長澤彰の発言 (法務委員会)

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○長澤参考人 おはようございます。弁護士の長澤です。お招きいただきまして、どうもありがとうございます。
 私は、一九八八年に弁護士登録をしまして、ことしで二十八年目になります。一九九六年に法務省の事務局参考試案が発表されて、それから盗聴法案の動きが始まりました。当時、私は、自由法曹団という弁護士の団体の中で盗聴法を阻止するための対策本部をつくりまして、事務局長として、九九年の八月、法案が制定されるまでかかわってきました。
 きょうは、盗聴法の制定当時どのような議論がなされたのかを振り返って、改正案の問題点について言及したいというふうに思います。
 レジュメを御用意しましたので、見ていただきながらお聞きいただければというふうに思います。
 まず、制定時、大きな問題となったのは、憲法との関係です。憲法違反ではないかということです。
 憲法は、戦前の人権侵害の暗黒社会それから監視社会の反省と教訓に立って、人権保障規定を整備しました。表現の自由を保障して、通信の秘密を明文で保障しています。プライバシーの権利は憲法十三条で保障しています。また、戦前の特高警察のような警察権力による人権侵害を許さない、こういう立場に立って、適正手続の保障を、憲法三十一条以下に詳細な規定を設け、特に、憲法三十五条においては令状主義を規定しております。
 通信の秘密やプライバシーの権利を安易に、捜査の必要性、捜査の有用性ということを根拠に盗聴を法制化するということは、憲法違反の疑いがあります。憲法上の権利が制限されるのは、他人の人権を害さない範囲で自分の人権を行使することができる、まさに人権相互の調整の問題で、人権自体に内在する原理である、こういう考え方が一般的に考えられています。抽象的な、捜査の必要性や有用性ということによって通信の秘密を制限するのであれば、戦前の暗黒社会と同じようなことになってしまうのではないでしょうか。
 自民党の改憲草案が、現在の人権保障規定に対して、公益と公の秩序を理由に人権を制限しようとしています。まさに、捜査の必要性や有用性ということだけを根拠に人権制限を図ろうとするならば、このような自民党の改憲草案と同じことになりはしないでしょうか。
 また、令状主義をどのように適用するのかというのも大きな論点でした。令状主義の精神は、裁判官が捜索、差し押さえの物を特定する。しかし、将来発生する会話をどのように特定するのか。本件犯行に関係する通信ないし会話というような抽象的な内容でしか令状に記載できません。特定性の要求をまさに満たしているとは言えないと私は思います。
 まさに、捜査令状は、被疑者に示して、そして被疑者の立ち会いを認めた上で法律が執行される、こういうことになります。しかし、盗聴の場合、この立ち会いも提示も全く要件を満たさない、こういうことになります。
 そこで、現行法制の中の通信事業者による常時立ち会いということが重要な要素となってきてはいました。しかし、この通信事業者の常時立ち会いは、通信事業者が通信を聞けない、その結果、切断することができない、切断権を認められないということで、必ずしも十分な保障規定とはなり得ませんでした。
 そして、当時の法案は、一般犯罪を対象とするということで、人権侵害性が極めて高いということでありました。
 当時は、今ここに来られております緒方靖夫さん宅への神奈川県警の盗聴事件が発覚し、そして、一九九七年の六月には、国家賠償請求事件の東京高裁判決が既に出されていました。判決では、情報収集活動を末端の警察官が職務と無関係に行うことは通常あり得ない、本件盗聴行為は、公安一課所属の警察官がいずれも県の職務として行ったと推認できる、このように神奈川県警による犯行であることを明確に断じています。しかし、その後に至っても、警察庁長官はこの法務委員会において、警察としては盗聴と言われるようなことは過去においても現在においても行っておらず、今後も行うことはないと、反省も謝罪の一言もありません。
 このような警察に盗聴の権限を与えられないという運動を提起して、多くの国民の共感を得ました。警察による違法行為、不祥事も当時は相当多く、それを隠蔽する体質に対する国民の不信感も相当多くありました。
 一九九九年六月、野党の三党それから三会派の代表が結集した日比谷野外音楽堂には、当時としては非常に多い、八千人の国民が結集しました。民主党菅直人、共産党不破哲三、社民党土井たか子、さきがけ武村正義、二院クラブ佐藤道夫、国民会議中村敦夫という代表が、それぞれ壇上で決意を表明しておりました。
 結局、与党は、このままでは盗聴法案の成立が危ぶまれるということで、対象犯罪を組織犯罪の四類型に絞ること、そして立ち会いも例外を認めない常時立ち会いとすること、それから国会への報告制度を設けること、このような修正案を提示しましたけれども、最終的に強行採決に至った、こういう経過であります。当時、野党は、牛歩戦術ということで、体を張って闘ったという歴史があります。
 今回、国会に提出された改正案の問題点について、二つ述べたいと思います。
 第一は、対象犯罪が拡大され、窃盗、それから詐欺、逮捕監禁など一般犯罪が広く認められているということです。
 これは、法律第一条に規定されております組織犯罪の摘発という立法目的と明らかに矛盾しています。最高裁の判決では、重大な犯罪に係る被疑事実に限定しており、その判断にも違反すると考えられます。改正法の定める組織要件である数人の共謀、それから役割の分担に従って行動する人の結合体、このような要件も濫用防止にはなり得ないと考えています。上川法務大臣は、二人で役割分担が認められれば適用が可能だと答弁しているからです。
 それから、暗号技術に基づく新しい傍受方法の問題です。
 この傍受方法では、通信事業者による常時立ち会いを排除しています。通信事業者による常時立ち会いは、第三者による監視の目が入ることによって、捜査機関による傍受記録の改ざん、それから通信傍受の濫用的実施を客観的に防止する、そして捜査機関に対してこのような行為を行わないという自制を促す機能を果たしてきました。しかし、新しい方法では、捜査機関に対する自制の効果を求めることはできません。
 この方法は、全ての会話が何日にもわたり録音されるというものです。犯罪に無関係な会話が膨大に録音され、犯罪と無関係な人の会話が盗聴されます。個人のプライバシーが丸ごと裸にされます。
 統計資料によると、盗聴の件数は、当初は年間十数件、最近は数十件であり、犯罪と無関係な通話の割合は八五%と言われています。しかし、一般犯罪まで盗聴が実施されるようになれば、おびただしい件数の盗聴が実施され、高い比率の無関係通話に対する盗聴が行われ、プライバシー侵害の危険性が格段と高まると言わざるを得ません。
 特に、盗聴の対象がマスコミ関係者に向けられた場合は極めて重大な問題をはらんでいます。
 犯罪報道に携わる社会部記者などが犯罪グループの関係者と連絡をとって、電話やそれから電子メールで取材を行う、この行為が軒並み盗聴の対象となります。正当な取材活動に致命的な打撃を与えるということになりかねません。
 現在の規則では、マスコミ関係者との通話であることがわかった時点で切断するということになっていますが、新しい傍受方法では全て録音されます。マスコミ関係者との会話を立会人がいない状態で警察が全て聞いてしまう、こういうことに対するチェックが事実上できなくなってしまう。
 秘匿性の高い通話というのは、マスコミ関係者ばかりではありません。弁護士との通話も全て録音されます。弁護士の秘密交通権が全く保障できないというような実態になり、弁護活動が丸ごと捜査機関に盗聴されてしまいます。弁護士としては許すわけにはいきません。
 警察による盗聴が私たちの市民生活に及んでくることはないでしょうか。
 例えば、労働組合の要求闘争で、次の団体交渉では何が何でも要求をかち取る、かち取るまで交渉はやめない、そのように執行部で意思統一をして、役割分担をして、一定時間、会社の役員を部屋に閉じ込めたというようなことになれば、通常の逮捕監禁の要件を満たし、盗聴ができることになります。
 労働組合だけではなく、原発に反対する運動や、それから環境問題を改善しようとする運動体の自治体との交渉などにこのようなことが悪用されないとは限りません。
 また、少年犯罪で一番多いのは、オートバイの窃盗です。少年グループが役割分担をしてオートバイ窃盗を実行したとすれば、窃盗罪を盗聴の対象としておりますので、盗聴ができるということになります。被疑者少年の携帯が盗聴対象とされると、犯罪グループだけにとどまらない、広範な人物との会話が盗聴の対象となります。家族、友人、知人、広範な会話が盗聴されます。少年たちのLINEとかSNS、このような通信は多数の人とのネットワークを形成しており、人権侵害の危険が広範に及ぶことが予想されます。
 最後に、弁護士会の状況について述べたいと思います。
 日弁連は、九九年の盗聴法の制定当時には、憲法違反の疑いを理由に反対の立場を貫き通しました。マスコミや市民と一緒に反対運動を展開し、与党を修正せざるを得ないところまで追い詰めたという実績があります。
 しかし、今回の法改正に当たっては、日弁連執行部は、一部の可視化を認めた法制審議会の答申案に賛成の立場をとったため、盗聴法について問題があるが、改正法案が速やかに成立することを強く希望するとして、法案に反対しないことを表明しています。この日弁連執行部の対応は、警察が盗聴法、検察が司法取引、日弁連執行部が一部可視化、三者がそれぞれとりたいものをとる、このような三者による談合と言わざるを得ません。
 しかし、十八の弁護士会会長が反対の共同声明を出して、その後、四つの弁護士会の反対の声明が出されています。東京の弁護士を中心に、盗聴法、司法取引を許さない弁護士、市民のデモを五月に三百人程度で大成功させたということもあります。
 日弁連執行部は、法務委員を訪ね、早期成立を働きかけていると言われています。これらの動きは、反対運動を展開している冤罪被害者や冤罪撲滅を求める市民に対する重大な背信行為と言わざるを得ません。
 日弁連執行部は、集団的自衛権行使を認める戦争法案に反対し、全国展開を行っています。憲法違反の疑いがあるという点では盗聴法も全く同じであり、今からでも、反対の立場に立って反対運動を展開することを強く求めたいと思います。
 さきの本委員会に出席した日弁連副会長の内山弁護士は、日弁連は、現時点でも、通信傍受、盗聴について基本的な考え方は変えていません、通信の秘密を侵害し、個人のプライバシーを侵害する、そういう危険性を持った捜査方法だという考え方は一貫していますと述べています。それであるならば、今からでも反対運動に立ち上がるべきではないでしょうか。
 この通信傍受法の拡大が行われた後に、警察が誰の会話を一番聞いてみたいと思うでしょうか。ここにおられる政治家の皆さんの会話を聞いてみたいと一番思うんだと思います。警察が収集した政治家の皆さんの会話は権力中枢に上がり、それがどのように使われるのかは皆さんが一番御存じのことだと思います。
 私たちは、これに反対する人たちとともに最後まで闘って、この法案を廃案にしたいと考えております。
 以上です。(拍手)

発言情報

speech_id: 118905206X03320150729_010

発言者: 長澤彰

speaker_id: 48

日付: 2015-07-29

院: 衆議院

会議名: 法務委員会