郷原信郎の発言 (予算委員会公聴会)
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○郷原公述人 郷原でございます。
本日は、このような場で意見を申し述べる機会を与えていただき、感謝いたしております。
私は、二十三年間検察に在籍し、その間、政治資金や贈収賄等に絡む事件の捜査にもかかわり、法務省の研究所でも、それらを含めた犯罪に関する刑事政策的研究にも従事してきました。検事退官後も、そうした実務経験に基づき、その種事犯に関して、さまざまな場で所見を述べています。
本日は、まず、そうした立場から、本予算委員会の審議の中でも取り上げられております甘利前経済財政・TPP担当大臣の問題に関連して、いわゆるあっせん利得処罰法の背景、罰則適用の範囲等と国の予算策定、執行との関係等を踏まえて、事実解明の必要性について意見を述べたいと思います。
また、私は組織のコンプライアンスを専門にしておりまして、二〇一〇年から一二年までは総務省顧問・コンプライアンス室長を務め、行政評価局の行政監視・評価を通して、独立行政法人を含む公法人の問題等にもかかわりました。
十年前の二〇〇六年にもこの公聴会にお呼びいただき、コンプライアンスと予算について意見を述べましたが、本日は改めて、コンプライアンスの観点から、今回の甘利問題を通して、独立行政法人URの組織や活動のあり方、政治との関係性についても所見を申し述べたいと思います。
これまで、多くの政治家に関して、政治と金という非常に曖昧な言葉で、性格の異なる問題が十把一からげに混同されて議論をされてきました。そこにまず根本的な問題があると思います。それが、後にお話しするように、今回の甘利氏をめぐる問題が、これまでの政治と金の問題と同列に扱われ、正しく理解されていないことにつながっているように思います。
私は、政治と金の問題は、賄賂系の問題、政治資金の公開系の問題、そして寄附制限系の問題の三つに大別することができると考えております。
第一に、賄賂系の問題です。
公務員としての政治家がその職務の対価としての賄賂を得るという賄賂罪は、公務の不可買収性、廉潔性を害する癒着、腐敗の最たるものでありまして、国民にとっても、また国会議員全体にとっても到底容認できない行為であります。
しかしながら、国会議員の場合、その直接の職務権限は議会での質問、表決等で、その対価として賄賂と認められるものの範囲は限られており、実際に国会議員に収賄罪が適用される例は極めて少ないというのが実情です。むしろ、国会議員の場合、職務権限を背景として行われる行政官庁等へのいわゆる口きき等で対価を受け取る行為が厳しい社会的批判を受けるケースが多いことを踏まえ、いわゆるあっせん利得処罰法が制定されており、国会議員等の政治的公務員については、賄賂罪による処罰の範囲が拡大されていると見ることができます。
第二に、政治資金の公開系の問題です。
金のかからない政治を実現すべきだとされながらも、必ずしもそうはなっていない現実があり、また、政党や政治家の政治活動に対する国民の支持、支援を政治献金という形にあらわすことも、民主主義の重要な要素でもあります。
そこで、政治献金そのものは容認した上で、それが誰から、どの政党、政治家に、どれだけの金額で行われているのか、また、その政治献金がどのように使われているのかを政治資金収支報告書によって公開し、政治家や政党の活動が政治資金によってねじ曲げられたりしていないか、不当な使い方が行われていないかを国民の不断の監視に委ね、選挙における有権者の選択に反映させようとの趣旨で行われているのが、政治資金規正法による政治資金公開の制度です。
政治資金の寄附を受けたのに政治資金収支報告書に記載しない、あるいは過少に記載する、また、費消先に関して虚偽の事実を記載するなどの行為は、政治資金の公開の義務に反する行為として違反に問われることになります。
第三に、寄附制限系の問題です。
原則として許容され、公開の対象とされている政治資金の中には、それ自体が政治に対して好ましくない影響を与える、あるいは国民に不信感を生じさせるものがあるので、そのような政治資金の寄附に対しては政治資金規正法によって制限が設けられています。企業、団体から政治家個人への寄附、連続赤字会社、補助金受給企業、外国企業からの寄附が禁止されているほか、一個人、一企業からの寄附額によって政治活動が不当な影響を受けている疑いを受けることがないよう、寄附の量的制限も設けられています。
これまでうんざりするほど取り上げられてきた、そして、中には国会審議にも重大な影響を与えてきた政治と金の問題の多くは、第二、第三の問題です。
第二の政治資金の公開に関する問題、そして寄附制限の問題の多くは、政治資金処理の手続上の問題で、正しく公開されなかった背景に第一の賄賂系の問題があるのではないかという疑いが生じる場合もありますので、まず、それが意図的な不記載、虚偽記載か否かが問題とされることになりますが、意図的に行われたものでなければ、基本的には、政治資金を正しく公開すること、そしてルール違反が行われないよう再発防止を行うことが重要となります。
それに対して、第一の賄賂系の問題というのは、政治的公務員の職務の信頼性にもかかわる問題であるだけに、事案の真相を解明した上で、厳正な処罰が行われる必要があります。しかし、この種の事件が国会議員について表面化した事例は、この十年以上ありません。
そして、国会議員等の政治的公務員の賄賂系の問題に対して適用される極めて重要な罰則規定が、あっせん利得処罰法です。
この法律は、一九九〇年代に公共工事をめぐる口ききが贈収賄事件等に発展するケースが相次いでいたこともあって、国会議員やその秘書が口ききによって報酬を得る行為のうちの一定の範囲のものを処罰することで、職務の廉潔性を確保することを目的に、二〇〇〇年に公明党を中心とする議員立法によって成立し、二〇〇一年に施行されたものです。
しかし、一方で、国会議員等の政治家が支持者、支援者等の国民から依頼され、裁量の範囲内での行政行為について行政庁等に働きかけて依頼に応えようとすることは、国民の声、要望を行政行為に反映させるための政治活動として必要なものでもあります。
そこで、あっせん利得処罰法の立法に当たっては、そのような政治活動全般を萎縮させることがないよう、看過できない重大な事案だけが処罰の対象となるよう配慮がなされています。
あっせん利得処罰法であっせん、口ききの対象とされているものの一つは、特定の者に対する行政庁の処分です。これは、法令に基づき行政庁の認定によって行われるべき行政処分に政治家が介入すること自体に問題がある、だから政治活動として保護する必要は低いと考えられたからだろうと思います。
もう一つが、国、自治体及び国が二分の一以上を出資する団体の売買、貸借、請負その他の契約に関するあっせんです。これは予算に関連するあっせんだと言えます。
配付資料二をごらんください。
二の国会における予算案の審議、議決、四の国会での決算の審査、承認が国会議員の直接の権限に基づくものであるのに対して、一の各省庁における政策、施策、事業計画の具体化による予算案の作成、三の予算執行は、直接的には行政庁等が主体になって行うものですが、国会議員等の政治家が、二、四に関する権限を背景に支持者、支援者等の要望を行政庁に伝え、それを予算の作成、執行に反映することも政治家の政治活動の重要な役割です。
この中でも、予算の策定段階での行政庁への働きかけは、特定の個人や企業に有利な面があったとしても、基本的には政策実現を目的として行われるもので、政治活動の自由が保障される必要性が高いと言えます。
それに対して、予算執行の段階で行われる事業者等との契約というのは、法令上の手続に基づいて適正かつ公平に行われるべきものであり、政治家が契約の相手方や契約内容に介入することは正当な政治活動とは言いがたい面があります。
そこで、契約に関する行政庁等へのあっせんによって利得を得る行為は、行政処分への介入と並んで口ききによる弊害が大きいと考えられ、あっせん利得処罰法の対象とされたんだと思います。
そして、このような行政処分と契約に関するあっせんが処罰の対象とされるのは、権限に基づく影響力を行使して行われ、報酬を受けた場合です。
権限に基づく影響力については、この立法において中心的な役割を果たされた公明党の漆原良夫議員の解説書等で、権限に直接または間接に由来する影響力、すなわち職務権限から生ずる影響力のみならず、法令に基づく職務権限の遂行に当たって当然に随伴する事実上の職務行為から生じる影響力をも含むと。影響力を行使してとは、被あっせん公務員の判断に影響を与えるような形で、被あっせん公務員に影響する権限の行使、不行使を明示的または黙示的に示すことだとされています。
国会議員の場合、権限に基づく影響力の典型は、議院において法律、予算等を多数決で成立させることに関して、他の議員への働きかけを行い、多数の意思を形成することです。法律や予算は、通常は議会において多数を占める与党の賛成で成立するものであり、この点に関しては、与党内で影響力を持つ有力議員であることは、この影響力の大きさの要素だと言えます。
このように、あっせん利得処罰法は、あっせんの対象を行政処分と契約に関するものに限定した上、権限に基づく影響力を行使した場合に処罰の対象を限定することで二重の絞りをかけています。政治活動を不当に萎縮させないように配慮しつつ、行政庁等に不当な影響を及ぼし、依頼者の個人的利益を図ろうとする目的が顕著な、悪質な口ききで利得を得る行為を処罰の対象にするという、まさに適切な立法と評価できると思います。
このような立法が与党の一員の公明党が中心となって行われたことは、大変意義のあることだと思います。
この法律の施行後、国会議員やその秘書に対して同法の罰則が適用された例はありません。検察当局等の捜査機関の摘発の姿勢による面もあろうかとは思いますが、法律が施行されたことで、悪質な口ききによって利得を得る行為に対して一定の抑止効果も生じたと見ることができるのではないかと思います。
ところが、今般、現職有力閣僚であった甘利氏とその秘書をめぐって、独立行政法人のURとの補償交渉をめぐるあっせん利得処罰法違反の疑いが表面化し、しかも、そのような口ききを依頼したと告白している者から、現職大臣が大臣室で現金を受領したという信じがたい事実も明らかになりました。
私は、この問題が週刊文春で報じられた際にも、記事中で同法違反の成立の可能性についてコメントしました。そして、その直後から、個人ブログ等で、絵に描いたようなあっせん利得であり、検察が捜査をちゅうちょする理由はないと述べてきました。
詳しくは、配付資料の四、五をごらんください。
まず、URとの補償交渉は最終的に補償契約によって決着するわけですから、契約に関するあっせんであることは明らかです。依頼者の一色氏が残していた録音記録によると、甘利氏の秘書は補償の金額にまで介入して、その報酬として多額の金銭や接待を受けた事実があったようですので、不当なあっせんであることは明白だと思います。
また、国会議員の権限に基づく影響力についても、現職閣僚で有力な与党議員であり、二〇〇八年に麻生内閣で行革担当大臣に就任した甘利氏は、二〇一二年に自民党が政権に復帰して以降、組織のあり方や理事長の同意人事など、URをめぐる問題が与党内で議論される場合には相当大きな発言力を持っていたものと考えられます。甘利氏自身も秘書も、議員としての影響力の行使が十分に可能な立場だったと言えます。
甘利氏をめぐる問題は、二重の絞りがかけられ、ストライクゾーンが狭く設定されたあっせん利得処罰法の処罰の対象の、まさにど真ん中のストライクに近い事案です。
検察当局としては早急に強制捜査に着手して証拠を確保すべき事案だと考えられますが、東京地検がUR職員から聴取などと一部で報じられた以外、甘利氏自身はおろか、UR側に直接あっせんを行った秘書に対しても捜査が行われている形跡は全くありません。
また、甘利氏は、大臣辞任後に国会には全く登院しておらず、辞任を表明した記者会見で、元特捜部の弁護士に調査を依頼しているなどと述べたようですが、甘利氏の説明からして、果たしてそのような元特捜弁護士というのが存在しているか否かも疑問です。
この点については、配付資料六に詳しく書いております。
この問題が、大臣辞任ということだけで何ら真相解明が行われず、うやむやにされるとすれば、国会議員の政治活動に関する倫理観の弛緩を招くことになりかねず、与党の一員である公明党を中心とする議員立法によってあっせん利得処罰法が制定されたことの意味も全くなくなってしまいかねません。
検察当局が捜査にすら着手しないということであれば、国会においてみずから事実解明に乗り出す以外に方法はないと思います。具体的には、甘利氏や秘書の証人喚問、参考人招致等を行うことによって、URに対する口ききとその報酬の受領について事実解明を行うことが必要だと思います。
最後に、コンプライアンスは法令遵守ではなく、組織が社会の要請に応えることだという私の持論の観点から、公的な住宅供給を担う独立行政法人URの組織の問題として、今回の甘利氏をめぐる問題を考えてみたいと思います。
資料七は、独立行政法人をめぐる制度の概要をまとめた総務省の資料、その中に出てくる中期計画のURの最新のものが資料八です。
URは、財政投融資による住宅等の資産、十二兆円もの大きな資産を保有する巨大な公益法人です。事業の内容が民間の住宅建設、住宅供給と競合することから、これまで事業の効率化、合理化が求められ、民営化がしばしば俎上にのせられてきましたが、その一方で、これからの超高齢化社会を迎え、また若年世代の貧困も大きな社会問題となっている現状において、住宅供給を民間のみに任せておいてよいのか、衣食住の基本と言える住のセーフティーネットを確保していくため、膨大な公的住宅資産を有するURがどのような役割を果たしていくべきなのかというのは、社会的にも極めて重要な問題だと思います。
まさに、このような問題について、国民、地域住民から幅広く、公的住宅供給をめぐる声を、UR、国交省に伝える、それはよい意味での健全な口ききと言えるんじゃないでしょうか。
公益法人としての経営の効率性、合理性を追求する一方で、社会的に必要があれば、公費を投入してでも住のセーフティーネットの役割を果たしていく必要があります。そして、最終的には、介護、年金等の社会福祉の問題とも関連づけて、こういったことを国会の場でしっかり議論していく必要があると思います。まさにそれが、URにとって社会の要請に応えるという真のコンプライアンスだと思います。
ところが、今回の甘利氏の問題で明らかになったことは一体何でしょうか。公有地を不法占拠する建物への補償交渉という、いわば薄汚い口ききに介入する、それによって、秘書は多額の金品を受け取り、頻繁に接待を受ける、大臣は大臣室で現金五十万円も受け取る、URの幹部はこういう与党の有力議員や秘書の顔色をうかがう。こんなことで、公的住宅供給を通して社会の要請に応えるべきURの本当の役割が果たせるでしょうか。
まず、こういうゆがんだ関係のもとで一体何が起きたのか、どういう事実があったのかということを早急に解明した上で、今後のこうした問題についての政治のあり方、UR、国交省との関係等を前向きに、建設的に議論していくべきだと思います。そのためには、まず大前提として、今回の甘利氏の問題についてしっかり事実解明を行うことが不可欠だと思います。
本来、先ほどから申し上げているように、検察が刑事事件として取り上げ、捜査の対象にすべき案件です。しかし、それが全く行われていない現在、私は、この問題の重要性、国会審議の前提としての重要性を考えれば、国会における事実解明ということも必要になってくるものと思います。
そういった面での事実解明が行われる必要性を強調して、私の意見陳述を終わりにさせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)