秋山信将の発言 (予算委員会公聴会)

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○公述人(秋山信将君) 本日はこのような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 私からは、日本を取り巻く国際環境が変化する中で、これからの日本外交、安全保障をどのように考えればよいのか、そしてそのためにはどのように限られた政策資源を投資するべきなのか、将来日本がより住みやすい国際環境づくりに自ら関与すべしとの立場から、お話をさせていただきたいと思います。
 最初に、これまでの日本外交がどのような性格を持ったものであったのかを簡単にお話をしたいと思います。
 今年は、第二次世界大戦が終わって七十周年に当たります。様々な形で戦争を総括する動きが国内外であるかと思います。また、そうした動きの中には、多分に政治的意図を含む動きがあるのも確かです。例えば、五月九日にロシアで開催される欧州における第二次世界大戦終結を祝う行事であるとか、九月三日に中国が主催する抗日戦勝記念の行事です。
 例えば、中国での式典が本当に歴史を過去に追いやり、また新しい歴史のチャプターを開くための真の和解を演出するのであればよいのですが、残念ながら、現在、日本と中国はどちらが歴史の日の当たる側を歩いているかをめぐって争っている状況であります。
 第二次世界大戦あるいは日中戦争をどう評価するかという争点をめぐり、グローバルに展開されているパブリックディプロマシーのゲームにおいては、真っ向勝負をしようとすれば、恐らく残念ながら敗戦国である日本に勝ち目は薄いのではないでしょうか。
 しかし、現代という視点から歴史を眺めた場合、日本の戦後七十年の歴史、すなわち国際社会と日本との関係は世界に誇るべき歴史であると思います。第二次世界大戦中の孤立、独善主義的な姿勢から、戦後は一転して国際協調をより重視する姿勢へと転換し、民主主義と自由貿易を原理とする自由で開かれた国際秩序に対して、以下の二つの面で大きな貢献をしてまいりました。
 すなわち、第一は、戦後の自由で開かれた国際秩序における最大の成功者としての日本です。戦後の自由主義的秩序の優等生として、最大の受益者として、他の途上国にとっても学ぶべきところの多い経済成長のモデルを提供してきました。
 第二に、一九八〇年代以降、政府開発援助その他の経済協力、市場の開放等々を通じて、公共財としての自由主義的な国際秩序の維持に対し、多大な貢献をしてきました。エネルギー資源の八割以上を海外に依存し、カロリーベースでの食料自給率も四割にすぎない、また海外の市場にその経済成長を大きく依存している日本が国際協調主義を基調とした対外政策を発展させてきたのは、ある意味では環境への適合としては当然のことであると思います。
 とりわけ、第二の点はもっと重視されてもよいかと思います。国家間の関係が安定し、平和的な形でそれぞれの国益を追求することを可能にしてきたのが自由主義的な国際秩序ですが、その中で、この秩序というのは自然にそこに存在するというものではなく、だれかの努力と投資によってこの秩序が維持されてきたということは注目すべきであります。
 そして、その役割は、主として従来アメリカが担ってきたわけでございますけれども、日本がこの面において国際社会に対して果たしてきた役割は、もっと歴史をめぐる政治ゲームにおいて重視される、あるいは強調されてもよいものではないかというふうに考えております。
 中国を含む現在の国際社会の経済的繁栄に対しては、中国が言うように、ただ単に第二次世界大戦で世界がファシズムに勝利したから出現したというものではなく、戦後七十年間、敗戦国である日本やドイツを含めた国際協調の積み重ねの結果、この自由で開かれた国際秩序というものができていたというビジョンを提示するべきであると、これがまさに日本の誇るべき歴史であるというふうに考えております。
 このような成功を収めてきた日本ではございますけれども、現在、日本は、大きく変わりつつある国内外の環境の中で、従来の外交のビジネスモデルの変更を迫られていると考えます。
 環境の変化は、以下のような点で顕著であります。
 第一に、中国など新興国の台頭によるパワートランジション、権力の移行が起きているというふうに言われております。アメリカの力が相対化し、中国などが台頭してきております。ここで留意すべきなのは、この権力の移行が起きているのは戦後七十年間で培われてきた自由主義的な国際秩序の枠組みの中で起きている話なのか、それともこのような秩序自体に変革を迫るものなのかという問題であります。
 国際政治は権力闘争がその常態であるというふうに言われております。しかし、そのような権力闘争は全く何もない空間、つまり真空の中で生じているのではなく、権力闘争のゲームを戦うためのフィールドとルールが存在します。
 新興国の台頭は、単にゲームにおける力関係を変えてしまうのか、それともフィールドの形やルールまで変えてしまう、すなわちパワートランジションならぬオーダートランジション、秩序のトランジションになってしまうのかという点について、我々は留意すべきかと思います。これは、中国のAIIBをめぐる懸念というのはまさにそのような点であるというふうに考えております。
 つまり、これまでの国際金融システムにおいて途上国への融資で重視されてきた環境への配慮やグッドガバナンス、財政規律や金融におけるモラルハザードの問題において、もし異なった基準が適用されるということになってしまえば、これまでの従来の国際金融秩序の一端を担ってきた世銀であるとかIMFあるいはアジア開発銀行の力、パワーが減退することになり、その場合、そこには今とは異なる国際金融秩序が出現するかもしれないというリスクであります。
 第二に、サイバー空間など、いわゆるグローバルコモンズという新たな領域において伝統的なパワーという概念が通用しなくなってきているという点であります。
 サイバー空間や宇宙などは、ビジネスのみならず、伝統的な軍事力の展開において次第に不可欠な存在になりつつあります。その一方で、これらの領域においては、国力や戦力の規模に比例したパワープロジェクションが所与のものではなくなってきております。逆に、国家の規模に関係なく、より強大なパワーに対して、小さなパワーでも、あるいは非国家主体でも十分に対抗し得る、若しくは抵抗を試みることが可能なのがこのグローバルコモンズであります。このような非対称的な関係というのは、伝統的な国際秩序の在り方に大きな影響を与えることになります。
 また、グローバル化した経済、すなわち金融のグローバリゼーションであるとか企業の研究開発のグローバルネットワーク化、あるいはサプライチェーンのグローバル化、若しくは感染症、環境問題などの、いわゆるグローバルイシューズと呼ばれる一国での対応が不可能な問題の国際政治における需要の高まりという点も指摘されるべきだと思います。
 こうしたグローバルイシューズの問題の高まりは、国家という主体の地位を相対的に脅かしています。もちろん、国家が引き続き国際政治における中心的なアクターであることに間違いありませんけれども、このようなイシューにおいて、一国単独で考える、物事を考える、政策を考えるというアプローチというのは、もはやこれが有効に機能し得なくなってきているという面も我々は考えるべきであります。
 また、このグローバリゼーションでございますけれども、テロネットワークであるとか武器のブラックマーケットのグローバル化に象徴されますように、単に経済活動の促進という光の面だけではなく、影の面にもひとしく起きているということを我々は留意すべきであります。そして、そうした影のグローバリゼーションが光の面に与えるインパクトもそれに比例して大きくなっております。
 最近、日本人観光客がチュニジアでのテロの犠牲になりました。また、数年前にアルジェリアのガス田が襲撃された事件でも日本企業の従業員が犠牲になりました。これらは、日本政府の政策とはほぼ無関係に、人の往来や企業活動がグローバル化した結果として発生しております。そこでは、日本は国家として正しいことをしていればテロに襲われないという一国平和主義、若しくは一種独善的な論理は全く通用しないのではないかと考えております。テロリストは、誰であろうと、主張が何であろうと、グローバル化が進めば必然的に誰もが直面せざるを得ない脅威であるというふうに考えております。
 このようなグローバル化の中にいやが応でも置かれることになった日本でありますけれども、国内の社会経済要因、とりわけ少子高齢化に象徴されるような問題というのが日本の外交資源を縮小させているという事実も見逃すことができません。
 恐らく、現在の経済規模を維持していくためには、様々な制度の改革だけでなく経済構造も変革を迫られることになります。さらに、それに加え、中国やインドだけでなく他のアジア諸国やアフリカなどが経済成長を成し遂げ、マーケットとして、あるいは国際政治のプレーヤーとして台頭してくることになります。となると、今後、外交に我々が投入できる資源というのは、財政面においてより厳しさを増し、また相対的に減少するという現象に直面することになります。
 その中で、先ほども申し上げましたとおり、現在日本がそれなりに利益を享受している既存の国際秩序が維持されていくのか、それとも変革を遂げていくのか、現在大きな転換点に差しかかっていると見るべきではないでしょうか。ある意味では、吉田ドクトリンに象徴される戦後の日本環境適応型の対外政策は国際環境への最適化に最も適したビジネスモデルであったと言ってもよいかと思います。
 しかし、これらの変化を考えると、日本は、これまで、従来の環境適応型外交からの脱却が必要ではないかというふうに思われます。
 よく、経営学の組織論において、適応は適応能力を締め出すということが言われます。つまり、環境への適合に最も成功した組織は、新たな環境変化が起こった際に、新しい環境への適合において困難に直面するという理論です。今の日本は、もしかしたらその成功のジレンマに立たされているかもしれません。
 そこで、今後変化する国際環境の中で日本の外交をどのように考えていったらよいのかということについて少しお話をさせていただきます。
 まず、外交には、短期的に見れば現下の状況に対応するという課題と、中長期的に良好な国際環境を醸成するという目的があります。外交を投資に例えてみますと、次のようなことが言えるのではないでしょうか。すなわち、短期的な外交目的というのは一種デートレードのようなものであり、またあるいは現在のポートフォリオを守るための危機管理であると。他方で、今後、日本が国際社会から信頼を得て平和国家として戦後七十周年を積み重ねてきたこの状況を今後更に享受していくためには何をしたらよいのか、中長期的な戦略も求められています。現在の状況というのは、戦後七十年間の投資の配当を得ている、つまり、戦後七十年間投資をしてきた配当というのが我々の享受している国際環境であるというふうに考えてみるべきでありましょう。
 アジア諸国が日本に対して好意的なのは、ODAや成長モデルとしての日本の成功に負うところが大きいわけですけれども、今後こうした配当を得るためには、現在、今再投資をしなければ得ることができないということを我々は理解すべきであると思います。
 こうした今後のために再投資をする、問題は、限られた資源をどのように、どこに再投資をすべきかという方向性であります。
 今後我々が直面する課題としては、日本の相対的なパワーの低下ということであることを考えた場合には、恐らくファンダメンタルズとしての国際安全保障環境の改善という部分への投資というのはより重点的に行っていく必要があるということであります。とりわけ、日本の投資がより効果的なリターンに結び付くように、すなわちレバレッジを利かすことができるような市場環境、すなわち国際安全保障環境を改善していくという行動が必要であると思います。その点においては、日本の弱みを補う戦略が必要であると考えます。日本の弱みというのは、今申し上げましたけれども、今後、ある意味ではただのパワーポリティクスではなかなか他の国を凌駕することが困難になってきているという状況であります。
 そこで、理念とパワーポリティクス、パワーの最適な組合せを可能にする市場環境を追求する必要が出てきます。
 例えば、既存の秩序に挑戦するアクター、例えば中国に対し、この既存の秩序に対する挑戦のコストを高め、挑戦を抑止する戦略です。一般的には、既存の秩序を変革し、変革した秩序を維持するコストは、既存の秩序で振る舞うよりも高く付くはずですが、こうした挑戦への誘惑に駆られないようにすることが重要であると思います。
 しかし、日本単独で目標を達成することは困難で、そこには一国平和主義の限界があります。しかし、国際協調主義は、日本が強みを持つ分野への資源の重点配分を可能にするものであると思います。同時に、国際協調主義は、八方美人外交ではありません。また、おいしいところだけをつまみ食いするなどという要領の良いことは恐らく困難であろうということも我々は自覚すべきであると思います。
 外交に投入できる資源が限られる一方、新しいプレーヤーが台頭する国際環境の中、将来への繁栄を維持するためには、将来の日本に対してより多くの外交資産を残す必要があります。
 そこで、最後に幾つかの論点を挙げてみたいと思います。
 まず、前提として、日米関係は今後も日本の対外政策の基軸であるべきだというふうに考えております。その理由は二点です。一つは、日米の国際秩序に対する考え方、価値観の共有という点であります。第二点目は、現在、少なくとも現在、世界で最もパワーのある国家であるアメリカと敵対しない、あるいは友好関係にあるということによる資源の節約効果が大きいと思います。
 この二点を重視しながら、日米関係の維持を前提とした上で、日本が強みを発揮できる分野へ日本の外交資源のポートフォリオを振り向けるべきであると思います。それは、国連などの多国間外交、グローバルイシューズなどに対するイニシアチブ、そして唯一の被爆国としての強いアイデンティティーを持つ核軍縮・不拡散外交における取組であると思います。
 多国間外交における問題の設定、アジェンダセッティングというのは、従来、我々は所与のものとして扱ってきましたけれども、我々がイニシアチブを取りながら新しくアジェンダをセットし、ルールメーキングにおいてよりイニシアチブを取る、つまり、我々により有利なフィールドでありルールを作っていくための努力、これが恐らく、今後、少ない投資でより大きなレバレッジを得るということのポイントであると思います。
 最後に一点だけ、核軍縮・不拡散外交について申し上げさせていただきたいと思います。
 これは、まさに短期的投資と長期的投資という視点から非常に有効なポイントであります。すなわち、広島、長崎に象徴されるように、日本では核廃絶が国是となっております。他方でアメリカの拡大核抑止の下にあると。
 この矛盾というのをどのようにすべきかということがしばしば指摘されるわけでありますけれども、これはまさに短期的なリスクとしての、現在我々が直面している中国、北朝鮮の核の脅威に対処する拡大核抑止と、同時に、こうした核のリスクを削減していくための中長期的な投資としての核廃絶に向けた取組、これは単に祈るだけ、あるいは訴えるだけの外交ということではなくて、安全保障の政策の一環として、いかにこの北朝鮮あるいは中国の核のリスクを廃絶していくのか、あるいは核のリスク、中国に対して差しかけられている核のリスクというものをなくしていくことが中国の核廃絶の、中国の核軍縮の前提であるとするならば、地域安全保障への関与というものが必要であると思います。
 また、この中で……

発言情報

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発言者: 秋山信将

speaker_id: 27931

日付: 2015-03-26

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会