百地章の発言 (憲法審査会)
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○参考人(百地章君) どうも御質問ありがとうございます。
二点御質問があったと思いますが、第一点ですね、現行憲法に緊急事態規定が存在しないのは憲法の欠缺かどうかという御質問だと思いますが、これは私はまさに欠缺論を取っておりまして、本来あるべきものが存在しないと思います。実は、それは理論的にも成立事情からも言えることだと思います。
まず、理論的には、要するに立憲主義というのは通常は平時のルールであります。したがって、緊急時には対応できない。だから、平時には平時の、そして緊急時には緊急時のルールが必要だというのがまず前提にあると思いますね。
その上で、緊急権の目的というのは、国家的な緊急事態において国家の存立を維持する、もちろんこの場合の国家というのは政府じゃありません、繰り返しております国民共同体としての国家、その国家の存立を維持し、憲法秩序を守ることによって国民の人権、これを保障するためにこそ緊急権が必要なんですね。
ちなみに、危機の克服がまず目的であって、それによって国民の人権、生命も守られるということでありますけれども、そういうことを考えるならば、どうしても憲法には緊急権、緊急事態に対する規定を置くべきであると、不可欠であるというふうに考えております。
逆に、もし緊急権がもう制度化されていない場合には一体どうするのかと。つまり、しばしば超法規的措置なんという言葉、気楽に使う人もいますけれども、憲法改正に反対せんがためにそういう言葉を言っているんじゃないかと思いますけれども。超法規的措置というのは、要するに憲法も法律も無視して権力が暴走することを認めることであります。日頃、憲法は権力を縛るものである、権力の暴走を抑えるために憲法があると言っている人たちが、一方で、いざとなれば超法規的措置で行けばいいと言うんですから、これは明らかに矛盾だと思いますけれども、そういうことが言われているわけであります。
その点、あと成立事情ですけれども、成立事情は、これも私も調べたことがありますが、マッカーサー草案には緊急時のための規定がありませんでした。そこで、我が国は、内閣による緊急政令権ですね、これを入れるように求めたわけですけれども、アメリカはそれは反対すると。不文法の国というか、成文法、両方ですけれども、そういう伝統がありますから、いざとなれば不文の法、ロー・オブ・ネセシティー、必要の法によればいいということで見解の相違があったわけですが、アメリカの反対によって結局盛り込むことができなかった。
つまり、本来あるべき規定が何らかの理由によって、そういった事情によって盛り込まれなかった、これは明らかに憲法の欠缺であると思います。
なお、先ほど水島参考人が参議院の緊急集会のお話されましたけれども、私は全く見解が違いまして、これは平時のための制度であって緊急時のための規定ではありません。緊急時の規定そのものはやはり存在しないと見るべきでしょう。
それから、フランスの例を挙げられましたけれども、フランスの憲法十六条は大統領に強力な非常措置権を認めております。廃止論もあったかもしれませんが、現にそれがあり、使われてきたというのが現実なんですね。他方、日本には緊急時の規定が何もないところで、それを廃止論があったからと持ち出しても余り説得力を持たないんじゃないかなというふうに思っております。
それから、法律レベルで対応できないかという議論でありますけれども、これは二つ理由がありまして、私は難しいと思っております。
一つは、仮に法律においていろんな緊急時のための規定を置いたとしても、現に警察法にも警察緊急事態という規定がありますし、災害対策基本法にも緊急政令の規定があるし、いろんなそういう法律があります。しかしながら、さきの東日本大震災のときに何があったかと。先ほどもちょっと触れましたけれども、例えば瓦れきの処理をするとしたら、これは言わば憲法で保障されている財産権の侵害に当たると、したがって簡単にこれを除去することはできないという議論が出されてきた。つまり、仮に法律に規定があっても、それ自体が憲法違反であるとされればそこで後退せざるを得ない、中止せざるを得ないという現実があります。
したがって、幾ら憲法に積み重ねていってもそれだけでは駄目であって、憲法の中に、まさに国民の人権を守るためにこそ、より多くの生命を守るためにこそ、一時的に人権の制約をせざるを得ない場合があるだろうと。立入りを制限したり、あるいは財産権の一時的な制限をするということは、憲法に置かなかったら私はできないと思っております。
それから、法律でやる場合には、法律は個別的に掲げるわけですよね。例えば自衛隊の警護活動にしても、テロ対策として警護活動がありますが、現在は自衛隊の基地と米軍基地しかないんですよね。これを更に例えば原発に広げたとしても想定外の事態が出てくる可能性があります。法律ではやっぱり個別的な規定になりますから、ある程度包括的な緊急時のための規定を設けるにはもう憲法しかないんじゃないか、これが二つ目の理由であります。