検察の在り方検討会議の提言では、「不当な誘導等を防止し、取調べ及び供述調書に過度に依存した現在の捜査・公判実務を根本から改める」、あるいは「虚偽の自白によるえん罪を防止し、被疑者の人権を保障する観点から見ると、被疑者の取調べの録音・録画が有効であり、その範囲を積極的に拡大していくべきである」ということが明瞭に書かれております。
 しかしながら、今回の法案の提案理由説明あるいは衆議院本会議での趣旨説明を見ましても、この検討会議の提言で明記されている、冤罪の防止ですとか、あるいは違法、不当な取り調べの抑止、そういった目的が明瞭に述べられておりません。この点は非常に残念です。特にこの点は、法案全体の骨格、それから位置づけにかかわる重要な問題ですので、決して曖昧にすることなく、この委員会、そして国会で議論をいただきたいというふうに思っております。
 それから、冤罪の防止という観点ですけれども、冤罪というのは、いろいろな事件の中でたまたま起こったというものではないと考えております。やはり、冤罪を生み出す構造がある。その点からすれば、この捜査構造というのは、代用監獄という警察の管理下にある留置場で長期間の身柄拘束がされる、そして、その密室の中で取り調べがされるという中で虚偽の自白が生まれる、これが構造的な問題です。この構造が、憲法三十八条が保障する黙秘権を侵害し、虚偽の自白を生み出してきた、これは明らかだと思います。
 今議論されている取り調べ過程の全面可視化は、誘導やおどしによる捜査機関の違法な取り調べを抑止し、被疑者の黙秘権を保障するための最低限の措置です。したがって、さらに進んで、捜査段階における身柄拘束自体のあり方の問題、あるいは弁護人の立ち会い権、取り調べに対する拒否権など、この捜査構造全体の抜本的改革に議論が進むべき問題でした。
 しかし、この間の法制審議会の議論では、このような本質的な議論については、議論をする前に封殺されてしまったと言わざるを得ないところが非常に残念であります。
 ここで強調しておきたいのは、身柄拘束というものが被疑者や被告人に対して深刻な影響を与えるということです。これは、事件の大小を問いません。
 先ほど申しました痴漢冤罪の例でいいましても、一人は、保釈されるまで百六日間身柄を拘束され続けました。もう一人は、二十八日間身柄を拘束されました。普通の社会人にとって、二、三日でも、あるいは十日間身柄を拘束されてしまえば、裁判で有罪、無罪が出る、その結論に関係なく、社会的な存在を抹殺されるに等しいような不利益を受けます。何年もかけて最終的に無罪を得たとしても、その間に失った多くのものを取り戻すことはできません。私が担当した痴漢冤罪の被害者も、最終的に無罪をとりましたが、さまざまな不利益をこうむり、その傷はまだ癒えておりません。
 そして、そのような身柄拘束の不利益をわかっていればこそ、心ならずも、早く釈放されたいがために、やってもいない事件を認めて早く出してもらう、こういうこともよく見られるところであります。まず議論の出発点として、この点をぜひ御認識いただきたいというふうに思います。
 こうした構造の中で、弁護人の立ち会いもなく、また長時間の取り調べがされれば、誘導やおどしによって虚偽の自白が生まれてしまう、これが構造的な危険です。この構造的な危険を改革しなければ実効性のある冤罪の防止にはつながらないというふうに思います。
 もう一言つけ加えさせていただければ、特に痴漢冤罪事件では、被疑者に対する取り調べもそうですけれども、被害者の供述が大きく変遷したり、あるいは変わっていくということがあります。これは取り調べの中で思い込みがさらに固められるとか、あるいは捜査官の誘導によって実際には体験していない事実が詳細に語られるということは、私が担当した事件の調書でも見られるところです。そういう意味では、やはりこの供述調書自体がそういう危険を含んでいるということもぜひ御認識をいただきたいというふうに思います。
 法制審の特別部会の議論をやっているさなかの昨年三月二十七日に、静岡地裁で袴田事件第二次再審についての再審開始決定が出されました。
 詳しくは申しませんが、この決定は、長期間の身柄拘束下での取り調べによる自白の強要、そういう捜査の仕方、あるいは捜査機関が証拠を隠蔽、捏造したことを厳しく指摘しています。この決定の指摘した中身を真摯に受けとめれば、取り調べ過程の全面可視化と、そして検察官の手持ち証拠の全面開示、これは待ったなしに実現すべき課題であることは明らかではないでしょうか。
 しかしながら、法制審議会では、この袴田再審開始決定についてまともに議論された形跡すらありません。そればかりか、検察官は、この再審開始決定に対して即時抗告を行いました。いまだに袴田さんの再審公判すら開始されておりません。このような捜査機関の無反省な態度をそのままにして刑事司法改革を論じること自体、果たして許されることかどうか、お考えいただきたいというふうに思います。
 次に、今回の法案の中身の一つである取り調べ過程の可視化の問題について意見を申し上げます。
 今まで申し上げました冤罪の防止、特に違法、不当な取り調べの抑止、そして被疑者、被告人の黙秘権の実質的保障、そういう目的、観点からすれば、取り調べ過程の録音、録画を一部の事件に限定する理由はありません。当然、全ての事件に適用されるべきです。
 しかしながら、今回の法案では、るる指摘されているとおり、その対象事件は裁判員対象事件と検察官の独自捜査事件という、全体の二%あるいは三%と言われる、ごく一部に限定をされました。
 そもそも、法案では、捜査段階の自白調書を証拠として使うということが前提とされています。そして、この取り調べ過程の録音、録画というのは、専ら、裁判における供述調書の任意性立証の簡便化あるいは効率化、そういう観点から構成されています。つまり、これは、立証する側あるいは裁く側、その視点から専ら位置づけられているとしか言いようのない規定になっています。
 つまり、被疑者、被告人の人権保障という観点からすれば、当然、規定自体が、自白調書の任意性の取り扱いではなくて、端的に捜査機関に取り調べの全過程の録音、録画を義務づける、そういう規定になるべきものが、なぜこの供述調書を使うことを前提にした任意性の問題にすりかわっているのか。私は、この点は非常に原理的な問題として看過してはならないというふうに考えます。
 ところで、法律が定める対象事件以外で検察官が取り調べの録音、録画を試行する、そういう議論もあります。ここで強調したいのは、警察の取り調べ段階での録音、録画なしに、検察官の取り調べだけを録音、録画しても、違法な取り調べを抑止する効果はありませんし、かえって、警察段階で自白した後の検察の取り調べの過程を録音、録画したものが法廷に提出されると、仮に虚偽の自白を警察段階で余儀なくされた場合に、それを覆すことはより一層困難になると言えますので、やはり取り調べ過程の録音、録画、全過程を録画、録音しなければ意味がないということを改めて強調したいというふうに思います。
 それから、今回の法案では、対象事件が一部に限られた上に、広範な例外規定が設けられています。
 詳しくは申しませんが、これらの例外規定のうち、例えば被疑者が十分な供述をできないと認められるとき、畏怖させもしくは困惑させる行為がなされるおそれがあるとき、この要件自体は極めて抽象的ですけれども、本質的な問題は、この判断を一次的に捜査機関が行うことになっているということです。これでは例外規定の濫用を防ぐことはできません。
 捜査機関が仮にこの規定に違反した場合でも、そのペナルティーは、録音、録画をしなかったその取り調べで作成された調書が証拠として採用されない、こういう限度にとどまります。ですから、ほかの録音、録画した取り調べで獲得した自白調書は証拠能力が認められる可能性が高い、そういう問題もあるということです。
 さらに言えば、録音、録画をしないで、その過程で違法、不当な取り調べがあったとしても、被疑者、被告人が争わないでそのまま審理が終結してしまえば、その過程が検証されることはありません。そういう危険性にも注目していただきたいと思います。
 今回の可視化のみならず全体の法案に関連することですけれども、刑事司法にかかわる手続というのは、ともすれば真相究明という大義名分のもとに、あるいは職務熱心と言ってもいいでしょうが、被疑者、被告人の人権が侵害される、それを正当化される危険が常に伴っています。したがって、刑事訴訟法等の規定には、その規定自身に、捜査機関による濫用を許さない、そういう歯どめがかかっているという厳密性が必要です。
 前述した録音、録画の例外について、衆議院本会議において法務大臣は、「例外事由が恣意的に運用される余地はないものと考えております。」というふうに答弁されましたが、それは考えているだけで、規定を読む限り、そういう結論はとても出ないというふうに私は考えます。
 また、いわゆる盗聴法、通信傍受法についても、法務大臣は衆議院本会議において、いわゆる組織性の要件についてですが、「確かに、通信傍受法の要件の上からは、二人の共犯事件が傍受の対象となることもあり得ます。」しかしながら、「実際に通信傍受の厳格な要件を満たす事案は組織的な犯罪に限定されることとなると考えております。」と答弁されています。しかし、法律上は適用拡大が可能だけれども実際にはそのようなことはしませんというこの答弁が一番危ないんです。これは今審議されているいわゆる安保法制、戦争法制でも同じような議論がされていますけれども、そういう濫用のおそれのある規定は絶対に許してはいけない、そういう立場からの吟味もお願いしたいというふうに思います。
 それから、捜査機関の権限濫用のことで申し上げたいのは、捜査機関というのは、一つ権限を与えると、やはり可能な限り拡大して使おうとするということです。
 先ほど申し上げた堀越さんの国家公務員法違反事件では、たかが休日にビラをまいた、これを犯罪として立件するために、約一カ月間にわたって、警視庁公安部が延べ百七十一名の警察官、六台のビデオカメラ、四台の車両をフル投入して、文字どおり二十四時間堀越さんを尾行し、盗撮を行いました。この事件は最終的に無罪になりましたけれども、これによって堀越さんがこうむったプライバシー侵害、あるいはそのつき合いのある人がこうむったプライバシー侵害の傷跡は消えることはありません。もちろん、この事件について警察は、緒方宅盗聴事件同様、いまだに謝罪もしておりません。
 こう言いますと、お聞きの方は、これは共産党だとか、あるいは政府に反対する人が対象になるんじゃないかと思われるかもしれませんが、捜査権力というのは、一旦そういう武器を手にすると、限りなく肥大化していきます。これは与党、野党を問いません。
 この点に関して、少し前ですが、一九八〇年に、元警察幹部の江間さんという方が、警察がいろいろな形で収集した情報をどう使っているかということについて、このように言っています。毎日報告書、こんなに分厚い報告書が内閣に出てね、何々大臣、何々代議士まで報告されていると。ここからが大事なんですね。代議士だって警察OB以外には行きませんよ、それから特別な人以外には行かない、だから、元警察庁長官というあいつらが大きな顔のできる理由は何かというと、その情報でしょう、こういう証言をされております。
 皆さんの中で、この中の特別な人に当たるかどうかはちょっとわかりませんけれども、そういう意味でいうと、全ての方がそういう情報等の監視の対象にされている。法律が成立して、濫用の危険がわかってからでは遅いんです。今ここで、濫用のおそれのある規定はやはり直ちにやめさせる、成立させないということが大事です。
 最後に、この一括法案全体の審議の問題について意見を申し上げます。ここが私が日弁連と意見を異にする最大の理由です。
 今回の法案は、刑事訴訟法関連でも九つの大きな内容、それから五つの法律の改正案が一括法案として出されています。そのため、全く性格の異なる法律案が一括で議論されます。ですから、可視化がどうなのか、冤罪防止のために可視化がどうなのかの議論をしたいのに、盗聴法だ、司法取引だ、その他のことも全部一括しなければ法案にならないという非常に異常な形で法案が提出されていると言わなければいけません。
 刑事訴訟法等改正案の中の等に、盗聴法、いわゆる通信傍受法の拡大が含まれているように見る人はいるでしょうか。誰もわからないです。
 残念ながら、私が所属する日弁連は、取り調べ過程の可視化が法制化されるというその一点で、全体の一括採択に賛成をし、法案の早期成立を望むという見解を示しておりますけれども、これはやはり、国民から見れば理解のできない誤った方針だと言わざるを得ません。
 実際、今回の法案提出に際しても、十八の単位会で反対あるいは慎重審議の意見が表明されております。はっきり申し上げますが、今回の一括法案に賛成する弁護士は決して多数派ではないというふうに私は自信を持って言い切れます。うそだと思ったら、弁護士に聞いてください。
 法制審では、いろいろな思惑から答申が一括採択をされました。しかし、国会審議はそれに拘束される理由は全くないと思います。あくまで憲法や刑事訴訟法の原則、これを守るという立場で、国民の目線から、あるいは先ほど陳述された桜井さんのような当事者の立場から、内容について徹底的に審議を尽くしていただきたいと思います。
 冤罪が起こった原因はどこにあるのか。その原因を克服するために何をすべきなのか。そして、取り調べ過程の全面可視化に反対しているのは誰で、どういう理由で反対しているのか。それが正しいのかどうか。盗聴法を拡大し要件を緩和することは本当に許されるのか。他人の犯罪立証に協力する見返りとして自分の罪を免れたり軽くしてもらう、そういう取引を制度化することが果たして許されるのか。一つ一つについて議論を尽くしていただければ、今回の一括法案が、極めて不十分であるというだけではなく、とても危険な内容を含んでいることが明らかになると私は確信をいたします。
 国会において審議を尽くさないで多数による強行が許されないことは当然ですが、とりわけ刑事訴訟の分野、刑事司法の分野ではこのことが言えます。
 ぜひ、今回の一括法案について、徹底審議の上、今国会では廃案にするということを訴えまして、私の意見陳述といたします。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 加藤健次

speaker_id: 19032

日付: 2015-06-10

院: 衆議院

会議名: 法務委員会