北出俊昭の発言 (農林水産委員会)
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○参考人(北出俊昭君) お手元に資料があると思いますけど、それに従って報告をしたいと思います。
私は、農協が、困難な非常に長い道のりだとは思いますが、協同組合の価値と原則に基づいた本来の協同組合として発展することを強く望むものです。したがいまして、今度の改正案についても、どういう立場から意見を述べるかということは、この価値と原則に基づいた対応をいかに強めるかという立場で私は意見を述べたいというように思います。もちろん、個々の情勢変化に応じた対応はあると思いますけれど、この価値と原則に基づいて何が大事なのかと、そこについて述べたいと思います。
まず第一は、農協の目的についてです。
諸先生も御存じのように、今回の政府案は、現行法の営利を目的として事業を行ってはならない、これを削除して、事業での高い収益を実現して、投資又は事業利用分量配当に充てることを明記しています。また、私企業とのイコールフッティングの観点から、極めて制限的に採用されている専属利用契約や回転出資金を廃止して、それから理事構成についても、地域内外を問わず民間経営経験のある者の登用を重視しています。
こうした、そのほかも含めて一連の改定は、一般企業の論理と経営管理手法の農協への導入強化で、この措置は当然、独禁法適用除外にも絡んでくる問題だと思います。参考人に送られた資料の追補の中でもそれが明記されていることは先生御承知のとおりです。
しかし、私は、農協は協同組合であり、組合員は、御存じのように、出資者、利用者、運営者なので、高い収益を上げて配当金を増額するということに関心のある組合員は見られません。
このことについて、この協同組合と企業論理との関係について、一九九五年のICA宣言はどういうことを言っているのか。協同組合も私企業が採用している様々な技術、手法を利用することができるが、私的セクターをまねることが全てだとするならば、それは悲劇であるというように述べています。これは当然です。協同組合そのものの否定につながるわけですから、当然なことを強調して、その後、協同組合の競争力と効率性はその価値と原則の適用にあるということを述べているわけです。
私は、農協も組織体と同時に経営体でもあることから、当然、一定の利益確保は必要なんですが、問題は、そのためにどうするかということなんです。私はやっぱりICA宣言のこの趣旨に基づいた対応が求められているというように思います。
しかし、今回の政府案では、従来いろいろ言われていた全農の株式会社化や、信用、共済事業の分離に加えて、組合の新設分割による設立なども示されています。私は、この措置により、先ほども御意見があったような総合農協の解体だけではなく、協同組合の企業論理による改組、解体、再編が促進されることを非常に危惧するものです。現在求められているのは、そういう方向ではなくて、ICA宣言も強調しているような、協同組合の価値と原則の徹底により、自らの胎内に持っている成功の鍵について本当に創意工夫を発揮することではないかと、私はそういうように思っています。
第二番目は、農業者重視と地域課題への取組問題です。
これはいろいろ問題になっている准組合員問題とも関係することなんですけれど、これも先ほども報告がありましたように、政府が示されている政府案では、第一条の農業生産力の増進規定とは別に、新たに農業所得の増大に最大限に配慮することを追加されています。農協としてこれはある意味では当然なことが改めて強調されているということは、諸先生も御存じのように、農協は農民主体の組織であるべきであるという考えからだと判断されます。
しかし、私は、この農協の農民主体問題、これは我が国の協同組合の歴史と実態、それから戦後農協のやっぱり経過を踏まえて対応する必要があるように思います。
御承知のように、戦後の農協は農地改革とともに車の両輪と位置付けされて、GHQの覚書で示された非農民的勢力の支配から脱した協同組合運動を目指し、農民主体を原則として発足したことは、先生方御存じのとおりです。
しかし、それにもかかわらず、農林省が当時GHQに提出した農協法第一次案では既に、地区内に住む一般町村民も権利義務を制限された准組合員としての任意加入を明記しているわけです。これは、戦前の産業組合が農村協同組合と言われたように、農業者以外の中産以下の小商業者や小工業者なども農民と権利上の差別なく組合員とされていた歴史があったからだと思います。
したがって、ここで強調したいことは、戦後農協は農民主体が重視されて権利上区別されてはいましたが、最初から地域住民も組合員として発足をしていたことであります。これは、総合経営形態とともに、我が国の農業、農村の社会的、風土的実態を反映した欧米とは異なる日本の特徴で、御承知のように、ICAモスクワ大会のレイドロウ報告でも高く評価されたことです。
しかも、近年、農業は農協発足時とは根本的に変化して、兼業化、高齢化が進むと同時に、農村の混住化も深化して、農業生産以外の高齢者介護とか児童教育、あるいは災害、環境などの多様な課題が存在しています。そのため、農協が地域の生活インフラとしての役割を果たすことが強く期待され、准組合員も単なる利用者ではなく、農協運動の参加者、パートナーとしている農協も多くなってきています。これは、東日本大震災で農協がおにぎりの配達とかいろんなことをやったことによって特に最近強調されていることであります。しかも、こうした地域住民も含めた准組合員対策を講じている農協は農業生産にも積極的に取り組んでいるわけです。いろんな、今日は全青協の会長もいらっしゃいますけれど、青年部や婦人部あるいは作物生産組織などの組合員組織を多様につくり上げて民主的な運営にも努力しているという特徴が指摘できます。
つまり、正組合員と准組合員など地域住民に対する事業あるいは取組は、二律背反ではなく相乗効果を発揮して農協運動を発展させていると、これが農協をめぐる現在の状況の私は重要な特徴だと思います。こうした活動が魅力ある農村を建設して、若者の移住を促進することになるのは言うまでもありません。
それにもかかわらず、農協を専業的農業者の組織として純化すれば、当然、組合員が極めて少数になるわけですね。それだけではなくて、先ほど言ったような地域住民との協同活動が弱体化されて、多様な課題が果たせなくなります。これは、やっぱり現在の農業、農村の健全な発展を阻害する危険性があると私は思っています。そういうような考え方から、私は、今後は、農協が目指す方向は、農を基軸とした職能的地域組合であるというように考えています。
第三は、非農民的支配と農業、農村改革問題です。
政府案には、企業論理だけではなく、農業、農村、農協の非農民的支配が総体的に強化される危険性が指摘できます。これは、農業委員の選挙制度廃止、あるいは市町村長による選任、農業団体などからの推薦制の廃止のほか、農業生産法人の事業、役員、構成員要件の緩和などが農協理事構成の改変と一体に進められていることに示されていると思います。
戦前の産業組合、農業団体は、非農民的勢力の支配により、農民の利益が無視され経済的向上も阻まれたため、戦後の農協は農民主体を基本理念として出発したことはさっき既に述べましたが、私は、ここで言われている非農民的勢力の支配というのは、具体的には政府による権力的な支配というように換言できると思います。先生方も御承知のように、産業組合が昭和十八年に皇軍感謝決議をして農業団体法による統合農業団体となって幕を閉じ、さらに、昭和二十年になっては、勅令として公布された、示された戦時農業団令によって戦争遂行組織となったことは御承知のとおりであります。
こうした歴史を繰り返さないためにも、私は、政府の農業政策と農協政策で重要なことは、協同組合の価値と原則に基づいた法的枠組みとその支援を講ずることです。これは二〇〇二年のILO勧告が言っていることで、そうした立場でこれからの対応を是非お願いをしたいと。もちろん、そのためには農協人の意識改革も不可欠なのは言うまでもありません。
第四は、中央会制度廃止と全国統一活動の重要性です。
政府案は、中央会廃止と全国監査機構を外出しする理由として単協の自主的な取組を阻害していることを強調しています。しかし、歴史的に見ますと、中央会が発足をした一九五〇年代前半は食料需給がまだまだ逼迫していたため、農協、農業団体による技術指導の徹底による農業生産の増大が重要な課題だったわけですね。したがって、政府としても財務処理基準令や再建整備法、整備促進法などを制定して、政府と中央会が一体になって農協経営の改善に図ったわけですね。それがやっぱり農協に対する中央会の指導の徹底ということになったわけですけど、それが今阻害していると言われているのは私は事実に反すると、そういうように思っています。
また、全中の全国監査機構外出し問題でも、二〇〇七年十二月開催のこの農林水産委員会で当時の若林農相は、農協監査は事業に精通した中央会が行っていると強調され、中央会監査は農協指導と車の両輪となり有効に機能している、及び、指導と結び付かない公認会計士監査は全中監査に置き換えることができないと、こういうことを明言されていたわけですね。しかも、これは、農協監査は非常に長い歴史があって、当然な私は意見だと思います。
もちろん、農協をめぐる情勢はその後大きく変化して、中央会、農協監査にも改善すべきことはあると思いますが、私は、こうした歴史的な経過と自らの拙い体験を踏まえて、次の理由から農協の健全な発展には全国的総合指導組織が不可欠だと考えています。
第一は、農協で協同組合の価値と原則に基づいた取組が重要になっていることから、そのためにも組合員が参加した全国の全農協の協同活動が不可欠です。これは全国の総合指導組織があって初めて可能なことです。
第二は、農協には、事業に関連しない制度、税制問題とか、あるいは事業に関係していても協同で取り組むべき問題があります。そのほかに地域や国政に関わる政策問題があります。従来これらの課題は行政庁への建議に基づき中央会主導でやってきましたが、このことについてこの条文に規制されず広く考える必要があると、これは当時の中央会発足のときの小倉さんが政府委員として言われていたことなんですけれど、こういう観点に立った政策課題への取組は非常に今重要になっています。
第三は、これも中央会発足のときの国会審議で強調されたことなんですけれど、全国、都道府県の指導組織は一体で、共に協同組合であるべきことです。これは、指導対象が農協であること、もう一つは、地域には多様な農協があるのでそれを指導するためには全国、都道府県組織は一体であることにあると思います。
以上、非常に抽象的な理屈っぽい話もいたしましたけれど、私は、現在示されている政府案については、協同組合の価値と原則及び戦後の農協の歴史から見て極めて重大な問題が指摘できると思います。協同組合として発展する方向から再検討を諸先生方に是非お願いをしたいと。
以上で私の発言を終わります。