西尾勝の発言 (国の統治機構に関する調査会)

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○参考人(西尾勝君) 西尾勝でございます。
 国と地方の関係についての第一回の会合ということで、一体何を私がお話し申し上げるべきなのか迷いましたけれども、私は、過去の自分自身の経験から、地方分権改革のこの二十年というのをどう見るかということと、もう一つ、地方制度調査会で従事してまいりました地方自治制度の改革のことについてどういう所感を持っているかということに中心を置いてお話し申し上げたいと思います。
 まず、地方分権改革につきましては、一九九五年から二〇〇一年まで通算六年間活動を続けました最初の地方分権推進委員会、これを委員長を務められたのが諸井さんでしたので以下諸井委員会と略称させていただきますが、ここで六年間仕事をしましたのと、その次につくられた地方分権改革を調査審議する諮問機関として地方分権改革推進委員会というものがございました。二〇〇六年から二〇〇九年まで三年間の任期でしたが、これは会長が丹羽宇一郎さんが務められましたので以下では丹羽委員会と略称させていただきますけれども、この委員会に私は二年間従事いたしました。と申しますのは、委員会の任期は三年だったのですけれども、出発早々は増田寛也さんが委員に就任され、委員長代理に指名されておられたのですけれども、一年たったところで総務大臣に登用されまして委員会を抜けられました。その結果、一人欠員になった委員の補充ということが行われまして、途中から私が補充者として加えられて、後半の二年間はそこで私も従事いたしました。したがって、通算八年間、地方分権改革の諮問機関に関係したことになります。
 ちょうどその頃でいいますと、地方制度調査会の方は第二十四次地方制度調査会から始まっていますけれども、つい最近までありました第三十次地方制度調査会まで、私は二十四次から三十次まで全て調査会に関わっておりました。そういう経験に基づいて、大きくは四点ほどのことについて意見を申し述べたいと思います。
 まず最初は、地方分権改革二十年の評価についてでございます。
 ただいま申し上げました最初の委員会、諸井委員会の勧告に基づいて、機関委任事務制度を全面廃止するとともに、国の各省による地方自治体への関与を縮小し定型化した二〇〇〇年改革と総称されている、あるいは第一次分権改革と総称されている改革は、戦後のシャウプ勧告に基づく地方制度改革以来の大改革であったというふうに思っております。
 また、その後の丹羽委員会の勧告に基づきまして、その後逐次法制化されてまいりました法令等による義務付け・枠付けの見直しという措置、それから都道府県から基礎自治体への事務権限の移譲という措置、そして更に加えれば、国と地方の協議の場の法制化といった措置などは、いずれも諸井委員会以来の流れを継承した大きな成果であったというふうに評価しております。
 ただ、これらの改革はいずれも行政面に中心を置いた改革にとどまっておりまして、国と地方の間の税財源の配分、この構造を改める、言わば財政面の改革には余り見るべき成果を上げることができなかったということであります。その結果、今なお多くの改革課題が手付かずのままに残っております。その意味で申しますと、地方分権改革は依然として未完の改革、未完成のままにとどまっている改革と言わざるを得ません。
 しかしながら、更に手を付けるべき課題はいろいろとあることはあるのですけれども、現在の国、地方を通ずる財政状況の下でこの財政面の改革に着手することは極めて難しいと判断せざるを得ないように思います。
 そこで、地方側は当分の間、国に地方分権改革を調査審議する大掛かりな諮問機関の設置を求めず、個々の自治体が地方分権改革のこれまでの成果を積極的に活用して住民サービスを充実し、地方分権改革の言わば効果を地域住民にまで還元するということに専心すべきである、専念すべきであるというふうに私は考えております。これが現在の時点での私の評価、所感でございます。
 二番目の問題として、地方分権改革の推進手法について、少し私の思うところをお話ししたいと思います。
 地方分権改革の推進を進める手法には、大きく分けて所掌事務拡張路線と自由度拡充路線というべき二つの路線があるように思います。いずれもこれは私が作り出した造語でございまして、私の本とか論文には書いてありますが、世間一般の人が広く使っている概念ではありませんので、これから少しずつ中身については御説明はいたします。
 先ほども戦後のシャウプ勧告に言及いたしましたけれども、このシャウプ勧告は、国と地方の間の事務配分や、都道府県と市町村の間の事務配分を改めて、そしてこの事務の再配分に合わせて税財源の配分構造を改めようとしたものでございます。
 そのとき以来、戦後の我が国では、国から自治体への事務権限の移譲とか、都道府県から市町村への事務権限の移譲、要するに、まあ言葉が適切かどうか分かりませんが、上位の団体から下位の団体へ、さらに中間の団体から末端の団体へというふうに、上から下へ事務権限を移譲することを指して地方分権の推進というふうに考える、そういう社会通念が確立されました。その後の地方制度調査会による度重なる答申も基本的にはこの考え方をそのまま踏襲しまして、事務権限の再配分を提唱し続けてきておりました。
 このような推進手法、すなわち自治体の所掌する事務、所掌事務を拡張しようとする手法、国から地方公共団体へ仕事を下ろせば下ろすほど自治体が所掌する事務の範囲は広がるということになりますが、この自治体の所掌事務を拡張しようとする手法、中でも地域住民に最も身近な基礎自治体である市町村の所掌事務を拡張しようとする手法、この手法を指して、私は所掌事務拡張路線というふうに呼ぶことにしているわけであります。
 ところで、諸井委員会が勧告しました、そしてまたその勧告事項の中でも最大のものであった機関委任事務制度の全面廃止であるとか、あるいは国の各省による自治体への関与の縮小と定型化といった一連の措置は、この所掌事務拡張路線に属するものではありませんでした。このときの機関委任事務制度の全面廃止に当たっては、従来、都道府県の知事等、知事とか都道府県の教育委員会といったような都道府県の知事等の執行機関に委任されておりました機関委任事務は、ごく僅かな例外を除きまして、原則として全てそのまま都道府県の自治事務か法定受託事務かに改めました。また、従前、市町村の市町村長等の執行機関に委任されておりました機関委任事務も同様に、原則として全て市町村の自治事務か法定受託事務に改めました。
 要するに、この機関委任事務制度の全面廃止は事務配分の変更を伴っていないわけです。国の事務であったものを性格的に地方公共団体の事務に変えますと。性格付けを変えましたけれども、国が担当していた仕事を都道府県に下ろしたわけでもありませんし、都道府県が担当していた仕事を市町村に下ろしたわけでもないということですね。事務の移動は起こっていないということです。国、都道府県、市町村の間の事務配分は変更せずに、国の各省による関与の仕組みのみに変更を加えたのです。
 すなわち、自治事務に区分けされました自治体の事務に関して発せられてきました数々の通達、通知と言われるもの、この通達、通知は、全てこれ以降はこれに忠実に従うべき訓令、言わば命令ですが、命令ではなく、技術的な助言、テクニカルアドバイスにすぎないものに改められたわけであります。
 要するに、忠実に従わなくてもいい、助言として参考にすればよいという性質のものに改められたわけであります。自治体の裁量の余地、地域事情に即応した創意工夫の余地を広げようとする手法でございます。これを私は自由度拡充路線というふうに呼んでいるわけであります。そして、その後の丹羽委員会の勧告に基づく法令等による義務付け・枠付けの見直し措置も、この自由度拡充路線に属する改革手法であったと言えます。そういう意味で、諸井委員会の勧告は、地方分権改革の改革手法に新しい地平を切り開いたと言えるのではないかと思っております。
 ところがであります。ところが、ごく最近の地方団体側の改革提言には、この種の機関委任事務制度の全面廃止のときに一つ一つの事務を全て洗い出して、これは自治事務にすべきか法定受託事務にすべきかということを一件一件精査したわけでありますが、次の法令等による義務付け・枠付けのときも、何々法の第何条何項のこの措置は果たしてこの義務付け・枠付けは必要なのかということを一点一点精査するというような作業をしてきて、自治体の自由度を少しでも広げようという積み重ねをしてきたわけですが、この種の関係法令の関係条項の改正を一つ一つ積み上げていくという類いの自由度拡充路線の改革手法に満足しませんで、これでは細かな改革の積み上げにすぎないという印象を持たれるのでありましょう、そういう改革手法に十分に満足せずに、旧来の、昔ながらの所掌事務拡張路線への復帰といいますか回帰、そこへ戻ることを求めるもっと大胆な改革構想が続出してきております。
 つまり、例えばでありますが、大阪の維新の会が現に実現を目指しております大阪都構想、大阪府と大阪市を統合しようとする構想とか、あるいは指定都市市長会が一致して要望しております特別自治市構想、これはもう端的に言えば、大都市に限っては府県から独立させよう、別の言い方をすれば、大都市は府県としての仕事と市としての仕事を一緒にしようという構想ですけれども、こういう特別自治市構想というのを打ち上げておられます。
 そして、丹羽委員会でも審議し、その後ずっと実現を見ていないテーマとして、国の各省の地方出先機関の原則廃止という改革とか、あるいは道州制構想などの改革構想は、いずれも大規模な事務権限の一括移譲を求めるものであります。国から都道府県へあるいは道州政府へ、あるいは都道府県から市町村へといったような、ともかく、事務配分の大掛かりな変更を求めようとしているものでありまして、これは私の言う所掌事務拡張路線に属すものです。シャウプ勧告以来、それこそが地方分権だというふうに何となく思われてきたその手法にもう一度戻ろうと、そして大きな改革を何とか実現したいというふうになってきていると、そう感じています。これが二番目の私の指摘したいことであります。
 ところで、三番目に私が申し上げたいことは、この所掌事務拡張路線というものには、これをする場合には十分に留意しなければならないことがあるという、所掌事務拡張路線の留意事項、留意点と言うべきものについて少しお話をしたいと思います。
 こうした大胆な改革構想は、いずれも言わば一発逆転を目指すような構想になっているわけでありますが、この種の所掌事務拡張路線の改革構想にはリスキーな面がある、危険な面があるということです。全く功罪ないというわけでは、罪ばっかりだと言っているわけでは決してありませんが、気を付けなければならない点があるということであります。
 特に、国から自治体への事務権限の移譲を目指すいわゆる出先機関の原則廃止や道州制構想の改革構想では、国の側では、国の側の立場からいえば、できるだけ多くの国の機関を廃止したり縮小したりしまして、ここで働いている国家公務員を大幅に削減したいという、言わば行政改革の観点からの要望が、期待が出てくる、それを実現するためにできるだけ大幅な事務権限の移譲を実現したいという考え方が国の側には出てくる可能性がある。
 現に、いわゆる出先機関の原則廃止は、小泉政権の最後の頃に経済財政諮問会議が決定しました歳出歳入一体改革、つまり、いずれは歳入の改革、増税もせざるを得ないだろうけれども、その前に徹底した歳出削減をしなければ国民の同意は得られないだろうということで、歳出の削減に重点を置いた歳出歳入一体改革という方針が決められたことがあります。
 歳出を削減する、中でも、国の財政の縮減を図るということが大きな狙いになりましたので、その有力な手段の一つとして国家公務員の大幅な削減ということが浮上したわけです。これをしようと思うと、国家公務員の中で霞が関の本省庁で働いていらっしゃる方はごく一部でありまして、ほとんど大半は地方出先機関で勤務していらっしゃるわけです。この地方出先機関に着目をして、ここにたくさんの国家公務員がいると、これを減らしたいというのがその元々の由来だったわけです。ただ、その改革を実現する具体策を新設された地方分権改革推進委員会、丹羽委員会で審議するようにというふうに振り付けられていたわけであります。
 そこで、国の側はそういう期待の下にこのテーマを出してこられた。そのとき、全国知事会はそれに大賛成をいたしまして、極力出先機関を全面原則廃止してほしい、そして、なるべくそこで所管してきた仕事は都道府県に移してほしいというのが知事会の取られた立場だったわけであります。つまり、地方の側では、できるだけ大幅な事務権限の移譲を実現することこそが地方分権改革の趣旨にかなうという考え方が出てくる、そういうおそれがあるわけです。現にそれは起こったことです。いわゆる出先機関の原則廃止問題をめぐって現に起こったことであります。
 ところが、これがなかなか話が付かない。それは言うまでもなく関係の各省庁がこれに強く頑強に抵抗したからですけれども、各省庁が抵抗するのにもそれなりの理由がちゃんとあるわけですね。国の各省は、決して、自ら最後まで責任を持つべきだと思うこと、事務について、これに対するコントロール権を手放そうとはしないわけです。それは国の官僚としては無責任だとお考えになるからです。最後まで責任を負おうと思えば、コントロール手段を維持していなければならないというふうにお考えになるわけであります。
 国の各省庁のお役人がそう思うような事務権限まであえて都道府県に移譲する、あるいは都道府県の広域連合に移譲する、あるいは新しく新設する道州政府に移譲するというようなことを要求して折衝しますと、本来渡すべきものではないのだけれども、そこまでいって渡せと言われるのなら、まず法定受託事務にすることは最低限の要件だと、絶対自治事務にはしないと、こうおっしゃる。法定受託事務にするというのならまだいいかもしれませんが、それでも自信が持てない、コントロールしていくということが十分にできるかどうか自信が持てない。したがって、各省大臣に直接指揮権を行使する余地を必ず留保しようと各省はするわけです。それが繰り返し起こった論争であります。
 言わばそういう形で仮に下ろされたとします。法定受託事務なり、あるいは留保付きの、中央が権限を留保した形で下りてくるという形で、受け取った側は実はこれはひも付きの方式で事務権限をいただくわけでありますが、そういう形で受け取った事務が多くなればなるほど、受け取った側は自治体ではなく国の下請機関にだんだんになっていくわけです。その性格を強めていかざるを得ないという問題があるわけです。私は、そういう国の下請機関の性格を強めてしまうような改革はそれこそ地方分権改革の趣旨に合わないというふうに考えているわけです。こういうやり方は決して正しい進め方ではないというふうに思っているわけです。
 したがいまして、国が最終責任を負わなければならないような事務権限は、純粋な国の事務であるとして、あくまでも国の側に留保しておかなければなりません。これは私の確信です。こういう性質の事務をあえて自治体に下ろそうとしてはならない、移譲してはならないというふうに思うのです。
 この種の改革構想を具体化する際には、したがって、これは国の事務として留保しておくべきものなのか、あるいは地方自治体の事務として移譲して任せてもそれほど差し支えがない事務なのかということ、このことを一つ一つの事務権限ごとに丁寧に精査しなければなりません。この事務権限の仕分の作業は大変な作業であります。これは決して民間有識者だけで、研究者だけでなくて様々な専門家が加わったとしても、民間有識者だけで構成された諮問機関の手に負えるものではありません。必ずそれ以外に、国の官僚と地方自治体の職員の、実務に詳しい職員たちの助力が絶対不可欠であります。
 この種の論議でしばしば原則廃止というふうに、原則と言った方が勢いがいいですから元気よく原則廃止とおっしゃいますし、地方団体側が使った言葉で言うと、丸ごと移管ということをおっしゃったわけですが、こういう原則とか丸ごとと言った途端に丁寧に仕分をしていくという作業が放置されるんですね。そこで危ない議論になるというのが私が一番痛感していることであります。
 私は、もう時間がないそうですからやめますが、出先機関の縮小、廃止に反対だったわけでは決してありません。見直していけばまだまだ下ろせるものがあると思っていたのですが、全てを渡せというような議論が危険だということを強調しておきたい、これは道州制論議でも必ず再現することですから、そのことを強調しておきたいというふうに思います。
 あと一点ほどありましたが、後ほどの質疑でお答えしますので、私の冒頭陳述を終えます。
 ありがとうございます。

発言情報

speech_id: 118914290X00120150304_008

発言者: 西尾勝

speaker_id: 27858

日付: 2015-03-04

院: 参議院

会議名: 国の統治機構に関する調査会