西田淳志の発言 (予算委員会公聴会)
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○西田公述人 東京都医学総合研究所の西田と申します。よろしくお願いいたします。
本日は、このような公述の機会をいただきまして、大島委員長を初め委員の先生方に感謝申し上げます。
本日、私の方からは、認知症の国家戦略の国際動向というテーマでお話をさせていただきます。
本年の一月二十七日に、関係閣僚会議を経まして、省庁横断的な推進体制のもと、我が国初となる認知症国家戦略が発表され、多くの国民がその成果に期待を寄せているところかと存じます。
さて一方、海外では、認知症国家戦略が打ち出されて既に久しい国々もありまして、認知症国家戦略に関する国際的な情報の蓄積が昨今進んでまいりました。
こうした各国の経験を踏まえつつ、我が国の認知症国家戦略をさらに発展、進化させていくにはどのようなことがポイントとなるのか、そういった観点から本日はお話をさせていただきたいと思います。
お手元の資料二ページ目をごらんいただければと存じますが、ここには「私は」で始まる九つの文章が並んでおります。
幾つかここで読み上げますが、一つ目は、私は、適切なタイミングで認知症の診断を受けた、三つ目、私の認知症並びに私の人生にとって最良の支援と治療が受けられている、四つ目、私の周囲の人々、特にケアをしてくれている家族が十分なサポートを受けられている、五つ目、私は、尊厳と敬意を持って扱われている、七つ目、私は、人生を楽しんでいる、八つ目、私は、コミュニティーの一員であると感じられる。
さて、既にお気づきのとおり、この「私」とは、認知症の人、御本人のことであります。先生方の御親族にも、認知症を経験されておられる方々、また、経験され、既に旅立たれた方々もいらっしゃると思います。そうした方々にこうした質問を投げかけた際、どの程度の方々がこれらの問いに丸をつけることができるでしょうか。
実は、この九つの質問は、イギリスの認知症国家戦略の成果を評価するために策定されたものです。イギリスでは、認知症国家戦略の最終年に、第三者機関によって、相当数の認知症の御本人にこれらの質問に回答していただき、それをもって国家戦略の成果を見きわめるということになっています。
資料三ページ目をごらんください。
さて、今御紹介したイギリスの認知症国家戦略の評価基準からもおわかりになりますように、各国の認知症国家戦略においては、今現在、認知症を抱えておられる人、その御家族の視点に立って、五年程度の集中改革期間内に具体的なよい変化を起こすことが目標とされています。すなわち、相当なスピード感を持って、認知症の人がよい生活を送ることができる環境や仕組みを構築していくことが求められているわけであります。
次の四ページ目をごらんください。
それでは、なぜ、各国は国を挙げて、また、スピードを上げて認知症政策の推進に取り組むようになったのか、その主な背景要因として、少なくとも二つ挙げることができます。
一つは、経済的な背景です。
認知症人口の急激な増加に伴い、認知症に関連する社会的なコストが今後大幅に増大することが、各国の推計で明らかになっております。特に、認知症関連のコストで最も大きな割合を占めるのが、インフォーマルケアコストと呼ばれるものでありまして、これには、家族介護者が認知症の人の介護のために就労ができなくなることによる経済損失が含まれています。少子高齢社会における限られた労働人口が認知症の介護に縛られることによって、さらに労働力が減少するということが見込まれています。
こうした観点から、認知症政策の成否は、社会保障のみならず、経済や財政、また地方創生等にも決定的な影響を与えることになってまいります。
二つ目の背景要因としては、認知症に対する国民の関心が高まってきた、特に、認知症とともに生きる人たちがみずから声を上げることによって、それまで無視されてきたニーズを社会の中で顕在化させてきたことが大きく影響しています。
既に、第二期、第三期の国家戦略へと進んでいる国も多くありますが、仮に政権が交代しても、国民の認知症に対する関心の高さゆえに、認知症政策の優先度が下がることはまれであります。こうした国民のニーズを踏まえて、各国では、認知症を持ちながらも、住みなれた地域で在宅生活が最大限可能となる環境の整備並びにサービスの改革が強力に進められております。
資料五ページ目をごらんください。
さて、私どもは二〇一三年に、認知症国家戦略を打ち出している国々の政策関係者を招聘いたしまして、各国の戦略の方向性やその具体策についての情報を共有するための国際政策会議を開催いたしました。各国の国家戦略の理念は、認知症の人の思いを尊重し、住みなれた地域での生活の継続を可能とすることを目指すという点において、全て一致しておりました。
その理念実現のための個別施策についてのポイントは、ここで全て述べる時間がございませんので割愛させていただきますが、詳細は、六ページまたは七ページを後ほど御参照いただければと思います。
一つ二つ各国での共通政策、共通課題について御説明いたしますが、認知症に対する早期発見、早期診断ということは非常に耳にするわけですけれども、日本を含めた各国で共通する問題は、診断の後の支援がないという問題があります。多くの人々は、早期発見、早期絶望の状態に至ってしまうということがよく聞かれるわけです。
各国では、診断に至らない人を診断に結びつけることと同様に、それ以上に、診断した後の人に対する具体的な生活支援、そういったもののきちんとした政策を進めるということが重視されています。
もう一つ申し上げますと、認知症の人に対する抗精神病薬の処方が各国で大きな問題になっております。抗精神病薬の処方は、認知症の人の心理・行動症状と呼ばれる興奮や幻覚、妄想に対して処方されるお薬でありますけれども、そういう処方が非常に多いことによって認知症の人が多く死亡しているということが問題になり、英国議会でも非常にスキャンダルとして議論された経緯があります。
こうした認知症の方々に対する各国が抱える問題は共通性を持ち、そういった問題を協力しながら、各国の政策が進展していっているという状況でございます。
さて、八ページをごらんください。
各国が認知症国家戦略によって推し進めようとしているのは、認知症の人がサービスの都合に合わせて循環させられる旧来のサービス中心モデルから、認知症の人のニーズに合わせて必要なサービスが届けられる当事者中心モデルへの転換であります。
これまで認知症の人やその御家族は、医療や介護のサービスがばらばらに分断されていて、そのサービスのはざまに落ちてしまい、結果として必要な支援や対応がおくれ、問題が増悪した後、入院、入所を余儀なくされてきました。こうした分断的、事後的、また収容的なサービスモデルからの脱却、すなわち、問題が増悪する前に、統合された適切な支援が認知症の人とその御家族にタイムリーに届けられるサービスモデルへの転換が、各国で強力に推進されているわけであります。
次の九ページをごらんください。
さて、こうした認知症国家戦略の国際動向を踏まえた上で、このたびの我が国の認知症国家戦略、新オレンジプランについて若干の考察を述べさせていただきます。
まず、前提として、我が国の高齢化率は二五%と世界首位であり、認知症国家戦略が打ち出されたタイミングとしては、早いとは言えない、遅かったと言わざるを得ません。しかしながら、このたび省庁横断的な推進体制のもとで国家戦略が打ち出されたことは、非常に大きな意義があると存じます。
その基本理念も、住みなれた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けるために必要なことに的確に応えるというもので、各国同様に当事者中心モデルへの転換を目指そうとしています。この理念実現のための施策、七本柱の中でも、認知症の人やその家族の視点を重視し、施策の企画立案、評価への、当事者、御家族の参加を進めることが明記されていることは極めて大きな意義があるというふうに思います。
一方で、政策的に課題が残る部分も一部見られます。次のページをごらんください。
認知症の人の地域生活の継続が困難となる最大の要因は、先ほども申し上げましたように、認知機能の低下というよりも、不安感や焦燥感、幻覚や妄想、興奮などが出現する心理・行動症状というものが最大要因であります。この心理・行動症状が出現すると、家族の介護負担も急激に増してきます。こうした症状の出現に対して、早期に適切な支援がなされないことによって危機が発生し、地域生活の継続が困難になることが少なくありません。
この心理・行動症状は、不適切なケアの環境、環境変化によるストレス、言語化できない身体的な苦痛などが原因となっていることが少なくありません。各国の国家戦略においては、この心理・行動症状の出現をできる限り予防して、発生した場合には迅速に在宅でその問題を解決する仕組みが構築されています。
認知症国家戦略を持つヨーロッパ八カ国及びオーストラリアなどでも、この心理・行動症状に対する中心施策として、訪問型の医療チーム、すなわち、アウトリーチ型、出前型の医療チームによって、在宅で危機を回避、解決するサービスの普及が進んでおります。こうしたサービスの効果によって、認知症の人の精神科病院の入院が大幅に減少することが報告されています。
一方、国際的に見て異常な我が国の現状として、認知症の人が精神科病院に多く入院し、極めてその入院が長期化しているということがあります。平均在院日数が七百日以上または九百日以上との調査結果があり、認知症の方が精神科病院に入院したまま亡くなられるということも少なくないことが示唆されています。まさに、この新オレンジプランの掲げる理念と逆行する現状であります。精神科病院に入院する際の理由の九割以上が心理・行動症状であり、こうした危機を適切なタイミングで地域の中で解決するための対策が、諸外国以上に我が国では必要であります。
しかしながら、今回の新オレンジプランの中では、各国の認知症国家戦略の中で中心施策として位置づけられる訪問型の医療普及が明記されておらず、その点は大きな課題として残ったというふうに考えております。
次のページを御参照ください。
実は、この心理・行動症状に対して、在宅診療で対応していく試みが我が国においても始められています。
この、こころのホームクリニック世田谷と呼ばれるクリニックは、世田谷の烏山にございまして、二〇一三年の四月に開設されています。認知症や精神疾患を抱える人及びその御家族を在宅で支援、診療する専門クリニックとして今診療されておられまして、開設して一年三カ月で合計百四十七名の方が患者さんとしておられます。そのうち認知症の人が六一%を占めるということであります。認知症の在宅医療のニーズがとても高いということが、こういったことからもうかがえます。
このクリニックの強みは、各国の認知症国家戦略で行われている訪問型のサービスと同様に、二つの特徴があります。
一つは、いつでも相談できる、二十四時間、医師や看護師に電話がつながるということがポイントです。これによって家族介護者の方々は安心感を持たれて、その安心感が認知症の人にも伝わるのか、非常に御本人も安定するということがあります。
二つ目の強みは、タイムリーな訪問支援ができるということで、危機が発生し始めたときに在宅に行って、何が問題でこういう状態が起きているかをその場で見きわめて、その場で問題を解決する。それによって危機が収束し、入院に至らず在宅生活の継続が可能になるということであります。
こういった電話、それから迅速なアウトリーチで対応することによって、現在、定期外来受診が不能な状態にある重度の認知症の方七十一人のうち、精神科病院への入院が必要になった方が一名のみということであります。二十四時間の電話対応とアウトリーチで入院事例はまれとなり、地域生活の継続を効果的にサポートできるということが、こういった実践からも明らかとなっております。
次のページを御参照ください。
認知症国家戦略の目標を達成するために、理念を達成するためにということで、新オレンジプランによって構築された省庁横断的な認知症国家戦略の推進体制を生かして、施設収容型のケアモデルから地域包括型のケアモデルへ着実な転換を果たしていただきたいと願っております。
認知症国家戦略の進捗プロセスやアウトカムについて、当事者や介護者の視点による評価を。冒頭御紹介したイギリスのように、国民が状況がよくなったと実感できるような進捗プロセス管理、アウトカム評価が必要だというふうに思います。
最後に、先ほど申し上げました、認知症の人を在宅で支えるための訪問型、出前型の医療サービスの普及を推進するための施策を、診療報酬等の改定を含めて具体化していくことが今後の課題であるというふうに考えております。
以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)