棗一郎の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(棗一郎君) 日本労働弁護団で常任幹事をしております弁護士の棗と申します。
今日は、お呼びいただきましてありがとうございます。
私は、今日、参考人で見えている中山弁護士とは反対の立場で、労働側で日頃弁護士活動を専門的にやっております。派遣労働者からの労働相談や裁判事件、多数やってきましたので、その立場に立って、法律家として、今回の改正法案に反対の立場から意見を述べさせていただきます。
まず、今回の派遣法改正については、労働側は、ナショナルセンターの枠を超えて、全ての労働組合、オール・ジャパン・ユニオンが反対しております。特に重要なのは、当事者である派遣労働者も、法案の中身を正確に理解している方はほとんどが反対し、廃案を求めているということです。
今年の六月二日に、日本労働弁護団で、派遣法改正について派遣労働者を対象に緊急ホットラインを実施しました。今日お配りしてあります資料の一がその結果ですが、四十名を超える派遣労働者が今回の改正に不安を持ち、反対しております。非正規労働者の権利を実現する全国会議という弁護士、研究者の集団がありますが、ここがネット上のアンケートで派遣労働者に今回の法案についてアンケートをしたところ、それに答えた七百五十名を超える派遣労働者がほぼ全て今回の法案に反対し、厳しい疑問を呈しております。その集計した資料が今日お配りしている資料の二です。
さらに、専門二十六業務の派遣元業者から、私が講演をやったときにこのような意見を聞きました。三年ごとに新しい人を探して派遣するということはとても困難だ、派遣元の多くはこの法案に反対であるというふうにおっしゃっていました。
六月二日の緊急ホットラインでは、同じく専門二十六業務のうち機械設計の派遣、小規模な会社で二十名程度とおっしゃっていましたが、その派遣元の業者から直接私は意見を聞きました。専門二十六業務で派遣されている派遣労働者というのは長期の雇用で高齢の人が多く、派遣先の定年まで働けると思っていたのが、今回の改正によって一律に三年で派遣は終了ということになれば大量の失業者が出ることになる、派遣元業者は自分のところの派遣労働者を無期雇用で抱え続けることなどできません、そのことは政府分かってやっているんでしょうか、派遣の現場を知らない悪法だとまでおっしゃっていました。
当事者である派遣労働者はもちろんのこと、派遣元業者までもが反対の意見を持たれている、このような派遣法の改正案はやめるべきだと私は思います。
今回の法案、たくさん問題点がありまして、短い時間では指摘し切れませんが、重要だと思われる点に絞って、以下、意見を述べます。
常用雇用代替防止との関係です。
今回の派遣法案の最大の特徴は、中山弁護士もおっしゃいましたが、これまで専門二十六業務という例外的な業務を除いて派遣期間は原則一年、最長三年、そういう派遣期間制限を設けてきました。派遣は、一時的、臨時的仕事にすぎず、例外的な働き方であるというふうに我が国社会では位置付けてきたわけであります。この派遣期間制限を今回の改正は撤廃して、専門二十六業務を含めてあらゆる業務について同一業務で永久派遣を認めると、ここに最大の特徴があります。
今から三十年前、一九八五年に初めて派遣法を制定した当時、我が国における雇用慣行との調和に留意し、常用雇用の代替を促すことがないように十分に配慮するということが基本的な理念とされました。すなわち、派遣労働者の保護だけでなく、労働者全体の雇用の安定と労働条件の維持向上が損なわれることのないように配慮していくとされました。以後、大改正がありましたけれども、この理念は一貫して取られてきました。
ところが、今回の改正によって、常用代替の防止という基本理念はなくなり、専門業務派遣をなくして、自由化業務についても派遣は一時的、臨時的な例外的な働き方でなくなる、普通の働き方として全面的に正社員雇用、直接雇用に取って代わることができるよう、これは法制度上そういうふうなことができるようになってしまうということなんです。
過去の派遣法の改正の歴史を振り返ると、九九年の大幅規制緩和のときも二〇〇三年のときも、この理念というのは一貫して取られてきました。しかし、今回の派遣法の改正によってこの理念は吹き飛んでしまいます。
今回の改正によって、派遣禁止業務は除きますが、日本の職場の全ての業務が法制度上は永久に派遣労働で賄うことが可能になります。企業は、やろうと思えば、幹部社員だけは正社員として残して、あとは全て派遣に置き換えるということも法制度上可能になるということなんです。
今回の法案の問題点を考える上で見逃してはならない問題があります。それは、今回の法案の成立から施行時期が異常に短いということなんです。
今回の法案は、元々二〇一五年九月一日と施行時期、規定されていましたが、もうあと六日です。この審議状況では間に合いません。新聞紙上などによれば、仮に九月三十日を施行日としたときに、強行採決されて、そうなってしまっても、成立、施行まで期間が僅か半月から一か月もないんですよ。
これまでの立法から三十年、大改正がありました。この常用雇用の代替防止という基本的な考え方を捨て去って、専門業務派遣という概念もなくして派遣期間制限を撤廃する、立法以来最大の改正ですよ、これ。にもかかわらず、労働者や国民への周知期間がこんなに短いとは異常なことです。
資料三を参照いただきたいんですが、派遣法成立から過去の重要な改正の施行期間と比べても、今回は余りにも短過ぎます。派遣法を初めて立法したときは約一年の周知期間を取りましたし、九九年の原則自由化のときは約五か月、二〇〇三年の大改正のときは八・六か月、民主党政権下における平成二十四年の改正のときでも六か月掛けています。まして、違法派遣の雇用申込みみなし規定の施行などは四十二か月ですよ、三年半も掛けているんです。
今回の法案の労政審の建議、平成二十六年一月二十九日に建議が出されましたが、このときの施行時期も平成二十七年四月一日からとされております。建議を見れば分かりますが、一年以上掛けて周知するということが、そういうふうになっていたんですよ。
ところが、今回、一か月もない。これは一体何をしたいんでしょうか、何でそんなに急がなきゃいけないんでしょうか。それは、平成二十四年の改正法四十条の六、違法派遣の場合の雇用申込みみなし規定の施行を十月一日に控えて、これに間に合わせるという使用者側のニーズに合わせるものにほかなりません。
平成二十四年、四十条の六に定められている違法派遣のケースは四つの場合に限定列挙されていますけれども、違法派遣、そのうち多いのは派遣期間制限違反と偽装請負であります。違法派遣が明らかになった場合には、二十四年改正法が適用されると、違法派遣を受け入れている派遣先は、派遣労働者から直接雇用を申し込まれれば直接雇用しなければならなくなります。雇用責任が発生するんです、派遣先に。直接団体交渉義務も負うことになります。場合によっては、訴訟を提起されることにもなりかねません。このようなリスクを回避するために、雇用申込みみなし規定の適用をなきものにしようという、こういう改正をやって、どうしても十月一日に間に合わせたいと、そういうことじゃないんですか。
横行する違法派遣を根絶する決め手としてこの規定は制定されたんです。我々の悲願でした、平成二十四年制定当時。そういう画期的な制度であるにもかかわらず、周知が十分必要だということで、四十二か月、三年半も適用を引き延ばした上に、なきものにしようというのは、余りに国民、派遣労働者を愚弄するような議論じゃないでしょうか。
派遣労働者は、違法派遣であっても期間制限違反であっても、幾ら裁判をやっても法的に保護されないんです。我々が幾らやってもどうしようもない、勝てないんです。その決め手として、救済する決め手とするこの規定をなきものにしようというのは、これは派遣労働者の期待を裏切ることにほかならないというふうに私は思います。
今回の改正によって、派遣労働者の安定雇用、派遣労働者の賃金その他の労働条件も改善しません。
派遣労働者、正社員になりたいという方、参考資料の三百四十五ページに調査結果が載っていますけれども、八割を超える方が正社員になりたいとおっしゃっています。
ところが、今回の法制度上は、派遣労働者を正社員に登用するという法制度上の保障、これは全くありません。政府は、派遣労働者のキャリアアップを図って正社員への道を開く改正だというふうにおっしゃいますが、どこにそういう保障があるんでしょうか。法律実務家として全く理解できません。
今回のように、派遣期間制限を撤廃して、あらゆる業務で派遣を使えるということになれば、今までは派遣期間制限を超えて同じ労働者を使おうとするときには、正社員にするかどうか、そういうことを考慮する機会があったわけですけれども、派遣労働者を永久に使い続けることができるということになれば、正社員として雇用する必要は全くなくなります。そうなれば、派遣先企業は、正社員と比べてコストが安くて、しかも雇用を保障しなくていい、簡単に切り捨てて雇用調整ができる、団体交渉義務を負わない派遣労働者を永続的に使おうとするインセンティブが大きく働くことになります。
現に、二十六業務の派遣労働者は、五年、十年永続的に雇用されていますが、正社員になった方はほんの僅かです。お配りされている参考資料にも、正社員登用は実績があるところはほんの僅か、一・七%にすぎません。何ら法的な手当てはありません。
最後に、労働条件の処遇の改善です。
これも、均等待遇を実現する現行法の規定も、それから改正法の規定もありませんので、この均等待遇を実現するような規定がなければ処遇は上がってこないというのは、もう火を見るより明らかです。今までがそうだったじゃないですか。どんなことをやったって上がってこないんですよ。派遣労働者は、派遣先の正社員と比べて、賃金の格差は世代によっては二倍以上の格差があります。これ、縮まらないんです。これを縮めるためには均等待遇原則を定めた法的な手当てが必要です。それがなければ何の意味もないんです。ところが、今回それはありません。
以上述べたように、今回の派遣法の改正は、派遣期間制限を撤廃して、派遣労働者を使う側にとってあらゆる業務で永久派遣が可能となる大幅な規制緩和です。一方、派遣労働者の安定した雇用の確保とか処遇の改善は望めません。派遣労働者を保護して権利を強化し保障する何もない、へんぱな法案となっております。
資料の二の二を御覧ください。この資料は、派遣労働者のアンケート七百五十件、これを私が読みやすいようにレポートにまとめたものです。是非、参議院の厚生労働委員会の議員の皆さん、与党の皆さんも野党の皆さんも、この派遣労働者の生の声を是非是非読んで、十分に考慮して、それでこの法案に対する賛否を判断していただきたいと切に切に願います。
ありがとうございました。