上林千恵子の発言 (法務委員会)
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○上林参考人 上林でございます。現在、法政大学で産業社会学を教えております。
本日は、参考人としてこのような機会をいただき、まことにありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、これまで、フィールドワークという方法を利用して、外国人労働者問題を研究してまいりました。二〇〇六年から二〇〇八年にかけては厚生労働省の技能実習制度研究会に参加し、その報告書は、在留資格「技能実習」の創設につながりました。
さて、本日は、技能実習生の送り出し団体に関する御報告をしてまいりたいと思います。
本来、技能実習制度は送り出し国と我が国との両者にかかわる制度ですが、送り出し国の事情についてはなかなかわかりづらいところがございました。そこで、二〇一五年三月に、中国山東省の二つの送り出し団体を訪問し、ヒアリングを実施してまいりました。ヒアリングの内容は、実習生の送り出しプロセス、技能実習生の出身家庭、渡日前のキャリア、帰国後の仕事、今回の法案に関する意見などです。
こうした調査を受け入れてくださいます企業は優良企業に限られておりますので、本日の御報告はあくまでも優良事例であることをあらかじめお断りしておきます。
それでは、配付した資料をごらんください。A4で二枚のホチキスどめになっております。
送り出し団体は中国の山東省にあります。山東省は人口が約一億人、日本に近く、日系企業や韓国企業が多く進出している地域で、海外への労働者送り出しの歴史も長く、日本には、大連のある遼寧省、上海近郊の江蘇省と並んで受け入れ実習生の多い地域です。
訪問企業を仮にA社、B社としますと、両社とも、二〇〇〇年代に入ってから設立された、比較的歴史の浅い企業です。
まず私が驚きましたのは、送り出し実習生の人数の多さで、A社が送り出している実習生の人数は二百六十人、B社では九百人となっています。日本側では中小企業が受け入れの中心であるため、その受け入れ人数は一社当たり多くても十数人であることが多いのですが、送り出し側から見ると、一社当たりの送り出し人数は非常に大きいことがわかります。
その意味では、A社もB社も、実習生に関する法令や日本のマーケットの動向について、アンテナを張って注意していました。国境を越えて人を送り出す業務は、相手先国の言語のみならず、法制度、商習慣、安全性などについて知る必要がありますので、A社、B社の主要メンバーはそれなりのノウハウを蓄積しているようでした。
第二に、今回の実習生適正化法案についてです。
この法律は昨年度に既に法案として発表されておりましたので、その法案のポイントを中国語に翻訳して先方に御説明しました。その結果ですが、A社、B社とも賛成でした。
賛成理由の一つは、この法案によって技能実習生の業界が適正化されれば、業界自体の評価が上げられるとのことでした。既に法律を遵守して業務を行っている団体にとっては、悪質な団体が排除されることは望ましいという判断でした。
賛成理由の二つ目は、技能実習制度の拡充は企業にとって業務拡大の大きなチャンスとみなせる、そういうことでございました。
第三に、帰国後の実習生の状況です。
今回の訪問先には縫製業の実習生は見られませんでしたが、二〇一二年当時に別の送り出し団体を訪問した際には、帰国後に自宅で縫製工場の下請仕事を開業している女性の元実習生もいました。
また、A社、B社に共通して見られますが、日本語能力が高かった場合には、送り出し団体で日本語教員や事務員として雇用されている人もいます。地元の日系企業に雇用先を見つけたという人もいました。
また、再度、シンガポールや韓国に出稼ぎに行く人もいます。故郷の農村に戻った場合は、送り出し企業の通信員というような形で、副業として実習生のリクルーターとして送り出し団体とのつながりを生かしている人もいました。また、日本で相当の額の貯金を得たので、しばらくはきつい仕事から離れて、次の仕事の機会を探そうとする人もいました。
第四に、技能実習生候補者の募集プロセスです。これは、B社でのみヒアリングが可能でした。
実習生として日本へ来たい人は、まずB社のような人材派遣会社に登録をします。今回調査では、農村に住んでいる実習生送り出し家庭を訪問しましたが、その際、村には市の海外労務輸出センターが印刷しました海外雄飛のためのポスターが張られており、市政府の後押しを感じました。人材募集のプロセスは、お渡ししました資料の二ページ下の段に書きました。人材募集には、学力検定のほか、体力測定、身体検査、歯科検査、身分確認、家庭訪問とさまざまなプロセスがあり、最近は中国現地での賃金が以前より高騰していることが伝えられておりますけれども、個別の事例を見ますと、まだまだ実習生の選考は狭き門であるという感想を持ちました。
今回の調査では、A社、B社ともビジネスとして技能実習制度にかかわっていました。ビジネスだから違法ということではなく、技能実習生送り出し事業がビジネスだからこそ、送り出し企業として世間からの信頼が必要であり、法も遵守するということです。
しかしながら、A社、B社という優良な個別事例を離れて技能実習制度のことを考えますと、一般論として、この制度をビジネスとしての側面だけから考えてはいけないと思います。ここには人間の受け入れと送り出しがかかわっておりますので、人権の問題が極めて重要になってまいります。歴史的に見ましても、また他国の例を見渡しましても、人間そのものがビジネスの対象となる場合には、常に人権の問題が発生しております。今回の法案の趣旨が技能実習生の人権保護に置かれておりますのも、極めて当然のことと思います。
これまで、技能実習制度に問題が生じたとき、その問題を適切に管理する機関がないことが問題となりました。JITCOさんには査察する権限はありません。また、受け入れの監理団体も、団体の維持費用と収益は実習生受け入れ企業からの費用に依存していますから、厳しく監査できる立場にはありません。
そうなると、技能実習制度が円滑に運営されるためには、利害の立場を超えた第三者機関がどうしても必要とされます。今回の法案で、新たに外国人技能実習機構が設立されるのは望ましいことと考えます。
さて、技能実習制度は、元来、近隣諸国への技能移転を目的としたものです。しかし、技能移転とはいっても、実際には、自分の生活が成り立たなければ技能の修得もままなりません。来日した技能実習生が来日生活の第一の目的はお金を稼ぐことと考えたとしても、それは当然のことと思われます。就労の目的の一つは誰にとってもお金を稼ぐことであり、実習生がそうした目的を持って来日しても、それを否定することは不都合と思われます。
その上で、三年間、日本に滞在している間、それぞれの職場での就労が各実習生のために役立つならば、単に出稼ぎで来日するよりも、本人の将来のためになることと思われます。ただ、母国の出身地域での雇用事情を考えますと、日本での経験が生かせるとは限りません。その場合、実習生はどのような職業能力を身につけたと言えるのでしょうか。
それは、時間を守る、作業中に持ち場を離れない、私語をしない、作業指示書どおりに作業をするなど、職業規律や生活規律にかかわる領域の訓練と能力ではないかと思います。農村に生きてきた人々を近代的な工業労働力に転換するという意味では、技能実習制度の中に広義の教育訓練課程が組み込まれているのではないかと考えます。
以上、簡単ではございますが、これで私の意見陳述とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)