森田朗の発言 (国の統治機構に関する調査会)
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○参考人(森田朗君) 国立社会保障・人口問題研究所の森田でございます。
本日は、この国の統治機構に関する調査会で意見を述べる機会を与えていただきまして、大変感謝申し上げます。
私の専門は行政学、広い意味での政治学でございまして、これまで行政組織であるとか、あるいは公共政策について研究を行ってまいりました。近年では厚生労働省の中央社会保険医療協議会、いわゆる中医協でございますが、そこの会長を務めておりますし、また国立社会保障・人口問題研究所に勤務しておりますことから、専ら医療、社会保障政策を中心として研究を進めております。そのため、地方自治及び国の統治構造に関する研究につきましては最新の研究成果を十分にフォローしていない可能性もございますが、その点につきましてはお許しいただきたいと存じます。
以下、では、現在の人口減少社会における地方自治体の在り方、国と地方の関係、特に基礎自治体に焦点を当てて意見を述べさせていただきます。このテーマに関しましては、比較的最近書いた論文等につきましてはお手元に資料として配付されていることと存じますので、参考にしていただければ幸いでございます。(資料映写)
私自身は一九九五年に設置されました地方分権推進委員会及び二〇〇一年に設置されました地方分権改革推進会議に関わってまいりました。これらの会議が目指しました分権改革といいますのは、ここにありますように、それまでの国の中央集権的な体制を改め、憲法にも示された地方自治の実現を図ることであると理解しております。具体的には、国、すなわち中央政府による地方自治体に対する制度上の統制、また補助金等を通した様々な規制を削減し、その地域のことについてはその地域の住民が自ら決定できる状態を実現すること、これを目指してきたと思います。
私は、このような理想的な地方自治の状態と申しますのは、第一に、政策がその地域内で完結し、国や広域自治体の政策から切り離して決定できること、第二に、その政策及び首長、議員は地域住民の民主的参加によって決定されること、そして第三に、それらの政策を実現するために必要な財源は地域住民によって負担されること。要するに、政策の地域的完結性、住民自治、そして自主財源という条件が満たされるときに理想的な地方自治というものを実現できるのであって、これまでの地方分権改革はこうした状態に少しでも接近することを目指して行われてきたと言えると思います。
そのために、地方分権改革では、国という上位の政府による統制をなくし、中央政府と地方自治体とを対等な協力関係に変えることを目指して機関委任事務制度を廃止するとともに、地方の政策実現を阻害する補助金等の廃止によって自主財源の拡充であるとか、また必置規制の廃止、さらには権限移譲などを行ってまいりました。その結果、自治体の自己決定の範囲というものは拡大し、多数の補助金が交付金化されるなど、自治の拡充に資する基本的な制度改革が実現したと思っております。
しかしながら、それによって、地方自治体、特に住民に近い基礎自治体の自立性が増し、地方自治の理想に大きく近づくことができたかといいますと、これは必ずしもそうとは言えないように思っております。
なぜそうなのか。私は、その理由として第一に、法制度面の改革に改革のエネルギーを集中させ、全国一律の制度改革を施行したために各自治体が置かれている状況の多様性を十分改革に取り込むことができなかったこと、また現代国家においては国と地方の事務が深く結び付いており、それを切り分けることがそもそもかなり困難であったこと。そして、第二の理由としましては、分権改革を始めた一九九〇年代の半ば以降、改革が前提としていた社会環境が大きく変わり、改革の前提が失われてしまったことがあると思います。
第二の社会環境の変化として指摘できるのは、第一に、国、地方の財政状況の悪化です。第二は、昨今話題となっております人口減少です。以下、財政状況そして人口減少の状況について述べさせていただきたいと思います。
財政状況が悪化したことにつきましては改めて申し上げるまでもないと思います。私自身は財政学の専門家ではございませんので詳細についての説明はできませんけれども、このグラフ、図が示しておりますように、我が国の場合、防衛と年金を除くほぼ全ての事務において国と地方の双方が仕事を分担しております。
すなわち、国と地方が経費を負担して住民に対して行政サービスを提供しているわけですけれども、周知のように、多くの地方の税源は限られており、補助金、交付金そして地方交付税という国からの移転財源に地方は多くの財源を依存しています。この状態自体は分権改革以前から存在し、したがいまして、改革時においては、まずは国から来る財源の自由度を高めること、地方が自由に使えるようにすること、例えば要綱によって制約の多い補助金を廃止し、交付税等の使い道を固定されない一般財源に転換すること、さらには、それを推進するために、国と地方で分け合っている税源の一部を国から地方に移譲すること、このようなことが試みられました。
その結果、どの程度地方自治体の財政的自由度が高まったかということは私自身はよく分かりませんが、そのような改革にもかかわらず、九〇年代以降続いた国、地方の財政難は地方財政を悪化させ、結果として国への依存度を下げることにはならなかったと思います。特に、地方税制の問題でもあると思いますが、税収の偏在が農村部の小規模自治体の財政状況を一段と厳しいものにしていると言えます。
このような状況は、この図が示しております。これは平成四年、一九九二年以降、急速に地方債の発行残高が増えていることを示しています。多くは国、地方を通じた景気回復のための支出によるものであります。平成十六年、二〇〇四年以降は地方債残高の増加傾向は止まり、むしろ最近では減少に向かっていますが、その内容を見ますと、他方によりまして将来の交付税の先取りとも言える臨時財政対策債の占める比率というものが高まってきているのがお分かりいただけると思います。
二十一世紀に入ってからは高齢化に伴う社会福祉の負担増によって財政はますます厳しくなり、最近では、特に平成の合併による財政の特例措置の期限が到来したため、合併した自治体の中には一層厳しい状態に陥っているところもあるようです。このような状態の中、現在地方創生が叫ばれ、自治体から期待の声も聞かれます。更に申しますと、今後は、これまで比較的豊かであった都市部の自治体も、これから生じます急速で大規模な高齢化によって財政事情は悪化していくことが予想されます。こうした、自治のある意味で最も基本的な要素である財政的な自律性が脆弱化していくことは、分権改革の当初の前提を大きく変えるといいましょうか、前提と違った状況が生じていると思います。
次に、人口減少に話を進めさせていただきます。
地方分権改革で十分に考慮されていなかった社会環境の変化の第二は、人口減少です。昨年の地方消滅というショッキングな問題提起以来、地方創生に至るまで、前提になっておりますのは人口減少、とりわけ地方農村部の人口減少の問題です。二十代、三十代の女性が急速に減少する地域は消滅の可能性があるとして、それに対する対策が叫ばれていますが、人口学の観点から見る限り、大量の移民でも受け入れない限りは全国的に短期的に人口の自然増を図ることは極めて困難です。生まれてくる子供の数を増やす政策を最大限実施する一方で、当面は少子化、人口減少を前提として社会の在り方、制度の在り方を考えていかなければならないと思います。
これは、日本の人口ピラミッドが二〇一〇年から六〇年までどのように変化するかを示したものです。アニメーションになっております。次第に下がすぼまり、次第につぼ型になって面積が小さくなっていくことを御理解いただけると思います。この右側の点線の部分ですけれども、この点線で囲まれた部分はまさに二十代、三十代の女性です。一人の女性が一生の間に産む子供の数である合計特殊出生率が現在注目されているところですけれども、二十代、三十代の女性の数、絶対数そのものが、この図が示しておりますように五十年間で半減いたします。
今問題になっている人口減少対策では、これまでも急速に人口減少、特に若い世代の人口の大都市への流出等によって人口減少と高齢化が生じている農村部の自治体の問題として、この問題をいかに、農村部の自治体をいかにして活性化し、人口増に結び付けるかということが議論されております。まさに消滅の可能性のある地域を存続させる策が模索されているわけですけれども、統計数値を見る限りでは、かなり厳しいものがあると言わざるを得ないと思います。
この図は、二〇一〇年から三十年間の市町村別の人口動態を示したものです。ごく一部の都市部で増加が予想されるものの、五〇%以上の減少が予想されている市町村も多数あります。こうした人口減少と高齢化は、言うまでもなく、地域社会の活力の低下に結び付き、地域共同体の機能を低下させ、必要な行政サービスの質、量の維持を困難にします。特に、災害時等の非常時における対応能力の低下は大きな課題と言わざるを得ないと思います。
このような将来の人口減少については、かなり以前から予測されておりました。そのために、今から十数年前に市町村合併の必要性が言われ、実は私自身もその推進に協力してまいりました。結果といたしまして、市町村数はほぼ半減いたしましたが、合併推進の過程で様々なあつれきがあり、また合併後の地域間にしこりも残り、人口減少に対する対策としての合併は、大変不評な策として現在の人口減少対策の選択肢には入っていないように思われます。しかしながら、合併を推進してきた者といたしましては、望ましいと思われますこの合併という一体化策を取るか取らないかはともかくといたしまして、公共施設にせよ、医療施設にしましても、集約化、集中化はその地域社会の機能を維持していくためには避け難い選択肢であるように思われます。
ところで、現在の人口減少問題は、大都市、特に首都圏とそれ以外の農村部の地方との対立図式で論じられ、若者や富を吸い取る首都圏への地方からの人口の流出を食い止め、地方にとどめることが地方創生につながると主張されているように思います。
しかしながら、人口動態を見る限り、首都圏におきましては、この図が示しておりますように、高齢化がこれまでにない規模と速度で起こるとともに、若い世代の人口も都市部でも急速に減少することが予測されています。我が国全体の衰退を食い止め、持続可能で発展に向かう社会をつくるためには、都市部と農村部で人口の取り合いをするのではなく、人口減少という課題を緩和するために最も適した地方自治体の在り方を考える必要があると思います。
さて、財政状況及び人口減少が地方分権改革の前提を変えてきたと述べてまいりましたが、それでは、統治構造という観点から今後の我が国の地方自治体、特に基礎自治体の在り方はどうあるべきなのか、私の意見を述べさせていただきます。
結論から申しますと、制約条件が多いためベストの解決策というものは容易に見出せないと思われます。しかし、重要なことは、住民が日本国民として安心して暮らせる環境を保障することだと思います。それぞれの地域でそれが実現できればよいのですが、人口減少による地域社会の機能の低下は避け難いと言わざるを得ません。したがって、今後の地方自治体の在り方としては、以下のような方向で考えるべきではないかと思っております。
第一に、人口減少で現在の自治体の中にはその機能を果たすのが困難なところも多数出てくる可能性があります。他方、持続可能な地域の活力を保持している自治体ももちろんあります。したがって、言えることは、自治体の規模、能力等に応じて多様な制度を検討することではないかと思います。一国多制度という言葉がございますが、自立可能な規模と能力を持つ自治体には多くの自治権を認める一方で、それだけの力を持たない自治体については事務の一部ないし全部を広域自治体ないし国が肩代わりして担うという形での多様化もあり得ると思います。
その場合に、どのような事務をどこが担うべきなのか、その線を引くことは容易ではありませんが、自ら担い得る事務のみを担い、それ以外の事務については、それを担い得るところが担当するというのは補完性の原理という考え方にも合致するものであると思います。もちろん、それを自治体ごとに選択できるようにするという考え方もあるでしょうが、一応類型化を行い、それぞれについて基本的に担う事務を定めておくということが望ましいのではないかと思います。例えば、現在の高齢化や財政力から見る限り、東京のような大都市の中心部と高齢化が急速に進むそのような都市の周辺部、地方の核となり得る都市と農村部の小規模自治体等といった区別です。
第二の方向としましては、こうした自治体の事務の編成を前提にして、行政機能の集約化、集中化、共同化が必要であるということです。それには既に言われておりますようなコンパクト化の推進というのが不可欠であり、公共施設や他の都市機能を中核的な自治体に集中させ、周辺の小規模な自治体と連携し、それらの自治体を中核となる自治体が支援するような、そうした仕組みをつくることが必要ではないかと思います。その延長上に合併による規模拡大と集約化という方法もあり得るとは思いますが、仮に合併が困難であったとしても、同様の効果を生むような仕組みというものが考えられてしかるべきではないかと思います。
特に、農村部、山間部の小規模自治体の場合、今後の人口減少、高齢化によって、地域共同体としての機能の維持が困難になるところも出てくると想定されますので、中核となる自治体、あるいは広域自治体がその機能を代替するような制度も必要になってくると思います。あるいは、行政事務の代行を一種のビジネスのような形で実施しておりますアメリカのシティーマネジャーのような制度も検討されるべきではないかと思います。そのような小規模自治体の場合、先日の地方議員選挙でも見られましたように、地方自治の最も根幹的な要素である住民自治の機能の低下も懸念されるところであります。無投票当選、さらには議員定数を充足できないような状態が拡大するとしますと、冒頭に述べました住民自治の根幹を揺るがす可能性があるということです。自治の能力を失った地域社会では、住民の生活を維持し、安全、安心を維持することは困難と言わざるを得ません。
関連しまして、第三に、今後、地方農村部の人口減少、高齢化が当分続くと想定される以上、それらの自治体の中には存続していくことが困難なところが出てくることは間違いないのではないかと思います。それらの自治体にも住み続けたいという住民がいる限りはその支援は必要です。しかしながら、若い年齢層の人口を維持できない場合には、いずれ消滅するという可能性が高いと言わなければなりません。そのような自治体に対しては、二十年、三十年という長期的な計画に基づいて自治体としての機能を他の自治体に吸収ないし統合していく、そうしたダウンサイジングを計画的に進めていくことが必要ではないかと思います。
時間もほぼ参りましたので、最後に結論的なことを述べさせていただきたいと思いますが、重要なことは個々の国民の生命、生活を守ることであり、それに必要なミニマムの行政サービスを的確に供給することです。これは、国家の国民に対する責任であると思います。統治構造における自治体の在り方は、その目的を達成するのに適した形態は何かという観点から探求されるべきではないかと思います。高度に発展し、地域の相互依存性が高まり、しかも人口減少、高齢化が進行しつつある現代社会において、伝統的、歴史的な自治の姿に固執すべきではなく、今後の我が国の姿を見据えて、それに適した制度の構築を検討すべきではないかと思います。
まだ多くの触れられなかった論点もございますが、それらにつきましては、後の質疑の折に御質問があればお答えさせていただきたいと存じます。
どうも御清聴ありがとうございました。