水野和夫の発言 (予算委員会公聴会)
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○水野公述人 日本大学の国際関係学部で経済学を中心に教えております水野と申します。どうぞよろしくお願いします。
それでは、私は、今回の予算に関しまして、特に成長戦略についてお話し申し上げたいと思います。
資料のタイトルは、「「歴史の危機」における新しいシステム構築」でありますが、歴史の危機というのは、具体的には、近代システムがもう機能不全に陥っているというふうに認識しなければいけないんじゃないかなと思います。そう考えますと、想定外のことがこれまで何度も起きてきましたが、想定外と言って済まされることではないと思います。これからは想定外のことが常に起きる、そういう時代に入ってきているんじゃないかなと思います。
近代システムというのは、経済的な側面からいえば、経済成長の時代ということであります。特に、この二百年間というのは著しい経済成長を実現しました。失われた二十年に入りましてから、マイナス成長あるいはデフレというのが定着するようになりました。
プライマリーバランスを二〇一〇年代に均衡する、それから潜在成長率を二%に引き上げるといった政策が、二〇〇一年ないし二〇〇二年の骨太の方針からずっと実施されてきました。ところが、ちょうど今十数年たちましたが、全く目的が達成できていないというのが今の現状だと思います。
そこで、表紙の次のテーブルをごらんいただきたいと思います。
これはマクロ経済指標のこの十数年のパフォーマンスを示したものです。主に、包括的な指標であります名目GDPあるいは実質GDP、それから物価、GDPデフレーターと消費者物価の推移を、二〇〇二年というのは、骨太の方針が二〇〇一年に決まって、そして戦後最長の景気回復が始まって、あるいは金融システム危機がほぼ収束のめどがついてというところからであります。二〇一四年が現在であります。
特にここで申し上げたいことは、雇用者報酬、家計の生活水準がよくなっているかどうかということだと思います。
雇用者報酬につきましては、とりわけ、ちょうど真ん中あたりの実質GDPのすぐ下の雇用者報酬、これが実質雇用者報酬で、家計の購買力をあらわしております。
右半分のところになりますけれども、増減額、二〇〇二年から二〇一四年を通して十二年間のパフォーマンスが示してあります。それから、この二年間のパフォーマンスが一番右側の縦のところになります。
枠で囲ってありますところが、まず名目の雇用者報酬、bの欄でありますが、この十二年間におきまして名目雇用者報酬は七兆三千億円減りました。ただ、この二年間は所得は六・五兆円ふえています。
名目がふえているからいいじゃないかということになるかもしれませんが、家計からすれば、その所得でどれだけの数量的な財やサービスを購入できるかという実質雇用者報酬が大事だと思いますので、ちょうど中ほどのdの欄の右半分をごらんいただきたいと思います。
この十二年間で実質雇用者報酬は六・八兆円ふえました。名目では減っているんですけれども、物価が下がったことによって購買力はふえました。ところが、この二年間、マイナス一・〇、一兆円の減少ということで、むしろこの二年間は、物価が上昇して、購買力は下がってしまうということが起きました。
なぜ名目で上がって実質で下がっているのかということですが、それはGDPデフレーターと消費者物価の違いということになります。
家計の雇用者報酬は、消費者物価で購買力をはかるということになります。そこで、消費者物価はこの二年間、一・五%上がりました。実質GDPを計算するときのGDPデフレーターは〇・五%ということでありますので、消費者物価の上昇率の方が高くなっていますので、その結果、家計の購買力が一段と落ちてしまうということになりました。これは、第一の矢であります異次元の金融緩和、私はこれが家計にとっては大きなマイナスになっているというふうに言えると思います。
そして、潜在成長率のところをごらんいただきたいと思いますが、こちらは実質GDP二%という成長戦略に大きくかかわるところですけれども、潜在成長率は逆に、一%から現在〇・六%へと低下しているということになります。
次の三ページ目のところをごらんいただきたいと思います。
家計は、物価の増減、上がったり下がったりすることについてどういうふうに考えているのかということなんですけれども、日本銀行の生活意識に関するアンケート調査の調査項目でありますけれども、今六六・六%の人が、物価上昇を困ったことだというふうに回答しております。五〇%がちょうど分岐点でありますので、二〇一三年の夏以降、家計は、物価の上昇を困ったことだというふうに考えている人が半数を上回るということになりました。
そのタイミングよりほぼ一年間おくれまして、点線の推移でありますが、家計が実感する景況感ということなんですけれども、こちらは左目盛りになりますが、景況感、悪くなったと感じる人の方がふえ始めているという状況になっております。
次に四ページ目、今度は家計の所得と資産に限定したものであります。
給与所得は、二〇〇二年、四百四十七万円だったものが、二〇一三年には四百十三万円になりました。この十二年間で三十四万円減っているということになります。
ただ、この統計上はまだ二〇一三年の数字なんですけれども、ふえております。これは、名目GDPあるいは名目雇用者報酬がふえているということと対応しております。
問題なのは、年収二百万円以下で働いている人の数が、一九%から、今二四%、一千百万人ということになっております。
もちろん、働く機会がふえたということで、二百万円以下でも働く機会がふえたということであればそれはそれでいいことであると思いますが、もし二百万円以下でも働きたいという人がふえているということになれば、それは貯蓄残高に反映してくるということだと思います。
貯蓄残高、勤労者世帯のところをごらんいただきますと、しかも中央値なんですけれども、これは百人並べたらちょうど五十番目の人の所得ということになりますが、八百十七万円から七百三十五万円、八十二万円も減っているということになります。経済成長が全体に行き渡っているような状況であれば平均値で見て大丈夫だと思いますが、ばらつきが大きくなってくるような状況でありますと、むしろ中央値の方が重要な指標だと思います。
そうなりますと、二〇一三年の一年間、まだこちらも二〇一四年の数字が出ていないんですけれども、一番新しい一年間というのは、二十二万円、マイナス二十二・二という数字がありますが、減少しているということになります。この統計によれば、貯蓄が百万円以下の世帯が一〇%ありますので、次の不況が来た場合に貯蓄残高を取り崩さざるを得ないという人たちがかなりいるということになります。
一番下の金融資産を全く持っていない世帯というのが、一六%から三〇・四%へというふうにふえております。
ですから、トリクルダウンというのは、ほとんどこの十数年、行き渡っていないということが言えるんじゃないかなと思います。
次の五ページ目が、金融資産の非保有世帯の割合です。
これも日本銀行のアンケート調査であります。一九八七年には三・三%でありました。三十世帯に一世帯が金融資産を保有していないという状況だったんですが、現在は三〇・四%でありますので、ほぼ三世帯に一世帯が金融資産が全くないという状況であります。
これは、なぜ九〇年以降こんなにふえたのかということですが、ふえた局面を見ますと、いわゆるバブル崩壊型の不況に見舞われたときであります。九〇年に株式、それから九一年に不動産バブルが崩壊しました。そこから、九〇年代半ばに一〇%に上がる。それから九〇年代後半、九七年、九八年の金融システム危機、アメリカのインターネットバブル崩壊にかけまして、一〇%から、今度は二〇%を超えました。一気に一〇%上がる。それから次に、二〇〇八年のリーマン・ショックで二〇%から三〇%にふえました。いずれも、バブル崩壊によって一〇%ふえる。これは、貯蓄残高が百万円しかないといった層の人たちが、失業が長期化した場合に貯蓄を取り崩さざるを得ないということだと思います。
この三〇%というのはかなり高い、日本から見れば戦後で最悪の数字になっているんですけれども、今話題のピケティの「二十一世紀の資本」によりますと、いや、どんな時代だって、今の時代も、資産を持たない層というのは常に五割いるということであります。
ですから、まだ三〇%であれば先進国に比べればいいじゃないかということも言えるかもしれませんが、そんなことは私は言えないと思います。せっかく日本は、ほかの先進国にない、資産を持たない人がうんと低かったという世の中を実現したわけですから、ほかの先進国に悪いところまで見習う必要はないと思います。
ただ、これは放っておきますと、もうこれ以上、今後バブルが起きないということであれば、三〇%が四〇%になり、五〇%になる。あと二回大きなバブルが崩壊するということが起きれば、恐らくこの比率は五〇%になってしまうということだと思います。
ということは、バブルを起こさない。これは、グローバル化していますから、日本の中で幾らバブルを起こさない政策をとりましても、外国で起きればそれが日本に及んでくるということなんですが、次の六ページ目をごらんいただきたいと思います。
バブルがなぜ起きるかということですけれども、これは一番上の枠組みのところの2番で書いてありますが、成長のメカニズムというのは、常に新しい空間を発見するということだったと思います。もう一つが技術革新であります。
もう既に、アフリカのグローバリゼーションというところまで事実上到達しました。もちろん、実際にアフリカが近代化されて豊かな生活をするというのはまだ何十年もかかると思いますが、もうその先はないということが重要だと思います。アフリカの次、どこを探すのかということなんですが、宇宙空間とかあるいは海底とかというところを探さない限り、もうないと思います。
そうしますと、今何が起きているかというと、この概念図のところのバーチャル空間でありますが、ここは電子・金融空間。金融の自由化あるいはIT技術、これが融合しまして、ウォール街では十億分の一秒で証券売買ができるようになりました。時間を小刻みにするということは、空間が広がっている、空間の面積が広がっているということになります。でも、ここは無限に上昇していくということは難しいと思います。
世界じゅうで量的金融緩和を、アメリカは脱却しましたけれども、それでもゼロ金利が続いております。それ以外は量的緩和をするということは、本来ならば工場や店舗、オフィスビルなどの雇用を伴うところに投資が行われるはずなんですけれども、ここは既にいろいろな指標、例えば一単位のGDPを産出するのにどれだけの資本ストックを持っているのかという資本係数は、日本は世界で一位であります。私は、非常に資本は過剰になっていると思いますので、これ以上店舗、オフィスビルに投資するということはなかなか難しい。むしろ、これからMアンドAが起きて、既にコンビニ業界とか始まっていると思いますが、MアンドAが起きるということは、そんなに雇用がふえるわけではないということだと思います。
あと、資本が過剰であるということを示したものが、七ページ目の金利のグラフです。
金利といいましても、これは主に資本の利潤率で置きかえることができますので、資本の利潤率が低いということは、それだけ追加一単位、追加一万円の投資をすれば得られるリターンは減ってきているということをあらわしております。これは何も日本だけの特有の現象ではなくて、最近では日本よりもドイツの利回りの方が低いという状況になりました。日本もドイツも国内では過剰になっているということであります。
過去、過剰だったのはいつかというと、四百年前の中世が終わったときのイタリアであります。このときは一・一%で、もうこれ以上投資する機会がないというふうに当時の歴史書に記述が残っております。これ以上イタリアの中では投資する機会がないということなので、どうしたかというと、新しい空間を、かぎ括弧つきの新大陸ということで、そちらに投資を求めるということになりました。そこで、イタリア、スペインというのはその後百年間、事実上、世界の主役から消えてしまうということが起きました。ですから、日本も今、四百年前のイタリアと同じような危機に直面しているんじゃないかなと私は思います。
次の八ページ目は、歴史の危機とは何かということで、バーゼル大学のブルクハルトは過去三つ、一番、二番、三番を指摘しています。
今は、特に2番のイタリア・ジェノバ、当時は世界で最も繁栄した国だったんですけれども、これがその後一世紀にわたって長期停滞するということが起きました。これは、将来どういう方向に進むかという、時代は国民国家の時代だったのに、イタリアは都市国家の道をそのまま選びました。それから、スペインは世界帝国の道を選んで、結局、中規模の国民国家、イギリスとオランダの台頭に全くスペイン、イタリアが対応できないということで、その後、歴史の表舞台から消えてしまうということでありました。
そういう意味では、大事なことというのは、今後、どちらの方向に世界が向かっているのかということを考えて、その歯車を逆転させるというのは恐らく経済政策ではとてもできない、一旦もう歯車が回り始めたらそれに合わせるしかないというふうに私は思います。では、今のこれまでの十数年の成長戦略というのがその歯車にちゃんと合っているのかということを考えることが非常に大事じゃないかなと私は思っております。
以上であります。(拍手)