山下幸夫の発言 (法務委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○山下参考人 おはようございます。本日は、意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私は、平成元年、一九八九年四月に弁護士登録をした者でございまして、現在、二十七年目でございます。
私は、これまで日弁連の関係でよく参考人に来させていただいているんですが、きょうは、あくまで個人の立場で、現在審議中のこの法案について意見を述べたいと思います。
私が弁護士になってちょうど十年目のころ、平成十一年、通常国会において通信傍受法の政府案が国会で審議をされておりました。当時から、私は、この法案は問題があるということで反対しておりました。
国民世論や野党からも強い反対があり、結局、特に当時の与党の中の公明党が中心になりまして、大幅に修正された上、現行法が成立したということでございます。そして、翌平成十二年から施行されております。
通信傍受の実施状況の推移という資料を見ても、ほぼ年間十件程度しか実施されていないということがわかります。すなわち、この通信傍受法というのは、当初の政府案に大きな縛りをかけ、捜査機関にとっては非常に使いづらい法律になっているということが言えます。
今回の法案のもとになりました法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会は、もともと、大阪地方検察庁特別捜査部が立件した厚生労働省元局長無罪事件などを受けて設けられました検察の在り方検討会議を経て、検察官が過度に取り調べや供述調書に依存する風潮があるということを改めるべく検討され、それを受けて法制審議会の特別部会が設けられたという経緯がございます。
また、当時、警察においてもいわゆる志布志事件などの冤罪事件が明らかになっている中で、捜査機関全体の問題として、冤罪防止のために、いかに捜査機関による権限を抑制し、自白獲得型の捜査を根本的に見直すかがこの特別部会には求められていたと考えられます。
ところが、特別部会においては、通信傍受法をいかに使い勝手のよいものにするかという方向での議論がなされました。作業分科会の議論では、通信傍受という捜査手法が有用か必要かという観点から、対象犯罪の拡大が議論されました。
その結果、捜査機関の捜査権限を大幅に拡大するものとなり、特別部会の当初の目的とは正反対の方向の取りまとめになってしまったということがございます。
今回の法案は、当初の政府案に戻ろうとしていると考えられます。すなわち、現行法が成立する際にこれにかけていた縛りを完全に外そうとするものでございます。その意味で、本改正案は現行法を質的に転換するものであり、これを一旦認めますと、今後も通信傍受を拡大していくことがとめられなくなると考えられます。
以下、本法案に即して具体的に指摘させていただきます。
まず、対象犯罪の拡大についてです。
現行法は、薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の四類型だけを対象犯罪としています。これらは、性質上、組織犯罪と言えるものです。
本改正案は、財産犯である窃盗、強盗、詐欺、恐喝を加えるとともに、殺人、傷害、傷害致死、現住建造物等放火、爆発物使用などの殺傷犯、逮捕監禁、略取誘拐、児童ポルノの提供罪等のそれ自体は本来組織犯罪ではない一般犯罪を対象としようとしています。そして、これを別表第二の罪として、いわゆる組織性の要件を傍受令状の要件として要求しようとしています。
しかし、その要件は、組織犯罪処罰法の組織性の要件と比較すると、緩和されています。これは、特別部会での議論の中での妥協の産物として認められた経緯からしても、要件として極めて不十分なものとなっており、十分な歯どめにならないと考えられます。
対象犯罪がこれだけ広く拡大されますと、これまで年間十件程度であった通信傍受は、年間数百件にふえるおそれがあると考えられます。
また、今回、対象犯罪を決めるに当たりましては、捜査にとって通信傍受が有用か必要かという基準によったことから、今回の法案が成立いたしますと、今後は、捜査当局から事あるごとに、通信傍受が有用、必要という理由で、通信傍受の対象犯罪が拡大されていくことが強く懸念されます。
特別部会においては、いわゆる振り込め詐欺や窃盗団を対象とすることが議論されていましたが、それならば、組織犯罪処罰法にある組織的詐欺罪を対象にするとか、新たに組織的窃盗罪を新設するなどしてそれを対象犯罪とすることも考えられたのにもかかわらず、詐欺罪や窃盗罪、さらには恐喝罪、強盗罪というものを全て対象とするという形で、一般犯罪の共犯事件についても通信傍受が可能となるおそれがあります。
次に、通信傍受手続の合理化、効率化についてです。
これはまさに捜査機関にとって使い勝手のよい制度にするためのものであり、捜査機関がやりたかった捜査手法であると考えられます。
本改正案は、現行法が認める方式に加えて、通信事業者の施設で行う一時的保存方式、特定電子計算機を用いて捜査機関の施設で行うリアルタイム方式と一時的保存方式の三つの方式を可能にしようとしています。
このうち特に問題が多いのは、捜査機関の施設で行う方法です。この場合には、暗号化等を行う機能を有する特定電子計算機を利用して、通信事業者の施設から捜査機関の施設に対象となる通信を暗号化して伝送し、これを捜査機関の施設で復号化してスポット傍受を行うというものですが、立会人による立ち会いや原記録の封印は不要となります。
現行法上の通信傍受は、全国で一カ所とされる通信事業者の施設に捜査官が出向き、立会人をあらかじめ全て準備しなければ実施できないという点で極めてハードルが高い捜査方法でありました。それゆえに実施件数も少なかったと考えられますが、この方式によりますと、先ほどの対象犯罪の拡大と相まって、通信傍受の実施は飛躍的にふえ、無関係な市民の通話が聞かれる頻度が高くなると考えられます。
現行法の立会人は、通信内容を聞くことができず、切断権も認められていないために、外形的チェックを行うものとされてきました。これは、もともと現行法自体が立会人の権限を限定したことに問題があったと考えられます。現行法ができる前に検証許可状を使って電話傍受した事案について、先ほどから何度か言及がありますが、最高裁平成十一年十二月十六日第三小法廷決定は、立会人に電話を聴取して切断する権限を認めていた事案であるということに留意する必要があります。
ただ、現行法によっても、立会人がいることによって、捜査機関が無関係通信を傍受するなどの濫用を抑制する効果があったと考えられます。そして、これは、通信傍受が憲法違反にならないための要件の一つをなしていると考えられます。そうであるとしましたら、本改正案が、捜査機関の内部で第三者の立会人がいない状態で通信傍受を実施することについては、その公正さに疑問を持たざるを得ません。
政府は、暗号化する機能を有する特定電子計算機を用いることを立会人不要の理由として説明していますが、暗号化というのは伝送の際に情報が漏えいしないための措置であり、傍受手続の現場での外形的チェックにかわるものではありません。
ちなみに、伝送による漏えいの危険は、暗号が絶対に破れないわけではないことから、専用回線によることが望ましいとしても、莫大な予算が必要となります。
したがって、少なくとも、特定電子計算機の技術的措置の適正性等を第三者が随時に抜き打ち的に監査を実施することというのは最低限必要であると考えられますし、現行法上認められた傍受記録に記録された通信の当事者に与えられた不服申し立てがほとんど利用されていないという現状において、捜査機関の施設において立会人のいない状態で通信傍受が行われるようになるのであれば、第三者機関が裁判所に保管された原記録の全てまたはアトランダムに選んで聴取して事後的チェックを行う制度は不可欠であると言うべきであります。
その他、本改正案には極めて問題が多くありますが、時間の関係で省略させていただきます。
しかし、私は、このままの内容で成立させるべきではないと考えております。国会による良識ある審議を期待しまして、私の意見を終わります。
ありがとうございました。(拍手)