田中清隆の発言 (法務委員会)

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○田中参考人 参考人の弁護士の田中清隆と申します。
 私は、弁護士として、約四十一年余にわたり、暴力団事務所の明け渡しあるいは暴力的取り立ての阻止、強制執行妨害の排除など、そういった暴力団対策を中心に、多くの実際の事件を現場で担当してまいりました。また、同僚の弁護士あるいは被害者の体験なども数多く見聞きしてまいりました。それから、実は、私自身の被害の体験もございます。最近では、私も高齢になりまして、老人クラブに時々出るんですが、そこでいろいろな被害の体験についても聞かせていただいております。
 したがって、私としましては、今回は、統計数字とか理論的な観点を少し離れてといいますか、現場の実感あるいは現場の実態、こうしたものを中心に御意見を申し上げていきたいと思っております。
 実は、私は、平成十一年の参議院の法務委員会におきまして、この法律の制定当時に賛成の御意見を申し上げたことがございまして、それから早くも十六年たってしまいましたが、深い御縁を感じておるところでございます。
 私は、先ほど申し上げた老人クラブの会合の中で、振り込め詐欺とか投資詐欺被害に遭った方のお話、あるいはその周辺の方のお話から、直接非常に深刻なお話を伺ってきております。そこで感じますことは、確かに、老人にとってみて、大金を取られるということが大変な被害であることは間違いありません。
 しかしながら、もっと大きな被害は、やはりこれまで培ってきた家族のきずなとか、そういうものが残酷にも断たれてしまう。つまり、子供たちあるいは孫たちから見れば、おじいちゃん、おばあちゃん、何で俺に一言相談してくれないの、勝手に大きなお金を振り込んでくれては困るじゃないのと。一方、おじいちゃん、おばあちゃんとしては、そんなことを言うなよ、日ごろちっとも連絡もよこさぬくせに、こういうときだけぐずぐず文句を言いやがってと。だって、自分はあんたのことを思ってやったんだよ、何を文句言うんだと。こういう争いが家庭内で延々と続いてしまうわけであります。場合によっては、事件とは直接因果関係がないとはいえ、家族の紛争から自殺にまで発展するようなケースもないとは言えません。
 私自身が、実は、集団窃盗と思われる事件の被害に遭ったことがあるんです。二年ほど前のことですけれども、平日の午後七時半から八時ごろの間に、うちへ帰ってみたら、もう何もないんですよ。近所の人に聞いても、何も知らないよと。現金から大事なものから思い出の品までみんな奪われてしまいまして、大変な被害に遭ったわけであります。これはどう考えても一人や二人の行為ではあり得ないということで、その犯人はいまだに捕まっておりません。
 こうした被害についても、もちろん財産的な被害も大変な被害ですけれども、それ以降、うちに入るときに怖くてしようがないんですね、きょうは大丈夫か、きょうは大丈夫かと。こういった被害というものは、決して単なる財産的な被害にとどまらないということをよく御理解いただきたいと思います。
 それから、さらに私は、集団窃盗グループの被告の一人から、自分はもうこのグループから抜けたいので、実態を全部ばらす、そのかわり、ちゃんと弁護してくれというような依頼を受けたことがあります。それで、私は、それを受けまして、このケースでは、本人がちゃんと、首魁の名前から上位者の名前を全部明らかにして、手口も明らかにしましたので、これは全部真相が明らかになりました。
 これはたまたま運よくそういうことになったわけですけれども、御存じのように、多くの事例では、ほとんど末端の者は、みずから捕まったとしても、やはり怖いですから。私が担当した被告人でも、もとの集団のグループの関係者がしょっちゅう面会を求めてきたんです。私はそれを全部断らせましたけれども、しかし、一遍会ってしまうと、これまた恐怖にさらされるということはもう明らかであります。
 この事例では、二カ月弱の間に三件で約三千三百万ほどの窃盗を働いて、五人のグループだったんですが、一人は実行犯ではありませんので、実際は四人でやっておったんですけれども、私が担当した被告人が得た利益はたったの四百万。首魁の方は半分以上、千五百万以上を何もしないで手にした、こういう実例でございました。
 こういったグループの犯行に関する準備とか指示、連絡というのは、これはみんなが集まって何か準備するというようなことはほとんどありません。やはり、携帯電話あるいはメールでほとんど処理しております。したがって、こういった事件では、事情をどこまで知っていたのかというようなことの知情性といいますか、その立証が非常に困難ですし、犯罪の準備から実行から、証拠隠滅から逃走まで、組織的にカバーされますので、非常に難しい問題があります。しかし、通信傍受がなされれば、かなり容易に捜査ができるということになろうかと思います。
 最近でも、暴力団の極東会あるいは山口組の幹部が振り込め詐欺で逮捕された例がマスコミをにぎわせておりました。山口組幹部の事件では、グループ十一名が逮捕されて、件数は合計二十件で、被害総額は約一億円以上というふうに報道されておりました。
 こうしたマスコミの報道とか、あるいは先ほど述べました体験からしましても、最近では、振り込め詐欺あるいは集団窃盗、こういったものが暴力団員や犯罪組織の主要な財源になっておるということは明らかであります。
 また、最近、二〇一五年度の警察白書が公開されましたけれども、ここで、暴力団員が摘発された犯罪は、過去十年間を見ますと、恐喝が八・八%から四・八%に、約半分に減っています。逆に、詐欺が五・八%から一〇・四%に、約倍に増加しております。そして、二〇一四年度に特殊詐欺で摘発された暴力団員は六百九十八名、全体の特殊詐欺の逮捕者の三五・二%にも上っております。こういった特殊詐欺が新たな資金源となり、暴力団あるいは類似の集団を潤しているということが明らかであります。
 国民の多くは、こうした暴力団の活動の阻止と、こういった犯罪の防止による生活の安全を強く願っていることは、私ども本当に、日ごろ、ひしひしと実感をしております。このように、詐欺、窃盗が日常的に行われることが多くなりまして、そしてまた組織的に行われることが多くなりまして、その犯行に至る経過が完全に秘密にされてしまっている以上、これらの犯罪による被害の防止や摘発のために、少なくとも詐欺、窃盗、集団的なもの、そういったものは通信傍受の対象としてあぶり出していく必要があると私は確信しております。
 今回の改正に関しましては、対象犯罪の拡大というものが過去の最高裁の判例に反するものであって、国民の通信の秘密やプライバシーが侵害されるというような反対論、あるいは、通信会社の立ち会いの廃止によって警察の捜査権の濫用が懸念されるというような反対意見があるようでございます。
 しかしながら、対象犯罪の拡大に関しましては、今回の改正については、殺人、傷害、傷害致死等から児童ポルノ事件に至るまで、九種の犯罪が新たに拡大されておりますけれども、これらは、今までの共謀要件に加えて、「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体によって行われる」、あらかじめ役割が決まっているような、そういう人の結合体、そういうものによって行われる犯罪というふうに極めて限定的にされておりますので、これは無限定な拡大の危険はないというふうに考えております。
 さらに、もちろん、私も弁護士ですから、多くの刑事事件も担当しました。捜査の問題点とか、あるいは憲法の通信の秘密などの重要性などについても十分理解しているところでございます。しかし、そうした問題に配慮しつつも、実際に組織犯罪による国民の重大な被害を防止して犯罪組織のさらなる勢力拡大を防ぐことは、これは現時点では最大限重視されるべきというふうに考えておるところでございます。
 かつて、覚醒剤の事件について最高裁の判決が出まして、これは平成十一年の判決ですけれども、これはまだ通信傍受法がなかった時代ですが、重大な犯罪に限って通信傍受を認めるというのが出ておりまして、窃盗とか詐欺とかというのは重大な犯罪じゃないだろう、殺人とか強盗傷人とかそういうのはいいかもしらぬけれども、窃盗、詐欺は別に重大犯罪じゃないじゃないかという意見があります。
 しかし、私は、重大な犯罪かどうかは罪名だけで決めるものではないと。確かに、万引きのようなちょろっとした窃盗もあります。しかし、私も被害に遭ったような、そういう集団的な、億に達するような被害を生ずるような、暴力団が背景にいるような、そういう犯罪は、たとえ罪名が窃盗、詐欺であったとしても、やはりこれは重大な犯罪だというふうに言わざるを得ないと思います。私はそのように考えております。
 実は、この件に関しまして、日本弁護士連合会の会長声明というのがことしの五月に出ております。ここでは、会内の意見はもちろんいろいろありましたけれども、会長としては、基本的には、いろいろ慎重に対応しつつも、これはとにかく一日も早く成立させてほしいという声明を出しておるところでございます。
 私どもは、先ほど暴力団対策をやった民事介入暴力対策委員会というのに所属しておりまして、こういった組織暴力対策のために、イタリアとかアメリカとか、幾つかの国を訪問して実情調査をしております。こういった国々を初めとして、先進諸国ではほとんど、通信傍受は広く実施されております。そして、その実効性は高く評価されております。
 例えば、アメリカにおきましては、百以上の対象犯罪となっておりまして、組織的要件は特にありませんし、テロに関するものなどを含んでいたりしまして、対象犯罪も非常に広くなっています。
 こうした点から見ても、通信傍受は、特に犯罪組織によって行われる犯罪については非常に有効である、それが世界的にも認められておるんだというふうに思いますし、現時点では、残念ながらこれにかわる有効な手段が提示されておりません。
 最近の渡米調査によりますと、アメリカでは、電話とかメールじゃなくて、こういうところへマイクを設置して会話を傍受したり、あるいは、先ほど言いましたように、組織要件は特にありません、組織でなくてもいい。それから、傍受件数は、日本は十五年間で九十九件、その中で薬物の関係が七十六件、アメリカは年間三千六百件と、もう全然これは話が違う。
 今、国際的犯罪が増加していることは御存じだと思いますが、やはり捜査についても、ある程度国際基準に従った捜査を行うことが我が国の国際的な信頼を高めることにもなろうかというふうに思っております。
 また、今回の改正によりまして、通信会社の立ち会いをなくすということについて、警察の独壇場になって、警察権の濫用になるんじゃないかという懸念をされる方もございます。
 しかしながら、私といたしましては、この機械化によりまして、手続の適正が機械的システムにより確実に行われる、人間的なミス、管理ミス、そういうものがなくて、機械によってきっちりと確保される、こういうふうに考えております。
 しかも、捜査側、立ち会い側、こういったところのいろいろな負担が軽減される。現状では、何と七、八名の捜査官が、各地の警察署から、多くは東京にある通信会社に出向いて、その一室を借りて、十日間から三十日間、毎日通信を傍受する。立会人は立会人で、中身を聞くことはできませんから、ぼうっとして、じっと形だけ見ている。こういうようなことを、極端なことを言うと三十日やらないかぬわけです。この負担は大き過ぎて、とても大変でありまして……

発言情報

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発言者: 田中清隆

speaker_id: 6206

日付: 2015-07-29

院: 衆議院

会議名: 法務委員会