2015-04-15
参議院
井堀利宏
国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会
井堀利宏の発言 (国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会)
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○参考人(井堀利宏君) 政策研究大学院大学の井堀です。よろしくお願いします。
それで、私のレジュメは財政健全化と世代間公平ということでして、主に世代間公平の話を中心にさせていただきます。(資料映写)
それで、参議院は、やっぱり衆議院と違って中長期の視点で議論ができるところだと思いますので、解散もないし、任期も六年ですから。私の今日の話というのは、今の日本の財政健全化のシナリオというのは、二〇二〇年にプライマリーバランス、基礎的財政収支の黒字化、均衡化を目指しているわけですけれども、それを実現するのもなかなか大変だということなんですが、問題は、やはり二〇二〇年以降、二〇二〇年を超えたもう少し中長期の視点で日本の財政健全化なり世代間の公平の話を考えないと将来大変なことになるので、そういった問題は早めに手を打たないと、二〇二〇年を過ぎて非常にその状況が厳しくなってから慌てて対応するのでは間に合いませんので、今からきちんとした対応が必要なのではないかと、そういう視点で、少し中長期の話を中心にさせていただければと思います。
それで、内閣府が出された、御存じのように、二月に出された試算では、二〇一五年の基礎的財政収支半減、それから二〇二〇年の均衡化自体も自然体でいくとなかなか大変だという議論は出ておりますし、その背景には、生産年齢人口の減少あるいは経済成長率がだんだんと低下しているということがあるわけですね。一方で社会保障需要が増えるということなんですけれども。
それで、この図は、経済同友会が最近試算した図、試算ですけれども、このAというのが、二〇二〇年でプライマリーバランスの黒字化を達成するのにどの程度経済成長率が必要で、かつ社会保障の削減がどのくらい必要かという、そういうシナリオですね。Aが一番厳しくて、経済成長率が高くてそれから社会保障を抑制できれば何とかなるというのがAで、CとかDというのは、経済成長率がそれほど高くなくて社会保障の抑制が進まない場合はどうなるかという、そういうシナリオなんですが。
この四つのシナリオ、どれを見ても基本的に、要するに経済成長率が相当高くてかつ社会保障を自然増に比べてかなり切り込んでいくと、やっとその二〇二〇年の段階でプライマリーバランスがまあ均衡する、あるいは対GDP比で見た公債残高は減少するという、そういう話なんですけれども。
これは公債残高の増加の図ですが、これで一番下のところの減少しているのは、基本的にかなり厳しく財政を締めて、財政ということは社会保障です、社会保障を締めて、かつ経済成長率が高い、そうでない場合は発散するという、こういうシナリオなんですが。
ただ、いずれにしても、これは、シナリオ自体はどのくらいの経済成長率を見込むか、それからどの程度歳出削減できるかということに関しては幾つかの想定を置けばこういう計算はできるんですが、問題は、こういった計算は基本的に二〇二〇年の政府の今の目標、二〇二〇年の段階で基礎的財政収支の要するに均衡を目指すのにどのくらい大変か、あるいはどの程度の経済成長率が必要かということを計算しているわけですね。常識的に考えると、経済成長率が三%ぐらいの高めの成長率でも、消費税が今のままで、八あるいは一〇のままだとなかなか大変だというグラフなんですけれども。
問題は、やはり二〇二〇年以降の方がもっと厳しいんじゃないかと。何が重要かというと、やはり二〇二〇年というのは御存じの東京オリンピックが開催されますので、東京オリンピックが開催されるということは、それまでは何とか日本社会も頑張れるんじゃないかと思うんですよね。問題は、大きなイベントが起きるということは、それが起きた後その達成感が、終わった後はその反動が来ますので、そうすると、二〇二〇年、東京オリンピックが開催された後は、結構消費意欲とかいろいろなその経済活動の意欲も反動が来てマイナスになる可能性があると思うんですね。
ギリシャが経済危機に直面したのは実はギリシャがオリンピックを開催した後なんですよね。大きなイベントの後というのはどうしても国民全体が疲れますから、そこでの反動が結構厳しいと。それから、それを差し引いても、経済成長率の中長期的なトレンドで考えますと、やはり生産年齢人口がこれから減少してきますので、日本の貯蓄率も下がりますから、日本の技術進歩が相当これから増えない限りは、自然体で計算すると、二〇二〇年代になると日本の経済成長率はマイナスになる可能性が高いと思います。
これは、どのくらいそのイノベーションで、その日本の労働人口の減少あるいは資本蓄積の減少をイノベーションでどのくらいカバーできるかということなんですけれども、これは常識的に考えると、今のアメリカのアップルとかそういった先端的な企業がいろんなイノベーションを出していますけれども、そういったものを上回るようなイノベーションが日本で二〇二〇年代に出てくればまだ希望はあるんですけれども、客観的に見てこれは非常に厳しい状況ですよね。
そう考えると、日本の経済成長率が中期的にマイナスになるとすれば、これは、現在の日本の政府の試算というのは、同友会もそうなんですけれども、プラスの経済成長率で伸ばしている試算しかやっていませんが、二〇二〇年まではそれで何とかなるかもしれませんけど、二〇二〇年を超えるとそこは結構厳しいんじゃないかと、そこの心配があります。
それから、もう一つは社会保障需要ですけれども、今、団塊の世代が六十代後半ですから、七十代後半になるのが今から十年後なんですね。二〇二〇年代の中盤というのは、その団塊の世代が七十五歳を超えていわゆる後期高齢者になります。後期高齢者になると、御存じのように医療費が急増します。医療費の急増というのはこれからの日本の社会保障の需要では大きな問題で、医療は、これはその人の健康なり生命に懸かっていますし、これなかなか切るのが難しい、御存じのように。医療費の削減は年金の削減以上に困難ですけれども、これが二〇二〇年代の中盤には非常に大きな問題として掛かってきます。これをどうするか。
それから、社会資本の維持更新も、これはもう御存じのように、東京オリンピックのときに整備した社会資本が五十年たってだんだんと更新の時期を迎えますので、社会資本ストック全てを更新する必要はないにしても、当然これは更新需要がこれから増えてこざるを得ないと。
それから、最後の、エネルギー資源も、これは福島の例もありますが、いずれにしても、原子力をどのくらい利用するかということは一つの大きなイシューですけれども、日本のエネルギー資源、これから安定的に供給できるためにかなり厳しい状況がこれからあるわけですね。最近ですとCO2削減でいろんなキャップがこれから掛かりますけれども、これを日本が再生可能エネルギーだけで達成できるかどうか。これは非常にコストが掛かりますし、現在はたまたま原油価格が下がっていますからエネルギーのコスト面での制約は余り表面化していませんが、ずっと石油価格が低位で安定するとは限りませんから、いろんな中東情勢もありますし。その意味では、エネルギー資源の安定供給あるいはコスト面からの制約というのも非常に中期的には無視できない。
そうすると、二〇二〇年以降どうするのかというのが大きな課題になります。これは、要するに財政再建を、あるいは財政健全化を進めるときの一つの価値判断として、現在の財政状況、あるいは現在の経済状況、あるいは現在の人々の生活環境と、二〇二〇年以降の将来の人の経済環境、あるいは生活環境、どちらが良くなるのかという価値判断だと思うんですね。
今よりも将来の方が経済環境が良くなるんだったら、まあ今からそんなにぎりぎり財政再建する必要はないわけですね。要するに、将来の方が良くなるんだったら今はむしろ借金した方がいい。これは、昔も高度成長期に日本が借金をして、いろんな社会資本、有益な社会資本を整備して高度成長をしてきたということはあるわけですけれども。いずれにしても、将来の方が良くなるんだったら無理に財政再建する必要はないんですけれども、逆に今よりも将来の方が厳しくなるんだったら早めに財政再建をしないと将来の人が苦しくなるだけなんですね。
だから、その財政再建をどのくらいやるかどうかというのは、現在と将来の経済環境のどちらがよりいいのか悪いのかという価値判断に懸かってきているので、ここの評価が重要だと思います。私は、もう現在よりも将来の方が、特に二〇二〇年代以降の方が厳しくなると思っていますので、その意味でも早めに財政再建に手を着けた方がいい。
この問題は、将来が良くなるということは、常に政治の世界では将来に対して明るい展望を描かないとこれは政策できませんから明るい展望を描くんですけれども、それが楽観的過ぎると結果としてこれは失敗するわけですね。アベノミクスは楽観的過ぎる期待をより現実に合わせようとして今頑張っているわけですけれども、そうはいっても、これがうまくいくかどうかというのは中長期的視点ではなかなか分からないと。今、金融政策にちょっと偏り過ぎていますので、成長戦略がうまくいくかどうかというのは今後の課題だと思います。
このときも、問題はやはり情報の非対称性で、幾ら政府、あるいは財務省、あるいは国会の皆さんの方で財政再建の必要性を言っても、国民の方がそれをなかなか信じてもらえなければ、先ほどの井手さんの話じゃないですけど、増税の国民の合意も出てこない。ただ、これは三党合意と政権交代を受けて、かなりの程度、財政状況の深刻さに関しては国民に共有できていると思います。ただ、まだ完全ではないと思いますけれども。
問題は、そのときに、やはり受益と負担の乖離が起きて、特に将来への負担の転嫁というのが起きていますので、将来世代は政治的な決定に参加できないので、どうしても現実の政治の世界では政策決定の視野が短期化すると。特に、衆議院は二年で選挙やっていますからどうしても短期化するわけですが、参議院は六年ありますのでやはり中長期的な視点で議論できるのではないか。
それから、消費税の話なんですけれども、消費税の増税自体はメリットとデメリットが当然あって、増税自体はその時点で負担増なんですね。問題は、消費税というのは駆け込み需要とその反動減があって、これが一番大きくて、特に耐久消費財の住宅とか車は消費税のコストが大きいわけですから、消費税が引き上げる前に駆け込み需要があって、それが終わると反動があるわけですね。こういった駆け込み需要と反動というのは経済に対する攪乱効果なので、これは非常にまずいので、なるべくそれを平準化する必要があるんですけれども。
それを平準化したとして、消費税自体は現在の増税なんですが、消費税を増税するとすると、ほかの条件は一定であって消費税を増税すれば、その分だけ財政状況は良くなるわけです、消費税増税しない場合に比べると。ということは、将来の増税圧力を小さくするわけですね。だから、現在の消費税の増税というのは、将来世代から見るとプラスになるわけですね。逆に言うと、現在の消費税を増税しなくて、その分、仮に消費税を将来増税するとなると、消費税は将来の人にとって大きな負担となるので、要するに、現在の増税と将来の増税の負担のどちらがいいかという話で、これは現在と将来のマクロ環境のどちらが厳しいかという話なんですね。
だから、現在の消費税を上げることが非常に大変だということであってそれを先送りするということであれば、むしろ将来消費税を上げることが、いずれにしても消費税を上げるのは負担ですから、将来の消費税を上げることに関して、これ非常にその負担が大きいということをどう配慮するか。要するに、現在と将来のマクロ環境がどっちが厳しいかに応じてどちらを重視するかというのが決まってくるんだろうと思います。
もう一つは、二〇二〇年代に財政状況が厳しいと言ったんですけれども、財政状況は、仮に持続可能であって、つまり財政状況が、基礎的財政収支が二〇一〇年代以降になってある程度黒字化されたとしても、だからといって、実は社会保障制度の面での世代間の不公平は残ります。
これは何かというと、賦課方式だからですね。賦課方式というのは現役世代が将来世代を支えるわけですけれども、そこでの収益率は人口成長率ですから、人口が減少している世界で賃金が上がらない世界では、財政が均衡しても若い世代ほど損をするわけですね。要するに、若い世代というのは、人口は減っていますから、一人当たりがたくさんの負担をして、自分が高齢になったときに若い世代が更に減っていますから、負担が増えないとすると自分が高齢になったときに給付が増えない。ということは、若い世代ほど財政が均衡化しても賦課方式というのは実は問題が大きくて、そこを何とかしないと日本の社会全体の安定感というのは維持できないと思います。
これは、社会保障給付の既得権への対応で、いわゆる中高年世代の既得権を削減するしかない。これ早めに削減しないと意味がないんですけれども、問題は、特に年金がそうなんですけれども、受給は権利なので、権利であるとその削減は非常に困難なわけですね。要するに、高齢者は年金を払っていますから、若いときに。そうすると年金をもらう権利があるので、その年金の給付を削減するというのは御存じのように政治的には非常に難しい。そこを、ただ、克服しないと日本の財政の健全化は中長期的には無理です。
どう克服するかなんですけれども、これは難しいんですが、理想の方法はやはり個人勘定の積立方式を早めに入れる必要があると思います。今、NISA等でいろいろ入っていますけれども、やはり若いときから自分の老後の年金を個人勘定できちんと積み立てて、それを老後の年金や自分の生活に充てると。ただ、八十を過ぎて生存のリスク、自分がどのくらい長生きするか分からないということに関してはきちんと賦課方式の公的年金でカバーすると。ただ、それまでの元気な六十代から八十代ぐらいの前期高齢者の方については、自分の自助努力でやる部分をこれから増やしていく、いきなり変えるのは難しいですけれども、その方向に踏み出していかないともたないだろうと思います。
要するに、個人勘定の積立てを入れるというのは、医療の場合もそうなんですけれども、やはり若いときから積立ての資源を準備しておくということが必要だと思います。
それから、これはある程度、ちょっと絵に描いた餅のような話なんですけれども、個人勘定の積立方式に移行するのが非常に難しいとすると、私が個人的に主張しているのは、賦課方式で個人勘定を入れると。これはどういうことかというと、年金でやると、報酬比例部分に関してもう個人勘定化して、要するに、勤労世代が払う保険料が直に自分の親に行くような、そういう形にするということです。これはどういうことかというと、親と子の間のトランスファーという形で世代間の再分配ができれば、親と子の関係に関しては、お互いに経済状況はよく分かっていますから世代間の対立が余りぎすぎすしないんですね。
今の公的年金というものは、若い世代から政府を通して、それから高齢者に一律に配っていますから、もらう方は政府からもらうのでとにかくたくさん欲しいと、出す方は政府に出すのはもう嫌だといって、そこで世代間が対立するわけですけれども、基本的には若い世代が自分の親を支えているわけですから、自分の子供が自分の親をというミクロの関係でリンクしているような形にすると、お互いにぎすぎすしなくなって世代間も克服されると、これが個人勘定賦課方式です。
そうすると、要するに、親から見ると、自分の子供がちゃんと稼がないと年金が入ってこないので、自分の子供をちゃんと育てるインセンティブがあると。これは、ある意味で子の虐待対策あるいは少子化対策にもつながるわけですよね。子供をきちんと育てて、ちゃんと子供が収益を上げれば親はそれを回収できると。
今の世代間の大きな問題というのは、親が子供をちゃんと教育してもその対価を回収できないんですね、社会保障で全部やっていますから。その対価をある程度回収できるような、そういうミクロのリンクを付けるということで、結果として少子化対策にもと。これは医療にもある程度適用できて、医療の場合、例えば高齢者の医療費を一割から三割に上げるのは非常に抵抗あるわけですけれども、その上げる二割の分を、例えばそれを自分の子供の方に払う形に変えていくと、これは親子間でシェアする形で高齢者の負担が対応できるようになります。
そのためには、やはり歳出効率化の環境整備が必要で、イデオロギー対立がなくなり、かつ社会保障が争点になる場合はなかなか難しいわけですね。特に、これから高齢者の方が、今もそうですけれども、政治の交渉力の中心、いわゆる中位投票者になりますから、そうするとますます高齢者の既得権を削減するような対策はできないので、若い人は投票しませんし、それからこの前の地方選挙でも若い人の投票率が下がっていますから、若い人がやはり投票に行く、あるいは若い人が政治に参加できる、そういう機会を増やすことによってより若い人の意見が反映されれば、より歳出効率化の環境整備ができます。
それから、参政権が今度十八に下がりますけれども、これは非常に有益な話で、若い人の投票率を上げる、あるいはもっと選挙制度を抜本的に変えて、定数是正も含めて、やはり若い人の意向がより政治の世界に反映されるような政治になってくると歳出効率化への環境も整備されますし、あるいは若い世代とそれから中高年世代との政治的な対立もより緩和される方向に行くのではないかと思います。
以上です。どうも御清聴ありがとうございました。