高橋弘行の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(高橋弘行君) 本日は、改正法案に対する考え方を述べさせていただく機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。
本日は、改正法案をめぐって様々に指摘されている事柄のうち五つの点につきまして、私の個人的な考え方を述べてまいりたいと存じます。
一点目は、改正法案の成立によりまして、企業は正社員を減らす結果、派遣労働者が急増するのではないかという指摘についてでございます。こうした指摘の背景には、派遣という働き方を望ましいものではなく規制を強化すべきであるという考え方があるように感じております。
御承知のとおり、我が国は労働力人口が減少し続けております。その中で、様々な制約を抱えた労働者などが増えておりまして、労働者の価値観も一様ではなくなっています。労働市場におきまして多様な働き方の選択肢を増やしていく必要がございまして、派遣という働き方を利用しにくいものとすることは望ましいものではありません。
重要なことは、優良な派遣事業者のみが事業を行う基盤を整備するために、派遣業界の健全化を進め、派遣労働者の保護を高めることであると考えています。その点、改正法案では、届出だけで事業を営める特定労働者派遣事業を廃止し、全て許可制とします。これは、今回の改正において最も評価すべきであると考えております。
その上で申しますと、そもそも雇用は経済の派生需要でありますので、景気変動によって雇用量は増減いたします。また、働く労働者の意向によっても大きな影響を受けます。したがって、経済情勢など様々な要因を切り離して、法改正のみに基づく派遣労働者数の増減を正確に予想することは困難です。
参考までに、これまでの我が国の派遣労働者数の推移を見ると、最も多かった二〇〇八年当時で見ても雇用者全体の三%弱にとどまっており、非正規雇用労働者に限っても八%弱にすぎませんでした。労働市場全体で見れば、元々派遣労働者数自体が少ないですから、労働者数の数字だけを見ていけば将来的に増加率が高まることがあり得るかもしれませんが、派遣労働者数が大幅に増加し非正規雇用労働者数の過半を占めるといった事態は生じないと考えております。なぜならば、自社の正社員と、臨時的、一時的な需給変動への対応として活用するケースが多い派遣労働者では、企業として期待する役割や成果がおのずと異なるからです。
改正法案では、派遣労働者全体の八割を占める有期雇用派遣労働者について、個人単位の三年の期間制限が課されてまいります。人件費を単なるコストと考えて、正社員の代わりに派遣労働者による常用代替を追求すると仮定した場合でも、三年ごとに人が交代することになりますから、ノウハウの継承などもスムーズに行われにくくなります。そのような限界があるにもかかわらず、派遣労働者の方に自社の基幹的な業務をどんどんと任せていきますと、企業競争力の維持強化が困難なだけでなく、日常的な業務運営にも支障が生じかねません。現在は人手不足で労働市場が逼迫していますので、急な労働力の確保のために派遣労働を活用する企業が増えるかもしれません。しかし、自社の従業員と派遣労働者との入替えを積極的に行うことは企業の持続的発展にはつながりませんし、企業経営の観点から現実的ではありません。
第二に、事業所単位の期間制限につきまして、過半数労働組合等からの意見聴取だけでは常用代替の歯止めにならないという指摘について申し上げます。
日本企業の強みの一つは、良好な労使関係の構築に向けて個別企業労使が互いに努力し続けている点であります。そうした努力の継続によって築かれた信頼関係が、経営環境の変化に対して柔軟かつスピーディーな対応を可能とする競争力の源泉であるというふうに考えています。
改正法案では、事業所単位の期間制限への対応として、派遣労働者の受入れについて過半数労組等からの意見聴取を義務付けています。これは、我が国で重視されております労使自治の原則を最大限尊重し、労使慣行の実態を踏まえた制度と言えます。
現在は、自由化業務に従事する派遣労働者について一年から三年までの延長の際に意見聴取が行われていますけれども、対象を有期雇用派遣労働者全員に拡大いたしまして、企業労使の話合いを促す仕組みとしていますので、企業側としては現行制度以上に様々な対応が求められてまいります。この仕組みの導入によりまして、派遣労働者の活用を中心に、自社の人事管理などについて労使で話合いを重ねる機会が増えてくると考えられます。そのような場が定着することで労使の信頼関係が更に深まり、企業の競争力強化につながることを願っております。
第三に、過半数労組等から反対意見が出された場合に、改正法案の仕組みでは歯止めにならないという指摘について申し上げたいと存じます。
先ほども申し上げましたとおり、企業経営におきましては良好な労使関係の構築が何より重要です。労務管理の観点から申し上げますと、改正法案が成立した場合に、日頃から様々なレベルでの労使の話合いの場などを通じまして、派遣労働者の活用を含めた自社の人事労務管理につきまして労働組合等の理解を得ていくことが基本になっていくというふうに考えております。
個別企業における労使関係の状況にもよりますので一般論として申し上げるのは難しい点もございますけれども、良好な労使関係が構築されている企業の場合、数度の話合いを重ねても、常用代替の観点からこれ以上の有期雇用派遣労働者の受入れはすべきでないと過半数労組等から強い意見が出された際に、特段の事情が存在する場合を除けば、反対意見を押し切ってまで有期雇用派遣労働者を受け入れ続けようとするところはほとんどないというふうに考えております。あくまで、現場のことは現場に任せるということが大変大切ではないかと考えている次第でございます。
第四に、専門二十六業務で長く働いている派遣労働者の雇用が失われるという指摘について申し上げます。
改正法案が成立すれば、いわゆる二十六業務は廃止され、有期雇用派遣労働者の場合、同一の事業所の同じ課で継続して働けるのは三年までとなります。このため、改正法案では、改正法の施行日前に締結した労働者派遣契約につきましては、それが終了するまで旧法が適用されるという経過措置を設けていますので、直ちに雇用が失われるということは少ないと思います。
また、改正法案は、派遣元に対しまして、雇用安定措置の実施に加えまして、キャリアアップを希望する派遣労働者を支援するための計画的な教育訓練やキャリアコンサルティングの実施を義務付けています。その結果、ステップアップを希望する派遣労働者が様々なチャレンジを行うことが可能となってまいります。
同じ派遣先に長く派遣されている派遣労働者は、派遣先だけでなく、派遣元からも評判が高いと思います。現在は労働市場が逼迫しておりますので、双方のニーズがマッチすれば、派遣先で直接雇用されるか、派遣元で無期雇用されるケースが十分期待できると考えております。
二十六業務の廃止をめぐる問題につきましては、何より平成二十二年に行われました専門二十六業務派遣適正化プランが大きな影を落としました。適正化プランの下で、制度自体は何ら変更していないにもかかわらず、二十六業務に関する行政解釈が突然大きく変更されました。
例えば、有名な事件でございますけれども、派遣労働者の方が一緒に働く派遣先の従業員の電話を取っただけで専門業務とは認められず自由化業務とみなされるといった極端な行政指導がなされたことによりまして、企業現場では大変な混乱が見られました。こうした突然の行政解釈変更は、制度を不安定にしただけでなく、行政に対する不信も高めました。
そもそも、専門性自体が時代につれて変化する中にあって、各地の労働局が業務の専門性に着目して二十六業務に該当するかどうかを判断することには無理があります。実際は、自由化業務を行っているかどうかをチェックして判断するのが実態と言えると思います。このような仕組みは大変分かりにくいものであり、法を遵守する側から、問題が大きく維持不可能と言わざるを得ません。
第五に、派遣元が講じる雇用安定措置のうち、派遣先への直接雇用の依頼について申し上げます。
これについては、派遣元から依頼があっても直接雇用する派遣先は少ないのではないかとの指摘があります。
派遣先企業としましては、意欲と能力の高い方であれば採用したいと考えるのが自然であります。二〇一三年十月十日の労働政策審議会に提出されました厚生労働省の資料によりますと、現行制度におきましても、派遣期間制限の抵触日が到来した対応として、五割以上の派遣先が直接雇用をしています。したがいまして、雇用安定措置を通じたマッチングが成立することは十分期待できると思います。
他方で、派遣労働者の方が必ずしも派遣されている先で就業したいと希望されるわけではありません。引き続き派遣労働者として就業したいと希望される方もおられますし、中小企業などの場合ですと、是非うちで働いてほしいと申し入れても、派遣労働者の方から遠慮したいと断られるケースも多いと聞いております。
もちろん、派遣労働者が派遣先での直接雇用を希望した場合に、必ずその希望が実現するわけではありません。派遣労働者と派遣先の間で雇用契約が成立するかどうかは、派遣先と派遣労働者の双方のニーズが合致するかどうかで決まるからです。ただし、派遣元が派遣先に直接雇用の依頼をしたとしても、断られるだけであって意味がないとするのはいささか偏った見方ではないかと感じております。
最後になりましたが、参考人関連資料にございますとおり、経団連は、七月十四日に、日本商工会議所、経済同友会との連名で、「労働者派遣法改正案の早期成立を求める」という要望書を出させていただきました。経済三団体の一員として、現行制度の改善に資する改正法案の早期成立を是非お願いしたいと存じます。
簡単ではございますが、今回の改正法案への指摘に対する考え方を中心に申し上げました。
御清聴、誠にありがとうございました。